成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa

文字の大きさ
上 下
279 / 421
第五部

新人冒険者

しおりを挟む
 その日は妖精の宿で一泊し、次の日もスマホを改造して回った。俺たちを子どもだと侮ってすごんできたヤツらは力づくで話し合いをして理解してもらい、楓さん捜索資金を手渡していった。
 もちろん真面目に捜索せずに着服するやつらが出るかもしれないけど、そこまで監視するつもりもない。というかそういう面倒なことは全部メサリアさんに丸投げである。

「というわけで俺たちはダンジョンに行ってくる」

 午前中にすべてのスマホの改造を終わらせてお昼ご飯を食べに妖精の宿へと戻ってくると、イヴァンが庭で槍を振り回して鍛錬をしていたので声を掛けた。昨日受けた依頼はどうやら終わったらしい。

「は? ダンジョン?」

 俺たちより体格のいいイヴァンは、堂々としていればベテランの冒険者に見える。なので今回に限っては一緒に行こうと誘ったりはしない。

「だんじょん?」

 一緒になって何かの棒を振り回していたフォニアが首を傾げていた。よく見ればただの木の棒みたいだ。イヴァンの真似でもしていたんだろうか。ニルは振り回される木の棒にじゃれついて遊んでいた。
 改めて迷宮都市のダンジョンに潜ることになった経緯を説明する。

「俺の出番はなさそうだな」

「……そうね」

 何気なく呟かれたイヴァンの言葉に、莉緒がゆっくりと同意する。
 一瞬だけイヴァンの出番って過去にあったかなという思いがよぎったが、彼自身の名誉のため考えないようにしておく。

「ボクは?」

 フォニアが目を輝かせているが、新人を装うにはうってつけだろうか。

「でも逆に怪しすぎる気もしないでもないけど……」

 幼女をダンジョンに連れていく新人っぽい冒険者は何に見えるだろうか。

「うーん……、一人で安宿で留守番させるよりは安全だからってことにする?」

 フォニアの行く末について話していると、だんだんとしょんぼりしたように顔を俯ける。

「ボクの出番もなさそうだね」

 あまりにも寂しそうにポツリとこぼれた言葉に胸が痛む。

「ううん、大丈夫だよ。フォニアちゃんも一緒に行こっか?」

「ホントに?」

 その姿に勝てなかった莉緒が優しく声を掛けると、フォニアが元気を取り戻してきた。目がキラキラしていて眩しい。

「やったぁ!」

「……出番はないけど、俺も街には連れて行ってくれ。いろんな街を見て回りたいし」

 喜ぶフォニアにイヴァンもぼそっと零す。基本的にエルは莉緒についてくるし、一人だけ置いてけぼりを食らうと思ったのかもしれない。

「はは、街にはみんなで行こうか」

「うん!」

 嬉しそうにはしゃぐフォニアを落ち着かせて昼食を摂ると、そのまま迷宮都市インブランドへと全員で向うことにした。予めスマホでドロシーに連絡を入れたら出発だ。



 新人に多少毛が生えたように見える服装と装備に着替えたあと、迷宮都市インブランドへと次元魔法で飛ぶ。前回と同じく街門から離れたところに出るが、今度は普通の門からの入場だ。冒険者証ではなく商業ギルド証を出して街の中へと入る。時間はかかったがこれで一般人として街に入れたに違いない。

「先に宿の確保だな」

「うん。新人冒険者に見えるように宿も安いところにする?」

 莉緒の言葉に思わず眉を顰めてしまった。そうするのが一番だとは思うけど、そこまでしないといけない相手という気もしない。新人と舐めてかかってくる相手が、新人の宿まで調べて対策を練ってくるだろうか。

「ちょっと冒険者ギルドから遠いところの高級宿にしようか……」

「あっははは!」

 妥協する言葉に大爆笑したのはエルだ。

「特にシュウは、見た目だけなら新人にしか見えないからね」

「ちっさくて悪かったな」

 逆に今回はそれを利用するわけだけだが、エルにいじられるのは納得がいかない。むしろボンボンの新人冒険者に見られれば遭遇率アップだろ。

「お兄ちゃんはカッコいいから、だいじょうぶだよ!」

 なんとなく理不尽さを感じているとフォニアが慰めてくれた。

「はは、高級宿はこっちだ」

 昔にここを訪れたことがあるエルに街を案内してもらう。かなり昔だろうが高級宿泊地のエリアが変わったりはしないので問題はなさそうだ。冒険者ギルドから遠い場所を適当に選んで宿を取ると、ギルドへと向かった。

「じゃあがんばれよ」

「ああ。じゃあな」

 ここからはイヴァンとエルは別行動だ。ニルは小さい状態でフォニアに抱えてもらってギルドの前まで来た。
 中に入ると新人に見えるように周囲をキョロキョロと見回す。初めて来るフォニアは「おっきいねぇ」と驚いている。

「今日は情報収集だけにしておくか」

 時間帯は昼過ぎではあるが、今から何も情報を持たずにダンジョンに突撃するわけにもいかない。慎重にギルドで情報を集めて新人冒険者がギルドに来たことをアピールせねばならないのだ。

「すみません」

 二階には行かずに、ドロシーに予め指定されたカウンターへと近づくと職員に声を掛ける。

「はい、なんでしょう」

「ダンジョンについて教えて欲しいんですけど」

 新人に接する優しい態度で職員が教えてくれたところによると、ダンジョンの入り口は街の中心にあるらしい。浅い階層は魔物もほとんど出ず、初心者でも探索が可能な難易度であり、深い階層に行くほど難易度が上がっていくとのこと。
 また五階層ごとにフロアボスというのがいるらしいが、ここのダンジョンは珍しいようで五階層には出ないらしい。必ずしも次階層の前に立ち塞がっているわけでもないらしく、中にはフロア中を徘徊しているボスもいるそうだ。
 現在55階層まで確認されているが、未踏破のダンジョンとなっている。踏破するとどうなるのかは教えられなかったが、最奥にはダンジョンコアとかダンジョンマスターがいたりするんだろうか。

「ダンジョンにはFランクから入れるけど――、大丈夫そうですね」

 特に冒険者証を確認するでもなく、フォニアとニルに視線を向けた職員が急に真面目な態度になった。従魔のタグを見てやっと俺たちだと気が付いたんだろうか。新人冒険者に接する演技うまいなと思ってたけど素だったらしい。

「そこはご心配なく。あと、ダンジョンの地図があれば欲しいです」

「畏まりました。少々お待ちください」

 こうして少々態度がお堅くなった職員から地図を入手したあとは、依頼ボードの前で物色しながら新人冒険者の雰囲気を振りまいた。
 ちなみにさっそく楓さん情報を収集する依頼がボードには張り付けられており、手の届かないカウンターの内側の壁に楓さんの写真が張り付けられていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...