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第四部
新生暗殺者ギルド
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「お、お館様! なぜ頭を下げられるのですか! 無礼なのはこやつらのほうでしょう!」
「黙れ」
ポカンとしていると、エロ爺が泡を飛ばしながら抗議を始める。しかし侯爵は慌てる様子もなく一蹴すると、後ろを向いて言葉を続ける。
「一言もしゃべるなと命じていたはずだ。これ以上恥の上塗りをするのは許さんぞ」
「な、な、な、何をおっしゃいます! 礼儀も知らぬ冒険者ですぞ!?」
まぁ確かに礼儀は知らないけど。
「……ふむ。お前はこの男をただの冒険者だと思っているのか?」
「ぼ、冒険者は冒険者でしょう?」
侯爵の圧に押されて来たのか、エロ爺の勢いが徐々になくなっていく。今頃になって自分はとんでもないことをやらかしてしまったのではないかと思ってるんだろうか。もう遅い気がするけど。
「ふん。そこまで言うのであれば最後に教えてやろう」
「へっ?」
「Sランクの冒険者でこの宿のオーナーでもあり、そして最近流行っている魔法瓶の開発者というじゃないか。そしてついこの間知ったのだが、食材を冷やして保存できるようにする冷蔵庫なるものも開発したとか。是非とも我が屋敷にも欲しいものだな。ああ、リバーシやショウギでも楽しませてもらっているよ。これだけのことをこの若さでやってのけるというのが素晴らしいじゃないか! あとマヨネーズも私の大好物でね――」
なんというか侯爵の語りが止まらない。そして侯爵が俺たちを褒める言葉が出るたびにエロ爺の顔色が悪くなっていく。
ついでに俺の口からも乾いた笑いが漏れ出てそうだ。
「――というわけだ。わかったか?」
じろりとエロ爺を睨みつけると有無を言わせぬ圧力をかける。
「はひ……」
この世の終わりという表情になっているエロ爺は、もはや呼吸ができているのかも怪しい状態になっている。
「わかったら部屋から出て行きなさい。お前はもうクビなので戻って来なくてよろしい。どこへとも好きなところに行くがよい」
「――お、おや、がだ、ざま!?」
まっすぐに扉を指差すと顎をしゃくってさっさと出て行けと促す。
「も゛、もうじわげありばぜん! おやがだざま――ぶべらっ!?」
すがりつくように迫ってきたエロ爺を、こらえきれなくなったのか侯爵が殴り飛ばす。綺麗に吹っ飛んだエロ爺が絨毯ふかふかの床へと、音もなく倒れ込んだ。
この場にイヴァンがいたら絶対に吹き出してるところだ。いなくてよかった。にしてもすげぇ豪快な侯爵だな。
「ライデル、こやつを宿の外に放り出してこい」
侯爵の言葉に俺たちへ視線を向ける護衛のライデルさん。よく知らない冒険者と一緒にいる護衛対象を放置して離れるのは抵抗があるんだろうな。
「ふっ。どうせお前一人ではあの二人には勝てまい。気にせず行くがよい」
「……はっ」
それだけ言うとエロ爺を担いで部屋を出て行った。
「申し訳ない。見苦しいものを見せてしまった」
「あ、いえ、お気になさらず」
なんとなく茶番に見えなくもない。俺たちのことを詳しく知らされていないままエロ爺を同席させたっぽく見えるし、そうなれば俺たちに文句を言っても仕方がない。かつ侯爵もエロ爺を辞めさせたいと最初から思ってたんであれば、俺たちが体よく利用された形になる。
まぁでも、エロ爺が目の前でクビになるのはちょっとスカッとしたけど。
「それでどうだろうか。冷蔵庫を我が侯爵家に優先的に売ってもらえないだろうか」
「はぁ、それくらいであればかまわないですよ。ラシアーユ商会にはそう伝えておきましょう」
とはいえわざわざ俺たちを通さなくても、侯爵から商会に直接売ってくれといえばそこそこ優先的に手に入りそうな気もする。俺たちと顔をつないでおくというのが今回の目的なのかもな。
その後いくつか当たり障りのない話をして、デルフィリウス侯爵との面会は終わった。
「はぁ……、なんか疲れたな……」
「私は話すことはなかったけど、なんだかね……」
宿の自分の部屋へと戻ってくると、ソファに深く腰を掛ける。
「ははっ、お疲れだったな。まぁお茶でも飲んで一服するといい」
エルヴィリノスがお茶を淹れて茶菓子を用意してくれる。
「あ、ああ。ありがと」
なんか脳筋らしいエルヴィリノスにお茶を淹れてもらうとか違和感が強すぎる。しかもそこそこ美味しいし。
「そこまで気になるなら、新生した『ヒノマル』に調査してもらったらどうだ?」
「いやでも隣の国だろ?」
ヒノマルとは、新生した暗殺者ギルドの名前だ。ギルドの種類としても、暗殺ではなく情報ギルドを名乗るようにお願いしている。ギルドマスターや半数以上の幹部がいなくなった今、以前と同じ活動はできなくなっている。今まで名前もなかったので、この際だからと名前を付けた。
今後は殺しは請け負わず、もともと諜報は得意だという話なので情報収集を主な仕事とすることにしたのだ。まぁざっくりと決めてあとはメサリアさんに全部丸投げなんだけどね。
「ん? 国境なんてあんまり関係ないぞ。情報伝達に時間はかかるけど、下部組織は大きい街にはだいたいあるだろうし」
「は?」
「なんならアークライト王国の現状も調べさせればいい」
「……何気にすごいわね」
降りかかってきた火の粉を払っただけだったけど、今更ながらえらいことになってる気がするぞ。どこまで根を張ってるんだ……。この調子だと俺たちが王国に召喚された勇者だってこともバレてそうだな。まぁいいけど。
「じゃあいっそのこといろいろ調査をお願いするか」
「黙れ」
ポカンとしていると、エロ爺が泡を飛ばしながら抗議を始める。しかし侯爵は慌てる様子もなく一蹴すると、後ろを向いて言葉を続ける。
「一言もしゃべるなと命じていたはずだ。これ以上恥の上塗りをするのは許さんぞ」
「な、な、な、何をおっしゃいます! 礼儀も知らぬ冒険者ですぞ!?」
まぁ確かに礼儀は知らないけど。
「……ふむ。お前はこの男をただの冒険者だと思っているのか?」
「ぼ、冒険者は冒険者でしょう?」
侯爵の圧に押されて来たのか、エロ爺の勢いが徐々になくなっていく。今頃になって自分はとんでもないことをやらかしてしまったのではないかと思ってるんだろうか。もう遅い気がするけど。
「ふん。そこまで言うのであれば最後に教えてやろう」
「へっ?」
「Sランクの冒険者でこの宿のオーナーでもあり、そして最近流行っている魔法瓶の開発者というじゃないか。そしてついこの間知ったのだが、食材を冷やして保存できるようにする冷蔵庫なるものも開発したとか。是非とも我が屋敷にも欲しいものだな。ああ、リバーシやショウギでも楽しませてもらっているよ。これだけのことをこの若さでやってのけるというのが素晴らしいじゃないか! あとマヨネーズも私の大好物でね――」
なんというか侯爵の語りが止まらない。そして侯爵が俺たちを褒める言葉が出るたびにエロ爺の顔色が悪くなっていく。
ついでに俺の口からも乾いた笑いが漏れ出てそうだ。
「――というわけだ。わかったか?」
じろりとエロ爺を睨みつけると有無を言わせぬ圧力をかける。
「はひ……」
この世の終わりという表情になっているエロ爺は、もはや呼吸ができているのかも怪しい状態になっている。
「わかったら部屋から出て行きなさい。お前はもうクビなので戻って来なくてよろしい。どこへとも好きなところに行くがよい」
「――お、おや、がだ、ざま!?」
まっすぐに扉を指差すと顎をしゃくってさっさと出て行けと促す。
「も゛、もうじわげありばぜん! おやがだざま――ぶべらっ!?」
すがりつくように迫ってきたエロ爺を、こらえきれなくなったのか侯爵が殴り飛ばす。綺麗に吹っ飛んだエロ爺が絨毯ふかふかの床へと、音もなく倒れ込んだ。
この場にイヴァンがいたら絶対に吹き出してるところだ。いなくてよかった。にしてもすげぇ豪快な侯爵だな。
「ライデル、こやつを宿の外に放り出してこい」
侯爵の言葉に俺たちへ視線を向ける護衛のライデルさん。よく知らない冒険者と一緒にいる護衛対象を放置して離れるのは抵抗があるんだろうな。
「ふっ。どうせお前一人ではあの二人には勝てまい。気にせず行くがよい」
「……はっ」
それだけ言うとエロ爺を担いで部屋を出て行った。
「申し訳ない。見苦しいものを見せてしまった」
「あ、いえ、お気になさらず」
なんとなく茶番に見えなくもない。俺たちのことを詳しく知らされていないままエロ爺を同席させたっぽく見えるし、そうなれば俺たちに文句を言っても仕方がない。かつ侯爵もエロ爺を辞めさせたいと最初から思ってたんであれば、俺たちが体よく利用された形になる。
まぁでも、エロ爺が目の前でクビになるのはちょっとスカッとしたけど。
「それでどうだろうか。冷蔵庫を我が侯爵家に優先的に売ってもらえないだろうか」
「はぁ、それくらいであればかまわないですよ。ラシアーユ商会にはそう伝えておきましょう」
とはいえわざわざ俺たちを通さなくても、侯爵から商会に直接売ってくれといえばそこそこ優先的に手に入りそうな気もする。俺たちと顔をつないでおくというのが今回の目的なのかもな。
その後いくつか当たり障りのない話をして、デルフィリウス侯爵との面会は終わった。
「はぁ……、なんか疲れたな……」
「私は話すことはなかったけど、なんだかね……」
宿の自分の部屋へと戻ってくると、ソファに深く腰を掛ける。
「ははっ、お疲れだったな。まぁお茶でも飲んで一服するといい」
エルヴィリノスがお茶を淹れて茶菓子を用意してくれる。
「あ、ああ。ありがと」
なんか脳筋らしいエルヴィリノスにお茶を淹れてもらうとか違和感が強すぎる。しかもそこそこ美味しいし。
「そこまで気になるなら、新生した『ヒノマル』に調査してもらったらどうだ?」
「いやでも隣の国だろ?」
ヒノマルとは、新生した暗殺者ギルドの名前だ。ギルドの種類としても、暗殺ではなく情報ギルドを名乗るようにお願いしている。ギルドマスターや半数以上の幹部がいなくなった今、以前と同じ活動はできなくなっている。今まで名前もなかったので、この際だからと名前を付けた。
今後は殺しは請け負わず、もともと諜報は得意だという話なので情報収集を主な仕事とすることにしたのだ。まぁざっくりと決めてあとはメサリアさんに全部丸投げなんだけどね。
「ん? 国境なんてあんまり関係ないぞ。情報伝達に時間はかかるけど、下部組織は大きい街にはだいたいあるだろうし」
「は?」
「なんならアークライト王国の現状も調べさせればいい」
「……何気にすごいわね」
降りかかってきた火の粉を払っただけだったけど、今更ながらえらいことになってる気がするぞ。どこまで根を張ってるんだ……。この調子だと俺たちが王国に召喚された勇者だってこともバレてそうだな。まぁいいけど。
「じゃあいっそのこといろいろ調査をお願いするか」
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