成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa

文字の大きさ
上 下
260 / 421
第五部

違和感

しおりを挟む
「シュウ! おい! 聞いてるのか!?」

 気が付けばイヴァンに肩を揺さぶられていたらしい。

「お姉ちゃん行っちゃったよ……?」

 丘の下へと目を向ければ、莉緒の姿はすでに見えなくなっている。

「あ、あぁ……」

 次元を渡るスキルと聞かされた時、もしかしたらという思いはあった。ただ、魂のコピーと、元の世界ではもう一人の自分が普通に生活してるという話を神様から聞いたせいか、地球の日本に帰るという選択肢は自分の中に最初からなかったんだと思う。
 そもそも帰る手段なんて最初からないんだからと、莉緒にはこの話はしていなかったんだけど……。

「追いかけなくていいのかよ」

 イヴァンの言葉にハッとする。
 そういえばそうだ。なんで魂がコピーされたのが俺だけだって決めつけてたんだ? 俺だけ召喚が遅れたからか? そんなの、なんの根拠にもなってないじゃないか!
 莉緒だって魂のコピーがされて、元の世界で普通に自分が生活している可能性があるのだ。そんな状態でもし自分とかち合ったら――

「莉緒!」

 いてもたってもいられなくなった俺は、イヴァンに返事もせずに全力で駆けだしていた。後ろからイヴァンの呼び止める声がするが、それもあっという間に聞こえなくなる。獣道は通らずに、ところどころに生える木々の間を直線で飛ぶように進んでいく。
 次第にアスファルトで舗装された道路に出るが、蛇行した道なりには進まずにまっすぐショートカットだ。

 しばらくして、信号機のある交差点の手前に立ち尽くす莉緒を発見した。
 すぐそばに着地して声を掛けようとするが、斜め上を見上げて動かない莉緒が気になって視線を辿る。
 そこにあったのは、交差点によくある経路案内の看板だ。青い背景に白い文字で行き先が日本語で書いてあるんだが……。

 ――すごく違和感がある。

「ねぇ、柊……」

 ちょっとしたもやもやを感じていると、ふと莉緒からか細い声が聞こえた。

「どうした?」

 看板から目を離すことなく、莉緒が言葉を続ける。

「ここって本当に……、私たちのいた日本なのかしら……?」

「えっ?」

 莉緒が思う疑問は、俺が感じている違和感と同じなのかもしれない。

「だってほら、普通国道は三角で、県道は六角形じゃない?」

 指さす青い看板を見ると、ひし形のマークの中に数字が書かれていた。地名についてはローカルすぎるのか、記憶にあるものはない。

「あぁ……、そういうことか。なんか違和感あると思ったけど……」

「ふふ、気づいてなかったのね」

 寂しそうに笑った莉緒がようやくこちらへと振り向く。ゆっくりと近づいてくると手を伸ばし、俺の服の裾をぎゅっと掴んで顔を伏せた。

「この世界に、お母さんとお父さんはいないのかな……」

 涙声になる莉緒をそっと抱き寄せつつも、俺は何も言葉を発せないでいた。ここにはいなくても、次元魔法で元の世界に行ける可能性はゼロではない。だけど俺や莉緒の魂が消えてしまう可能性がゼロと言い切れないうちは、慰めの言葉すら出てこなかった。

 どれだけそうしていただろうか。
 道路を車も数台通過していったような気がする。

「おーい!」

 イヴァンとフォニアがニルに乗って、空からやってきた。
 道路のど真ん中に着地すると、路肩にいた俺たちのところへとやってくる。とはいえサイズのデカいニルは、体が車道にはみ出しまくりだ。

「二人ともいきなり走り出すとかどうしたんだよ」

「置いて行っちゃや!」

「わふぅ……」

 困惑顔のイヴァンに頬を膨らませるフォニアと、寂しそうにするニルである。

「あはは、ごめんね」

「すまん……。ちょっとこの世界が、もともと俺たちがいたところと似てたから」

「え、マジで?」

 俺の告白に驚くイヴァンだったが、とりあえず通行の邪魔になるのでニルには小さくなってもらう。幸いにも空を飛んでるところやデカい姿は一般人には目撃されてない……と思う。
 それを言ってしまえばイヴァンとフォニアの頭の上に付いてる耳もそうなんだけど……、まぁ細かいことはいいか。

「ここが……、シュウとリオの故郷……?」

 キョロキョロと辺りを見回すイヴァン。パッと見た限りでは周囲に住宅はなく、二車線の十字路だ。上から見た景色を思い出せばもうちょっと山を下りれば住宅街になり、その奥が確かオフィス街になっていたと思う。

「っておい! なんかこっちくるぞ!」

 どう説明したものかと考えていると、急にイヴァンが焦りだした。視線を向けると車がこっちに向かってきているところだった。

「ぷっ、あはは!」

「な、なんだよ! おい、攻撃されたらどうすんだ!?」

 イヴァンの焦りように思わず莉緒が噴き出した。イヴァンと一緒になって慌てていたフォニアも、莉緒の様子を見て大丈夫と思ったのかちょっと落ち着いたようだ。

「あれは車だよ。この世界にあるありふれた乗り物だな。ちょっと危ないからこの線の外に避けて」

 みんなを白線の外側に追いやると、車は何事もなかったように通り過ぎていく。

「それに、まだここが俺たちの故郷かどうか決まったわけじゃない」

「……そうね。微妙に違うところもあるし、ちゃんと確認しないとね」

 俺の言葉に莉緒もしっかりと顔を上げて決意を新たにする。

「だな。戻るのはここが故郷なのかどうか、調べてからでも遅くない」

 こうして住宅街へと続く道路に沿って、俺たちは足を進めることにした。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...