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第五部
仕事の交換
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「へぇ、あたしのご主人様たちが信じられないなんて、心外だねぇ」
どれだけ俺たちが怪しく見えるのかを並べ立てていたドロシーに、どうやって信じてもらおうか考えていたところ、黙って後ろで立っていたエルが言葉を発した。
「ご主人……さま?」
急に割って入られたドロシーが俺たちの後ろに視線をやるが、俺たちも一緒になって後ろを振り向く。
「いきなりご主人様ってなんだよ」
「そうよ、ちょっと気持ち悪いじゃない」
「……あたしがリオの奴隷だって話をしようと思って出てきただけなのに、ひどい言いぐさだね」
ドロシーに何か言ってくれそうな気配はわかったけど、それよりも慣れない呼ばれ方をされたことの違和感が勝ってしまった。
「あのエルヴィリノスを、奴隷ですって……?」
話を途中でぶった切ってしまった形になったと思ったけど、ドロシーには何かが伝わったようで何よりだ。にしても「あの」ってなんなんだろうな。二十年前に暗殺ギルドに世話になってたときに何かやらかしたのか。
「シュウ様。冒険者証をお見せしていただければと」
「そういえばそうだな」
メサリアさんの言葉に、改めて俺たちがどこに来たのかを思い出す。冒険者ギルドに来たんだからして、冒険者証は信用に値するだろう。
Sランクの証であるミスリルのプレートを取り出してテーブルに置くと、息を呑む音が聞こえてきた。
「ふ、二人とも……」
そういえばステータスだけならSランク相当なエルもそれなりに有名なのかもしれないな。スキルが見えるようになってから見てないから、あとで見ておくか。
「前のギルドマスターが手も足も出なかったほどなので、気を付けてくださいね」
「門番から緊急連絡が入っていたけど……、あなたたちのことだったのね……」
「そういうわけで、魔道具を改造するので持ってきてもらえますか」
「すぐ持ってきます!」
冒険者証を出してからは効果てきめんだった。
即座に席を立つと慌てて部屋を出て行き、しばらくしてすぐに帰ってきた。「どうぞ」とスマホを差し出すが、椅子に座らずに直立不動のままだ。
いちいち相手にするのも面倒なので、そのまま受け取るとスマホに改造を施す。もう何度もしてきたので慣れたものだ。数分で終わらせるとドロシーへと返した。
「これで改造した全てのスマホとつながるようになったはず」
「え、全部……?」
「なので何かあったらすぐに連絡をください」
「わ、わかりました」
「じゃあ他所のギルドにも連携よろしく」
「あ、ちょっと待ってください!」
これで話は終わりだとばかりに席を立とうとしたところ、ドロシーに呼び止められた。視線で続きを促すと、恐る恐る口を開いた。
「カエデさんを探す任務が最優先なのはわかりました。ですが、こちらも人数をかけている優先任務がひとつありまして……」
聞くところによると、少し前からダンジョンで新人狩りが発生しているらしい。慣れない若い冒険者をダンジョン内で襲って、装備品などを奪う事件だ。中には新人を抜け出したくらいの冒険者が犠牲になった例もあるようで、その犯人探しが行われているらしかった。
「そして犯人は、盗賊ギルドの人間だとわかるような痕跡を残しているらしくて……」
「へぇ。盗賊ギルドには心当たりがないと?」
「はい。気づかれにくいようにはされていますが、こちら側からするとわざとらしく見えるので。それに盗賊ギルド側としては新人狩りをするメリットもありませんし」
盗賊ギルドメンバーによる囮作戦なども行われているようだが、さっぱり引っかかってくれる様子もないようだ。
確かに、駆け出し冒険者の身ぐるみ剥いだところでそんなにお金になるとも思えない。日ごろから食うのに困ってる盗賊ギルド員が駆け出し冒険者に手を出すというのも、徹底されたギルドのルールからしても考えられないとのことだ。
「なるほどねぇ……」
腕を組んで考え込んでいると、隣から「ふふっ」と莉緒の笑い声が聞こえてきたかと思えば。
「なんだかダンジョンに行きたそうな顔してるわよ」
内に秘めていた願望がバレて一瞬言葉が出なくなったが、別に隠したいわけじゃないし行きたいのは事実だ。
「どんなところかは気になるけどね」
しかしなんともばつが悪くて頬を掻いて視線を彷徨わせる。
「別にいいんじゃない? それに私たちの見た目だと新人に見えるだろうし」
「……そこだけは実に遺憾なことだけど」
「……なんて凶悪な新人だよ」
俺たちがしみじみしていると、後ろからぼそりと呟く声が聞こえてきた。が、きっぱりと無視するとドロシーへと顔を向ける。
「というわけでそっちは俺たちが引き受けよう。楓さんの捜索に力を貸してくれ」
「えと、いや、いいんですか?」
「ああ。他の場所に配った魔道具の改造が終わってからだから、明日か明後日以降からになるけど」
「えっ?」
「じゃあそういうことでよろしく」
「あ、そうそう。これ楓さん捜索用の資金ね」
ポカンとするドロシーを置いて、ジャラリと音のする革袋をテーブルへと積んでいく。メサリアさんからあらかじめギルドの規模を聞いていたので、それに相当する金額だ。
「楓さんに繋がるヒントでも見つかったらボーナスも出るから、がんばって」
有無を言わせぬように席を立つと、冒険者ギルドの会議室からフェアリィバレイまで次元の穴を開き、さっさとお暇することにした。
どれだけ俺たちが怪しく見えるのかを並べ立てていたドロシーに、どうやって信じてもらおうか考えていたところ、黙って後ろで立っていたエルが言葉を発した。
「ご主人……さま?」
急に割って入られたドロシーが俺たちの後ろに視線をやるが、俺たちも一緒になって後ろを振り向く。
「いきなりご主人様ってなんだよ」
「そうよ、ちょっと気持ち悪いじゃない」
「……あたしがリオの奴隷だって話をしようと思って出てきただけなのに、ひどい言いぐさだね」
ドロシーに何か言ってくれそうな気配はわかったけど、それよりも慣れない呼ばれ方をされたことの違和感が勝ってしまった。
「あのエルヴィリノスを、奴隷ですって……?」
話を途中でぶった切ってしまった形になったと思ったけど、ドロシーには何かが伝わったようで何よりだ。にしても「あの」ってなんなんだろうな。二十年前に暗殺ギルドに世話になってたときに何かやらかしたのか。
「シュウ様。冒険者証をお見せしていただければと」
「そういえばそうだな」
メサリアさんの言葉に、改めて俺たちがどこに来たのかを思い出す。冒険者ギルドに来たんだからして、冒険者証は信用に値するだろう。
Sランクの証であるミスリルのプレートを取り出してテーブルに置くと、息を呑む音が聞こえてきた。
「ふ、二人とも……」
そういえばステータスだけならSランク相当なエルもそれなりに有名なのかもしれないな。スキルが見えるようになってから見てないから、あとで見ておくか。
「前のギルドマスターが手も足も出なかったほどなので、気を付けてくださいね」
「門番から緊急連絡が入っていたけど……、あなたたちのことだったのね……」
「そういうわけで、魔道具を改造するので持ってきてもらえますか」
「すぐ持ってきます!」
冒険者証を出してからは効果てきめんだった。
即座に席を立つと慌てて部屋を出て行き、しばらくしてすぐに帰ってきた。「どうぞ」とスマホを差し出すが、椅子に座らずに直立不動のままだ。
いちいち相手にするのも面倒なので、そのまま受け取るとスマホに改造を施す。もう何度もしてきたので慣れたものだ。数分で終わらせるとドロシーへと返した。
「これで改造した全てのスマホとつながるようになったはず」
「え、全部……?」
「なので何かあったらすぐに連絡をください」
「わ、わかりました」
「じゃあ他所のギルドにも連携よろしく」
「あ、ちょっと待ってください!」
これで話は終わりだとばかりに席を立とうとしたところ、ドロシーに呼び止められた。視線で続きを促すと、恐る恐る口を開いた。
「カエデさんを探す任務が最優先なのはわかりました。ですが、こちらも人数をかけている優先任務がひとつありまして……」
聞くところによると、少し前からダンジョンで新人狩りが発生しているらしい。慣れない若い冒険者をダンジョン内で襲って、装備品などを奪う事件だ。中には新人を抜け出したくらいの冒険者が犠牲になった例もあるようで、その犯人探しが行われているらしかった。
「そして犯人は、盗賊ギルドの人間だとわかるような痕跡を残しているらしくて……」
「へぇ。盗賊ギルドには心当たりがないと?」
「はい。気づかれにくいようにはされていますが、こちら側からするとわざとらしく見えるので。それに盗賊ギルド側としては新人狩りをするメリットもありませんし」
盗賊ギルドメンバーによる囮作戦なども行われているようだが、さっぱり引っかかってくれる様子もないようだ。
確かに、駆け出し冒険者の身ぐるみ剥いだところでそんなにお金になるとも思えない。日ごろから食うのに困ってる盗賊ギルド員が駆け出し冒険者に手を出すというのも、徹底されたギルドのルールからしても考えられないとのことだ。
「なるほどねぇ……」
腕を組んで考え込んでいると、隣から「ふふっ」と莉緒の笑い声が聞こえてきたかと思えば。
「なんだかダンジョンに行きたそうな顔してるわよ」
内に秘めていた願望がバレて一瞬言葉が出なくなったが、別に隠したいわけじゃないし行きたいのは事実だ。
「どんなところかは気になるけどね」
しかしなんともばつが悪くて頬を掻いて視線を彷徨わせる。
「別にいいんじゃない? それに私たちの見た目だと新人に見えるだろうし」
「……そこだけは実に遺憾なことだけど」
「……なんて凶悪な新人だよ」
俺たちがしみじみしていると、後ろからぼそりと呟く声が聞こえてきた。が、きっぱりと無視するとドロシーへと顔を向ける。
「というわけでそっちは俺たちが引き受けよう。楓さんの捜索に力を貸してくれ」
「えと、いや、いいんですか?」
「ああ。他の場所に配った魔道具の改造が終わってからだから、明日か明後日以降からになるけど」
「えっ?」
「じゃあそういうことでよろしく」
「あ、そうそう。これ楓さん捜索用の資金ね」
ポカンとするドロシーを置いて、ジャラリと音のする革袋をテーブルへと積んでいく。メサリアさんからあらかじめギルドの規模を聞いていたので、それに相当する金額だ。
「楓さんに繋がるヒントでも見つかったらボーナスも出るから、がんばって」
有無を言わせぬように席を立つと、冒険者ギルドの会議室からフェアリィバレイまで次元の穴を開き、さっさとお暇することにした。
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