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第四部
決着
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ライラさんを治療した後、話を聞く前にイヴァンを起こすことにした。どうせ話を聞くなら全員で聞いた方が面倒がなくていい。
フォニアはまぁ、まだ小さいし詳細は知らなくていいだろう。
「フォニアは!?」
治癒魔法の解毒で睡眠薬成分を抜いたところ、イヴァンは問題なく目を覚ました。ざっと経緯を話したところ、真っ先に心配したのはフォニアのことだ。
「今は眠ってるけど、別に起こさなくていいかと思って」
「……そうだな。フォニアは知らなくてもいいと思う」
フォニアを寝室のベッドへと寝かせると、改めてメサリアさんとライラさんの二人とリビングで向かい合った。
「しかし、話を聞いても全然信じられないんだが……」
イヴァンが二人をじっくりと観察しているが、それも無理もないことだろう。何せ襲撃があった直後に空間遮断結界で守りを固めたあと、しばらく何も起こらずに緊張の切れたイヴァンは、夕飯に入っていた睡眠薬に負けて寝てしまったのだ。
起きたら何もかもが終わっていて宿の女将さんとライラさんが敵でしたと聞いても信じられるものではない。
「といっても実際に私はライラさんに刺されたので」
「いやすまん。リオたちを信じてないわけじゃないんだ」
ジト目で莉緒から視線を向けられたイヴァンが慌てて否定する。まぁ言いたいこともわからないでもない。
「さて、ひと段落付いたところで。夜も遅くなったけど、解散するわけにもいかないのでこのまま話を聞かせてもらいますよ」
ソファへと座る俺たちの前には、床に座ったまま空間遮断結界で固定された二人が無言で頷いている。
「とはいえ、何から聞いたもんか……」
顎に手を当てて考えていると、ふと庭で動き出す気配を感じる。どうやらゆっくりとこちらに近づいているようなので、姿を現すまで何を聞くか考えておこうか。
などと思ってるうちに気配の主――エルヴィリノスが風呂場から姿を現した。
「うおっ、だ、大丈夫かよあんた……」
その血にまみれた姿に、イヴァンが思わず席を立つ。
鑑定をしてみるとHPは4000ほどに回復しており、状態も一時無効の効果が切れて隷属状態に戻っている。まぁ、だからこそ逃げずにこちらに合流したのかもしれないけど。念のために莉緒とイヴァンには鑑定結果を伝えておく。
「だ、大丈夫だ……。これでも吸血鬼族なんでね……」
そういえばエルヴィリノスがどうなったかイヴァンには説明してなかったな。うん、先に隷属の効果を一時無効にする方法を聞いてみるか。
「へぇ、吸血鬼って、首を刎ねるか心臓を潰すしかしないと死なないんだ?」
莉緒が低い声で問いただすと、「ああ」とだけ肯定する答えが返ってくる。しかし胴体を切断されても一日足らずでくっつくのか。すげーな吸血鬼族。あ、でも腕はくっついてないな。くっつけずにもう片方の手で持ってきただけか。
「ちょっと、話し合いの場に来るような恰好じゃないわね」
素直に吸血鬼族について感心していると、莉緒が眉を顰めて立ち上がりエルヴィリノスへと近づいていく。
「貸しなさい」
切断された腕をひったくると、エルヴィリノスの体ともども浄化をかける。そしてライラさんのときと同様に、腕をくっつけると治癒魔法を発動させた。浄化と言っても消毒効果があるだけだ。血にまみれた姿が綺麗になるわけではない。
「………………は?」
あまりにも短時間での回復量に絶句している。その反応も慣れたのでスルーして、まずは最初の質問だ。
「さっき鑑定した時、エルヴィリノスの状態が「隷属(一時無効)」ってなってたんだが、あれはどうやったんだ?」
「へ? あ、ああ……、あれは、あれだ」
「あれは隷属を一時無効化する魔道具があるんです。エルの首輪の後ろにも装着してあるはずです。数時間しかもたないですし、首輪を外せるわけでもないので使い道は限定的ですが」
未だに混乱のおさまらないエルヴィリノスに変わり、メサリアさんが答えてくれた。
「へぇ、そんな魔道具があるんだ。……あ、これかな」
近くにいた莉緒がエルヴィリノスの後ろへと回り込むと、首輪から魔道具を取り外す。
「使い捨てで再利用はできません」
「ふーん、そうなんだ」
ある程度ひっくり返したりして観察した後、ソファへと戻ってきて俺にも渡してくれる。首輪にはめ込みやすいように「C」の文字の形をした魔道具だ。微かに闇属性の魔力が感じられるが、あとでちょっと解析してみよう。
「とりあえずあなた、お風呂場で血を落として着替えてきなさい」
莉緒が異空間ボックスから予備の服を取り出すと、エルヴィリノスの前へと放り投げる。
「あ、ああ、わかった」
素直に受け取ったエルヴィリノスは風呂場へと消えていった。
「エルヴィリノスから少し聞いてはいたが、二人とも暗殺者ギルドのメンバー……、で合ってるんだよな?」
「はい、その認識で間違いありません」
メサリアさんが畏まって答えてくれる。
「え? でも、柊がやった黒いローブ姿の男? とは敵対してなかった?」
莉緒の疑問に俺も納得する。二人は黒ローブ男と吸血鬼が属する暗殺者ギルドではなく、第三勢力に見えなくもない。しかし、黒ローブ男の大仰な身振りで注目を集めた時のあのタイミングでのライラさんの攻撃を思えば、答えは一つしかないと俺は思う。
「いえ、あれはもちろん演技です。あの男は、暗殺者ギルドのマスターでした」
「ほぅ?」
「へ?」
「ギルドマスター!?」
メサリアさんの言葉に、俺たち三人の声が重なった。
フォニアはまぁ、まだ小さいし詳細は知らなくていいだろう。
「フォニアは!?」
治癒魔法の解毒で睡眠薬成分を抜いたところ、イヴァンは問題なく目を覚ました。ざっと経緯を話したところ、真っ先に心配したのはフォニアのことだ。
「今は眠ってるけど、別に起こさなくていいかと思って」
「……そうだな。フォニアは知らなくてもいいと思う」
フォニアを寝室のベッドへと寝かせると、改めてメサリアさんとライラさんの二人とリビングで向かい合った。
「しかし、話を聞いても全然信じられないんだが……」
イヴァンが二人をじっくりと観察しているが、それも無理もないことだろう。何せ襲撃があった直後に空間遮断結界で守りを固めたあと、しばらく何も起こらずに緊張の切れたイヴァンは、夕飯に入っていた睡眠薬に負けて寝てしまったのだ。
起きたら何もかもが終わっていて宿の女将さんとライラさんが敵でしたと聞いても信じられるものではない。
「といっても実際に私はライラさんに刺されたので」
「いやすまん。リオたちを信じてないわけじゃないんだ」
ジト目で莉緒から視線を向けられたイヴァンが慌てて否定する。まぁ言いたいこともわからないでもない。
「さて、ひと段落付いたところで。夜も遅くなったけど、解散するわけにもいかないのでこのまま話を聞かせてもらいますよ」
ソファへと座る俺たちの前には、床に座ったまま空間遮断結界で固定された二人が無言で頷いている。
「とはいえ、何から聞いたもんか……」
顎に手を当てて考えていると、ふと庭で動き出す気配を感じる。どうやらゆっくりとこちらに近づいているようなので、姿を現すまで何を聞くか考えておこうか。
などと思ってるうちに気配の主――エルヴィリノスが風呂場から姿を現した。
「うおっ、だ、大丈夫かよあんた……」
その血にまみれた姿に、イヴァンが思わず席を立つ。
鑑定をしてみるとHPは4000ほどに回復しており、状態も一時無効の効果が切れて隷属状態に戻っている。まぁ、だからこそ逃げずにこちらに合流したのかもしれないけど。念のために莉緒とイヴァンには鑑定結果を伝えておく。
「だ、大丈夫だ……。これでも吸血鬼族なんでね……」
そういえばエルヴィリノスがどうなったかイヴァンには説明してなかったな。うん、先に隷属の効果を一時無効にする方法を聞いてみるか。
「へぇ、吸血鬼って、首を刎ねるか心臓を潰すしかしないと死なないんだ?」
莉緒が低い声で問いただすと、「ああ」とだけ肯定する答えが返ってくる。しかし胴体を切断されても一日足らずでくっつくのか。すげーな吸血鬼族。あ、でも腕はくっついてないな。くっつけずにもう片方の手で持ってきただけか。
「ちょっと、話し合いの場に来るような恰好じゃないわね」
素直に吸血鬼族について感心していると、莉緒が眉を顰めて立ち上がりエルヴィリノスへと近づいていく。
「貸しなさい」
切断された腕をひったくると、エルヴィリノスの体ともども浄化をかける。そしてライラさんのときと同様に、腕をくっつけると治癒魔法を発動させた。浄化と言っても消毒効果があるだけだ。血にまみれた姿が綺麗になるわけではない。
「………………は?」
あまりにも短時間での回復量に絶句している。その反応も慣れたのでスルーして、まずは最初の質問だ。
「さっき鑑定した時、エルヴィリノスの状態が「隷属(一時無効)」ってなってたんだが、あれはどうやったんだ?」
「へ? あ、ああ……、あれは、あれだ」
「あれは隷属を一時無効化する魔道具があるんです。エルの首輪の後ろにも装着してあるはずです。数時間しかもたないですし、首輪を外せるわけでもないので使い道は限定的ですが」
未だに混乱のおさまらないエルヴィリノスに変わり、メサリアさんが答えてくれた。
「へぇ、そんな魔道具があるんだ。……あ、これかな」
近くにいた莉緒がエルヴィリノスの後ろへと回り込むと、首輪から魔道具を取り外す。
「使い捨てで再利用はできません」
「ふーん、そうなんだ」
ある程度ひっくり返したりして観察した後、ソファへと戻ってきて俺にも渡してくれる。首輪にはめ込みやすいように「C」の文字の形をした魔道具だ。微かに闇属性の魔力が感じられるが、あとでちょっと解析してみよう。
「とりあえずあなた、お風呂場で血を落として着替えてきなさい」
莉緒が異空間ボックスから予備の服を取り出すと、エルヴィリノスの前へと放り投げる。
「あ、ああ、わかった」
素直に受け取ったエルヴィリノスは風呂場へと消えていった。
「エルヴィリノスから少し聞いてはいたが、二人とも暗殺者ギルドのメンバー……、で合ってるんだよな?」
「はい、その認識で間違いありません」
メサリアさんが畏まって答えてくれる。
「え? でも、柊がやった黒いローブ姿の男? とは敵対してなかった?」
莉緒の疑問に俺も納得する。二人は黒ローブ男と吸血鬼が属する暗殺者ギルドではなく、第三勢力に見えなくもない。しかし、黒ローブ男の大仰な身振りで注目を集めた時のあのタイミングでのライラさんの攻撃を思えば、答えは一つしかないと俺は思う。
「いえ、あれはもちろん演技です。あの男は、暗殺者ギルドのマスターでした」
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「へ?」
「ギルドマスター!?」
メサリアさんの言葉に、俺たち三人の声が重なった。
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