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第四部
ギルドマスターの扱い方
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本日二度目のギルドである。
時間帯は夕方近くとなっているため、朝来た時に比べてかなり混んでいる。昨日モールボールの報告をしたばかりだからか、いつもより騒がしいと言えば騒がしい。問題ないとは伝えたものの、まだ落ち着いてはいないようだ。
「あれ? フォニアちゃん!」
買取カウンター並んでるなーと思っていると、どこからともなくフォニアを呼ぶ声が聞こえる。
「ほえ?」
反射で振り向くと、どこにでもいそうな駆け出しっぽい冒険者の男が頬を上気させて歩いてくる。よく見ればフォニアを誘拐して反撃食らった男じゃなかろうか。
「フォニアちゃ~ん! また会えてうれしいよ」
気持ち悪い笑顔を浮かべていてなんとなく近づいて欲しくない。周りの冒険者もちょっと引いている気がする。
「おじちゃん……?」
最近活躍してる危険察知は反応しないが、なんとも怪しい男だ。なんとなく鼻息が荒くなっていて危ない人っぽい。
「……ちょっとこわいから、近づかないで」
最近のフォニアに怖いものなんてないと思ってたが、こういうのはダメか。
「うちのフォニアに何か用ですか?」
フォニアの前に出るものの、こちらを認識しているようには感じられない。フォニアしか目に入ってないと言えばいいだろうか。
当の本人は近づくなという言葉にショックを受けたのか、表情が絶望に歪む。が、それもすぐに緩んでくる。
「え? あ、えっと、ちょっと、フォニアちゃんに、罵ってもらいたくて……」
男の言葉に周囲が一気にざわついていく。
「アイツってあんな奴だったのか」
「期待の新人だと思ってたが」
「フォニアちゃんに罵ってもらう……だと?」
危ない人と言うか変態だった。しかし同類が他にもいそうだな……。ちょっとこのギルドは気を付けないといけないかもしれない。
「え、おじちゃん、気持ち悪い……」
「はうっ!?」
胸を抑えて恍惚の表情で蹲る男。とりあえず気持ち悪いのでご退場願おうか。
「うおっ!?」
魔法で男を持ち上げると扉からギルドの外へと放り出す。奴も警戒すべき人物のようだ。しっかりマークしておかないと。
「フォニア、大丈夫か?」
「うん、大丈夫……」
しがみついてくるフォニアを撫でると改めて買取カウンターへと並ぶ。
「冒険者にはあんな奴もいるんだな」
イヴァンが恐ろしいものを見たかのように呟いているが、別に冒険者じゃなくてもああいう奴はいると思う。そういえばクラスメイトにもいたような気がするし。あぁ、無理に思い出すもんじゃないな。忘れよう。
「お、シュウとリオだな。査定額出てるぞ」
順番が回ってきたので栗鼠人族から報酬を受け取る。内訳としてはワイバーンが四千万フロン、キマイラが五千二百万フロンとなった。解体方法の手数料込みでこの値段だ。
「ありがとうございます」
「また素材持ってきてくれよ」
さて、これで今日やることは終わりかな。ワイバーンとキマイラも鑑定したら食えそうな部分あったし、あとでいくつか解体しておこう。
「おいおい、ようやく見つけたぜー」
宿に帰ろうとしたところで、ハゲとリザードマンの冒険者が目の前に立ち塞がる。
「よお、久しぶりだなお嬢ちゃん」
やけに親しげだがそういえば見覚えがあるな。
「あー、えっと確かハーゲンと……」
「ダッツだったか」
イヴァンの言葉を引き継ぐように名前を口に出す。
「ちげーよ。ダーツだよ。そんな間違われ方されたのは初めてだぜ」
そういえばそうだった。アイスじゃなくて的に投げる矢のほうだったか。
「ふーん、こいつらがそうなの?」
よく見ればハーゲンダーツの後ろに見覚えのない黄色い髪の女が立っている。青い筋の入った白蛇が首に巻き付いており、肩の後ろから顔を出して舌をチロチロさせていた。二人が言ってたテイマーってのが彼女っぽいな。
「ギルマスから聞いた話によればそうだな」
「ちょっくら山頂の話を聞かせてくれねぇか」
ふむ、なるほど。婆さんが出した調査依頼をこの三人が受けたってところか。
「そういうことならかまいませんよ」
「おう、助かる」
野次で群がる冒険者たちを押しのけてハーゲンとダーツがギルドの談話室へと向かう。席は埋まっていたが「誰か空けてくれや」の一言で一組の冒険者パーティがテーブルをゆずってくれた。
六人掛けのテーブルにハーゲンダーツと女が座る。こちら側は俺を真ん中に莉緒とイヴァンが席に着く。フォニアは莉緒の膝の上で、ニルは珍しくイヴァンの膝で寝ている。
「で、聞きたいことというのは?」
ほとんど婆さんに喋ったと思うんだけど、何が聞きたいんだろうな。現場にいた雰囲気とか言われても、メインは採掘と海皇亀の解体だったし。
「はっはっは、わかってるくせに何言ってんだ。全部だよ全部」
「は?」
何が聞きたいのか教えて欲しかっただけなんだが、全部だと笑い飛ばされた。さらに意味がわからずに間抜けな声をだしてしまったが、続くダーツの言葉で大いに納得だ。
「あのギルマスから詳しい話を最後まで聞いたら日が暮れちまうわな」
「「「ああ」」」
俺たち三人とも声が揃う。どうやらギルドマスターの扱い方はみんな一緒らしい。
時間帯は夕方近くとなっているため、朝来た時に比べてかなり混んでいる。昨日モールボールの報告をしたばかりだからか、いつもより騒がしいと言えば騒がしい。問題ないとは伝えたものの、まだ落ち着いてはいないようだ。
「あれ? フォニアちゃん!」
買取カウンター並んでるなーと思っていると、どこからともなくフォニアを呼ぶ声が聞こえる。
「ほえ?」
反射で振り向くと、どこにでもいそうな駆け出しっぽい冒険者の男が頬を上気させて歩いてくる。よく見ればフォニアを誘拐して反撃食らった男じゃなかろうか。
「フォニアちゃ~ん! また会えてうれしいよ」
気持ち悪い笑顔を浮かべていてなんとなく近づいて欲しくない。周りの冒険者もちょっと引いている気がする。
「おじちゃん……?」
最近活躍してる危険察知は反応しないが、なんとも怪しい男だ。なんとなく鼻息が荒くなっていて危ない人っぽい。
「……ちょっとこわいから、近づかないで」
最近のフォニアに怖いものなんてないと思ってたが、こういうのはダメか。
「うちのフォニアに何か用ですか?」
フォニアの前に出るものの、こちらを認識しているようには感じられない。フォニアしか目に入ってないと言えばいいだろうか。
当の本人は近づくなという言葉にショックを受けたのか、表情が絶望に歪む。が、それもすぐに緩んでくる。
「え? あ、えっと、ちょっと、フォニアちゃんに、罵ってもらいたくて……」
男の言葉に周囲が一気にざわついていく。
「アイツってあんな奴だったのか」
「期待の新人だと思ってたが」
「フォニアちゃんに罵ってもらう……だと?」
危ない人と言うか変態だった。しかし同類が他にもいそうだな……。ちょっとこのギルドは気を付けないといけないかもしれない。
「え、おじちゃん、気持ち悪い……」
「はうっ!?」
胸を抑えて恍惚の表情で蹲る男。とりあえず気持ち悪いのでご退場願おうか。
「うおっ!?」
魔法で男を持ち上げると扉からギルドの外へと放り出す。奴も警戒すべき人物のようだ。しっかりマークしておかないと。
「フォニア、大丈夫か?」
「うん、大丈夫……」
しがみついてくるフォニアを撫でると改めて買取カウンターへと並ぶ。
「冒険者にはあんな奴もいるんだな」
イヴァンが恐ろしいものを見たかのように呟いているが、別に冒険者じゃなくてもああいう奴はいると思う。そういえばクラスメイトにもいたような気がするし。あぁ、無理に思い出すもんじゃないな。忘れよう。
「お、シュウとリオだな。査定額出てるぞ」
順番が回ってきたので栗鼠人族から報酬を受け取る。内訳としてはワイバーンが四千万フロン、キマイラが五千二百万フロンとなった。解体方法の手数料込みでこの値段だ。
「ありがとうございます」
「また素材持ってきてくれよ」
さて、これで今日やることは終わりかな。ワイバーンとキマイラも鑑定したら食えそうな部分あったし、あとでいくつか解体しておこう。
「おいおい、ようやく見つけたぜー」
宿に帰ろうとしたところで、ハゲとリザードマンの冒険者が目の前に立ち塞がる。
「よお、久しぶりだなお嬢ちゃん」
やけに親しげだがそういえば見覚えがあるな。
「あー、えっと確かハーゲンと……」
「ダッツだったか」
イヴァンの言葉を引き継ぐように名前を口に出す。
「ちげーよ。ダーツだよ。そんな間違われ方されたのは初めてだぜ」
そういえばそうだった。アイスじゃなくて的に投げる矢のほうだったか。
「ふーん、こいつらがそうなの?」
よく見ればハーゲンダーツの後ろに見覚えのない黄色い髪の女が立っている。青い筋の入った白蛇が首に巻き付いており、肩の後ろから顔を出して舌をチロチロさせていた。二人が言ってたテイマーってのが彼女っぽいな。
「ギルマスから聞いた話によればそうだな」
「ちょっくら山頂の話を聞かせてくれねぇか」
ふむ、なるほど。婆さんが出した調査依頼をこの三人が受けたってところか。
「そういうことならかまいませんよ」
「おう、助かる」
野次で群がる冒険者たちを押しのけてハーゲンとダーツがギルドの談話室へと向かう。席は埋まっていたが「誰か空けてくれや」の一言で一組の冒険者パーティがテーブルをゆずってくれた。
六人掛けのテーブルにハーゲンダーツと女が座る。こちら側は俺を真ん中に莉緒とイヴァンが席に着く。フォニアは莉緒の膝の上で、ニルは珍しくイヴァンの膝で寝ている。
「で、聞きたいことというのは?」
ほとんど婆さんに喋ったと思うんだけど、何が聞きたいんだろうな。現場にいた雰囲気とか言われても、メインは採掘と海皇亀の解体だったし。
「はっはっは、わかってるくせに何言ってんだ。全部だよ全部」
「は?」
何が聞きたいのか教えて欲しかっただけなんだが、全部だと笑い飛ばされた。さらに意味がわからずに間抜けな声をだしてしまったが、続くダーツの言葉で大いに納得だ。
「あのギルマスから詳しい話を最後まで聞いたら日が暮れちまうわな」
「「「ああ」」」
俺たち三人とも声が揃う。どうやらギルドマスターの扱い方はみんな一緒らしい。
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