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第五部

楓さんの行方

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「……ちなみにだが、私もその海の向こう側へ連れていってもらうことは可能だろうか?」

 長考したあとに何を言い出すのかと思えば、自分も連れて行けだと?
 何言ってんだコイツ?
 もしコイツが誘拐犯だとしたらえらく図々しいやつだが……。楓さんに聞いた話をもとに興味を持ったということであれば納得できなくもない。
 とはいえだ。

「それはできません。出入国には厳しい国ですからね。不法入国になるようなことはできないです」

 俺たちも不法入国してるといえばしてるんだが、自力で国から出られるし協力者もいるからなんとでもなる。だけど言葉もわからない異世界人を放り込んだら、絶対に厄介なことになる未来しか見えない。

「そうか……。あんたは大丈夫なんだな」

「ええ。俺も日本・・出身ですからね」

「――ッ!?」

 ただし同じ国じゃないけどな。また別の世界に日本と言う国があるなんて、誰にも想像できないだろう。自分でもびっくりしたくらいだし。

「もちろん場所を教えることもできませんのでご承知おきください」

 日本の位置も教えられないと先に釘を刺しておく。今のところ俺たちの次元魔法で行く方法しか知らないし。

「そうか……、そういうことならば……」

 しばらく考え込んだ後に顔を上げるとリフレシアが言葉を続ける。

「ここにはないモノを知っているだろう?」

「ここにないもの……ですか」

 何を言いたいのかがわからなくて、聞いた言葉をそのまま繰り返す。

「そうだ。あの子からいろいろ聞いたが曖昧でな。持っていた水筒からなんとか保温容器を作ることはできたが、そこから先が進まん」

 はぁ……。いったい何の話なんだ。保温容器を作ったって、この女は発明家か何かなんだろうか。
 首をひねっているとリフレシアの顔が険しくなって、ギリギリと歯を食いしばっている。

「だというのに、最近魔法瓶とかいう新しい保温容器が出てきたせいで、売れなくなってきてるんだよ」

 え? 魔法瓶って、前にフルールさんに作り方を教えたあれ?
 昔のことを思い出していると、目の前のリフレシアが脱力して大きくため息をつく。

「まったく……、何があったか知らないが、ミミナ商会もそれから規模を縮小したみたいだし、踏んだり蹴ったりだよ……」

 ブツブツ文句を漏らすリフレシアだったけど、彼女もミミナ商会の被害者でもあるらしい。間接的に俺たちが原因と言えなくもないが、こっちはただ正当防衛しただけに過ぎないし。

「であれば、何かお譲りできるものが手元にあるかもしれないですね」

「そうか、それなら助かる」

 少ない使用人に手入れの行き届いていない屋敷だ。生活に苦労してそうだよな。即金もだろうけど、今後の収入につながるものがあれば嬉しいんだろう。

「さて、カエデのことだったな……。まずは私のことから話そうか」

 リフレシアはアークライト王国で召喚の研究者をしていたらしい。国が秘密裏に進めていた計画らしく、一研究員だった自分も何の疑いもなく作業に没頭していたそうだ。
 そして五年前に召喚の実験が研究所で行われたらしいが、そのときに現れたのが楓さんだったそうだ。

「泣きはらした目でこちらを睨みつけてくる子だったよ」

 懐かしむように当時を振り返るリフレシアだったが、まさかこの女が俺たちを召喚するための研究をしていたとはね……。
 いや待てよ。そういえばここに来たのは五年前って言ってなかったか? だとすると俺たちが召喚された当時にはすでにアークライト王国を出ていたことになる。

「まさか人の子どもが現れるとは思っていなくてね。私も驚いたんだが、他の研究員は生きた生物が召喚できた事実に狂喜乱舞だったよ」

 顔を顰めて吐き捨てるリフレシアだったが、お前も同じだったんじゃないのかという言葉は飲み込む。

「ただ他の研究員はあの子を人間扱いしなかった」

「え?」

「もともと四足歩行の動物を召喚する実験だったんだ。だから二足歩行の生物が召喚できたとしても、私たちと同じ人間だとやつらは認識していなかったんだ」

 なんだそれ……、やっぱりあの国の人間はロクな奴がいないな。

 ペットよりもひどい扱いを受ける様子に耐えられなくなったリフレシアは、楓さんを連れて研究室を逃げ出したらしいというのが顛末だ。幸いにして他の研究員は、四足歩行の動物と同類の持ち物には興味が出なかったらしく、スマホや水筒といったものも一緒に持ち出したという。
 良心の呵責を感じるだけ、まだまともな人間だったということか。

 最初は怯えられたらしいが、しだいに打ち解けるようにはなったという。ちなみに今は楓さんの髪は青色に変わっているとのこと。理由は聞いていないが、染めてるんだろうか? というのがリフレシアの話だ。

「どおりで見つからないはずだ……」

「それにあの子は今ここを出て、孤児院で働いているよ」

「孤児院ですか」

「ああ。自分みたいに身寄りのない子どもを助けてやるんだってね」

「そうですか……。生きてるんですね」

 その言葉を聞いて安堵の言葉が漏れる。少なくとも最悪の事態にはなってないようで、仁平さんたちにはいい報告ができそうだ。

「はは、あの子は強い。簡単に死んだりはしないさ。本人は神様からスキルを授かったと言っているが、実際にそこらのごろつきは相手にならなかったからね」

 あ、やっぱりそうなんだ。
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