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第四部
エピローグ
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「行ってしまわれるのですね」
宿のフロントでメサリアさんに鍵を返却したときに声を掛けられた。
「そうだな。この街でやることも全部やったし」
あれから一週間ほどたっている。親方に注文していたオリハルコン製の刀も受け取り、ついでに付与も施してある。他に依頼している海皇亀の甲羅の加工はさっぱり進んでないみたいだ。気長に取り掛かってくれるようにお願いしてるし、もし進展があれば『妖精の宿』へ伝言をお願いしている。
「それにしても、このような魔道具を作ってしまわれるとは……」
メサリアさんが恐る恐る取り出したのは、俺が作った遠距離通信を可能にする魔道具だ。オリハルコンとミスリル銀に、魔晶石を材料に作られている。見た目はスマホと同じ形状をしている。最初はうまくいかなかったんだけど、なぜか形をスマホと同じにするとすんなりと付与に成功したのだ。
「支部がいくつあるか知らないけど、主要なところに配ってくれればいいよ」
「畏まりました。……これが広がれば情報戦が根本から覆りますよ」
百キロメートルくらいは通信が可能なことは確認ができている。が、それ以上は試していない。旅をしながらメサリアさんとどこまで遠距離で通話ができるか実験だ。
「どこまで届くか限界は不明だし、まだわからないだろ」
「ですが……、いえ、畏まりました。他の主要支部にも配るように手配いたします」
何かを言いかけたようだが踏みとどまる。
これで米と醤油と味噌の調査が始まると思えば自重はしない。むしろ全力でやる。
「今思えば、刺激的で楽しかったわ」
莉緒がこの街を振り返ってそう口にする。攫われもしたけどいい思い出? になってるようだ。
「お風呂、とってもきもちよかったの!」
フロントのカウンター下から精一杯背伸びをしてフォニアが顔を出している。鼻から上しか出ていない頭を撫でると尻尾がゆらゆらと揺れる。
「うふふ、ごめんなさいね。結局部屋の露天風呂の修理が間に合わなくて」
「ううん、大きいお風呂にみんなで入れたから大丈夫だよ!」
「いろいろあったけど、世話になった」
イヴァンはアダマンタイト製の槍を抱えて満足そうだ。
「わふわふ!」
ニルも満足したっぽいことを言いたいようだが、もちろん他の人には伝わらない。
「きもちよかったからまた来るって言ってるよ」
とフォニアが通訳していた。
「ええ、またいらしてくださいね。いつでもお待ちしておりますので」
宿の執務室の一角を、何かあってもテレポートできるように座標を記憶してある。今のところ近距離転移しかできないけど念のためだ。
「近くを通れば間違いなく寄るわね。私たち温泉は好きだから」
「あとは米と醤油と味噌が手に入ったらすぐに連絡してくれ。真っ先に駆け付ける」
「ははっ、最近そればっかりだな」
イヴァンが呆れているがこればっかりはしょうがない。焼きおにぎりとか食べたいし、味噌汁が飲みたいのだ。ワカメは手持ちにあるし、味噌さえ手に入れば……。あ、豆腐がねぇな……。
「エルも行くのね」
「そりゃ、あたしはリオの奴隷で侍女だからね」
見送りに来たライラさんの言葉に、エルヴィリノスが肩をすくめている。そういえば隷属の首輪したままだったな。まだ莉緒に魅了耐性はついてないと思うから、もうしばらくは付き合ってもらう必要はあるけど。
ちなみに隷属耐性はまだついていない。手持ちの隷属の首輪は全部締めた状態のものしかないので、莉緒に異空間ボックス経由で嵌めてもらうしかない。魔力が多いと隷属の効果も高いみたいで、莉緒に嵌められると生半可な隷属耐性じゃ意味がないんだよね。
「それじゃ行ってくる」
「「いってらっしゃいませ」」
二人に見送られて宿を出る。
空を見上げると谷間に青空が見える。朝の早い時間帯ではあるが、この街に陽が射すのは昼間の短い時間帯だけだ。
「ようやく本来の目的の『山の幸』ってやつを探しに行けるな」
イヴァンがぼやくように呟いているが、完全に忘れてた。山の幸を探しに山岳地帯に来て、温泉に寄り道したんだったな。
「……でも山の幸と温泉だったら、温泉の方が優先度高かったわよね?」
莉緒が頬に手を当てて首を傾げている。
「それは間違いないな。フェアリィバレイに来たのは決して寄り道じゃなかった」
キリッとした表情で断言すると、イヴァンが苦笑いを浮かべる。
「ははっ、まぁいいけどな。とりあえず来た道を戻って山を登るんだろ?」
「そうなるな。山岳を抜けた先にある森林地帯に行ってみよう」
バルミーさんに聞いた話だと、盆地になっている森林地帯は山の幸が豊富だそうな。ワサビとかあればいいなぁ。刺身はあるから醤油と合わせて見つかれば完璧だ。
「美味しいものたべる!」
「わふわふ!」
フォニアとニルは早くもご飯のことで頭がいっぱいになっているようだ。しばらく野営が続くから山の幸を食べられるのはまだ先になるけどね。
「はは、あんたたちと一緒なら退屈はしなさそうだな」
エルヴィリノスも晴れやかな笑顔で旅を楽しみにしているようだ。
こうして俺たちはまだ見ぬ食材を求めて北に進路を向けて歩き出した。
宿のフロントでメサリアさんに鍵を返却したときに声を掛けられた。
「そうだな。この街でやることも全部やったし」
あれから一週間ほどたっている。親方に注文していたオリハルコン製の刀も受け取り、ついでに付与も施してある。他に依頼している海皇亀の甲羅の加工はさっぱり進んでないみたいだ。気長に取り掛かってくれるようにお願いしてるし、もし進展があれば『妖精の宿』へ伝言をお願いしている。
「それにしても、このような魔道具を作ってしまわれるとは……」
メサリアさんが恐る恐る取り出したのは、俺が作った遠距離通信を可能にする魔道具だ。オリハルコンとミスリル銀に、魔晶石を材料に作られている。見た目はスマホと同じ形状をしている。最初はうまくいかなかったんだけど、なぜか形をスマホと同じにするとすんなりと付与に成功したのだ。
「支部がいくつあるか知らないけど、主要なところに配ってくれればいいよ」
「畏まりました。……これが広がれば情報戦が根本から覆りますよ」
百キロメートルくらいは通信が可能なことは確認ができている。が、それ以上は試していない。旅をしながらメサリアさんとどこまで遠距離で通話ができるか実験だ。
「どこまで届くか限界は不明だし、まだわからないだろ」
「ですが……、いえ、畏まりました。他の主要支部にも配るように手配いたします」
何かを言いかけたようだが踏みとどまる。
これで米と醤油と味噌の調査が始まると思えば自重はしない。むしろ全力でやる。
「今思えば、刺激的で楽しかったわ」
莉緒がこの街を振り返ってそう口にする。攫われもしたけどいい思い出? になってるようだ。
「お風呂、とってもきもちよかったの!」
フロントのカウンター下から精一杯背伸びをしてフォニアが顔を出している。鼻から上しか出ていない頭を撫でると尻尾がゆらゆらと揺れる。
「うふふ、ごめんなさいね。結局部屋の露天風呂の修理が間に合わなくて」
「ううん、大きいお風呂にみんなで入れたから大丈夫だよ!」
「いろいろあったけど、世話になった」
イヴァンはアダマンタイト製の槍を抱えて満足そうだ。
「わふわふ!」
ニルも満足したっぽいことを言いたいようだが、もちろん他の人には伝わらない。
「きもちよかったからまた来るって言ってるよ」
とフォニアが通訳していた。
「ええ、またいらしてくださいね。いつでもお待ちしておりますので」
宿の執務室の一角を、何かあってもテレポートできるように座標を記憶してある。今のところ近距離転移しかできないけど念のためだ。
「近くを通れば間違いなく寄るわね。私たち温泉は好きだから」
「あとは米と醤油と味噌が手に入ったらすぐに連絡してくれ。真っ先に駆け付ける」
「ははっ、最近そればっかりだな」
イヴァンが呆れているがこればっかりはしょうがない。焼きおにぎりとか食べたいし、味噌汁が飲みたいのだ。ワカメは手持ちにあるし、味噌さえ手に入れば……。あ、豆腐がねぇな……。
「エルも行くのね」
「そりゃ、あたしはリオの奴隷で侍女だからね」
見送りに来たライラさんの言葉に、エルヴィリノスが肩をすくめている。そういえば隷属の首輪したままだったな。まだ莉緒に魅了耐性はついてないと思うから、もうしばらくは付き合ってもらう必要はあるけど。
ちなみに隷属耐性はまだついていない。手持ちの隷属の首輪は全部締めた状態のものしかないので、莉緒に異空間ボックス経由で嵌めてもらうしかない。魔力が多いと隷属の効果も高いみたいで、莉緒に嵌められると生半可な隷属耐性じゃ意味がないんだよね。
「それじゃ行ってくる」
「「いってらっしゃいませ」」
二人に見送られて宿を出る。
空を見上げると谷間に青空が見える。朝の早い時間帯ではあるが、この街に陽が射すのは昼間の短い時間帯だけだ。
「ようやく本来の目的の『山の幸』ってやつを探しに行けるな」
イヴァンがぼやくように呟いているが、完全に忘れてた。山の幸を探しに山岳地帯に来て、温泉に寄り道したんだったな。
「……でも山の幸と温泉だったら、温泉の方が優先度高かったわよね?」
莉緒が頬に手を当てて首を傾げている。
「それは間違いないな。フェアリィバレイに来たのは決して寄り道じゃなかった」
キリッとした表情で断言すると、イヴァンが苦笑いを浮かべる。
「ははっ、まぁいいけどな。とりあえず来た道を戻って山を登るんだろ?」
「そうなるな。山岳を抜けた先にある森林地帯に行ってみよう」
バルミーさんに聞いた話だと、盆地になっている森林地帯は山の幸が豊富だそうな。ワサビとかあればいいなぁ。刺身はあるから醤油と合わせて見つかれば完璧だ。
「美味しいものたべる!」
「わふわふ!」
フォニアとニルは早くもご飯のことで頭がいっぱいになっているようだ。しばらく野営が続くから山の幸を食べられるのはまだ先になるけどね。
「はは、あんたたちと一緒なら退屈はしなさそうだな」
エルヴィリノスも晴れやかな笑顔で旅を楽しみにしているようだ。
こうして俺たちはまだ見ぬ食材を求めて北に進路を向けて歩き出した。
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