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第四部
鉱石集め
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翌朝、Eランクの常時依頼として出ている鉱石の採集をするため、渓谷の斜面途中にある坑道へとやってきていた。
ここは俺たちがフェアリィバレイへやってきた側の斜面とは反対側だ。谷底の川を渡り、鍛冶職人街となっている街中を抜けてここまで来た。
鉱石の採集依頼はEランクの常時依頼になっているので、イヴァンであればいつでも誰に断ることなく遂行できる。
「ここか……」
何やら深刻な表情で、イヴァンが坑道の入り口を眺めている。
特に明かりが灯されていることもないようで、入ってすぐから暗闇が続いている。その向こう側に一か所、ぼんやりとした明かりが見えるがそれだけだ。
「真っ暗じゃねぇか」
「奥に明かりが見えるし、マシなほうじゃないかな?」
「……マジかよ」
前に入ったことのある鉱山は完全に真っ暗だったし、ここはかなり親切な部類に入るかもしれない。イヴァンが鼻白んでいるけど気にしない。
「他の鉱山に比べたら多少魔力濃度が濃いらしいから、珍しい鉱石も掘れるって言ってたわね」
「ちょっと期待できそうだよな」
「しばらく籠ってもいいわよね」
「…………マジかよ」
ギルドの職員から聞いたところによると、ここの坑道は比較的ミスリルがよく産出するとのこと。奥に行けばアダマンタイトまで見つかることがあるとか。ここではタウル鋼は出ないらしいけど、アダマンタイトのほうが希少だということは職員から聞いた。
イヴァンが背筋を震わせているけどやっぱりスルーする。
「まっくらだね」
反対に興味津々と言った様子のフォニアは、早く中に入りたくてうずうずしているように見える。
「フォニアちゃんは楽しみ?」
「うん! だってこんなにまっくらなところ初めてだもん。何があるのかなぁ」
「きっと面白いものが見つかるよ」
「えへへ、そうだといいなぁ」
「………………マジかよ」
楽しみにするフォニアを見てとうとうイヴァンも観念したんだろうか。ガクリと項垂れて表情をなくしている。
「何を怖がってるのか知らないけど安心しろ。はぐれても迎えに行ってやるから」
イヴァンの腰をポンと叩いてやると、ギギギと機械音がしそうな動きでこっちに顔を向けてきた。
「……」
「というわけで行こうか!」
何かを訴えかけてきたけどスルーして出発する。俺と莉緒が魔法で明かりを生み出すと、イヴァンの表情が和らぐ。
「よかった……」
「……まさか真っ暗なまま突っ込むとか思ってたのか?」
「ああ。明かりがあって安心した」
「当たり前だ」
でも急に暗くなったり明るくなったりの訓練とかはしといたほうがいいかもしれないな。ある程度夜目も効くけど、通常は明かりを灯すのだ。他の冒険者とすれ違ったときに急な明るさで目が眩んでしまう事態は避けたいところだ。
そんなことを考えながら、小さくなったままのニルを抱えたフォニアと坑道の中へと足を踏み入れた。
「そこ、鉄鉱石」
「ほいっ」
通路の隅の何の変哲もない凸凹を指さしてイヴァンに鑑定結果を伝える。最初は戸惑っていたがすぐに慣れたようで、手渡したツルハシを振り下ろしている。
「ほえー、こうやって石を集めるの?」
「そうだよ。それで集めた石から鉄とかミスリルを抽出するの」
「そうなんだ……?」
首を傾げながら説明を聞いているけど、フォニアは理解しているかどうかはわからない。もう反対側へと首を傾げると鉄鉱石があった地面を指さす。
「じゃあこの地面から直接、みすりるのちゅう……ちゅすとかはできないの?」
「ぶふっ」
「えっ?」
「んん?」
抽出が言えてないフォニアはとても和むけど、地面から直接抽出か……。よく考えればわざわざ掘り返す必要ないかもしれないよな。
「……ちゅうちゅちゅ」
「あっはははは!」
「ふふふ」
イヴァンが大爆笑しているけど、フォニアの言いたいことも間違ってないかもしれない。多少魔力を食いそうだけど、俺たちなら力押しでなんとかなるし。
地面に手を付けると土魔法の魔力を伸ばしていく。んー、鉄成分はこれかな。土の合間を縫って引き寄せてと……。
「おお……」
ボコッと地面から鈍色の鉄が顔を出す。なんだこの楽さは。わざわざ発掘する必要ないな。
……おぉ?
ミスリル発見! ちょっと奥にあるけどいけるんじゃないかな。
なんか向こうでフォニアの「ちゅうしゅつ」発音練習が始まってるけど、こっちはこっちでがんばろう。
タウル鋼はないって話は本当みたいだな。魔力を伸ばして探ってみても反応がない。アダマンタイトはどんな反応を返すんだろうか。とりあえず変わった反応があったら抽出して引き寄せてから鑑定だな。
「柊! そろそろ行くよ!」
「お?」
気が付けば三人と一匹に囲まれている。
「発音練習終わった?」
「……なにそれ」
「そんな練習やってないぞ」
「お兄ちゃんひどい! ボクだってちゃんと『きゅうしゅつ』って言えるもん!」
全員に否定されたけど、ちゃんと言えるようになっていないところを見ると特に練習していたわけではなさそうだ。
「はは、ごめんごめん。じゃあ行こうか」
足元に転がる金属を拾うと、全員で坑道の奥へと足を進めることにした。
ここは俺たちがフェアリィバレイへやってきた側の斜面とは反対側だ。谷底の川を渡り、鍛冶職人街となっている街中を抜けてここまで来た。
鉱石の採集依頼はEランクの常時依頼になっているので、イヴァンであればいつでも誰に断ることなく遂行できる。
「ここか……」
何やら深刻な表情で、イヴァンが坑道の入り口を眺めている。
特に明かりが灯されていることもないようで、入ってすぐから暗闇が続いている。その向こう側に一か所、ぼんやりとした明かりが見えるがそれだけだ。
「真っ暗じゃねぇか」
「奥に明かりが見えるし、マシなほうじゃないかな?」
「……マジかよ」
前に入ったことのある鉱山は完全に真っ暗だったし、ここはかなり親切な部類に入るかもしれない。イヴァンが鼻白んでいるけど気にしない。
「他の鉱山に比べたら多少魔力濃度が濃いらしいから、珍しい鉱石も掘れるって言ってたわね」
「ちょっと期待できそうだよな」
「しばらく籠ってもいいわよね」
「…………マジかよ」
ギルドの職員から聞いたところによると、ここの坑道は比較的ミスリルがよく産出するとのこと。奥に行けばアダマンタイトまで見つかることがあるとか。ここではタウル鋼は出ないらしいけど、アダマンタイトのほうが希少だということは職員から聞いた。
イヴァンが背筋を震わせているけどやっぱりスルーする。
「まっくらだね」
反対に興味津々と言った様子のフォニアは、早く中に入りたくてうずうずしているように見える。
「フォニアちゃんは楽しみ?」
「うん! だってこんなにまっくらなところ初めてだもん。何があるのかなぁ」
「きっと面白いものが見つかるよ」
「えへへ、そうだといいなぁ」
「………………マジかよ」
楽しみにするフォニアを見てとうとうイヴァンも観念したんだろうか。ガクリと項垂れて表情をなくしている。
「何を怖がってるのか知らないけど安心しろ。はぐれても迎えに行ってやるから」
イヴァンの腰をポンと叩いてやると、ギギギと機械音がしそうな動きでこっちに顔を向けてきた。
「……」
「というわけで行こうか!」
何かを訴えかけてきたけどスルーして出発する。俺と莉緒が魔法で明かりを生み出すと、イヴァンの表情が和らぐ。
「よかった……」
「……まさか真っ暗なまま突っ込むとか思ってたのか?」
「ああ。明かりがあって安心した」
「当たり前だ」
でも急に暗くなったり明るくなったりの訓練とかはしといたほうがいいかもしれないな。ある程度夜目も効くけど、通常は明かりを灯すのだ。他の冒険者とすれ違ったときに急な明るさで目が眩んでしまう事態は避けたいところだ。
そんなことを考えながら、小さくなったままのニルを抱えたフォニアと坑道の中へと足を踏み入れた。
「そこ、鉄鉱石」
「ほいっ」
通路の隅の何の変哲もない凸凹を指さしてイヴァンに鑑定結果を伝える。最初は戸惑っていたがすぐに慣れたようで、手渡したツルハシを振り下ろしている。
「ほえー、こうやって石を集めるの?」
「そうだよ。それで集めた石から鉄とかミスリルを抽出するの」
「そうなんだ……?」
首を傾げながら説明を聞いているけど、フォニアは理解しているかどうかはわからない。もう反対側へと首を傾げると鉄鉱石があった地面を指さす。
「じゃあこの地面から直接、みすりるのちゅう……ちゅすとかはできないの?」
「ぶふっ」
「えっ?」
「んん?」
抽出が言えてないフォニアはとても和むけど、地面から直接抽出か……。よく考えればわざわざ掘り返す必要ないかもしれないよな。
「……ちゅうちゅちゅ」
「あっはははは!」
「ふふふ」
イヴァンが大爆笑しているけど、フォニアの言いたいことも間違ってないかもしれない。多少魔力を食いそうだけど、俺たちなら力押しでなんとかなるし。
地面に手を付けると土魔法の魔力を伸ばしていく。んー、鉄成分はこれかな。土の合間を縫って引き寄せてと……。
「おお……」
ボコッと地面から鈍色の鉄が顔を出す。なんだこの楽さは。わざわざ発掘する必要ないな。
……おぉ?
ミスリル発見! ちょっと奥にあるけどいけるんじゃないかな。
なんか向こうでフォニアの「ちゅうしゅつ」発音練習が始まってるけど、こっちはこっちでがんばろう。
タウル鋼はないって話は本当みたいだな。魔力を伸ばして探ってみても反応がない。アダマンタイトはどんな反応を返すんだろうか。とりあえず変わった反応があったら抽出して引き寄せてから鑑定だな。
「柊! そろそろ行くよ!」
「お?」
気が付けば三人と一匹に囲まれている。
「発音練習終わった?」
「……なにそれ」
「そんな練習やってないぞ」
「お兄ちゃんひどい! ボクだってちゃんと『きゅうしゅつ』って言えるもん!」
全員に否定されたけど、ちゃんと言えるようになっていないところを見ると特に練習していたわけではなさそうだ。
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足元に転がる金属を拾うと、全員で坑道の奥へと足を進めることにした。
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