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第三部

海皇亀の回収

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 首を一本だけ回収するとさっさと城から抜け出してきた。

「はぁ……。もうこの勢いで亀本体も回収しに行こうか」

 城の入り口を背にして大きくため息をつく。

「それがいいかもしれないわね。ちょっと強引だったし、港街に伝わる前だったらすんなり回収させてくれるかもしれないわね」

 妨害が入る前に回収を決めた俺たちはその足で帝都を出る。軽く走って人目がつかなくなったころ、街道を逸れて空を行くことにする。

「さすがにあの亀は目立つな」

 空からでなくても一目瞭然だ。港街付近に巨大な亀の甲羅が居座っているのがよく見える。

「もうこのまま直接行っちゃおうか」

「そうだな」

 海岸近くにまで引き寄せられていて、そろそろ上陸しそうな状況となっている。亀にロープがいっぱい引っ掛けられていて、みんなで引っ張っているみたいだ。
 そんな集団のやや後方へと着地する。

「何者だ!」

 一斉にロープを手放しこちらを警戒する人たち。

「そいつを仕留めた冒険者の柊と莉緒だ」

「なに……?」

「城でその海皇亀の分配について決まったから引き取りに来た」

 首から冒険者証を取り出しながら、近場の軍人へと見せる。

「……っ、Sランク!?」

 思わず漏れた声に周囲のざわめきが大きく広がっていく。

「胴体は全部私たちがもらうことになったので、いただいていきますね」

「しょ、少々お待ちください。上の者に確認しますので……」

 平の軍人に判断できることでもない。頷くとすぐさま伝令が飛ばされる。
 あ、そういえばニルを宿に置いてきちゃったな。拗ねてなけりゃいいけど……。亀の肉でもあげたらすぐ機嫌直りそうだしいっか。

「お前たちか……」

 しばらく待っていると、どこかで見た白髪の男がやってきた。確かヴォルなんとかさん。うん、思い出せないけどまぁいいか。

「海皇亀を持っていくと言ったな。それは正式に決まったことか?」

「そりゃもちろん」

「書状などあるかね」

 おぉぅ。そういうところはキッチリしてるのね。用意する間もなく来たけど、仮に用意してと言っても渋られてなかなか発行はしてくれそうにないだろうなぁ。

「書状はないですね。決まってすぐにこちらに来たので」

「そうか……」

 何やら顎に手を当てて考えているようだが、どうも思ってたのと違う反応だな。真っ先に文句言って『帰れ!』とでも言ってくるかと思ったんだけど。

「まあいいだろう。持っていけ」

「えっ、あ……、ありがとうございます」

 予想外にあっさりと引き下がるとヴォルなんとかさんは回れ右をして去っていく。
 莉緒と顔を見合わせるが、首を傾げる可愛い仕草が返ってくるだけだ。

「よくわからんけど、Sランク冒険者の特権とでも思っておくか」

 他に理由も思いつかないし。

「じゃあさっそく、異空間ボックスに入るか試してみるとしますか」

 引っ張るために引っ掛けられたロープが回収される様子を眺めながら、百メートル以上ある亀の甲羅の天辺を見上げる。相変わらずデカい。
 ロープが外され人がはけたところで海皇亀の前へと近づいていく。

「俺が持ち上げるからあとはよろしく」

「わかったわ」

 巨大な亀全体を対象として重力魔法を発動する。ゆっくりと魔力を込めていくと、徐々に甲羅が軽くなっていく。空気より軽くなったところでふわりと浮き上がったので、あとは風魔法で微調整する。
 大きくなっていく周囲のざわめきは無視だ。

 莉緒からも魔力が吹き上がり、亀の傍の空間に一筋の線が入る。徐々に大きくなっていくと、亀を一飲みできるほどの大きさへと広がっていった。

「おっけー」

「よしきた」

 掛け声に合わせるように海皇亀を移動させると、莉緒の異空間ボックスへと収納されていく。気が付けば周囲を威圧する巨大物体の影も見えず、いつもの砂浜が広がっていた。

「入ったな」

「うん。それほど心配はしてなかったけどね」

「ははっ、そうだな。んじゃま帝都の宿に帰るか」

「そうね。……それじゃお騒がせしました」

 後半は周囲の人たちへ向けた言葉だ。ざわつく人たちの何人が聞いていたかはわからんが、とりあえず俺たちの用事は済んだ。
 その場で軽く浮き上がると帝都へまっすぐ向かう。甲羅は無事回収できたし、今更目立たないようにする必要はもうない。貴族用の帝都入り口手前で着地する。前に一組だけ並んでいた貴族の護衛に警戒を向けられるも、冒険者証を見せると納得してくれた。

 さすがに二回目ともなれば帝都へ入る時にトラブルが起きるはずもない。すんなりと帝都入りした俺たちは、イヴァンとフォニア、ニルが待つ宿へと向かう。
 あと残ってる作業は、亀の首の配達依頼達成の報告と、Sランクの冒険者証を作ってもらえば終わりか。今日中にさっさと済ませて帝都を出るかねぇ。

「ただい……、うわっぷ」

 宿の自分たちの部屋へと入ると、尻尾を振りまくったニルに飛びかかられる。顔をべろべろと舐めまわされていると、ニルの背中からフォニアの笑い声が聞こえてきた。

「よかったね、ニル」

「ちょっ……、待て待て、遅くなってごめんって」

 首周りをもふもふしてやると、さっきまで笑っていたフォニアにじっと視線を向けられる。

「イヴァンも元気そうね」

「おかげさまで」

 そういえば瀕死だった割にはすぐに歩けるようになってたな。

「そろそろ帝都を出ようと思ってるけど、体調はどうだ?」

 数日くらいなら療養しててもいいし、なんならニルの背中にでも乗って移動してもいい。……いや元気になっても背中には乗ってもらうか?

「あー、特に問題ないかな……?」

 肩をぐるぐる回しながら体調を確認するイヴァンが疑問形で答えてくれる。

「そうか? じゃあちょっとギルドで依頼完了の報告してくるから、終わったら出ようか」

「もう今日から出る――」

「ボクもギルドに連れてって!」

 今後の予定を確認していると、何か言いかけたイヴァンを遮ってフォニアがそう宣言した。
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