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閑話(第四部)
閑話 ロナール
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「あ、ロナールさん、サブマスターが呼んでましたよ」
「あん? サブマスターが?」
珍しいじゃねぇの。直々に呼び出しがかかるとか何か月ぶりだろね?
「ええ。盗賊ギルドのシャウトが任務失敗したそうで」
「なんだ、死んだのか?」
「いえ、生きてはいますが……」
「……どういうことだ?」
口に入れた串肉をエールで流し込むと、隣のカウンター席に座った女に目を向ける。ここは渓谷街フェアリィバレイの冒険者ギルドに隣接されている大衆食堂だ。
「子どもの尾行もできないのかと盗賊ギルドマスターからお叱りを受けて反省中です」
「ああ……」
あっちのギルマスはスパルタだからなぁ。まあがんばってくれ。しかし子どもか。
「それなら仕方がない。まあ呼び出しは了解だ。食い終わったらサブマスんとこ行ってくるわ」
「はい、お願いします」
用件だけ告げると伝令の女は周囲の客に気配を悟らせることなく店を出て行った。食堂に来たんだから何か食っていけばいいのに、ご苦労なことだ。
宿からギルドへと向かった標的を時間差で追いかける。サブマスのメサリアから聞いた話だと、あれから宿に籠って何かを作っていたらしいがようやくといったところか。しかもSランクの冒険者って話だし、盗賊ギルドの手に負えないはずだ。
ギルドには入らずに気配を消すとしばらく待つ。
「さて……、どこ行くんだろうな?」
ギルドから出てきた標的の後をつけると山頂方面へと向かうようだ。さすがSランク様だな。難易度の高いところだが俺だって今日は様子見だ。後ろの警戒もせずに呑気に坂を上っていく標的を追いかける。
角を曲がって姿が見えなくなるが、坂道を登っていく気配は相変わらずだ。気づいてなさそうなのでこっちも曲がり角手前までは行くことにする。
とその時――
「っ!?」
唐突に角から顔を出した男と目が合った。その瞬間に冷や汗が全身からぶわっとあふれ出す。もう一人の気配もこっちに戻ってくる様子を察知したときには、俺は全力でその場から駆け出していた。
「やばいやばいやばい……!」
なんなんだよアレは!? まったく素振りなかっただろ! 気づかれてるなんてこれっぽっちもわからなかったぞ! 一瞬もそんな気配を見せないなんてできんのかよ!?
これでも尾行はかなり自信があったが一気に鼻をへし折られた気分だわ!
「ふーーー」
街まで全力で戻ってきたところで一息つく。安全圏に来たからか、ちょっと冷静になってきた。
「あれだけ自然すぎると逆に偶然なんじゃねぇかって思ってくるな……」
本当は俺に気付いてなかったんじゃなかろうか。たまたま振り返ったら俺がいたってだけで。いくらSランクだからって……、いやSランクだからこそ何も感じていなくても周囲に気を配る可能性はあるよな。
「クソッ」
どっちにしても一回失敗したくらいでサブマスに失敗報告はしたくない。Aランク冒険者の尾行は何度かやったことがあるんだ。一ランク上がったくらいでこうもあっさり見つかるわけもない。
万が一の可能性を考えて油断はしないが、あともう一回。今度は本気出していく。
「――それで、失敗したわけね」
「……ああ。ありゃ無理だわ」
サブマスのため息とともに俺は大きく肩をすくめる。
油断なく本気で気配を抑えて山頂まで行ったんだ。なのに視界に入る場所に出た瞬間、こっち向いて笑顔で手を振ってきやがった。隙どころか山頂で何やってるのかさえ探ることができなかったのだ。
「そこまでの相手なのね……」
俺の報告にサブマスは考え込むように顎に手を当ててブツブツ呟いている。
「ギルドマスターにも声を掛けてお願いするしかないかしらね……。さすがに宿で無防備なところを狙えば……」
ギルマスねぇ……。それでなんとかなればいいが。
「悪いが俺はパスさせてもらうぜ」
「そうね。わかったわ。あとはこっちでやっておくから」
サブマスからそう声を掛けられた俺は、もう用はないとばかりに妖精の宿から抜け出した。
「はー、今日も安い酒でも飲みに行きますかね……」
それだけ呟くと足取り軽く、いつもの大衆食堂へと歩みを向けた。
ギルマスが死んだという話を聞いたのは、それからしばらくした後だった。
「あん? サブマスターが?」
珍しいじゃねぇの。直々に呼び出しがかかるとか何か月ぶりだろね?
「ええ。盗賊ギルドのシャウトが任務失敗したそうで」
「なんだ、死んだのか?」
「いえ、生きてはいますが……」
「……どういうことだ?」
口に入れた串肉をエールで流し込むと、隣のカウンター席に座った女に目を向ける。ここは渓谷街フェアリィバレイの冒険者ギルドに隣接されている大衆食堂だ。
「子どもの尾行もできないのかと盗賊ギルドマスターからお叱りを受けて反省中です」
「ああ……」
あっちのギルマスはスパルタだからなぁ。まあがんばってくれ。しかし子どもか。
「それなら仕方がない。まあ呼び出しは了解だ。食い終わったらサブマスんとこ行ってくるわ」
「はい、お願いします」
用件だけ告げると伝令の女は周囲の客に気配を悟らせることなく店を出て行った。食堂に来たんだから何か食っていけばいいのに、ご苦労なことだ。
宿からギルドへと向かった標的を時間差で追いかける。サブマスのメサリアから聞いた話だと、あれから宿に籠って何かを作っていたらしいがようやくといったところか。しかもSランクの冒険者って話だし、盗賊ギルドの手に負えないはずだ。
ギルドには入らずに気配を消すとしばらく待つ。
「さて……、どこ行くんだろうな?」
ギルドから出てきた標的の後をつけると山頂方面へと向かうようだ。さすがSランク様だな。難易度の高いところだが俺だって今日は様子見だ。後ろの警戒もせずに呑気に坂を上っていく標的を追いかける。
角を曲がって姿が見えなくなるが、坂道を登っていく気配は相変わらずだ。気づいてなさそうなのでこっちも曲がり角手前までは行くことにする。
とその時――
「っ!?」
唐突に角から顔を出した男と目が合った。その瞬間に冷や汗が全身からぶわっとあふれ出す。もう一人の気配もこっちに戻ってくる様子を察知したときには、俺は全力でその場から駆け出していた。
「やばいやばいやばい……!」
なんなんだよアレは!? まったく素振りなかっただろ! 気づかれてるなんてこれっぽっちもわからなかったぞ! 一瞬もそんな気配を見せないなんてできんのかよ!?
これでも尾行はかなり自信があったが一気に鼻をへし折られた気分だわ!
「ふーーー」
街まで全力で戻ってきたところで一息つく。安全圏に来たからか、ちょっと冷静になってきた。
「あれだけ自然すぎると逆に偶然なんじゃねぇかって思ってくるな……」
本当は俺に気付いてなかったんじゃなかろうか。たまたま振り返ったら俺がいたってだけで。いくらSランクだからって……、いやSランクだからこそ何も感じていなくても周囲に気を配る可能性はあるよな。
「クソッ」
どっちにしても一回失敗したくらいでサブマスに失敗報告はしたくない。Aランク冒険者の尾行は何度かやったことがあるんだ。一ランク上がったくらいでこうもあっさり見つかるわけもない。
万が一の可能性を考えて油断はしないが、あともう一回。今度は本気出していく。
「――それで、失敗したわけね」
「……ああ。ありゃ無理だわ」
サブマスのため息とともに俺は大きく肩をすくめる。
油断なく本気で気配を抑えて山頂まで行ったんだ。なのに視界に入る場所に出た瞬間、こっち向いて笑顔で手を振ってきやがった。隙どころか山頂で何やってるのかさえ探ることができなかったのだ。
「そこまでの相手なのね……」
俺の報告にサブマスは考え込むように顎に手を当ててブツブツ呟いている。
「ギルドマスターにも声を掛けてお願いするしかないかしらね……。さすがに宿で無防備なところを狙えば……」
ギルマスねぇ……。それでなんとかなればいいが。
「悪いが俺はパスさせてもらうぜ」
「そうね。わかったわ。あとはこっちでやっておくから」
サブマスからそう声を掛けられた俺は、もう用はないとばかりに妖精の宿から抜け出した。
「はー、今日も安い酒でも飲みに行きますかね……」
それだけ呟くと足取り軽く、いつもの大衆食堂へと歩みを向けた。
ギルマスが死んだという話を聞いたのは、それからしばらくした後だった。
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