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第四部
ラスボスの登場
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「はは……」
メサリアさんが渇いた笑いを漏らすと、ふらふらと脱衣所を通り抜けて内湯へと歩いて行く。宿で一番の部屋のお風呂が完膚なきまでに破壊されているのだ。その惨状を目にするだけで眩暈がしそうになるのはわかる。
内湯には胸から刀を生やした死体がひとつ。
……あ、刀あとで回収しとかないと。
お湯は真っ赤に染まっており、湯舟の底には割れたガラスが散らばって沈んでいるのだろう。外の露天風呂の湯舟も一部壊れていて、お湯がどんどん抜けていっている。そして周囲には物言わぬ骸となった人型が八つ……。
「ん? ちょっと生き残りがいるっぽいから見てくる」
「気を付けて。私はイヴァンを見てくるわね」
「わかった」
生き残りの様子を見るべく外へと向かう。かなり気配が弱まっているようで、このまま放置しておくと死ぬかもしれない。助けてやる義理はないけど。
風呂場へ続く扉を開けると内湯へと足を踏み入れる。むわっとした血の匂いが漂ってきたので、風魔法で外へと追いやる。ついでに内湯の中の死体から刀を回収すると、そのまま生き残っている襲撃者の元へと歩いて行く。
「なんだ。吸血鬼女か」
「……ぁぐっ」
下半身と右腕が切断されているが、思ったよりも出血が少ない。改めて鑑定すると、二万ほどあったHPが十分の一ほどになっている。思ったより残ってるところを考えると、吸血鬼と言うだけあって首を刎ねるなりしない限り死ななかったりするんだろうか。とはいえ様子を見る限り致命傷な気もする。
また状態が「隷属(一時無効)」となっていて、隷属に取り消し線が入っている。なにやら隷属の首輪の効果を無効化する方法がありそうだ。
『イヴァンに怪我はないみたい。フォニアちゃんと同じく寝てるけど……』
『そうか、そりゃよかった』
襲撃者が来る前から空間遮断結界を張ってたし、イヴァンは何も被害を受けていないはずだ。莉緒の報告にひとまず安心すると、生き残りの処遇について考える。
『あとは吸血鬼女がまだ生きてた』
『へぇ。なかなかしぶといわね。胴体が真っ二つになったように見えたけど』
一瞬始末しようか考えたけど、隷属の首輪を無効化する方法はちょっと聞いておきたい気がする。真正面からやりあった場合であれば苦戦はしなさそうだし、一時無効ってことはそのうち戻るんだろう。一時無効化の方法さえわかれば、今後敵対することも――
『きた!』
頭の奥に響く警鐘が最大限に引き上げられる。
外から閃光のごとく速さで攻撃が向かってきているのが見える。
莉緒に念話で知らせつつも、反射で空間遮断結界を一つ展開するが警鐘は治まらない。一気に多重に展開し、一番外側の結界を斜めに傾けて上方へ逸らすように設置する。
なんとかギリギリ間に合ったようだ。
同時に金属を激しくこすり合わせたかのような甲高い音が響き渡る。一部の閃光は上方へ逸らせたようだが、ごく一部だけが外側の結界を破って二番目にまで到達した。
「うおー、あぶねぇな……」
「柊!」
フォニアをイヴァンの傍に置いてきたのか、音を聞いた莉緒が一人で内湯まで出てくる。
「ああ、こっちは大丈夫。……にしてもこいつら、最高級の宿を完膚なきまでにぶっ壊す気か」
「おやおや、まさか防がれるとは思いませんでしたよ」
時間差をつけた二度の襲撃を防いだ後、絶妙なタイミングで仕掛けてきた相手が露天風呂の向こう側から姿を現す。川までしか気配察知を伸ばしていなかったので気が付いていなかったところを考えると、川の向こう岸から撃ち込んできたということか。
頭から下まで黒いローブですっぽりと覆われており、その表情は伺い知ることはできない。声からは男と思われるが、ローブの上からでもわかるその細身は女と言われても違和感がなさそうだ。
「ちょっとあなた! ここを妖精の宿と知っての行動なんでしょうね!?」
莉緒と並び立つように女将のメサリアさんが出てくる。宿を破壊されちゃたまらないんだろうけど、ちょっと危ないですよ。
というかその言い方だと、妖精の宿にもなにか宿以外に役割でもあるんで?
「宿においたを働こうとする人はどなたどすかえ?」
莉緒の反対側に無表情で現れたのはライラさんだ。なんだかどす黒いオーラを纏っているように見えるけど、冷静に見えてホントはお怒りモードなのかもしれない。
今のうちに相手を鑑定しておこうか。
=====
名前 :不明
種族名:不明
職業 :不明
状態 :通常
ステータス:HP 9543
MP 104320
筋力 3544
体力 4132
俊敏 7943
器用 15432
精神力 34512
魔力 65342
運 2432
=====
不明だと?
今まで見れなかったことなんてなかったが、こういうこともあるのか……。さすがラスボスって感じの相手だな。
『名前や職業は不明だ。吸血鬼女より高ステータスの、魔法職だな。気を付けろ』
『わかった。……見えないなんてこともあるのね』
『たぶん偽装とかそういうスキルがあるんじゃないかな』
「もちろん存じ上げているとも」
ライラさんの言葉に大仰な身振りを交えて答えるローブ男。
「ここが妖精の宿というこの街一番であることと――」
両手を大きく広げて魔力を練り上げ……始めたところに、空気を読まない莉緒の重力魔法が黒ローブを捉えた。
メサリアさんが渇いた笑いを漏らすと、ふらふらと脱衣所を通り抜けて内湯へと歩いて行く。宿で一番の部屋のお風呂が完膚なきまでに破壊されているのだ。その惨状を目にするだけで眩暈がしそうになるのはわかる。
内湯には胸から刀を生やした死体がひとつ。
……あ、刀あとで回収しとかないと。
お湯は真っ赤に染まっており、湯舟の底には割れたガラスが散らばって沈んでいるのだろう。外の露天風呂の湯舟も一部壊れていて、お湯がどんどん抜けていっている。そして周囲には物言わぬ骸となった人型が八つ……。
「ん? ちょっと生き残りがいるっぽいから見てくる」
「気を付けて。私はイヴァンを見てくるわね」
「わかった」
生き残りの様子を見るべく外へと向かう。かなり気配が弱まっているようで、このまま放置しておくと死ぬかもしれない。助けてやる義理はないけど。
風呂場へ続く扉を開けると内湯へと足を踏み入れる。むわっとした血の匂いが漂ってきたので、風魔法で外へと追いやる。ついでに内湯の中の死体から刀を回収すると、そのまま生き残っている襲撃者の元へと歩いて行く。
「なんだ。吸血鬼女か」
「……ぁぐっ」
下半身と右腕が切断されているが、思ったよりも出血が少ない。改めて鑑定すると、二万ほどあったHPが十分の一ほどになっている。思ったより残ってるところを考えると、吸血鬼と言うだけあって首を刎ねるなりしない限り死ななかったりするんだろうか。とはいえ様子を見る限り致命傷な気もする。
また状態が「隷属(一時無効)」となっていて、隷属に取り消し線が入っている。なにやら隷属の首輪の効果を無効化する方法がありそうだ。
『イヴァンに怪我はないみたい。フォニアちゃんと同じく寝てるけど……』
『そうか、そりゃよかった』
襲撃者が来る前から空間遮断結界を張ってたし、イヴァンは何も被害を受けていないはずだ。莉緒の報告にひとまず安心すると、生き残りの処遇について考える。
『あとは吸血鬼女がまだ生きてた』
『へぇ。なかなかしぶといわね。胴体が真っ二つになったように見えたけど』
一瞬始末しようか考えたけど、隷属の首輪を無効化する方法はちょっと聞いておきたい気がする。真正面からやりあった場合であれば苦戦はしなさそうだし、一時無効ってことはそのうち戻るんだろう。一時無効化の方法さえわかれば、今後敵対することも――
『きた!』
頭の奥に響く警鐘が最大限に引き上げられる。
外から閃光のごとく速さで攻撃が向かってきているのが見える。
莉緒に念話で知らせつつも、反射で空間遮断結界を一つ展開するが警鐘は治まらない。一気に多重に展開し、一番外側の結界を斜めに傾けて上方へ逸らすように設置する。
なんとかギリギリ間に合ったようだ。
同時に金属を激しくこすり合わせたかのような甲高い音が響き渡る。一部の閃光は上方へ逸らせたようだが、ごく一部だけが外側の結界を破って二番目にまで到達した。
「うおー、あぶねぇな……」
「柊!」
フォニアをイヴァンの傍に置いてきたのか、音を聞いた莉緒が一人で内湯まで出てくる。
「ああ、こっちは大丈夫。……にしてもこいつら、最高級の宿を完膚なきまでにぶっ壊す気か」
「おやおや、まさか防がれるとは思いませんでしたよ」
時間差をつけた二度の襲撃を防いだ後、絶妙なタイミングで仕掛けてきた相手が露天風呂の向こう側から姿を現す。川までしか気配察知を伸ばしていなかったので気が付いていなかったところを考えると、川の向こう岸から撃ち込んできたということか。
頭から下まで黒いローブですっぽりと覆われており、その表情は伺い知ることはできない。声からは男と思われるが、ローブの上からでもわかるその細身は女と言われても違和感がなさそうだ。
「ちょっとあなた! ここを妖精の宿と知っての行動なんでしょうね!?」
莉緒と並び立つように女将のメサリアさんが出てくる。宿を破壊されちゃたまらないんだろうけど、ちょっと危ないですよ。
というかその言い方だと、妖精の宿にもなにか宿以外に役割でもあるんで?
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莉緒の反対側に無表情で現れたのはライラさんだ。なんだかどす黒いオーラを纏っているように見えるけど、冷静に見えてホントはお怒りモードなのかもしれない。
今のうちに相手を鑑定しておこうか。
=====
名前 :不明
種族名:不明
職業 :不明
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=====
不明だと?
今まで見れなかったことなんてなかったが、こういうこともあるのか……。さすがラスボスって感じの相手だな。
『名前や職業は不明だ。吸血鬼女より高ステータスの、魔法職だな。気を付けろ』
『わかった。……見えないなんてこともあるのね』
『たぶん偽装とかそういうスキルがあるんじゃないかな』
「もちろん存じ上げているとも」
ライラさんの言葉に大仰な身振りを交えて答えるローブ男。
「ここが妖精の宿というこの街一番であることと――」
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