上 下
218 / 414
第四部

厄介な魔物

しおりを挟む
「ふむ。……ちなみに塞がれてるとどうなるんです?」

 絶賛塞がれているけど、それは伝えずに聞いてみる。
 ……が、聞いてからしまったと後悔する。

「やはりそこは気になるさね」

 と言うだけ言って、もう一度カップへと手を伸ばす。
 さすがに香りを楽しむことは二度やらないようである。一口紅茶を口に含んでカップをテーブルに戻した。

「噴出口を塞いで魔力をひたすら溜め込むのはいいんだが、たまに溜め込みすぎる個体がいるのさ」

 さっきほど待たされることなく説明を始める婆さん。同じくらいもったいぶるようだったら、説明を聞かずにさっさと退室するところだったぜ……。
 とはいえ、溜め込みすぎるとどうなるのか、あえて言わないということは聞いてくることを期待してるんだろうか。やっぱりもう帰ろうかな。

『溜め込みすぎると爆発とかするのかな?』

 莉緒も空気を読んだのか、婆さんの答えを予測している。

『だよなぁ。限界を超えると暴れだすとか、とにかく厄介なことになりそうってことだよな』

「わかりました。とにかく塞いでるやつがいるかどうか見て来ればいいんですね」

「あ、ああ……、それで間違いないね」

「じゃあさっそく行ってくるのでこれで失礼しますね」

 溜め込みすぎるとどうなるか聞きたいところだったが、じれったいのでこの婆さんから聞き出すのはやめにしよう。最悪、空間遮断結界で囲ってしまえば爆発しても問題にはならないだろう。

『山頂に定期的に現れるっぽい雰囲気だし、あとでギルド職員にでも聞いてみようか』

 そそくさと立ち上がると念話で他のメンバーにも伝える。さすがにギルドマスターしか知らないってことはないだろう。

「あっ、ちょっ……」

 急に立ち上がった婆さんが腰を抑える様子が見えたが、部屋を出る間際だったのでそのままスルーする。
 カウンターの表まで出てきたところでさっきの女性職員の姿が見えたので声を掛けた。

「あら、もうお話は終わったんですか?」

 早く終わったことに驚かれたが、あのギルドマスターであれば仕方がない。

「要点は聞けたので切り上げてきちゃいました」

「あー、わかります」

 ギルド内でもあの婆さんは相変わらずみたいだ。呆れた様子の女性職員にモールボールの生態を聞いて、俺たちは山頂へと向かった。



 冒険者ギルドを出て渓谷の山を半分ほど登ったころ、ギルドから後を付けてくる気配がなかなか離れないことに気が付いていた。ここまで来たらたまたま行き先が同じというわけでもない気がする。
 上り坂の曲がり角を曲がり終えた後、ちょっとだけバックして後ろを覗き込む。

「――!?」

 兎耳を生やした男と目が合った。

 =====
 名前 :ロナール
 種族名:兎人族
 職業 :ストーカー
 状態 :通常
 ステータス:HP  4897
       MP  3809
       筋力  3874
       体力  2764
       俊敏  7843
       器用  8433
       精神力 6854
       魔力  3210
       運   354
 =====

 鑑定をしてみるとそこそこやるようである。これなら山頂の依頼もこなせるんだろうか?

「誰かいたの?」

 振り返った俺の隣に莉緒もやってきた。引き返していったようだけど何しに来たんだろうな。山頂に用事がないってことは、俺たちの後を付けてたのかもしれない。

「あ、うん。もう帰ったみたいだけど、兎耳生やした人が俺たちの後ろにいたぞ」

「え、そうなんだ。全然気づかなかった」

「ふむ。ギルド出た時からずっと後ろにいたんだけどな……」

 山頂に向かう道へと進みながら莉緒と話す。
 ステータスも高かったし、莉緒が気づかないとなるとそれなりにやり手なんだろうな。それにしても最近ストーカーが多い気がするな。さっきのやつに至っては職業がまんまだったし。周りでコソコソされるとちょっとイラっとくるね……。空間魔法のマーカーは付けておいたし、次からは人ごみの中でも気づくだろう。

「わふううぅぅぅ……」

 頂上まで近づいてきたとき、なんとなく嫌そうな鳴き声が後ろから聞こえてきた。

「どうした?」

 珍しいと思いつつも振り返ると、ニルの耳が垂れさがって尻尾も下を向いている。

「くちゃい」

 フォニアも一緒になって眉を顰めている。くちゃいって、臭いってことか。

「ああ、やっぱり臭うよな……」

 嗅覚強化をすると臭ってきた。我慢はできるけど、さらに鼻のいいニルは辛そうだな。イヴァンも臭いがわかるのか渋面になっている。

「強化すれば臭ってくるわね……」

「どうする? そんなに嫌なら宿で待っててもいいぞ」

 ニルの首元をもふりながら告げると、ますます耳が垂れさがってきた。だがしかし、隣にいる狐のお子様はグッと拳を握り締めると。

「……ボクは行くよ!」

 高らかに宣言する。
 ニルが驚いたようにフォニアを見つめると、ゆっくりと耳と尻尾を立てると「わふう!」とひと鳴きする。

「えへへ、ニルには負けないよ!」

 なんだか張り合っているらしい雰囲気だな。行く気になってるならいいか。

「んじゃ行くか」

 職員から聞いたモールボールの待つ頂上へと歩を進めた。
 予想通り魔力をため込みすぎると暴走して、下手をすると破裂するとのことだ。しかもこの臭いのもとでもあるという。それが破裂した後の惨状は推して知るべし。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。

円城寺正市
ファンタジー
勇者が行方不明になって数年。 魔物が勢力圏を拡大し、滅亡の危機に瀕する国、ソルブルグ王国。 洞窟の中で目覚めた主人公は、自分が亡霊になっていることに気が付いた。 身動きもとれず、記憶も無い。 ある日、身動きできない彼の前に、ゴブリンの群れに追いかけられてエルフの少女が転がり込んできた。 亡霊を見つけたエルフの少女ミーシャは、死体に乗り移る方法を教え、身体を得た彼は、圧倒的な剣技を披露して、ゴブリンの群れを撃退した。 そして、「旅の目的は言えない」というミーシャに同行することになった亡霊は、次々に倒した敵の身体に乗り換えながら、復讐すべき相手へと辿り着く。 ※この作品は「小説家になろう」からの転載です。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...