成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa

文字の大きさ
上 下
210 / 421
第四部

名工ルシエル

しおりを挟む
名工めいこう……、ルシエル?」

 どこかで聞いたことあるようなないような……、いまいち覚えてないけど、その名工がどうしたんだろうか。師匠の名前は鑑定結果にもあるようにヴェルターだし、ルシエルという名前ではない。

「……え、ご存じないんですか? あの名工ルシエルですよ!?」

 まくしたてるように迫ってくるパウラさんに押されながらも、莉緒と顔を見合わせるがお互い首を傾げるばかりだ。

「……俺も聞いたことない」

「ボクもー」

 俺たち四人全員に否定されて一歩後ずさるパウラさん。鍛冶業界に疎い俺たちなのでそこは勘弁してください。

「と、とにかく、あの名工ルシエル作がここにあるのであれば、親方に知らせないわけにはいきません!」

 とだけ言い捨てると、足早に部屋を出て行ってしまった。

「師匠って、ルシエルって名乗ってたっけ?」

「いや聞いたことないぞ」

「でもどこかで聞いたことあるような気がするわよね……」

「……そうか?」

 確かになにか引っかかりはするんだけど、ピンとこないんだよなぁ。

「あ、思い出した」

「えっ?」

「そうよ、オークションで短剣が出品されてなかったかしら?」

 オークション? あの商都であったオークションか。奴隷の吸血鬼がインパクトあったけど、その前に短剣が出てたような気がしないでもない。

「だけど師匠の作った短剣と見間違うっていうのもなんでだろうな?」

「そうよね。オークションの時の短剣なんてじっくり見てないからなんとも言えないけど……」

 当時を思い返していると、親方を呼びに行ったパウラさんと親方本人がやってきたようだ。

「…………ッ!?」

 なんか親方が喋った気がするけどさっぱり聞こえない。

「名工ルシエルの作品を持っているというのは本当ですか? って言ってます」

 あぁ、やっぱり喋ってたんですね。というか本当に声に出してるのかな。むしろパウラさん、よく親方と意思疎通できますよね。

「いえ、持ってませんけど……」

 聴力強化しつつ返答するが、親方の視線は俺が持つ短剣へと注がれたままだ。

「…………!」

 髭もじゃの口元が動いたような気がしたけど、マジでしゃべってんのかな。

「そんなはずはないと……、その短剣を見せてもらえないかって言ってます」

 やっぱりしゃべってんのかよ。聴力強化して聞こえないんだけど、パウラさんすげーな。

「ど、どうぞ」

 ドキドキしながら師匠の短剣を差し出すと、親方がうやうやしい仕草で受け取った。鞘のついたままの短剣をめつすがめつじっくりと観察している。鞘から抜いて刀身もしばらく観察したのち、がばっと顔を上げると勢いよくこちらに詰め寄ってきた。

「…………!!!」

 やっぱり何言ってるかわからん! パウラさん通訳プリーズ!
 周囲を見回すと莉緒とイヴァンはドン引きしてるし、フォニアはニルと遊んでいていつも通りだ。

「これは名工ルシエルの作品に違いないと。どこで手に入れたんですか!?」

 パウラさんも一緒になって詰め寄ってきたけど、この狭い部屋では正直勘弁してください。

「言いますから、落ち着いてください!」

 むしろ落ち着いてくれないと何も言わないという雰囲気を出すと、さすがに空気を読んだのか一歩下がってくれた。

「えー、この短剣は、俺たちの、師匠から譲り受けたものです」

 咳ばらいを一つしてから、言葉を区切ってゆっくりと二人に告げる。

「し、師匠!? もしかして……!」

「はい。短剣を作ったのも師匠です」

「ええっ!? じゃ、じゃああなた方はもしや……、名工ルシエルの弟子ということでは……!?」

「なんでやねん!」

 おっと……、思わずツッコミが漏れてしまった。
 師匠の弟子という言葉は否定しないが、ホント名工ルシエルって誰なんだよ。

「師匠の名前はヴェルターと言います」

「「…………ッ!?」」

 名前を告げた瞬間に息を呑む二人。手元の短剣と俺に交互に視線を向けて、さらに目を見開いている。
 だから違うって言ったでしょう、と言おうと思ったんだけどなんだか様子がおかしい。短剣を持つ手をぷるぷると震わせて、親方がまた何かを告げる。聞こえないけど。

「そ……、そちらの短剣を見せていただいても?」

 俺たちが作った土製と鉄製の短剣を恐る恐る指さすパウラさん。まぁ師匠のと比べると出来は良くないけど、見せる分には抵抗はない。

「どうぞ。こっちの二本は俺が作ったものですが」

 師匠の短剣を受け取ると、代わりに自分で作った方の短剣を手渡す。相変わらず恭しく受け取る親方だが、鍛冶職人としての武器への接し方ということなんだろうか。
 短剣を鞘から抜いて「ほぅ」と感嘆のため息をついている。
 パウラさんも師匠の短剣を触りたそうにしていたので渡してあげた。

 武器防具が無造作に置かれた狭い部屋に六人と一匹がいると窮屈さを感じる。名工ルシエルじゃないと告げても雰囲気の変わらない二人が、短剣を観察するだけで時間が過ぎていく。
 やがて満足したのか、二人に短剣を返してもらったのでいったんテーブルの上へと置いておく。すると、親方が真剣な目を向けておもむろに口……の周りの髭を動かした。

「…………!」

 だから聞こえねぇって!?
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...