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第五部
リフレシア
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通された部屋へと案内されると、そこには目的の人物がソファに腰かけていた。情報の通り、写真よりも多少皺が多くワインレッドの髪にも白いものが混じり始めている。目にはクマができており、疲れた様子がさらに老けているように見せている。
「よく来たね。まぁ座りなよ」
立ち上がって歓迎の様子を見せているが、何かを企んでいそうな雰囲気を感じる。Sランク冒険者と聞いて利用しようとでも思ってるのか。
ソファへと座るとエルは背後に立って控えている。
「お茶を淹れて来ますね」
とメイドさんは一度部屋を出て行った。
「初めましてかな。私がリフレシアだよ」
「どうも。Sランク冒険者の柊です」
首にかけていた冒険者証を手に持って見えるように強調する。
「それで、人を探していると聞いたが……。ここ最近会った人物を思い浮かべてみても、常連の者しか浮かばなくてね」
「ああ、探している人物は最近ではなく、五年ほど前のことなんですよ」
「……五年?」
五年と言う言葉にピクリと反応するリフレシア。微妙に顔が顰められるが、何か嫌なことでもあったのか。
「はい。黒髪黒目の柳原楓という女性ですが、ご存じですか?」
「……」
名前を出した瞬間に、顰めている顔が驚きに変わる。
懐から五年前の楓さんの写真を取り出して差し出すと、受け取ったリフレシアの目がさらに見開かれる。穴が空くようにして写真を見つめるが、ひっくり返して裏の確認までしだした。
やっぱりこの世界の住人に写真を見せると似たような反応になるな。
「そのご様子だと何か知ってるようですね」
しばらく返事をしないリフレシアに一言だけ告げると、お茶が入ったのか扉がノックされる。
「……入りな」
「失礼します」
メイドさんがカートを押して入ってきてお茶を淹れる。途中で俺たちの雰囲気を察したのか、額に冷や汗が浮かんできた。
「ごゆっくりどうぞ」
お茶を淹れるとそそくさと逃げるように退散するメイドさんを見送ると、リフレシアが口を開いた。
「……ところであんたは、誰から依頼を受けたのさ?」
さて、何と答えたものか。ご両親と答えて反応を見るのもひとつか? ……そういえば十四郎さんと仁平さんだけで、お母さんには会ってなかったな。話題にも上らなかったし、聞かない方がよさそうだ。
「楓さんの父親です」
「は? ……なんだって?」
「楓さんの祖父からも依頼を受けました」
またも返事をせずに考え込むリフレシアを眺めながら、淹れてもらったお茶に口を付ける。うーん、まあまあかな。どうやらエルが淹れたお茶には敵わないようだ。
「つまりあんたは……、依頼人と直接連絡を取ってからここに来たということかい?」
もちろん直接連絡を取ったけど、冒険者ギルドを通せば依頼人と顔を合わせることなく依頼を受けることも可能だ。
ギラリと目を光らせたリフレシアだが、もし楓さんが異世界から来たということを知っていれば重要な話だろう。
「ええそうですね。楓さんを探しだして、ご家族の元に帰してあげるのが依頼ですから」
「へぇ……そうかい」
と言って、顎に手を当ててまたもや考え込んでいる。
知らないなら知らないと一言いえば済むと思うんだけど、やっぱり何か知ってるってことでいいかな?
「そういうわけですので、何か知っていることがあればぜひ教えていただきたいのですが」
「ああ、そうだったね。確かにあの子のことなら知ってることはあるわね」
そう言葉にすると、リフレシアもお茶の入ったカップを手に取って一息入れる。
『他の二人も確認が終わったわ。残念だけど、どっちも楓ちゃんじゃなさそうよ。黒髪黒目じゃなかった……』
さっさと教えろよと思っていると、莉緒からの念話が入る。が、残念なお知らせだった。
『そうなのか。ありがとう。こっちは女が楓さんを知ってるとだけ聞き出したところだ』
『そうなのね! やったじゃない!』
『詳細はこれからだから、もうちょっと待っててくれ』
『うん!』
手に取ったカップをテーブルに戻すと、こちらに視線を向けて口を開いた。
「教えるのはやぶさかではないが、もちろんタダというわけにはいくまい」
「それはわかっております。内容によりますが、お礼はきちんとさせていただきます」
さて、ここからが本題か。もしこいつが楓さん誘拐の犯人とか関係者だったら、お礼の内容がまったく逆の物になる可能性もあるんだけどね。
「家族の元に帰すと言うが、その方法を聞いても?」
普通ならただ連れて行くだけだと思うんだが、わざわざそういう聞き方をしてくるのか……。こっちも依頼者と直接会ったって話をしてるけど、会いに行く方法ねぇ。
「方法と言われても……、ただ海を渡るだけですが……」
この大陸の外にも他の大陸は存在するが、全世界が探索し尽くされたわけではないというエルの話を思い出してそう口にする。まぁ渡るのは次元の海ってやつなんだけど。
「海……だと?」
予想外の答えだったのか、愕然とするリフレシア。異世界から来たと思っていた楓さんが、実は同じ世界の未知の大陸出身とでも思ったのかもしれない。
「……まさか、いやしかし」
独り言を呟くようになったリフレシアに、この話し合いが穏便に終わるのか不安になってきた。
「よく来たね。まぁ座りなよ」
立ち上がって歓迎の様子を見せているが、何かを企んでいそうな雰囲気を感じる。Sランク冒険者と聞いて利用しようとでも思ってるのか。
ソファへと座るとエルは背後に立って控えている。
「お茶を淹れて来ますね」
とメイドさんは一度部屋を出て行った。
「初めましてかな。私がリフレシアだよ」
「どうも。Sランク冒険者の柊です」
首にかけていた冒険者証を手に持って見えるように強調する。
「それで、人を探していると聞いたが……。ここ最近会った人物を思い浮かべてみても、常連の者しか浮かばなくてね」
「ああ、探している人物は最近ではなく、五年ほど前のことなんですよ」
「……五年?」
五年と言う言葉にピクリと反応するリフレシア。微妙に顔が顰められるが、何か嫌なことでもあったのか。
「はい。黒髪黒目の柳原楓という女性ですが、ご存じですか?」
「……」
名前を出した瞬間に、顰めている顔が驚きに変わる。
懐から五年前の楓さんの写真を取り出して差し出すと、受け取ったリフレシアの目がさらに見開かれる。穴が空くようにして写真を見つめるが、ひっくり返して裏の確認までしだした。
やっぱりこの世界の住人に写真を見せると似たような反応になるな。
「そのご様子だと何か知ってるようですね」
しばらく返事をしないリフレシアに一言だけ告げると、お茶が入ったのか扉がノックされる。
「……入りな」
「失礼します」
メイドさんがカートを押して入ってきてお茶を淹れる。途中で俺たちの雰囲気を察したのか、額に冷や汗が浮かんできた。
「ごゆっくりどうぞ」
お茶を淹れるとそそくさと逃げるように退散するメイドさんを見送ると、リフレシアが口を開いた。
「……ところであんたは、誰から依頼を受けたのさ?」
さて、何と答えたものか。ご両親と答えて反応を見るのもひとつか? ……そういえば十四郎さんと仁平さんだけで、お母さんには会ってなかったな。話題にも上らなかったし、聞かない方がよさそうだ。
「楓さんの父親です」
「は? ……なんだって?」
「楓さんの祖父からも依頼を受けました」
またも返事をせずに考え込むリフレシアを眺めながら、淹れてもらったお茶に口を付ける。うーん、まあまあかな。どうやらエルが淹れたお茶には敵わないようだ。
「つまりあんたは……、依頼人と直接連絡を取ってからここに来たということかい?」
もちろん直接連絡を取ったけど、冒険者ギルドを通せば依頼人と顔を合わせることなく依頼を受けることも可能だ。
ギラリと目を光らせたリフレシアだが、もし楓さんが異世界から来たということを知っていれば重要な話だろう。
「ええそうですね。楓さんを探しだして、ご家族の元に帰してあげるのが依頼ですから」
「へぇ……そうかい」
と言って、顎に手を当ててまたもや考え込んでいる。
知らないなら知らないと一言いえば済むと思うんだけど、やっぱり何か知ってるってことでいいかな?
「そういうわけですので、何か知っていることがあればぜひ教えていただきたいのですが」
「ああ、そうだったね。確かにあの子のことなら知ってることはあるわね」
そう言葉にすると、リフレシアもお茶の入ったカップを手に取って一息入れる。
『他の二人も確認が終わったわ。残念だけど、どっちも楓ちゃんじゃなさそうよ。黒髪黒目じゃなかった……』
さっさと教えろよと思っていると、莉緒からの念話が入る。が、残念なお知らせだった。
『そうなのか。ありがとう。こっちは女が楓さんを知ってるとだけ聞き出したところだ』
『そうなのね! やったじゃない!』
『詳細はこれからだから、もうちょっと待っててくれ』
『うん!』
手に取ったカップをテーブルに戻すと、こちらに視線を向けて口を開いた。
「教えるのはやぶさかではないが、もちろんタダというわけにはいくまい」
「それはわかっております。内容によりますが、お礼はきちんとさせていただきます」
さて、ここからが本題か。もしこいつが楓さん誘拐の犯人とか関係者だったら、お礼の内容がまったく逆の物になる可能性もあるんだけどね。
「家族の元に帰すと言うが、その方法を聞いても?」
普通ならただ連れて行くだけだと思うんだが、わざわざそういう聞き方をしてくるのか……。こっちも依頼者と直接会ったって話をしてるけど、会いに行く方法ねぇ。
「方法と言われても……、ただ海を渡るだけですが……」
この大陸の外にも他の大陸は存在するが、全世界が探索し尽くされたわけではないというエルの話を思い出してそう口にする。まぁ渡るのは次元の海ってやつなんだけど。
「海……だと?」
予想外の答えだったのか、愕然とするリフレシア。異世界から来たと思っていた楓さんが、実は同じ世界の未知の大陸出身とでも思ったのかもしれない。
「……まさか、いやしかし」
独り言を呟くようになったリフレシアに、この話し合いが穏便に終わるのか不安になってきた。
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