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第五部
お金を稼ぐ方法
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電車が動き出すとイヴァンとフォニアは扉の窓に張り付いて外を眺めている。たまに耳がピコピコと動くのが可愛い。周囲から聞こえる声は、「耳?」「可愛い」「コスプレ?」が大半だ。
一方でエルは車内の液晶モニタに流れる広告動画や行き先表示を見ては唸っている。
獣人の二人は大人しいが、吸血鬼族に至っては落ち着きがない。
「これだけ大量の人を運べる乗り物ってすげーな」
「人いっぱいだね」
流れる景色を眺める二人だったが、反対車線を走る電車とすれ違った瞬間、イヴァンが反射的に一歩後退して構えを取る。フォニアはしりもちをついてポカンとしていた。
車内はそれほど混んでいるわけではないので何もなかったが、満員電車だったらどうなっていたことか。
「何やってんだイヴァン……」
俺の言葉に周囲の目にも気が付いたのか、ばつが悪そうにするイヴァン。
「いや、すまん。目の前を通り抜けられるとさすがにびっくりした」
「びっくりした……」
ことあるごとに反応する二人と、物珍しそうに色んなものを手当たり次第に観察するエルと共に、ようやく拠点となるマンションの最寄り駅に到着する。
「……なんかすごく疲れた」
莉緒と共に大きくため息をつくと辺りを見回す。さすがにオフィス街ではなくなったので大きなビルは多くないが、駅前はそこそこの賑わいを見せている。空を見上げればほとんど星は見えず、まさに都会の空だ。
ケージからニルを出してやると大きく伸びをしている。
「駅から徒歩五分ってところかな」
スマホで地図を見ながら歩き出す。
大通りを途中で曲がり、少しだけ路地へ入ったところに俺たちのマンションはあった。
「やっと着いたー」
靴を脱いで部屋に上がり、リビングのソファに座り込んだところでほっと息をつく。誰も車の免許は持ってないし、いつでも車で移動できるわけではない。公共交通機関に慣れておこうと試してみたけど、思ったより疲れたな。
「明日も電車で買い物に行くぞー」
「やったぁ!」
フォニアが両手を上げて喜んでいるが、エルの口角も上がっている。
「じゃあ先に風呂に入るか。ああそうだ。エルにお風呂とかトイレの使い方を教えてやってくれ」
「わかったわ」
「ふむ。使い方か。それは楽しみだな」
「ボクも知ってるから教えてあげるね」
この世界の不思議道具に興味津々なエルに、フォニアが目を輝かせてお姉さんぶっている。いつもいろいろと教えられているフォニアにとって、他の人が知らないことがあるのが何か嬉しいのだろう。
「じゃあ一緒にお風呂行こうか」
「うん!」
三人で連れ立ってお風呂の方へと去っていく。
フォニアが嬉しそうにあれこれとエルに説明すると、驚いた声が聞こえてくる。
「楽しそうだな」
風呂場の方向を眺めながらイヴァンがポツリと呟く。
しばらくすると風呂場から「そのままお風呂入ってくるねー」と莉緒から声が届いたので返事をしておいた。
スマホで明日行くお店への道順を確認していると、三人がお風呂から上がってくる。莉緒とフォニアは日本でも違和感のない服装だったが、エルはいつもの服装だ。
「さすがにエルの服はサイズがなかったわね」
「そりゃそうだな」
見た目だけでもエルの方が背が高い。胸部に装着されたメロンを見れば、合う服がないのは一目瞭然だ。
俺たちも順番に風呂に入ると、リビングで集まって今後の話をすることにした。
「やっぱりこっちでもお金を稼げるようにしないといけないと思うんだ」
「うん。私も今日はそう思ったの」
「確か簡単にはできそうにないって話だったよな?」
イヴァンが以前話していた内容を思い出しながらそう言葉にする。
「ああ。バイトとかは無理なんだけど、何かこっちから提供できるものはないかなって」
「さっきは肉を提供していたよな。あんな感じか?」
「そうだな」
バーベキューで仁平さんたちにお肉を振る舞ったが、ああいう感じで何か提供できないだろうか。
「食材となったら、個人的に仁平さんとかにあげるくらいしかできないわよ?」
莉緒がイヴァンに説明してくれているがまさにその通りだ。何の肉かわからないようなものは販売できるはずがない。
「魔道具とかも考えたけど、こっちの家電製品の方が優秀っぽいよな」
「うん。あとこっちにないものと言ったら、魔法くらいじゃない?」
「そうだな。……あぁなるほど。そういうやり方もあるか」
「ちょっと待て。……魔法はどうやって売るんだ?」
莉緒と二人で納得していると、魔法というお金稼ぎの方法にイヴァンがツッコむ。
「吟遊詩人が歌を披露するみたいに、そこらへんで魔法を披露でもするのか?」
「いやいや、さすがにそんなことはしないけど」
はてなを浮かべるイヴァンに苦笑するとスマホを取り出す。
「これで動画が撮れるのは知ってるよな?」
「あ、ああ」
今まで散々フォニアの写真や動画を撮ってきたのだ。それくらいはイヴァンも理解しているだろう。
「で、この世界にはインターネットというものがあってだな」
動画をアップすると世界中の人が見れるようになると説明すると、イヴァンとエルの目が点になり、フォニアはなぜか目を輝かせている。
「もしかしてボクをいっぱい見てもらえる?」
思わぬところからかかった期待の混じった声に戸惑っていると、続く言葉で納得した。
「いっぱいボクのこと褒めてくれる?」
そういえば楓さんの写真が冒険者ギルドに貼られてたのをみて羨ましそうにしてたな。ふーむ。魔法の衝撃映像とかの動画をアップしようかと思ってたけど、フォニアの可愛さをネットで広めてもいいかもしれない。
「フォニアちゃんは可愛いもんね。きっといっぱい可愛いって言ってくれるわよ」
「えへへ」
莉緒がしゃがみこんで目線を合わせて撫でると、フォニアは嬉しそうに笑った。
一方でエルは車内の液晶モニタに流れる広告動画や行き先表示を見ては唸っている。
獣人の二人は大人しいが、吸血鬼族に至っては落ち着きがない。
「これだけ大量の人を運べる乗り物ってすげーな」
「人いっぱいだね」
流れる景色を眺める二人だったが、反対車線を走る電車とすれ違った瞬間、イヴァンが反射的に一歩後退して構えを取る。フォニアはしりもちをついてポカンとしていた。
車内はそれほど混んでいるわけではないので何もなかったが、満員電車だったらどうなっていたことか。
「何やってんだイヴァン……」
俺の言葉に周囲の目にも気が付いたのか、ばつが悪そうにするイヴァン。
「いや、すまん。目の前を通り抜けられるとさすがにびっくりした」
「びっくりした……」
ことあるごとに反応する二人と、物珍しそうに色んなものを手当たり次第に観察するエルと共に、ようやく拠点となるマンションの最寄り駅に到着する。
「……なんかすごく疲れた」
莉緒と共に大きくため息をつくと辺りを見回す。さすがにオフィス街ではなくなったので大きなビルは多くないが、駅前はそこそこの賑わいを見せている。空を見上げればほとんど星は見えず、まさに都会の空だ。
ケージからニルを出してやると大きく伸びをしている。
「駅から徒歩五分ってところかな」
スマホで地図を見ながら歩き出す。
大通りを途中で曲がり、少しだけ路地へ入ったところに俺たちのマンションはあった。
「やっと着いたー」
靴を脱いで部屋に上がり、リビングのソファに座り込んだところでほっと息をつく。誰も車の免許は持ってないし、いつでも車で移動できるわけではない。公共交通機関に慣れておこうと試してみたけど、思ったより疲れたな。
「明日も電車で買い物に行くぞー」
「やったぁ!」
フォニアが両手を上げて喜んでいるが、エルの口角も上がっている。
「じゃあ先に風呂に入るか。ああそうだ。エルにお風呂とかトイレの使い方を教えてやってくれ」
「わかったわ」
「ふむ。使い方か。それは楽しみだな」
「ボクも知ってるから教えてあげるね」
この世界の不思議道具に興味津々なエルに、フォニアが目を輝かせてお姉さんぶっている。いつもいろいろと教えられているフォニアにとって、他の人が知らないことがあるのが何か嬉しいのだろう。
「じゃあ一緒にお風呂行こうか」
「うん!」
三人で連れ立ってお風呂の方へと去っていく。
フォニアが嬉しそうにあれこれとエルに説明すると、驚いた声が聞こえてくる。
「楽しそうだな」
風呂場の方向を眺めながらイヴァンがポツリと呟く。
しばらくすると風呂場から「そのままお風呂入ってくるねー」と莉緒から声が届いたので返事をしておいた。
スマホで明日行くお店への道順を確認していると、三人がお風呂から上がってくる。莉緒とフォニアは日本でも違和感のない服装だったが、エルはいつもの服装だ。
「さすがにエルの服はサイズがなかったわね」
「そりゃそうだな」
見た目だけでもエルの方が背が高い。胸部に装着されたメロンを見れば、合う服がないのは一目瞭然だ。
俺たちも順番に風呂に入ると、リビングで集まって今後の話をすることにした。
「やっぱりこっちでもお金を稼げるようにしないといけないと思うんだ」
「うん。私も今日はそう思ったの」
「確か簡単にはできそうにないって話だったよな?」
イヴァンが以前話していた内容を思い出しながらそう言葉にする。
「ああ。バイトとかは無理なんだけど、何かこっちから提供できるものはないかなって」
「さっきは肉を提供していたよな。あんな感じか?」
「そうだな」
バーベキューで仁平さんたちにお肉を振る舞ったが、ああいう感じで何か提供できないだろうか。
「食材となったら、個人的に仁平さんとかにあげるくらいしかできないわよ?」
莉緒がイヴァンに説明してくれているがまさにその通りだ。何の肉かわからないようなものは販売できるはずがない。
「魔道具とかも考えたけど、こっちの家電製品の方が優秀っぽいよな」
「うん。あとこっちにないものと言ったら、魔法くらいじゃない?」
「そうだな。……あぁなるほど。そういうやり方もあるか」
「ちょっと待て。……魔法はどうやって売るんだ?」
莉緒と二人で納得していると、魔法というお金稼ぎの方法にイヴァンがツッコむ。
「吟遊詩人が歌を披露するみたいに、そこらへんで魔法を披露でもするのか?」
「いやいや、さすがにそんなことはしないけど」
はてなを浮かべるイヴァンに苦笑するとスマホを取り出す。
「これで動画が撮れるのは知ってるよな?」
「あ、ああ」
今まで散々フォニアの写真や動画を撮ってきたのだ。それくらいはイヴァンも理解しているだろう。
「で、この世界にはインターネットというものがあってだな」
動画をアップすると世界中の人が見れるようになると説明すると、イヴァンとエルの目が点になり、フォニアはなぜか目を輝かせている。
「もしかしてボクをいっぱい見てもらえる?」
思わぬところからかかった期待の混じった声に戸惑っていると、続く言葉で納得した。
「いっぱいボクのこと褒めてくれる?」
そういえば楓さんの写真が冒険者ギルドに貼られてたのをみて羨ましそうにしてたな。ふーむ。魔法の衝撃映像とかの動画をアップしようかと思ってたけど、フォニアの可愛さをネットで広めてもいいかもしれない。
「フォニアちゃんは可愛いもんね。きっといっぱい可愛いって言ってくれるわよ」
「えへへ」
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