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第五部
こちらの世界にとっての異世界
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「えっ、じゃあ楓はその異世界……とやらにいるのか……?」
呆然とした表情で呟く十四郎さん。どうやって探せば、とぶつぶつ言いながら考え込んでいるが、そもそも異世界という話を疑いはしないのだろうか。
「それはわからんだろうが、一番可能性が高いのであろうな」
「あの……、自分で言うのもなんですけど、私たちの話を疑わないんですか?」
続く仁平さんの言葉に、莉緒がとうとう本人に尋ねてみた。
「ん? あぁ、この日本……というか世界にはダンジョンが存在するのでな」
「「えっ?」」
衝撃の事実が仁平さんの口から告げられた。
「んん? ……ダンジョンはどこにでもあるだろ?」
イヴァンが逆の意味で驚いているみたいだけど、ほとんど違いのない日本だったからファンタジー要素はないと思い込んでいた。
「…………ないのか?」
黙り込んで返事をしない俺たちに、イヴァンが察して呟く。
フォニアは俺たちの話に飽きたのか、椅子から降りてニルと一緒に窓から眼下を見下ろしては「おおー」とはしゃいでいる。
「シュウとリオの故郷は平和だったんだな」
ゆっくりと頷いた俺に驚いているようだ。確かに命の危険は少ない国ではあったな。
「まぁそのダンジョンではあるが、発見されたのは七年ほど前だ」
とはいえ仁平さんの話を聞けば、昔からあったわけではないらしい。一般的に発表はされていないが、ダンジョンから魔物があふれてきたことでダンジョンが確認されたとのこと。楓さんが行方不明になったのはその二年後とのことだ。当時十歳だったらしい。
それから一年ほどたった頃だろうか。
「えっ? 四本腕の二足歩行する生物がダンジョンから現れた?」
十四郎さんから聞かされた言葉をそのまま繰り返してしまった。それほど衝撃的なことだったのだ。
「そうなのだ。三メートルほどある巨人だ。腕が四本なこととその大きさを除けば、生物としては我々人間と共通部分も多かった」
「それって魔人族そっくりだな……」
真っ先に浮かんだ疑問をイヴァンが口にする。
「魔人族……というのか? その、四本腕の生物を知っているのか?」
関係ないとスルーした話がまさか関わってくる……だと? ややこしくなるからと思ってたけど、これは話をせざるを得ないな。
「ええ。異世界からこの世界に来たと先ほど話しましたが、その前に一度魔人族の世界を経由しているんです」
「仁平さんが言っていた通り、四本の腕を持つ三メートルくらいの巨人がいる世界だったわね」
「な、なんと……。もしかすればその魔人族? なのかもしれんな」
とにかくその魔人族がダンジョンから現れた結果、街が襲われて大きな被害を受けたらしい。何かしらの言語を使用する形跡はあったとのことだが、襲い掛かってくる相手に対話を持ちかけることなどできずに抗戦するしかなかったとか。なんとか押し返すことができたのが今から二年ほど前らしかった。
「このあたりは比較的安全だったが、戦場になった都市はまだ爪痕が残ったままなのだ。何度か報復作戦は行われたみたいだがの」
沈痛な面持ちで言葉にする仁平さん。戦場を直接目撃でもしたんだろうか。
それにしても魔人族か……。俺たちは言葉がわかったけど、奴らが言ってた地底人ってなんなんだろうな。
窓の外を見ればそこには晴れ渡った空が広がっている。太陽も傾いていて幾分暗くなってきているが、どう考えても地底とは思えない。
「ひとまず、ダンジョンという未知のものが現れたので、『異世界』と言われても嘘だと突っぱねる理由がないわけだ」
「なるほど」
「それにイヴァンくんやフォニアくんのような獣人という証拠も目の前にあるからなぁ……」
確かにそうかもしれない。獣人はやっぱりこの世界にもいないんだろう。
なんにしろ信じてくれるならそれはそれで手っ取り早くていい。
「さておき、今は娘の楓の話に戻そうか」
ノートパソコンのキーボードを叩きながら十四郎さんが促す。そして当時、楓さんがいなくなったときの状況を話してくれた。
といってもそれほどわかっていることは少ない。小学四年生だった楓さんが遊びに行ったっきり帰ってこなかったそうな。一緒に遊んでいた友達が言うには、眩しくぴかっと光ったら目の前からいなくなったと。
「……召喚っぽい気もするけど、どうだろうなぁ」
「うーん、さすがにそれだけじゃわからないわねぇ」
「それで、柊くんと莉緒くん。君たちはその異世界からこちらにやってきたという話だったかな」
仁平さんが居住まいを正すと、再確認をするように尋ねてきた。
なんとなく何を言おうとしているのかわかるけど、最後まで話は聞こうか。
「はい、そうですね。何者かに邪魔をされてこの世界に来てしまいましたけど、今思えばそんなに悪いことでもなかったかなと」
何せ食べたかったものがまた食べられたのだ。女神はぶっ飛ばしてやりたい相手なのに変わりはないが、ちょっとくらいは手加減してやってもいいかもしれない。
「それは、もしかすると、好きなように行き来ができる……ということなのだろうか?」
「はい。できると思います」
邪魔をされたおかげで元の世界に帰ることには成功していないが、帰ること自体は問題なくできると思っている。
「やはりそうか……。そんな柊くんと莉緒くんを見込んでお願いしたいことがあるんだが、どうだろうか」
呆然とした表情で呟く十四郎さん。どうやって探せば、とぶつぶつ言いながら考え込んでいるが、そもそも異世界という話を疑いはしないのだろうか。
「それはわからんだろうが、一番可能性が高いのであろうな」
「あの……、自分で言うのもなんですけど、私たちの話を疑わないんですか?」
続く仁平さんの言葉に、莉緒がとうとう本人に尋ねてみた。
「ん? あぁ、この日本……というか世界にはダンジョンが存在するのでな」
「「えっ?」」
衝撃の事実が仁平さんの口から告げられた。
「んん? ……ダンジョンはどこにでもあるだろ?」
イヴァンが逆の意味で驚いているみたいだけど、ほとんど違いのない日本だったからファンタジー要素はないと思い込んでいた。
「…………ないのか?」
黙り込んで返事をしない俺たちに、イヴァンが察して呟く。
フォニアは俺たちの話に飽きたのか、椅子から降りてニルと一緒に窓から眼下を見下ろしては「おおー」とはしゃいでいる。
「シュウとリオの故郷は平和だったんだな」
ゆっくりと頷いた俺に驚いているようだ。確かに命の危険は少ない国ではあったな。
「まぁそのダンジョンではあるが、発見されたのは七年ほど前だ」
とはいえ仁平さんの話を聞けば、昔からあったわけではないらしい。一般的に発表はされていないが、ダンジョンから魔物があふれてきたことでダンジョンが確認されたとのこと。楓さんが行方不明になったのはその二年後とのことだ。当時十歳だったらしい。
それから一年ほどたった頃だろうか。
「えっ? 四本腕の二足歩行する生物がダンジョンから現れた?」
十四郎さんから聞かされた言葉をそのまま繰り返してしまった。それほど衝撃的なことだったのだ。
「そうなのだ。三メートルほどある巨人だ。腕が四本なこととその大きさを除けば、生物としては我々人間と共通部分も多かった」
「それって魔人族そっくりだな……」
真っ先に浮かんだ疑問をイヴァンが口にする。
「魔人族……というのか? その、四本腕の生物を知っているのか?」
関係ないとスルーした話がまさか関わってくる……だと? ややこしくなるからと思ってたけど、これは話をせざるを得ないな。
「ええ。異世界からこの世界に来たと先ほど話しましたが、その前に一度魔人族の世界を経由しているんです」
「仁平さんが言っていた通り、四本の腕を持つ三メートルくらいの巨人がいる世界だったわね」
「な、なんと……。もしかすればその魔人族? なのかもしれんな」
とにかくその魔人族がダンジョンから現れた結果、街が襲われて大きな被害を受けたらしい。何かしらの言語を使用する形跡はあったとのことだが、襲い掛かってくる相手に対話を持ちかけることなどできずに抗戦するしかなかったとか。なんとか押し返すことができたのが今から二年ほど前らしかった。
「このあたりは比較的安全だったが、戦場になった都市はまだ爪痕が残ったままなのだ。何度か報復作戦は行われたみたいだがの」
沈痛な面持ちで言葉にする仁平さん。戦場を直接目撃でもしたんだろうか。
それにしても魔人族か……。俺たちは言葉がわかったけど、奴らが言ってた地底人ってなんなんだろうな。
窓の外を見ればそこには晴れ渡った空が広がっている。太陽も傾いていて幾分暗くなってきているが、どう考えても地底とは思えない。
「ひとまず、ダンジョンという未知のものが現れたので、『異世界』と言われても嘘だと突っぱねる理由がないわけだ」
「なるほど」
「それにイヴァンくんやフォニアくんのような獣人という証拠も目の前にあるからなぁ……」
確かにそうかもしれない。獣人はやっぱりこの世界にもいないんだろう。
なんにしろ信じてくれるならそれはそれで手っ取り早くていい。
「さておき、今は娘の楓の話に戻そうか」
ノートパソコンのキーボードを叩きながら十四郎さんが促す。そして当時、楓さんがいなくなったときの状況を話してくれた。
といってもそれほどわかっていることは少ない。小学四年生だった楓さんが遊びに行ったっきり帰ってこなかったそうな。一緒に遊んでいた友達が言うには、眩しくぴかっと光ったら目の前からいなくなったと。
「……召喚っぽい気もするけど、どうだろうなぁ」
「うーん、さすがにそれだけじゃわからないわねぇ」
「それで、柊くんと莉緒くん。君たちはその異世界からこちらにやってきたという話だったかな」
仁平さんが居住まいを正すと、再確認をするように尋ねてきた。
なんとなく何を言おうとしているのかわかるけど、最後まで話は聞こうか。
「はい、そうですね。何者かに邪魔をされてこの世界に来てしまいましたけど、今思えばそんなに悪いことでもなかったかなと」
何せ食べたかったものがまた食べられたのだ。女神はぶっ飛ばしてやりたい相手なのに変わりはないが、ちょっとくらいは手加減してやってもいいかもしれない。
「それは、もしかすると、好きなように行き来ができる……ということなのだろうか?」
「はい。できると思います」
邪魔をされたおかげで元の世界に帰ることには成功していないが、帰ること自体は問題なくできると思っている。
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