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第四部
フェアリィバレイの冒険者ギルド
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この街に来るまでにイヴァンの冒険者ランクはEランクまで上がっていた。ギルドの依頼以上に魔物退治もしてきたので、ステータスもそこそこ上昇している。まぁこれからと言ったところだろうか。
「割と宿から近いわね」
「そうだな」
宿を出て全員で冒険者ギルドへと向かう。川沿いを下流に向かっていくとすぐだ。ちょうど両岸をつなぐ橋のそばに冒険者ギルドは建っていた。
普通の街と違って、渓谷街というここには何があるのかちょっと楽しみでもある。
ギルドの入り口は常時開けられているようで、そのまま扉をくぐって中に入る。それほど大きくないギルドではあるが、そこそこ人はいるようだ。気配察知からも強者の気配は感じられなかったので、ざっと鑑定してみる。予想通り、ステータスが五桁を超える冒険者はいない。
いつものように集まる視線をスルーして、まずは依頼ボードへと向かった。
「……あら、斜面の頂上への護衛依頼なんてあるわね」
「ホントだ。Bランクが多いけど、Aにもあるな」
「厄介な魔物でも出るのかしら」
「かもしれないな」
なかなか面白そうな依頼ではあるが、護衛か……。依頼関係なく様子見で登ってみるのもありかもしれない。
あとは谷底から続く旧街道の魔物退治か。こっちもCランクとそこそこランクの高い依頼となっている。Eランクから魔物退治に参加できるけど、この街だとEランクの魔物退治の依頼は出ていないみたいだ。
「イヴァン兄は採集依頼だね」
「はは、そうだな」
ボードに掲示されたイラストから、ランクと採集か討伐かなど大雑把な依頼の傾向はわかるようになっているのだ。まだ文字は読めないけど、なんとなく依頼ボードの見方がわかってきたフォニアが得意げに胸を張っている。
「おいおい、ガキ連れでギルドに来るたぁどういう神経してんだオイ」
ちょうどそのとき、依頼ボードの前を陣取っていた髪のない巨漢が振り返り、イヴァンとフォニアを威嚇しだした。
こういうことにならないようにニルをフォニアのそばに付けていたんだけど、どうやらそれでも声を掛けてくる人物がとうとう現れてしまったようだ。
「そうだぜ。ギルドにゃ絡んでくる怖い顔したハゲがいるんだからな。怖がらせちゃ可哀そうじゃねぇか」
もう一人は見た目が完全なトカゲな獣人だ。鑑定したらリザードマンって出た。今まで見たことないけど、人っぽい見た目以外の人物の中じゃ、これも厳つい系に入りそうだな。
「んだと! 誰がハゲだ!」
「お前だよお前」
「ぎゃっはははは!」
『口は悪そうだけど、よくよく聞いてみるとフォニアを心配してくれてるのかな?』
『そんな気がするわね』
『ちょっとイヴァンがどう対応するか見てみようか』
『ふふ、そうしましょうか』
イヴァンたちとはギルドに一緒に入りはしたが、他人を装って様子見することに決める。ニルをそばに付けていたからか、ギルドでイヴァンに絡んでくる冒険者も今までいなかったのだ。ちょうどいい機会かもしれない。
「んん? なんだって?」
ガキと聞いてイヴァンが真っ先に俺に視線を向けてくる。
……いや俺じゃねぇから。
イヴァンを睨み返すと慌ててフォニアの様子を確認しだす。
ニルがついていない俺をガキ扱いする冒険者も確かにいたけどな。でもどう考えても今の矛先はフォニアだろ。
とはいえだ。
フォニア当人はというと、絡んできたハゲの巨漢と、ハゲをからかう冒険者の二人を交互に眺めて首を傾げている。
イヴァンを守るためと言って、四本腕のごつい魔物に単身で突っ込んでいっただけのことはあるな。特に冒険者たちを怖がっている様子は見られない。
奴隷時代に虐待を受けて笑えなくなるまで精神的にやられたとは聞いたけど、尻尾が五本に増えてから心境が変わったんだろうか。なんにしろ下手に怯えるよりはよほどいい。
「おじちゃんたちは別に怖くないよ?」
コテンと首を傾げてハゲともう一人に告げると。
「「「ぶはっ!」」」
言われた当人以外の冒険者たちが一斉に噴き出した。
「あっはっはっは! ハーゲン、お前怖くねぇだってよ!」
「ダーツは元からそんな厳つい顔じゃねぇけどな!」
他の冒険者から野次が飛んでくるが、俯いて肩を震わせているだけだ。
ってかハーゲンとダーツって、もうちょっとでどこかのアイスで有名なメーカーみたいじゃねぇか……。
「ハゲのハーゲンって……」
イヴァンが別方向でツッコミたそうにしてるが、さすがに初対面では耐えてるようだ。
「ぶはははは!」
様子を見ていたら、ハーゲンが盛大に笑い出した。
「そうかそうか、わしは怖くないか! こりゃいいわい、それならギルドに来ても問題ないな!」
意外と上機嫌でフォニアの頭をわしわしと乱暴に撫でている。
「うおぉぉ、あのハーゲンを怖がらないなんて、すげーな嬢ちゃん! いやおれも平気とは確かにこりゃいいな!」
トカゲ面だとわかりにくいけど、たぶん笑ってるんだろう。
イヴァンの対応を見ようかと思ってたけど、当てが外れたみたいだ。
『なんか思ったよりフォニアがしっかりしてて驚いた』
『だよね。やっぱりフォニアちゃんの尻尾が五本あるだけはあるって感じなのかな』
『そんな気がするなぁ。多少はランクの高い依頼もありそうだし、フォニアも本格的に鍛えていってもいいかもしれないな』
「割と宿から近いわね」
「そうだな」
宿を出て全員で冒険者ギルドへと向かう。川沿いを下流に向かっていくとすぐだ。ちょうど両岸をつなぐ橋のそばに冒険者ギルドは建っていた。
普通の街と違って、渓谷街というここには何があるのかちょっと楽しみでもある。
ギルドの入り口は常時開けられているようで、そのまま扉をくぐって中に入る。それほど大きくないギルドではあるが、そこそこ人はいるようだ。気配察知からも強者の気配は感じられなかったので、ざっと鑑定してみる。予想通り、ステータスが五桁を超える冒険者はいない。
いつものように集まる視線をスルーして、まずは依頼ボードへと向かった。
「……あら、斜面の頂上への護衛依頼なんてあるわね」
「ホントだ。Bランクが多いけど、Aにもあるな」
「厄介な魔物でも出るのかしら」
「かもしれないな」
なかなか面白そうな依頼ではあるが、護衛か……。依頼関係なく様子見で登ってみるのもありかもしれない。
あとは谷底から続く旧街道の魔物退治か。こっちもCランクとそこそこランクの高い依頼となっている。Eランクから魔物退治に参加できるけど、この街だとEランクの魔物退治の依頼は出ていないみたいだ。
「イヴァン兄は採集依頼だね」
「はは、そうだな」
ボードに掲示されたイラストから、ランクと採集か討伐かなど大雑把な依頼の傾向はわかるようになっているのだ。まだ文字は読めないけど、なんとなく依頼ボードの見方がわかってきたフォニアが得意げに胸を張っている。
「おいおい、ガキ連れでギルドに来るたぁどういう神経してんだオイ」
ちょうどそのとき、依頼ボードの前を陣取っていた髪のない巨漢が振り返り、イヴァンとフォニアを威嚇しだした。
こういうことにならないようにニルをフォニアのそばに付けていたんだけど、どうやらそれでも声を掛けてくる人物がとうとう現れてしまったようだ。
「そうだぜ。ギルドにゃ絡んでくる怖い顔したハゲがいるんだからな。怖がらせちゃ可哀そうじゃねぇか」
もう一人は見た目が完全なトカゲな獣人だ。鑑定したらリザードマンって出た。今まで見たことないけど、人っぽい見た目以外の人物の中じゃ、これも厳つい系に入りそうだな。
「んだと! 誰がハゲだ!」
「お前だよお前」
「ぎゃっはははは!」
『口は悪そうだけど、よくよく聞いてみるとフォニアを心配してくれてるのかな?』
『そんな気がするわね』
『ちょっとイヴァンがどう対応するか見てみようか』
『ふふ、そうしましょうか』
イヴァンたちとはギルドに一緒に入りはしたが、他人を装って様子見することに決める。ニルをそばに付けていたからか、ギルドでイヴァンに絡んでくる冒険者も今までいなかったのだ。ちょうどいい機会かもしれない。
「んん? なんだって?」
ガキと聞いてイヴァンが真っ先に俺に視線を向けてくる。
……いや俺じゃねぇから。
イヴァンを睨み返すと慌ててフォニアの様子を確認しだす。
ニルがついていない俺をガキ扱いする冒険者も確かにいたけどな。でもどう考えても今の矛先はフォニアだろ。
とはいえだ。
フォニア当人はというと、絡んできたハゲの巨漢と、ハゲをからかう冒険者の二人を交互に眺めて首を傾げている。
イヴァンを守るためと言って、四本腕のごつい魔物に単身で突っ込んでいっただけのことはあるな。特に冒険者たちを怖がっている様子は見られない。
奴隷時代に虐待を受けて笑えなくなるまで精神的にやられたとは聞いたけど、尻尾が五本に増えてから心境が変わったんだろうか。なんにしろ下手に怯えるよりはよほどいい。
「おじちゃんたちは別に怖くないよ?」
コテンと首を傾げてハゲともう一人に告げると。
「「「ぶはっ!」」」
言われた当人以外の冒険者たちが一斉に噴き出した。
「あっはっはっは! ハーゲン、お前怖くねぇだってよ!」
「ダーツは元からそんな厳つい顔じゃねぇけどな!」
他の冒険者から野次が飛んでくるが、俯いて肩を震わせているだけだ。
ってかハーゲンとダーツって、もうちょっとでどこかのアイスで有名なメーカーみたいじゃねぇか……。
「ハゲのハーゲンって……」
イヴァンが別方向でツッコミたそうにしてるが、さすがに初対面では耐えてるようだ。
「ぶはははは!」
様子を見ていたら、ハーゲンが盛大に笑い出した。
「そうかそうか、わしは怖くないか! こりゃいいわい、それならギルドに来ても問題ないな!」
意外と上機嫌でフォニアの頭をわしわしと乱暴に撫でている。
「うおぉぉ、あのハーゲンを怖がらないなんて、すげーな嬢ちゃん! いやおれも平気とは確かにこりゃいいな!」
トカゲ面だとわかりにくいけど、たぶん笑ってるんだろう。
イヴァンの対応を見ようかと思ってたけど、当てが外れたみたいだ。
『なんか思ったよりフォニアがしっかりしてて驚いた』
『だよね。やっぱりフォニアちゃんの尻尾が五本あるだけはあるって感じなのかな』
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