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第三部
念話
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「え……、あれ……」
「どうしたの?」
「今の声ってフォニアか?」
莉緒の疑問の声に対しての返事にもなりそうな言葉をフォニアへと返す。
「「え?」」
どうやら俺にしか聞こえなかったのか、莉緒とイヴァンが顔を見合わせてフォニアへと視線を向けている。
「何か聞こえたの?」
「ああ、イヴァン兄はダメだったってフォニアの声が聞こえた」
「俺の何がダメなんだよ……」
さっきからボロクソに言われているイヴァンは、両手を床について項垂れている。
『やった……! お兄ちゃんに通じるようになってる!』
「あー、うん。ちゃんと聞こえてるよ」
なんだろなこれは。フォニアを鑑定すると確かに、状態が従属になっている。俺がテイムしたんだろうけど、イヴァンにはテイムみたいなスキルはないってことか。
『でもお姉ちゃんには聞こえないのかな』
「みたいだな」
そういえば軍港でニルを呼んだら来たし、あんな感じで呼びかければ俺もフォニアと会話ができるのかも?
「むぅ、私には聞こえないけど、柊が独り言しゃべってるだけに見えるわよ」
フォニアとの会話を考えていると、ちょっと不機嫌そうな莉緒の声が割って入ってきた。
「それはいただけないな……。この年で独り言が多いとか思われたくないぞ」
『それはそれとして、フォニア聞こえるか?』
こんな感じかなと思いながらも心の中で声をかけると、フォニアの耳と尻尾がピンと立った。
『聞こえるよ!』
嬉しそうに五本ある尻尾が揺れている。うむ、これは便利かもしれない。莉緒ともこうやって会話できればいいんだが。……はっ! もしやこれは念話というスキルなのでは? ならば莉緒とやってやれないこともないはず!
「ちょっと柊、どうしたのよ?」
莉緒とも念話でしゃべりたいと思っていた思考が現実に引き戻される。そういえば今はイヴァンの進退を聞いてるんだったっけか。
「ああ、ごめん、なんでもない。それよりもイヴァンだったな」
ようやく立ち上がったイヴァンの様子を見ると、その表情は憮然としたものに変わっている。
「いやもう、フォニアが狐の魔物だとか、予想外のことがありすぎて混乱してるけどひとつだけ言えることはある」
自分より若干背の高くなったフォニアを見つめ、イヴァンは拳を握り込む。
「フォニアはまだ子どもだから、俺がフォローしてやらないとダメだってことだ」
『イヴァン兄!』
即座にツッコミが入り、フォニアがイヴァンを威嚇する。
「な、なんだよ……!」
「はは、子ども扱いするなってことだろ」
「まぁそうなるわよね」
「痛い痛い! 噛みつくんじゃない!」
フォニアの首をタップしてギブアップを宣言しているが、解放する気はないようだ。
『ボクのほうがイヴァン兄より強くなったもん!』
子ども扱いなのは否定しないのか。そこに自覚があるなら確かにフォニアはしっかりしている方かもしれないな。ある程度イヴァンを抑え込めて満足したのか、フォニアが鼻息を荒くして尻尾を振っている。
「わかったよもう! だけど俺もついていくからな!」
うん。ぐだぐだになった感があるけど、最終的にまとまったんならそれでいい。
「じゃあみんなでギルドに行きましょうか」
「そうだな。ついでにイヴァンも冒険者登録すればいい」
『やった! みんなで行こう!』
「わふぅ!」
ニルもはしゃいでフォニアにじゃれついている。サイズ比だけでいくと、子犬が成犬にじゃれついているように見える。人型だと小学生低学年ほどなのに、獣化すると倍くらいの体高になるとか。ニルが小さくなったときも思ったけど、質量保存の法則は仕事を放棄しすぎだろう。
「じゃあギルドが混んでくる前に行こうか」
こうして俺たち三人と二匹は宿を出て、帝国の冒険者ギルドへと向かった。
宿で場所を聞いて一番近い場所にある冒険者ギルドへとやってきた。魔法陣の上に剣と盾が描かれた看板を掲げる建物は、どちらかと言えば富裕層が暮らすエリアにあり、小ぎれいな印象を受けた。
中に入ると毎度突き刺さってくる視線はスルーする。イヴァンがなんとなくビクついているのが新鮮だ。レブロスでは一階と二階で冒険者のランク分けがされていたけど、ここはどうなんだろうな。ざっと見回した感じだと初心者はいなさそうだけど。
「いらっしゃいませ。ご用件をお伺いいたします」
丁寧な口調で迎えてくれたのは、ビシッと執事服を決め込んだ女性でした。とてもカッコいいです。
「四つ要件がありまして」
「はい」
「依頼の完了報告に、この子の従魔登録と、あいつの冒険者登録と……。最後に俺と彼女の冒険者証の発行をお願いしたいです」
「……発行ですか」
四つ目の要望を伝えると、女性職員の眉がピクリと反応した。いきなり不機嫌そうになったけどなんでだ。
「まさか、無くしたから再発行というわけではないでしょうね?」
あぁ、そういうこと。
「いえ、再発行ではないです。ここで刻印してもらえると聞いたので」
Cランクの冒険者証と無刻印のツルツルしたミスリルのプレートをカウンターの上へ差し出す。同じように莉緒も冒険者証をカウンターへと乗せると、職員の表情が固まった。
「どうしたの?」
「今の声ってフォニアか?」
莉緒の疑問の声に対しての返事にもなりそうな言葉をフォニアへと返す。
「「え?」」
どうやら俺にしか聞こえなかったのか、莉緒とイヴァンが顔を見合わせてフォニアへと視線を向けている。
「何か聞こえたの?」
「ああ、イヴァン兄はダメだったってフォニアの声が聞こえた」
「俺の何がダメなんだよ……」
さっきからボロクソに言われているイヴァンは、両手を床について項垂れている。
『やった……! お兄ちゃんに通じるようになってる!』
「あー、うん。ちゃんと聞こえてるよ」
なんだろなこれは。フォニアを鑑定すると確かに、状態が従属になっている。俺がテイムしたんだろうけど、イヴァンにはテイムみたいなスキルはないってことか。
『でもお姉ちゃんには聞こえないのかな』
「みたいだな」
そういえば軍港でニルを呼んだら来たし、あんな感じで呼びかければ俺もフォニアと会話ができるのかも?
「むぅ、私には聞こえないけど、柊が独り言しゃべってるだけに見えるわよ」
フォニアとの会話を考えていると、ちょっと不機嫌そうな莉緒の声が割って入ってきた。
「それはいただけないな……。この年で独り言が多いとか思われたくないぞ」
『それはそれとして、フォニア聞こえるか?』
こんな感じかなと思いながらも心の中で声をかけると、フォニアの耳と尻尾がピンと立った。
『聞こえるよ!』
嬉しそうに五本ある尻尾が揺れている。うむ、これは便利かもしれない。莉緒ともこうやって会話できればいいんだが。……はっ! もしやこれは念話というスキルなのでは? ならば莉緒とやってやれないこともないはず!
「ちょっと柊、どうしたのよ?」
莉緒とも念話でしゃべりたいと思っていた思考が現実に引き戻される。そういえば今はイヴァンの進退を聞いてるんだったっけか。
「ああ、ごめん、なんでもない。それよりもイヴァンだったな」
ようやく立ち上がったイヴァンの様子を見ると、その表情は憮然としたものに変わっている。
「いやもう、フォニアが狐の魔物だとか、予想外のことがありすぎて混乱してるけどひとつだけ言えることはある」
自分より若干背の高くなったフォニアを見つめ、イヴァンは拳を握り込む。
「フォニアはまだ子どもだから、俺がフォローしてやらないとダメだってことだ」
『イヴァン兄!』
即座にツッコミが入り、フォニアがイヴァンを威嚇する。
「な、なんだよ……!」
「はは、子ども扱いするなってことだろ」
「まぁそうなるわよね」
「痛い痛い! 噛みつくんじゃない!」
フォニアの首をタップしてギブアップを宣言しているが、解放する気はないようだ。
『ボクのほうがイヴァン兄より強くなったもん!』
子ども扱いなのは否定しないのか。そこに自覚があるなら確かにフォニアはしっかりしている方かもしれないな。ある程度イヴァンを抑え込めて満足したのか、フォニアが鼻息を荒くして尻尾を振っている。
「わかったよもう! だけど俺もついていくからな!」
うん。ぐだぐだになった感があるけど、最終的にまとまったんならそれでいい。
「じゃあみんなでギルドに行きましょうか」
「そうだな。ついでにイヴァンも冒険者登録すればいい」
『やった! みんなで行こう!』
「わふぅ!」
ニルもはしゃいでフォニアにじゃれついている。サイズ比だけでいくと、子犬が成犬にじゃれついているように見える。人型だと小学生低学年ほどなのに、獣化すると倍くらいの体高になるとか。ニルが小さくなったときも思ったけど、質量保存の法則は仕事を放棄しすぎだろう。
「じゃあギルドが混んでくる前に行こうか」
こうして俺たち三人と二匹は宿を出て、帝国の冒険者ギルドへと向かった。
宿で場所を聞いて一番近い場所にある冒険者ギルドへとやってきた。魔法陣の上に剣と盾が描かれた看板を掲げる建物は、どちらかと言えば富裕層が暮らすエリアにあり、小ぎれいな印象を受けた。
中に入ると毎度突き刺さってくる視線はスルーする。イヴァンがなんとなくビクついているのが新鮮だ。レブロスでは一階と二階で冒険者のランク分けがされていたけど、ここはどうなんだろうな。ざっと見回した感じだと初心者はいなさそうだけど。
「いらっしゃいませ。ご用件をお伺いいたします」
丁寧な口調で迎えてくれたのは、ビシッと執事服を決め込んだ女性でした。とてもカッコいいです。
「四つ要件がありまして」
「はい」
「依頼の完了報告に、この子の従魔登録と、あいつの冒険者登録と……。最後に俺と彼女の冒険者証の発行をお願いしたいです」
「……発行ですか」
四つ目の要望を伝えると、女性職員の眉がピクリと反応した。いきなり不機嫌そうになったけどなんでだ。
「まさか、無くしたから再発行というわけではないでしょうね?」
あぁ、そういうこと。
「いえ、再発行ではないです。ここで刻印してもらえると聞いたので」
Cランクの冒険者証と無刻印のツルツルしたミスリルのプレートをカウンターの上へ差し出す。同じように莉緒も冒険者証をカウンターへと乗せると、職員の表情が固まった。
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