297 / 421
第五部
被害者じゃなくてすいません
しおりを挟む
「ところであんたたちはどうしてあのダンジョンにいたんだ……?」
緊張感をはらんだ口調で、明日香が意を決して尋ねてきた。
日本で行方不明になった人物の初の保護と思っていたところだったが、そうではない可能性が浮上してきたのだ。
「えーっとですね……」
多少の気まずさを覚えつつも正直に話をしていく。ケモ耳のイヴァンとフォニアもいるし、魔法も目の前で使えば信じざるを得ないだろう。
「…………マジかよ」
ある程度時間をかけた話し合いの結果、とりあえず明日香には納得いただけることができたようだ。この施設にいた連中への説明とかまではする気はないので悪しからず。そこはがんばってもらうことにしよう。
と言っても行方不明になった楓さんを探す云々については話していない。他にいなくなったやつらも探してとか言われかねないからな。
「えーっと、ちなみになんですけど、ここの部隊って何なんですか?」
呆然とした表情で机に突っ伏す明日香に別の話を振ってみる。一応俺たちを助けてくれた? 組織だけど、何なのかがよくわからない。
「ハハ……、そういえばちゃんとした自己紹介はまだだったね」
ちょっとだけ持ち直したのか、背筋を伸ばして改めて向き直る。
「アタシは日本軍ダンジョン部隊の第七小隊員、黒羽明日香だ。よろしくお願いするよ」
「日本軍……?」
「ダンジョン部隊?」
莉緒と揃って首を傾げるが、日本軍ってなんだろうな。日本は軍隊を持ってなかったと思うんだけど、こっちの日本は別ってことか。
「もしかして、何度か報復作戦を行ったとかって……」
莉緒が何かに気付いたようで言葉にするが、そういえば仁平さんからそんな話を聞いたような気がしないでもない。
「ああ、そうだね。何度かアイツらには泡を吹かせてやったこともあるけどね。でもその時も行方不明者は誰一人見つからずだったんだよね……」
いかな日本と言えど、実際に侵略されてまで黙っていることはないってことか。ついさっき目にした廃墟を思い出せば、日本で激しい戦闘が行われたことにも想像がつく。
……それから軍隊ができたのか、元からあったのかはわからないけど。
とそこに、ポケットに仕舞っていたスマホが着信音とバイブの振動音を知らせてきた。俺と莉緒以外が大げさに反応するが、イヴァンに至っては驚きすぎたのか椅子から落ちてた。
スマホ画面を見れば相手は仁平さんだ。こっちの話はひと段落したし、特に電話に出ても問題ないかな。
「もしもし」
『ああ、柊くんか。儂だ。仁平だ』
「どうかしたんですか?」
『いやすまんな。GPSの反応が出たもんで、待ちきれずについ連絡してしまった』
「ああ、そういうことですか。と言っても……、残念ながらまだ何も報告できることはないですけど。ここと違ってインターネットどころか電話すらない世界なので」
情報伝達速度は日本とは比べ物にならないだろう。あっちでもスマホを作って配布はしたけど、各組織のトップどころかすべての街にすら行き渡っていない。
とはいえようやく見つかった手掛かりに気が気でない気持ちはわからないでもない。しかし俺たちのスマホって監視されてるのか……。まあいいけど。一般人と違っていつでも連絡が取れるわけじゃないしなぁ。
『そ、そうか……』
残念そうな声が聞こえてくるがこればっかりはしょうがない。
『ううむ……。そういった話も含めて、もう少し詳しく話を聞かせてくれないか』
「ええ、かまいませんよ。会社のビルに向かえばいいですか?」
『ああ、悪いね。また夕食でも一緒にどうかな』
仁平さんの声にフォニアの耳がピクピクと動いたかと思うと、「ごはん……」と呟いて表情がだらしなく緩む。
とはいえ今回は一人多いんだよね。しかも言葉がわからないっていう。
「以前より一人増えてるんですが、大丈夫ですか?」
『はは、何、柊くんが連れている人物ならいくら増えてもかまわんよ』
なんとも太っ腹な仁平さんの言葉にちょっとだけ恥ずかしくなる。今まで接してきたロクでもない人種とは根本から異なるようだ。
「ありがとうございます。ではこれから向かいますね」
『ああ、待っているよ』
なんとなくここもいづらくなってたしちょうどいい。電話を切ってポケットに仕舞うと、明日香が呆けた表情でこっちを見ていた。
「ここじゃない日本から来たとは聞いたけど、こっちにも知り合いはいたんだな」
「……そりゃ何人かはね」
楓さんの話は端折ってたから出てこなかったが、いるにはいるのだ。楓さんの家族である十四郎さんと仁平さんだけだけど。あと運転手さんも何度か送り迎えしてもらって顔見知りだけど、そういえば名前聞いてないな……。
「じゃあ俺たちはそろそろ行きますね」
「あ、ああ……」
席を立つ俺たちを何気なく眺めていた明日香だったが、ふと我に返ったかのように立ち上がると。
「どこかに向かうんなら送っていくよ」
「いいんですか?」
送ってくれるというのであれば助かる。スマホの地図アプリがあればたどり着けるかもしれないけど、あんまり地理には詳しくない。前回物資調達のために倉庫店や大型モールを回った時も車で送り迎えしてもらったしね。
「ああ、大丈夫だ。……むしろあいつらになんて説明すりゃいいのか……」
後半はよく聞き取れなかったが、送ってくれるというのであればありがたい。素直に甘えることにした俺たちだった。
緊張感をはらんだ口調で、明日香が意を決して尋ねてきた。
日本で行方不明になった人物の初の保護と思っていたところだったが、そうではない可能性が浮上してきたのだ。
「えーっとですね……」
多少の気まずさを覚えつつも正直に話をしていく。ケモ耳のイヴァンとフォニアもいるし、魔法も目の前で使えば信じざるを得ないだろう。
「…………マジかよ」
ある程度時間をかけた話し合いの結果、とりあえず明日香には納得いただけることができたようだ。この施設にいた連中への説明とかまではする気はないので悪しからず。そこはがんばってもらうことにしよう。
と言っても行方不明になった楓さんを探す云々については話していない。他にいなくなったやつらも探してとか言われかねないからな。
「えーっと、ちなみになんですけど、ここの部隊って何なんですか?」
呆然とした表情で机に突っ伏す明日香に別の話を振ってみる。一応俺たちを助けてくれた? 組織だけど、何なのかがよくわからない。
「ハハ……、そういえばちゃんとした自己紹介はまだだったね」
ちょっとだけ持ち直したのか、背筋を伸ばして改めて向き直る。
「アタシは日本軍ダンジョン部隊の第七小隊員、黒羽明日香だ。よろしくお願いするよ」
「日本軍……?」
「ダンジョン部隊?」
莉緒と揃って首を傾げるが、日本軍ってなんだろうな。日本は軍隊を持ってなかったと思うんだけど、こっちの日本は別ってことか。
「もしかして、何度か報復作戦を行ったとかって……」
莉緒が何かに気付いたようで言葉にするが、そういえば仁平さんからそんな話を聞いたような気がしないでもない。
「ああ、そうだね。何度かアイツらには泡を吹かせてやったこともあるけどね。でもその時も行方不明者は誰一人見つからずだったんだよね……」
いかな日本と言えど、実際に侵略されてまで黙っていることはないってことか。ついさっき目にした廃墟を思い出せば、日本で激しい戦闘が行われたことにも想像がつく。
……それから軍隊ができたのか、元からあったのかはわからないけど。
とそこに、ポケットに仕舞っていたスマホが着信音とバイブの振動音を知らせてきた。俺と莉緒以外が大げさに反応するが、イヴァンに至っては驚きすぎたのか椅子から落ちてた。
スマホ画面を見れば相手は仁平さんだ。こっちの話はひと段落したし、特に電話に出ても問題ないかな。
「もしもし」
『ああ、柊くんか。儂だ。仁平だ』
「どうかしたんですか?」
『いやすまんな。GPSの反応が出たもんで、待ちきれずについ連絡してしまった』
「ああ、そういうことですか。と言っても……、残念ながらまだ何も報告できることはないですけど。ここと違ってインターネットどころか電話すらない世界なので」
情報伝達速度は日本とは比べ物にならないだろう。あっちでもスマホを作って配布はしたけど、各組織のトップどころかすべての街にすら行き渡っていない。
とはいえようやく見つかった手掛かりに気が気でない気持ちはわからないでもない。しかし俺たちのスマホって監視されてるのか……。まあいいけど。一般人と違っていつでも連絡が取れるわけじゃないしなぁ。
『そ、そうか……』
残念そうな声が聞こえてくるがこればっかりはしょうがない。
『ううむ……。そういった話も含めて、もう少し詳しく話を聞かせてくれないか』
「ええ、かまいませんよ。会社のビルに向かえばいいですか?」
『ああ、悪いね。また夕食でも一緒にどうかな』
仁平さんの声にフォニアの耳がピクピクと動いたかと思うと、「ごはん……」と呟いて表情がだらしなく緩む。
とはいえ今回は一人多いんだよね。しかも言葉がわからないっていう。
「以前より一人増えてるんですが、大丈夫ですか?」
『はは、何、柊くんが連れている人物ならいくら増えてもかまわんよ』
なんとも太っ腹な仁平さんの言葉にちょっとだけ恥ずかしくなる。今まで接してきたロクでもない人種とは根本から異なるようだ。
「ありがとうございます。ではこれから向かいますね」
『ああ、待っているよ』
なんとなくここもいづらくなってたしちょうどいい。電話を切ってポケットに仕舞うと、明日香が呆けた表情でこっちを見ていた。
「ここじゃない日本から来たとは聞いたけど、こっちにも知り合いはいたんだな」
「……そりゃ何人かはね」
楓さんの話は端折ってたから出てこなかったが、いるにはいるのだ。楓さんの家族である十四郎さんと仁平さんだけだけど。あと運転手さんも何度か送り迎えしてもらって顔見知りだけど、そういえば名前聞いてないな……。
「じゃあ俺たちはそろそろ行きますね」
「あ、ああ……」
席を立つ俺たちを何気なく眺めていた明日香だったが、ふと我に返ったかのように立ち上がると。
「どこかに向かうんなら送っていくよ」
「いいんですか?」
送ってくれるというのであれば助かる。スマホの地図アプリがあればたどり着けるかもしれないけど、あんまり地理には詳しくない。前回物資調達のために倉庫店や大型モールを回った時も車で送り迎えしてもらったしね。
「ああ、大丈夫だ。……むしろあいつらになんて説明すりゃいいのか……」
後半はよく聞き取れなかったが、送ってくれるというのであればありがたい。素直に甘えることにした俺たちだった。
18
お気に入りに追加
513
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる