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第五部
忘れ去られたニル
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「いやいや、自信満々でこの店に入ったよな?」
呆れた顔でイヴァンに言われてしまった。
「なにも買えないの?」
フォニアがフルーツいっぱいのケーキを手に悲しそうにしている。
「いやすまん。まったく意識してなかったけど、よく考えたら当たり前だよな……」
「初めて召喚されたときは手荷物も持ってなかったし」
「はは、まぁ持ってたとしても、ここで使えるかどうかはわからんけどな」
似ているところばっかりな世界だけど、だからと言って同じとは言い切れない。
「じゃあどうするんだよ」
悲しそうに上目遣いをするフォニアを見てるとどうにかしてあげたくなってくる。かと言って持ってないものを出すことはできないのだ。
両腕を組んで悩みながらもふとレジへと目を向けると、客の一人がちょうど会計をしているところだった。
「――398円になります」
お金の単位は一緒なんだなと眺めていると、客がポケットからスマホを取り出してレジへと触れていた。
チャリーンという音と共に、店員がありがとうございましたと声を掛けると商品を袋に詰めて渡している。
「……スマホで買える?」
ポツリと呟いた莉緒の言葉に、異空間ボックスの肥やしになっているものを思い出す。
スマホには電子マネーとかあったな。うん、それは俺も知ってるけど……。いやいや、いくらなんでもそんな都合のいい話があるわけないじゃない?
「ハハハ」
乾いた笑みを漏らしつつもスマホを取り出してみる。
「えっ?」
「あっ」
気づいたイヴァンとフォニアもそろって声を上げるが、試してみるだけならタダなんだよなぁ。
相変わらずロックの解除はできないが、電源だけは入るスマホを改めて眺めてみる。
「試してみましょうよ」
インスタントのカップ味噌汁を握り締める莉緒もぐいぐい迫ってくる。どんだけ味噌汁飲みたいんだと思ったけど、俺もおにぎり食べたい。何をなりふり構う必要があるのか。おにぎりのためならそれくらい試してみればいいじゃないか。
「よし、モノは試しだ」
「そうこなくちゃ」
「やった!」
「えーっと、使えなかった時を考えて、一人一つだけな」
「えー」
俺の言葉に不満の声を上げた莉緒が、左手に持っていた醤油のボトルを棚に戻しに行く。大量の商品をレジまで持っていけば、ダメだった場合に全部元の場所に戻さないといけなくなる。そのあと結局何も買わずにコンビニを出るとか、さすがにちょっといたたまれない気持ちになる。
「よし、じゃあみんな欲しいもの一つ持ったな。会計するぞ」
ツナマヨおにぎりを片手に持ちレジへと向かう。莉緒はカップのインスタント味噌汁、フォニアはフルーツいっぱいのケーキだ。イヴァンはパックに入っているおつまみチャーシューだった。
バーコードが読み取られて値段が加算されるたびに、イヴァンが物珍しそうにレジの向こう側を覗き込んでいる。
「合計で728円になります」
店員さんの言葉に無言でスマホを出すと、さっきの客がスマホを触れさせていたところに当てる。
さて……、これで本当に買い物ができるのだろうか。いやできない可能性の方が高いんだけど、どうしても期待してしまう。これで物が買えればおにぎりが食えるんだ。可能性は無限大に広がるじゃないか。実際には誰がお金を払うことになるんだとかそんなことは今はどうでもいい。ただ目の前にあるおにぎりを食えるかどうかがかかっているのだ。
「頼むぞ……!」
祈りを込めて声に出したら店員さんがドン引きしていた。
とはいえ仕事をしてもらわねば困る。気を取り直した店員さんが、最後のレジのキーを叩くと。
――チャリーン。
効果音と共に俺たち四人全員の視線がスマホへと向かう。通知画面には『決済完了』と表示されていた。
「え、マジで?」
「うそっ」
莉緒と二人で驚いていると、店員さんが商品を袋に詰めてイヴァンに渡していた。こちらの感慨などおかまいなしに自らの仕事を全うしていく。
「ありがとうございましたー」
棒読みなセリフに半ば反射でレジの前から退くと、そのままコンビニ内のイートインエリアへと向かう。
「ほれ、無事買えたみたいだな」
「くだものいっぱいデザート!」
イヴァンがテーブルの上に袋を広げると、フォニアが嬉しそうにケーキを取り出した。
「こ……、米、ごはん!」
「うふふ、久しぶりのお味噌汁」
もちろん俺たちも久々に見る故郷の料理に感動が抑えられない。なぜこのスマホで買い物できたのかとかの考察は後だ。今はそれよりも大事なことがある。
震える手で袋からおにぎりを取り出すと、空に向かって神様に感謝をささげる。莉緒も袋からインスタント味噌汁を取り出すと、プラスチックの蓋を開けて中を覗き込んでいた。
「……これどうやって開けるんだ?」
イヴァンはおつまみチャーシューのパックの開け方がわからないらしい。糊付けされてる蓋代わりのフィルムを剥がすだけなんだけどね。
ふと気配を感じて外へと視線を向ける。
「わふ……」
そこには耳と尻尾をへにゃりとさせ、もの悲しそうな表情のニルがガラスの向こう側からこっちを凝視している姿があった。
呆れた顔でイヴァンに言われてしまった。
「なにも買えないの?」
フォニアがフルーツいっぱいのケーキを手に悲しそうにしている。
「いやすまん。まったく意識してなかったけど、よく考えたら当たり前だよな……」
「初めて召喚されたときは手荷物も持ってなかったし」
「はは、まぁ持ってたとしても、ここで使えるかどうかはわからんけどな」
似ているところばっかりな世界だけど、だからと言って同じとは言い切れない。
「じゃあどうするんだよ」
悲しそうに上目遣いをするフォニアを見てるとどうにかしてあげたくなってくる。かと言って持ってないものを出すことはできないのだ。
両腕を組んで悩みながらもふとレジへと目を向けると、客の一人がちょうど会計をしているところだった。
「――398円になります」
お金の単位は一緒なんだなと眺めていると、客がポケットからスマホを取り出してレジへと触れていた。
チャリーンという音と共に、店員がありがとうございましたと声を掛けると商品を袋に詰めて渡している。
「……スマホで買える?」
ポツリと呟いた莉緒の言葉に、異空間ボックスの肥やしになっているものを思い出す。
スマホには電子マネーとかあったな。うん、それは俺も知ってるけど……。いやいや、いくらなんでもそんな都合のいい話があるわけないじゃない?
「ハハハ」
乾いた笑みを漏らしつつもスマホを取り出してみる。
「えっ?」
「あっ」
気づいたイヴァンとフォニアもそろって声を上げるが、試してみるだけならタダなんだよなぁ。
相変わらずロックの解除はできないが、電源だけは入るスマホを改めて眺めてみる。
「試してみましょうよ」
インスタントのカップ味噌汁を握り締める莉緒もぐいぐい迫ってくる。どんだけ味噌汁飲みたいんだと思ったけど、俺もおにぎり食べたい。何をなりふり構う必要があるのか。おにぎりのためならそれくらい試してみればいいじゃないか。
「よし、モノは試しだ」
「そうこなくちゃ」
「やった!」
「えーっと、使えなかった時を考えて、一人一つだけな」
「えー」
俺の言葉に不満の声を上げた莉緒が、左手に持っていた醤油のボトルを棚に戻しに行く。大量の商品をレジまで持っていけば、ダメだった場合に全部元の場所に戻さないといけなくなる。そのあと結局何も買わずにコンビニを出るとか、さすがにちょっといたたまれない気持ちになる。
「よし、じゃあみんな欲しいもの一つ持ったな。会計するぞ」
ツナマヨおにぎりを片手に持ちレジへと向かう。莉緒はカップのインスタント味噌汁、フォニアはフルーツいっぱいのケーキだ。イヴァンはパックに入っているおつまみチャーシューだった。
バーコードが読み取られて値段が加算されるたびに、イヴァンが物珍しそうにレジの向こう側を覗き込んでいる。
「合計で728円になります」
店員さんの言葉に無言でスマホを出すと、さっきの客がスマホを触れさせていたところに当てる。
さて……、これで本当に買い物ができるのだろうか。いやできない可能性の方が高いんだけど、どうしても期待してしまう。これで物が買えればおにぎりが食えるんだ。可能性は無限大に広がるじゃないか。実際には誰がお金を払うことになるんだとかそんなことは今はどうでもいい。ただ目の前にあるおにぎりを食えるかどうかがかかっているのだ。
「頼むぞ……!」
祈りを込めて声に出したら店員さんがドン引きしていた。
とはいえ仕事をしてもらわねば困る。気を取り直した店員さんが、最後のレジのキーを叩くと。
――チャリーン。
効果音と共に俺たち四人全員の視線がスマホへと向かう。通知画面には『決済完了』と表示されていた。
「え、マジで?」
「うそっ」
莉緒と二人で驚いていると、店員さんが商品を袋に詰めてイヴァンに渡していた。こちらの感慨などおかまいなしに自らの仕事を全うしていく。
「ありがとうございましたー」
棒読みなセリフに半ば反射でレジの前から退くと、そのままコンビニ内のイートインエリアへと向かう。
「ほれ、無事買えたみたいだな」
「くだものいっぱいデザート!」
イヴァンがテーブルの上に袋を広げると、フォニアが嬉しそうにケーキを取り出した。
「こ……、米、ごはん!」
「うふふ、久しぶりのお味噌汁」
もちろん俺たちも久々に見る故郷の料理に感動が抑えられない。なぜこのスマホで買い物できたのかとかの考察は後だ。今はそれよりも大事なことがある。
震える手で袋からおにぎりを取り出すと、空に向かって神様に感謝をささげる。莉緒も袋からインスタント味噌汁を取り出すと、プラスチックの蓋を開けて中を覗き込んでいた。
「……これどうやって開けるんだ?」
イヴァンはおつまみチャーシューのパックの開け方がわからないらしい。糊付けされてる蓋代わりのフィルムを剥がすだけなんだけどね。
ふと気配を感じて外へと視線を向ける。
「わふ……」
そこには耳と尻尾をへにゃりとさせ、もの悲しそうな表情のニルがガラスの向こう側からこっちを凝視している姿があった。
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