成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa

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第四部

大浴場の貸し切り

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「なんで風呂場があんな、口に出せない状態になってんの!?」

 口元を押さえながらイヴァンが風呂場から戻ってくる。

「風呂に入れなくなったってさっきも説明してただろ。聞いてなかったのか?」

「いやだって、エルヴィリノスの姐さんがさっき風呂場から出てきただろ!? 入れると思うじゃん!?」

 イヴァンは姐さん呼びなのか。

「申し訳ありません。当部屋の風呂場はこちらで片付けさせていただきます。修理も行いますが、いつ完了するかは今の状況ではなんとも……」

「あ、とりあえず拘束は解除しますね」

 念のため拘束していたけど、お風呂場はぜひ片付けていただきたい。そして露天風呂の修理も。また襲撃される可能性も考えたけど、そこまで脅威になるとも思えない。

「ありがとうございます。――ライラ」

「承知しました」

 名前を呼ばれたライラさんが音もなく部屋から去っていく。

「にしても……、飯に睡眠薬を混ぜるだけとか、敵地で寝泊まりしてたんだからもうちょっとやりようはあったんじゃないのか?」

 ふと気になったことを聞いてみる。正直睡眠薬じゃなくて致死性の毒とかのほうが、俺たちの口をふさぐには手っ取り早かったと思う。莉緒を刺した針だって、動けなくなるものじゃなくてもっと危険な手段も取れたと思うんだが。信じきっていたあのタイミングではそう躱せるものじゃない。

「いえ、それだとシュウ様に気付かれてしまうので却下しました。危険察知をお持ちであると調査結果が出ていましたので」

「そうなんだ……」

 確かに。危険察知便利だけど、大けがとか死に繋がるものじゃなければ反応してくれないんだよな。真綿で首を締めるみたいにじわじわこられて、気が付いたら手遅れになってましたとかになってたら怖いな。手遅れになる前に警告はしてくれそうだけど。

「就寝中と迷いましたが、お風呂中を選びました。枕元に武具の類は置けてもお風呂には持ち込まないのと、裸の状態で襲撃を受けるという状況が勝りました。あまり効果があったようには感じられませんでしたが……」

「なるほど?」

 確かに、危険察知の反応具合を考えるとそうなってしまうのか? この際スキルの効果について聞いてみるのもありかもしれない。

「ああそうだ、ひとつ頼みがあるんだが」

「なんでしょう」

「今すぐじゃなくていいけど、大浴場を貸し切りにできないか?」

「貸し切り……ですか」

 俺の言葉に目をぱちくりと瞬きさせて言葉を繰り返すメサリアさん。

「フォニアがお風呂入る時にみんな一緒と言ってたんで、本当は俺たち全員と入りたいんじゃないかと思って」

「ふふ、お優しいんですね。畏まりました。人の少ない時間帯を見繕っておきます。では、残っている幹部にも連絡もしないといけないので、わたしもこれで失礼させていただきます」

「ああ。頼んだ」

 一礼すると静かに去っていく。
 残っている幹部ね……。
 ふと莉緒を取り返しに行ったときにぶっ飛ばした奴らを思い出す。そういえば四肢を落とされたやつもいたな。治療してもいいが、莉緒がそいつらにどういう扱いをされたかにもよるか。まぁ莉緒に任せておこう。

「結局俺だけ風呂に入れてないのかよ……」

 にしても、イヴァンにも風呂が習慣づいてきたとは。いいことだな。



「よしフォニア、みんなでお風呂に行こうか」

「えっ?」

 結局翌朝までぐっすり寝ていたフォニアに、朝ごはんを食べ終わってから誘ってみる。朝起きて全部終わった後だと聞かされたフォニアが、耳が垂れてあんまり元気そうじゃなかったこともある。メサリアさんからは、午前中であれば大浴場は使う人がほとんどいないので、貸し切りにしておきましたと連絡をもらったのだ。

「朝からおふろに行くの? でもイヴァン兄に部屋のおふろは使えなくなったって聞いたよ?」

「大丈夫。大浴場を貸し切ったから、俺たちだけだ」

「ボクたちだけ?」

「ああ、大浴場だからイヴァンも一緒だぞ」

「! 行く! おふろ行く!」

 イヴァンも一緒と聞いた瞬間に、フォニアの尻尾がゆらゆらと揺れ出す。

「入り口は別々だけどな。今日からしばらく朝風呂だ」

「よかったわね、フォニアちゃん」

「うん!」

 ちょっとは元気が出たかなと思いつつ、みんなで大浴場へと向かった。



「朝風呂もいいもんだなー」

 大浴場の露天風呂に浸かりながら大きく伸びをする。青空がいっぱいに広がっているが、これはこれでいい景色だ。
 ちょうど俺たちは、湯舟の中で男女を隔てる壁が途切れる場所に陣取っている。俺が真ん中で、左右のイヴァンと莉緒は壁を挟んでお互いが見えない位置にいる。ただフォニアはニコニコしながら俺の左側と右側を行ったり来たりしている。何かしら二人の間に挟まれていたいらしい。
 ニルはというと、いつもの定位置であるフォニアに抱えられている。

「おふろって気持ちいいね!」

「そうだなぁ。こんなに毎日入りたくなるとは思ってなかったよ」

 お湯を両手ですくって顔を洗うイヴァン。
 とそこで、内湯へとつながる扉が開閉する音が露天風呂に響き渡る。誰か入ってきたんだろうか? 貸し切りにしておいたはずなんだが。

 姿を現したのはやせ型の体型をした爺さんだ。なんとなく覚えのあるシチュエーションだな。
 服を着たままだったのでただ文句を言いに来ただけなんだろう。ご苦労なことである。

「まったく、ここの大浴場は誰でも入れるんじゃなかったのかね。貸し切りにするなんて非常識にもほどがある」

 ってかあの時のエロ爺じゃねぇか。
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