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第四部
大浴場の露天風呂
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「温泉だー!」
宿に帰ってきて真っ先にやることと言えばもちろん決まっている。
部屋にも露天風呂はあるが、まずはということで宿の大浴場へとやってきた。一度街の公衆浴場にはがっかりしたことがあるけど、さすがに高級宿だと大丈夫だろう。
男湯の方へとイヴァンとニルと共に入っていくと、脱いだ服をさっさと異空間ボックスへと仕舞って浴場へと足を踏み入れる。脱衣所もちゃんとあるけど、やっぱり自分で脱いだ服は自分で持ってたほうが安心だ。
「まさかニルも入っていいって言われるとは思わなかったな」
全裸で顎に手を当ててイヴァンが呟いているけど、まったくもってその通り。風呂に入る獣人もいるので、多少獣っぽいくらいでは文句は言われない。とはいえ完全に見た目が獣で、ましてや従魔も入って大丈夫だとは思わなかった。
「当宿自慢の大浴場は誰にでも門戸を開いております。どなたでも満足していただけるようにサービスさせていただいています」
とは女将さんの言葉だ。
「さすがに広いなー」
夕飯前の時間帯だけど、ほとんど人がいない。大きい高級宿だけど、収容人数はそこまで多くないんだろうか。
まずは軽く体を洗ってから内湯に浸かる。イヴァンも野営用ハウスの風呂に何度か入っているので、慣れたものだ。ニルもせっかくの風呂ということで、盛大に泡立てて洗ってやった。
「あ゛あ゛ーーーー」
湯につかりながら声を上げると、ニルも湯舟へと足を付けて入ってきた。尻尾をぶんぶんと振ってるけど、このまま浸かるとまずいんではなかろうか。
「ニル、ちょっとストップ」
声を掛けると同時に振られていた尻尾がピタリと止まる。
「そのまま浸かるとお湯が溢れそうだから小さくなろうか」
「わふっ!」
入るなと言われたわけじゃないとわかると、嬉しそうにして尻尾を振り回す。そのまま小型犬サイズになると、自然と首から下がお湯の中となった。
「おおー、そのサイズもかわいいな」
「……やっぱり落ち着かない」
そわそわしながらイヴァンがお湯に浸かっている。
「んん? 野営用ハウスの風呂はそこそこ入ってただろ」
「いやそうじゃなくて、野営用ハウスの風呂はさすがに慣れたよ。でもこう、広い風呂ってのが慣れなくて……」
「公衆浴場も入ったことないんだ?」
「ないな」
「そうか。まぁこの機会に慣れたらいいよ」
「……慣れるといいけどな」
そう言いながらも、落ち着かせようと湯舟の淵に頭を置いて天井を見上げている。
『こっちはあんまり人いないんだけど、そっちはどうだ?』
『そうなんだ? こっちは誰もいないよ』
念話で女湯の様子を聞いてみたけどどうやら男湯と状況は同じみたいだ。
『旅館のお風呂と言えば夕飯前っていうイメージあるけど、こっちの世界だと違う――ってちょっとフォニアちゃん! 大人しくしてなさい!』
『はは、常識が違うのかもしれないけど、まぁがんばって』
大きい風呂ではしゃいでいる姿が目に浮かぶ。誰もいないみたいだし、まぁいいんじゃないかな。
「よし、じゃあ露天のほう行くか」
湯舟から出ると戸惑うイヴァンを連れて、外へと続く扉を開ける。
天井が半ばで途切れて空が見える。女湯との仕切りになっている壁はあるけど、外湯の途中で途切れているように見える。……もしや外の露天は混浴なのでは。
「マジか」
壁が途切れた露天風呂の奥にオッサンらしき先客がいるが、しきりに女湯と思われる向こう側をちらちらと覗いている。
「あれ? 向こう側とつながってる……?」
気づいたイヴァンも不思議そうにしているけど、特に困ったようには見えない。
『どうしたの?』
『え?』
『なんか、マジか、って聞こえたから』
どうやら念話でも漏れていたのか、莉緒に聞こえていたらしい。伝えるべきか迷ったけど、理由も言わずに外の露天に来るなとも言えず、混浴になっていることを正直に告げることにした。
『え、そうなんだ。私も行く行くー』
思ったより乗り気だな……。一応男湯には他にも客がいるんだけど。
『あー、その、露天の奥にオッサンが待ち構えてるから、見えないようにな』
『えー、そうなんだ……。柊と一緒にお風呂に浸かりたかったのに』
不満そうな莉緒の念話に思わず笑みが漏れる。どっちにしろイヴァンがいるから無理だろう。
「あ、ちょっと待てって!」
一人でほっこりしていたら、走り出したニルを追ってイヴァンが先にお湯に浸かっていた。後を追って、俺も仕切りの壁手前へと座り込む。
「莉緒たちも露天に来るけど、お前は向こうに行くんじゃないぞ」
「わかってるよ。でもあのオッサンはいいのか?」
「……だよなぁ」
「おお、外だ! すごい!」
仕切り壁のない向こう側で湯に浸かるオッサンを見ながら眉に皺を寄せていると、女湯のほうからフォニアの声が聞こえてきた。同時にオッサンの表情がニタリとした笑みに変わる。
アカン、これダメなやつや。
「ほら、奥に行っちゃだめよ」
続いて聞こえてくる莉緒の声に、オッサンの笑みがますます深くなる。
このままだと莉緒の裸がオッサンの目の前にさらされることになる。それだけは絶対に防がねばならない。
無言で立ち上がり、殺意を込めてオッサンを睨みつけたところでイヴァンに腕を掴まれた。
「おい、何をする気だ」
「離せ。でないとアイツを殺せない」
「いやいや待て待て! いきなり何を物騒なこと言ってんだ!」
目的を告げた瞬間、イヴァンからの激しいツッコミを受けるのだった。
宿に帰ってきて真っ先にやることと言えばもちろん決まっている。
部屋にも露天風呂はあるが、まずはということで宿の大浴場へとやってきた。一度街の公衆浴場にはがっかりしたことがあるけど、さすがに高級宿だと大丈夫だろう。
男湯の方へとイヴァンとニルと共に入っていくと、脱いだ服をさっさと異空間ボックスへと仕舞って浴場へと足を踏み入れる。脱衣所もちゃんとあるけど、やっぱり自分で脱いだ服は自分で持ってたほうが安心だ。
「まさかニルも入っていいって言われるとは思わなかったな」
全裸で顎に手を当ててイヴァンが呟いているけど、まったくもってその通り。風呂に入る獣人もいるので、多少獣っぽいくらいでは文句は言われない。とはいえ完全に見た目が獣で、ましてや従魔も入って大丈夫だとは思わなかった。
「当宿自慢の大浴場は誰にでも門戸を開いております。どなたでも満足していただけるようにサービスさせていただいています」
とは女将さんの言葉だ。
「さすがに広いなー」
夕飯前の時間帯だけど、ほとんど人がいない。大きい高級宿だけど、収容人数はそこまで多くないんだろうか。
まずは軽く体を洗ってから内湯に浸かる。イヴァンも野営用ハウスの風呂に何度か入っているので、慣れたものだ。ニルもせっかくの風呂ということで、盛大に泡立てて洗ってやった。
「あ゛あ゛ーーーー」
湯につかりながら声を上げると、ニルも湯舟へと足を付けて入ってきた。尻尾をぶんぶんと振ってるけど、このまま浸かるとまずいんではなかろうか。
「ニル、ちょっとストップ」
声を掛けると同時に振られていた尻尾がピタリと止まる。
「そのまま浸かるとお湯が溢れそうだから小さくなろうか」
「わふっ!」
入るなと言われたわけじゃないとわかると、嬉しそうにして尻尾を振り回す。そのまま小型犬サイズになると、自然と首から下がお湯の中となった。
「おおー、そのサイズもかわいいな」
「……やっぱり落ち着かない」
そわそわしながらイヴァンがお湯に浸かっている。
「んん? 野営用ハウスの風呂はそこそこ入ってただろ」
「いやそうじゃなくて、野営用ハウスの風呂はさすがに慣れたよ。でもこう、広い風呂ってのが慣れなくて……」
「公衆浴場も入ったことないんだ?」
「ないな」
「そうか。まぁこの機会に慣れたらいいよ」
「……慣れるといいけどな」
そう言いながらも、落ち着かせようと湯舟の淵に頭を置いて天井を見上げている。
『こっちはあんまり人いないんだけど、そっちはどうだ?』
『そうなんだ? こっちは誰もいないよ』
念話で女湯の様子を聞いてみたけどどうやら男湯と状況は同じみたいだ。
『旅館のお風呂と言えば夕飯前っていうイメージあるけど、こっちの世界だと違う――ってちょっとフォニアちゃん! 大人しくしてなさい!』
『はは、常識が違うのかもしれないけど、まぁがんばって』
大きい風呂ではしゃいでいる姿が目に浮かぶ。誰もいないみたいだし、まぁいいんじゃないかな。
「よし、じゃあ露天のほう行くか」
湯舟から出ると戸惑うイヴァンを連れて、外へと続く扉を開ける。
天井が半ばで途切れて空が見える。女湯との仕切りになっている壁はあるけど、外湯の途中で途切れているように見える。……もしや外の露天は混浴なのでは。
「マジか」
壁が途切れた露天風呂の奥にオッサンらしき先客がいるが、しきりに女湯と思われる向こう側をちらちらと覗いている。
「あれ? 向こう側とつながってる……?」
気づいたイヴァンも不思議そうにしているけど、特に困ったようには見えない。
『どうしたの?』
『え?』
『なんか、マジか、って聞こえたから』
どうやら念話でも漏れていたのか、莉緒に聞こえていたらしい。伝えるべきか迷ったけど、理由も言わずに外の露天に来るなとも言えず、混浴になっていることを正直に告げることにした。
『え、そうなんだ。私も行く行くー』
思ったより乗り気だな……。一応男湯には他にも客がいるんだけど。
『あー、その、露天の奥にオッサンが待ち構えてるから、見えないようにな』
『えー、そうなんだ……。柊と一緒にお風呂に浸かりたかったのに』
不満そうな莉緒の念話に思わず笑みが漏れる。どっちにしろイヴァンがいるから無理だろう。
「あ、ちょっと待てって!」
一人でほっこりしていたら、走り出したニルを追ってイヴァンが先にお湯に浸かっていた。後を追って、俺も仕切りの壁手前へと座り込む。
「莉緒たちも露天に来るけど、お前は向こうに行くんじゃないぞ」
「わかってるよ。でもあのオッサンはいいのか?」
「……だよなぁ」
「おお、外だ! すごい!」
仕切り壁のない向こう側で湯に浸かるオッサンを見ながら眉に皺を寄せていると、女湯のほうからフォニアの声が聞こえてきた。同時にオッサンの表情がニタリとした笑みに変わる。
アカン、これダメなやつや。
「ほら、奥に行っちゃだめよ」
続いて聞こえてくる莉緒の声に、オッサンの笑みがますます深くなる。
このままだと莉緒の裸がオッサンの目の前にさらされることになる。それだけは絶対に防がねばならない。
無言で立ち上がり、殺意を込めてオッサンを睨みつけたところでイヴァンに腕を掴まれた。
「おい、何をする気だ」
「離せ。でないとアイツを殺せない」
「いやいや待て待て! いきなり何を物騒なこと言ってんだ!」
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