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第五部
いろいろと興味は尽きないようです
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建物内にいる他の人たちから逃げるように出ると、ここまで来たときに使った車へと乗り込んで、仁平さんの待つDORAGON社のビルへと向かった。
明日香は「またあいつらに見つかったら面倒」とか言ってたけど、なんとなく説明するのが面倒で逃げたようにも感じられるがそれは言わないでおく。
「DORAGON社って、あのDORAGON社か……?」
行き先を告げた明日香が、訝しげな表情で運転席からこちらを振り返る。いまいちピンときてはいないが、世界五大通信会社のひとつであるDORAGON社に俺たちが何の用があるのか疑問らしい。
と言っても俺たちに用があるのは向こうなんだけどな。
「あの、と言われてもよくわかりませんけど、DORAGON社には間違いないはずです」
「あー……、うん、……そうか……」
無難な返しができたかなと思ったけど、明日香は言葉を濁してそのまま黙ってしまった。静かになる車内ではあるが、日本を知らないイヴァンとフォニアとエルの三人は、窓に張り付いて興味深そうにずっと外を眺めている。
「うお、なんだありゃ!」
「はやい!」
たまたま通りかかった新幹線を目撃したようで、興奮した様子を見せる三人。俺たちが空を飛ぶ普段の移動速度よりも速そうだ。全力を出せばわからないが、少なくともニルは付いてこられない。
「今度電車に乗ってみようか」
「電車?」
「もしかして今さっき向こうを高速で走り抜けていったあれか?」
フォニアは首を傾げるだけだったが、イヴァンが察したのかほぼ正解を言い当てる。
「あれじゃなくて、もうちょっと遅い似たようなやつだけどな」
「うん! 乗りたい!」
「じゃあ仁平さんとご飯食べたら電車で帰ろうか」
「やったぁ!」
両手を上げてはしゃぐフォニアを撫でると、スマホを取り出して地図アプリを開く。日本で拠点としているマンションは地図には入れてあるのだ。DORAGON社からマンションまではそこまで遠くない。いくつかルートがあるけどあとで考えよう。
「着いたぞ」
フォニアたちとおしゃべりしているうちに到着したようだ。車から降りると見覚えのある地下駐車場だった。明日香も車から降りてキョロキョロと物珍しそうにしている。
「送ってもらってありがとうございます」
「これも仕事だからな。気にしなくていいさ」
「おねーさんありがとう!」
フォニアが耳をぴこぴこさせながら丁寧に礼を言うと、明日香も表情が崩れている。
「じゃあ私たちはこれで失礼しますね」
「ああ、元気でな」
最後に挨拶をすると、明日香が俺たち一人ずつ見渡していく。最後のエルでしばらく止まっていたが、特に何を言うでもなく踵を返すと車へと戻っていった。
「……ずっと黙ってるのも結構辛いものね。いろいろ聞きたいことがあったんだけど」
車を見送ったところでエルがため息とともに零す。
「もうしばらくの辛抱だな」
奥のエレベーターホールへと向かいながら肩をすくめると、エルからさらに大きなため息が聞こえてきた。
異空間ボックスから入館証を取り出すと、服の裾が引っ張られる。
「お兄ちゃん。……ボクもそれやってみたい」
振り返ると、フォニアが上目遣いで取り出した入館証を指差していた。
「これ?」
手渡してあげると嬉しそうにして頭上に掲げる。
「ありがとう!」
入館証のカードをひっくり返して裏側を確認すると、ニヤニヤとした表情を抑えられないまま奥の扉へと向かう。だがしかし、カードを読み取り機へと翳そうと手を伸ばし、背伸びをしても届かないようであった。
ゆっくりと振り返ったフォニアの顔は悲しみに濡れており、今にも涙が零れ落ちそうになっている。
「あー、うん……、届かないかぁ」
声に出して笑うわけにもいかず、ゆっくりとフォニアの頭を撫でるとしばし考える。
踏み台になりそうなものはいっぱい入ってたなと思い、異空間ボックスから木箱を取り出して床に置いた。
「これなら届くだろ」
「……うん!」
再度顔を輝かせたフォニアが台に乗ってカードを翳す。と、「ピッ」という効果音と共に扉が開いた。
「ボクにも開けられたよ!」
「よかったな」
台から降りて嬉しそうにするフォニアからカードを受け取ると、盛大に頭を撫でてやった。
「……へぇ、その小さいカードが鍵になっているというわけね」
エルが感心したように頷くと、読み取り機をしきりに観察している。あらゆる角度から眺めてはぶつぶつと呟いているけど、いい加減にしないと置いていくぞ?
全員で扉の中へと入っていくと、慌てた様子でエルが最後に入ってくる。
「なんだここは……?」
狭いエレベーター内を見回して首を傾げている。
フォニアを抱き上げて72階のボタンを押させると、床に降りて嬉しそうに閉ボタンを押している。
扉が閉まる様子を見ていたエルだったが、何を思ったのか71、70と順番にボタンを押し始めた。
「こら、やめい」
腕を取って止めると、エルが不思議そうに振り返る。が、エレベーターが動き出すと同時に余裕があったエルの表情が慌てだした。
「これは建物の各階層を移動する乗り物なんだよ。押したら用事のない階にも止まるだろうが」
「なん……だと――ッ!?」
説明して納得したようだったが、五階を越えて外の景色が見えるようになった瞬間、エルの目がこれでもかというくらいに見開かれた。
「なんというか、イヴァンよりリアクションが面白いエルってのも新鮮だな」
莉緒を振り返ると、エルに押された階のボタンをダブルタップしているところだった。止まる必要のない階のボタンが、ダブルタップされることで次々と消えて行く。
「なん……だと」
エルと同じ反応をしたら、莉緒が耐えきれずに噴き出した。
明日香は「またあいつらに見つかったら面倒」とか言ってたけど、なんとなく説明するのが面倒で逃げたようにも感じられるがそれは言わないでおく。
「DORAGON社って、あのDORAGON社か……?」
行き先を告げた明日香が、訝しげな表情で運転席からこちらを振り返る。いまいちピンときてはいないが、世界五大通信会社のひとつであるDORAGON社に俺たちが何の用があるのか疑問らしい。
と言っても俺たちに用があるのは向こうなんだけどな。
「あの、と言われてもよくわかりませんけど、DORAGON社には間違いないはずです」
「あー……、うん、……そうか……」
無難な返しができたかなと思ったけど、明日香は言葉を濁してそのまま黙ってしまった。静かになる車内ではあるが、日本を知らないイヴァンとフォニアとエルの三人は、窓に張り付いて興味深そうにずっと外を眺めている。
「うお、なんだありゃ!」
「はやい!」
たまたま通りかかった新幹線を目撃したようで、興奮した様子を見せる三人。俺たちが空を飛ぶ普段の移動速度よりも速そうだ。全力を出せばわからないが、少なくともニルは付いてこられない。
「今度電車に乗ってみようか」
「電車?」
「もしかして今さっき向こうを高速で走り抜けていったあれか?」
フォニアは首を傾げるだけだったが、イヴァンが察したのかほぼ正解を言い当てる。
「あれじゃなくて、もうちょっと遅い似たようなやつだけどな」
「うん! 乗りたい!」
「じゃあ仁平さんとご飯食べたら電車で帰ろうか」
「やったぁ!」
両手を上げてはしゃぐフォニアを撫でると、スマホを取り出して地図アプリを開く。日本で拠点としているマンションは地図には入れてあるのだ。DORAGON社からマンションまではそこまで遠くない。いくつかルートがあるけどあとで考えよう。
「着いたぞ」
フォニアたちとおしゃべりしているうちに到着したようだ。車から降りると見覚えのある地下駐車場だった。明日香も車から降りてキョロキョロと物珍しそうにしている。
「送ってもらってありがとうございます」
「これも仕事だからな。気にしなくていいさ」
「おねーさんありがとう!」
フォニアが耳をぴこぴこさせながら丁寧に礼を言うと、明日香も表情が崩れている。
「じゃあ私たちはこれで失礼しますね」
「ああ、元気でな」
最後に挨拶をすると、明日香が俺たち一人ずつ見渡していく。最後のエルでしばらく止まっていたが、特に何を言うでもなく踵を返すと車へと戻っていった。
「……ずっと黙ってるのも結構辛いものね。いろいろ聞きたいことがあったんだけど」
車を見送ったところでエルがため息とともに零す。
「もうしばらくの辛抱だな」
奥のエレベーターホールへと向かいながら肩をすくめると、エルからさらに大きなため息が聞こえてきた。
異空間ボックスから入館証を取り出すと、服の裾が引っ張られる。
「お兄ちゃん。……ボクもそれやってみたい」
振り返ると、フォニアが上目遣いで取り出した入館証を指差していた。
「これ?」
手渡してあげると嬉しそうにして頭上に掲げる。
「ありがとう!」
入館証のカードをひっくり返して裏側を確認すると、ニヤニヤとした表情を抑えられないまま奥の扉へと向かう。だがしかし、カードを読み取り機へと翳そうと手を伸ばし、背伸びをしても届かないようであった。
ゆっくりと振り返ったフォニアの顔は悲しみに濡れており、今にも涙が零れ落ちそうになっている。
「あー、うん……、届かないかぁ」
声に出して笑うわけにもいかず、ゆっくりとフォニアの頭を撫でるとしばし考える。
踏み台になりそうなものはいっぱい入ってたなと思い、異空間ボックスから木箱を取り出して床に置いた。
「これなら届くだろ」
「……うん!」
再度顔を輝かせたフォニアが台に乗ってカードを翳す。と、「ピッ」という効果音と共に扉が開いた。
「ボクにも開けられたよ!」
「よかったな」
台から降りて嬉しそうにするフォニアからカードを受け取ると、盛大に頭を撫でてやった。
「……へぇ、その小さいカードが鍵になっているというわけね」
エルが感心したように頷くと、読み取り機をしきりに観察している。あらゆる角度から眺めてはぶつぶつと呟いているけど、いい加減にしないと置いていくぞ?
全員で扉の中へと入っていくと、慌てた様子でエルが最後に入ってくる。
「なんだここは……?」
狭いエレベーター内を見回して首を傾げている。
フォニアを抱き上げて72階のボタンを押させると、床に降りて嬉しそうに閉ボタンを押している。
扉が閉まる様子を見ていたエルだったが、何を思ったのか71、70と順番にボタンを押し始めた。
「こら、やめい」
腕を取って止めると、エルが不思議そうに振り返る。が、エレベーターが動き出すと同時に余裕があったエルの表情が慌てだした。
「これは建物の各階層を移動する乗り物なんだよ。押したら用事のない階にも止まるだろうが」
「なん……だと――ッ!?」
説明して納得したようだったが、五階を越えて外の景色が見えるようになった瞬間、エルの目がこれでもかというくらいに見開かれた。
「なんというか、イヴァンよりリアクションが面白いエルってのも新鮮だな」
莉緒を振り返ると、エルに押された階のボタンをダブルタップしているところだった。止まる必要のない階のボタンが、ダブルタップされることで次々と消えて行く。
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