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第五部
一網打尽
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「うおっ! おまえら、なにしやが――!」
合図をしたらボスを取り押さえろと予め指示してあった四人が、あっという間に一人の男を地面に押さえつける。予想していなかったであろうボスらしき人物は、思わぬ不意打ちに反撃の一つも出なかったようだ。
周囲の人間も一瞬何が起こったか理解できなかったようで、まったく動けていない。
「よし、制圧完了っと」
「くくっ……、手下に裏切られるとは普通思わんだろう」
イヴァンが口元を押さえながら笑いをこらえている。
動かない人間を拘束することほど楽なことはない。便利な空間遮断結界を発動すると、さっさと動けないように縛り付けた。
鑑定で名前を順番に確認していくと、イヴァンを襲った男たちから聞き出した構成員の名前と一致していたので一安心だ。
「あれ?」
と思ったけど一人だけ例外がいた。
「どうしたの?」
「いや、一人だけ聞いてない名前の奴がいたから」
指を差した先にいたのは、戸惑いを見せる女だった。俺たちが突入してきたことに驚いていたのは一緒だったけど、一人だけ様子が違う。
「ホントだ。誰だろうね?」
「こっちも終わってるようね」
一人謎の人物に首をひねっていると、エルが隣の部屋から二人の男を引きずってやってきた。どうやら先に逃げられた二人だったらしく、これで全員が揃ったようだ。
「ああ、一人だけ知らない女がいるけど、まぁ問題ないと思う」
「ふぅん。そのあたりはドロシーに丸投げすればいいんじゃないかしら」
「そうするか。召喚陣の方も早く何とかしないとダメだし、そうしよう」
「召喚陣?」
問いかけてくるエルをスルーしてドロシーへ電話を掛ける。
エルには莉緒から説明するかと思ったら、フォニアが身振り手振りで一生懸命説明を始めた。
「でっかい魔法陣がね、また出たの」
大きく手を広げて魔法陣を表現している様は保存する価値があるだろう。ドロシーを呼び出しているスマホの通話終了操作をするとポケットに仕舞い、もうひとつのスマホを取り出してフォニアを撮影し始める。が、どこからともなく声が聞こえてきた。
『ドロシーです。…………あの、ドロシーですけども、聞こえますか? 大丈夫ですか? ……何かあったんですか!? 返事してください!』
だんだんと大きくなってきた声にふと思い出すと、左手でフォニアを撮影しながら右手でスマホを取り出して耳に当てた。切ったつもりだったけど切れてなかったのか。……いや、発信途中でキャンセルできたっけ? 当たり前の機能だけど意識して作らないとダメだな。とりあえず繋がればいいやで作っただけだから、いろいろと不都合が出てきそうだ。
「悪い悪い。ちゃんと聞こえてるよ」
フォニアを撮影中の動画に音声が入らないように遮音結界を張ると、ドロシーと話を進める。
『はぁ……、繋がっててよかったです。ちゃんと聞こえているのであれば大丈夫です。それで、何かあったんですか?』
「ああ。新人狩りの犯人グループを捕まえた」
『へ?』
「これからギルドに引きずって行く。全部で十二人だから準備よろしく」
『えっ? いや、ちょっと、待っ』
伝えることを伝えてすぐに通話を切ると、フォニアの撮影に集中することにした。
「わ、わたしは無実だぞ!?」
フォニアの撮影が終わり、みんなで全員をロープで縛って連れていこうとしたとき、女の一人が抵抗しつつも声を上げた。
よく見れば無関係な人物が混じってると言ってた相手だ。全部まとめてドロシーに丸投げするつもりだったから、連れていき方も同じように引きずっていけばいいかと安易に考えていた。
「ああ、そういえば忘れてた」
「ぶふぉっ」
俺の言葉にイヴァンが噴き出す。
「さすがにそれは可哀そうでは……」
「何言ってんだ。こんなところにいる人物なんだ。被害者よりも協力者の可能性の方が高いだろ」
「……」
俺たちのやりとりに女がイヴァンを振り返る。何も反論はないようだが、それはそれで協力者だと疑ってしまいたくなるな。
「どっちにしろすぐに解放することはできないから、ギルドまではついてきてもらうぞ」
拒否されたらされたで、怪しい動きをするやつは強制連行だ。みんなを見回して準備はできたかと声を掛けていく。
「大丈夫!」
フォニアも参加するんだろうか、ロープを一本手に持っていた。
「さっさと行って引き渡しましょ」
「わふっ!」
ニルも手伝う気満々である。ロープを一本口に咥えている。
「そうするか。よし、お前らは先にギルドに行ってろ」
首輪が付いている男たちに告げると、男四人がぞろぞろと階段を上って外へと向かって行く。首輪も全員分あれば楽だったんだけど、生憎と在庫が足りないのだ。今後もそんなに大量に隷属の首輪が必要になるとも思えないし、追加で手に入れようとまでは思わないけど。
「よーし、じゃあ行くぞ。イヴァン先頭よろしく」
「俺!?」
指名されるとは思わなかったのか、唯一ロープを持っていないイヴァンが自分を指差している。
「……まぁいいけど。アンタもちゃんとついて来いよ」
一人だけ縛られていない女に告げると、槍を抱えたイヴァンが先に部屋を出て行く。
「ふん……。わたしは無関係なんだ……。逃げたりしないさ」
自分に言い聞かせるように呟く女がイヴァンの後へと続く。
俺たちもロープで犯人を引きずりながら、ギルドへと向かった。
合図をしたらボスを取り押さえろと予め指示してあった四人が、あっという間に一人の男を地面に押さえつける。予想していなかったであろうボスらしき人物は、思わぬ不意打ちに反撃の一つも出なかったようだ。
周囲の人間も一瞬何が起こったか理解できなかったようで、まったく動けていない。
「よし、制圧完了っと」
「くくっ……、手下に裏切られるとは普通思わんだろう」
イヴァンが口元を押さえながら笑いをこらえている。
動かない人間を拘束することほど楽なことはない。便利な空間遮断結界を発動すると、さっさと動けないように縛り付けた。
鑑定で名前を順番に確認していくと、イヴァンを襲った男たちから聞き出した構成員の名前と一致していたので一安心だ。
「あれ?」
と思ったけど一人だけ例外がいた。
「どうしたの?」
「いや、一人だけ聞いてない名前の奴がいたから」
指を差した先にいたのは、戸惑いを見せる女だった。俺たちが突入してきたことに驚いていたのは一緒だったけど、一人だけ様子が違う。
「ホントだ。誰だろうね?」
「こっちも終わってるようね」
一人謎の人物に首をひねっていると、エルが隣の部屋から二人の男を引きずってやってきた。どうやら先に逃げられた二人だったらしく、これで全員が揃ったようだ。
「ああ、一人だけ知らない女がいるけど、まぁ問題ないと思う」
「ふぅん。そのあたりはドロシーに丸投げすればいいんじゃないかしら」
「そうするか。召喚陣の方も早く何とかしないとダメだし、そうしよう」
「召喚陣?」
問いかけてくるエルをスルーしてドロシーへ電話を掛ける。
エルには莉緒から説明するかと思ったら、フォニアが身振り手振りで一生懸命説明を始めた。
「でっかい魔法陣がね、また出たの」
大きく手を広げて魔法陣を表現している様は保存する価値があるだろう。ドロシーを呼び出しているスマホの通話終了操作をするとポケットに仕舞い、もうひとつのスマホを取り出してフォニアを撮影し始める。が、どこからともなく声が聞こえてきた。
『ドロシーです。…………あの、ドロシーですけども、聞こえますか? 大丈夫ですか? ……何かあったんですか!? 返事してください!』
だんだんと大きくなってきた声にふと思い出すと、左手でフォニアを撮影しながら右手でスマホを取り出して耳に当てた。切ったつもりだったけど切れてなかったのか。……いや、発信途中でキャンセルできたっけ? 当たり前の機能だけど意識して作らないとダメだな。とりあえず繋がればいいやで作っただけだから、いろいろと不都合が出てきそうだ。
「悪い悪い。ちゃんと聞こえてるよ」
フォニアを撮影中の動画に音声が入らないように遮音結界を張ると、ドロシーと話を進める。
『はぁ……、繋がっててよかったです。ちゃんと聞こえているのであれば大丈夫です。それで、何かあったんですか?』
「ああ。新人狩りの犯人グループを捕まえた」
『へ?』
「これからギルドに引きずって行く。全部で十二人だから準備よろしく」
『えっ? いや、ちょっと、待っ』
伝えることを伝えてすぐに通話を切ると、フォニアの撮影に集中することにした。
「わ、わたしは無実だぞ!?」
フォニアの撮影が終わり、みんなで全員をロープで縛って連れていこうとしたとき、女の一人が抵抗しつつも声を上げた。
よく見れば無関係な人物が混じってると言ってた相手だ。全部まとめてドロシーに丸投げするつもりだったから、連れていき方も同じように引きずっていけばいいかと安易に考えていた。
「ああ、そういえば忘れてた」
「ぶふぉっ」
俺の言葉にイヴァンが噴き出す。
「さすがにそれは可哀そうでは……」
「何言ってんだ。こんなところにいる人物なんだ。被害者よりも協力者の可能性の方が高いだろ」
「……」
俺たちのやりとりに女がイヴァンを振り返る。何も反論はないようだが、それはそれで協力者だと疑ってしまいたくなるな。
「どっちにしろすぐに解放することはできないから、ギルドまではついてきてもらうぞ」
拒否されたらされたで、怪しい動きをするやつは強制連行だ。みんなを見回して準備はできたかと声を掛けていく。
「大丈夫!」
フォニアも参加するんだろうか、ロープを一本手に持っていた。
「さっさと行って引き渡しましょ」
「わふっ!」
ニルも手伝う気満々である。ロープを一本口に咥えている。
「そうするか。よし、お前らは先にギルドに行ってろ」
首輪が付いている男たちに告げると、男四人がぞろぞろと階段を上って外へと向かって行く。首輪も全員分あれば楽だったんだけど、生憎と在庫が足りないのだ。今後もそんなに大量に隷属の首輪が必要になるとも思えないし、追加で手に入れようとまでは思わないけど。
「よーし、じゃあ行くぞ。イヴァン先頭よろしく」
「俺!?」
指名されるとは思わなかったのか、唯一ロープを持っていないイヴァンが自分を指差している。
「……まぁいいけど。アンタもちゃんとついて来いよ」
一人だけ縛られていない女に告げると、槍を抱えたイヴァンが先に部屋を出て行く。
「ふん……。わたしは無関係なんだ……。逃げたりしないさ」
自分に言い聞かせるように呟く女がイヴァンの後へと続く。
俺たちもロープで犯人を引きずりながら、ギルドへと向かった。
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