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第三部
買い取り交渉
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「亀の買取ねぇ……」
食後のお茶を飲みながら、莉緒が思案顔で呟いている。
「正直すぐにでも帰りたいと思ってたけど、さすが城の昼飯は美味かったな」
「あはは、それだけは確かね」
海が近いだけあって魚介類をふんだんに使用した昼食だ。今まで港でしか食べてこなかったからか、漁師飯というか豪快なものが多かったように思う。
「たまにはこういうお上品な飯もいいかもしれない」
「たまにはねー。でもやっぱりちょっと緊張しちゃったかも」
「へぇ。そうは見えなかったけど……」
思い返してみてもそんな様子はなかった気がするけど。あ、でも俺の方をちらちらとは見てたな。
「柊がフィンガーボウルの水を飲んでしまわないか心配だった」
「ぶふっ」
いやいやいや、ちょいとお待ちなさい莉緒さんや。
「……さすがにそんな失敗はしないよ?」
平静を装いつつも声を絞り出す。まさか莉緒に使い方を知らないってバレてると思わなかった……。莉緒より先にフィンガーボウルに手を出さなくてよかった……。まさか手を洗うだなんてな。
「さて、次は海皇亀買取の話だったっけ」
「うん。迎えが来るって言ってたからここで待ってればいいかな」
あからさまな話題逸らしだったけど、そこまで突っ込んでこなくて安心する。
二人で他愛のない話をしていると、部屋をノックする音が聞こえてきた。姿を現したメイドに連れられて会議室へと向かう。通された会議室にはもちろん誰もいない。十人ほど座れる長机が設置されたシンプルな部屋だった。
「また長時間待たされるのかな」
入り口手前の椅子へと腰かけると、莉緒がげんなりしている。
「あんまり待たせるようなら途中で帰ろうか」
別にお金が欲しいわけじゃないしな。
「あはは、そうね。……あの海皇亀、私の異空間ボックスに入るかしら?」
「どうだろうなぁ。たぶん入るとは思うんだけど……。入らなかったら小さくすればいいと思うぞ」
「待たせたな」
亀の収納方法を話し合っていると、予想外に早く会議室に人が現れた。皇帝の隣で控えていたローブ姿の人物と、奴隷を虐待する息子を持つドゲスハだ。二人ともすこぶる不機嫌そうだ。
ローブ姿はアルカインと名乗った。どうやら帝国の宰相をやっているらしい。ドゲスハは言うまでもなく帝国軍団長だ。
「時間がないのでさっそく本題に入るが……、五十億でどうだ」
いきなり五十億と言われても対象がわからんぞ。オークションに出した地竜は合わせて百億超えたはずだから、この五十億ってのも海皇亀全部でってことはないだろう。
「えーっと、今回私たちが持ってきた首一本につきでしょうか」
首を傾げながら莉緒が俺の思いを代弁してくれる。それくらいなら譲ってやらんでもない金額だと思う。海皇亀でかいしね。
「「は?」」
と思ったんだが、二人とも何言ってんだコイツみたいな顔をされてしまった。お前らこそ何言ってんだ。
「首二つと海皇亀の本体、全部に決まっておるではないか」
「えっ?」
全部かよ。地竜より厄介で巨大な海皇亀が地竜の半分以下って。
「討伐記録のない魔物なのだ。素材が何に使えるのかもわかっておらん。さらに解体費用もバカにならんのだ。最悪使える素材がない可能性もある。それを考えれば五十億でも破格というものだ」
「海から海岸へ亀を引っ張ってくるだけでも軍船を二隻使ってようやくだ。まだ解体作業に取り掛かれてすらおらん」
宰相のアルカインに続き、ドゲスハが苦々しく呟く。亀を殺して二日ほど経ったと思うけど、まだ海から陸に引き上げられていないのか。
「うーん……」
「ふん。SランクになったとはいえさっきまではCランクだったのだろう? Sランクともなれば報酬は跳ね上がるだろうが、五十億などという大金そうそう入ってくるものではないぞ」
渋る俺たちを説得してくるが、金はいらないんだよなぁ。亀も倒してイヴァンとフォニアも解放できたし、そろそろこの街に留まる理由もなくなっている。いやむしろとっとと出て行きたい。
というか――
「使えるかどうかわからない不安な素材というのであれば、俺たちが全部もらっていきますよ」
「そうですね。船で亀の体を陸まで引っ張ってきてくれたお礼と言ってはなんですが、首の一本は置いていきましょうか」
「なっ!?」
「そうしようか。倒したのは俺たちですし。あ、でも海皇亀のブレスからドゲスハ殿を一度守った分はどうしようか。……まぁそれはおまけしておいておきましょうか」
「くっ……」
顔色の悪くなってきている二人を差し置いて、心の奥から湧いてくる言葉をそのままぶつけていく。
「だいたいお礼と言って呼び出した挙句、こちらの希望を聞かずにいらないものを押し付けるって何なんですかね」
「表向きそちらから協力要請してきたくせに、手を出すなとか言われましたし」
そういえばそうだった。莉緒に言われて思い出したけど、だんだん腹立ってきたな。
「あ、それと。奴隷虐待の罪でメロウ・ラグローイはきちんと捕まえておいてくださいね」
「ぐぬっ……、息子からきちんと話は聞いておく……」
ついでだし、額に血管を浮かべる父親にきちんと状況を説明しておいてやるか。皇帝の前で証言したんだ、さすがにもみ消されることはないと信じたい。
「殴る蹴るの暴行を加えた挙句、レイピアで刺されたと本人は言ってましたのでね」
「なん、だと……。あのバカ息子が……!」
「そういうわけなので、こちらも忙しいので失礼します」
勢いよくまくし立てるとそのまま席を立つ。
「ま、待て!」
待てと言われて待つ奴がいますかっての。
後ろから投げかけられる言葉を無視して、俺たちは会議室を後にした。
食後のお茶を飲みながら、莉緒が思案顔で呟いている。
「正直すぐにでも帰りたいと思ってたけど、さすが城の昼飯は美味かったな」
「あはは、それだけは確かね」
海が近いだけあって魚介類をふんだんに使用した昼食だ。今まで港でしか食べてこなかったからか、漁師飯というか豪快なものが多かったように思う。
「たまにはこういうお上品な飯もいいかもしれない」
「たまにはねー。でもやっぱりちょっと緊張しちゃったかも」
「へぇ。そうは見えなかったけど……」
思い返してみてもそんな様子はなかった気がするけど。あ、でも俺の方をちらちらとは見てたな。
「柊がフィンガーボウルの水を飲んでしまわないか心配だった」
「ぶふっ」
いやいやいや、ちょいとお待ちなさい莉緒さんや。
「……さすがにそんな失敗はしないよ?」
平静を装いつつも声を絞り出す。まさか莉緒に使い方を知らないってバレてると思わなかった……。莉緒より先にフィンガーボウルに手を出さなくてよかった……。まさか手を洗うだなんてな。
「さて、次は海皇亀買取の話だったっけ」
「うん。迎えが来るって言ってたからここで待ってればいいかな」
あからさまな話題逸らしだったけど、そこまで突っ込んでこなくて安心する。
二人で他愛のない話をしていると、部屋をノックする音が聞こえてきた。姿を現したメイドに連れられて会議室へと向かう。通された会議室にはもちろん誰もいない。十人ほど座れる長机が設置されたシンプルな部屋だった。
「また長時間待たされるのかな」
入り口手前の椅子へと腰かけると、莉緒がげんなりしている。
「あんまり待たせるようなら途中で帰ろうか」
別にお金が欲しいわけじゃないしな。
「あはは、そうね。……あの海皇亀、私の異空間ボックスに入るかしら?」
「どうだろうなぁ。たぶん入るとは思うんだけど……。入らなかったら小さくすればいいと思うぞ」
「待たせたな」
亀の収納方法を話し合っていると、予想外に早く会議室に人が現れた。皇帝の隣で控えていたローブ姿の人物と、奴隷を虐待する息子を持つドゲスハだ。二人ともすこぶる不機嫌そうだ。
ローブ姿はアルカインと名乗った。どうやら帝国の宰相をやっているらしい。ドゲスハは言うまでもなく帝国軍団長だ。
「時間がないのでさっそく本題に入るが……、五十億でどうだ」
いきなり五十億と言われても対象がわからんぞ。オークションに出した地竜は合わせて百億超えたはずだから、この五十億ってのも海皇亀全部でってことはないだろう。
「えーっと、今回私たちが持ってきた首一本につきでしょうか」
首を傾げながら莉緒が俺の思いを代弁してくれる。それくらいなら譲ってやらんでもない金額だと思う。海皇亀でかいしね。
「「は?」」
と思ったんだが、二人とも何言ってんだコイツみたいな顔をされてしまった。お前らこそ何言ってんだ。
「首二つと海皇亀の本体、全部に決まっておるではないか」
「えっ?」
全部かよ。地竜より厄介で巨大な海皇亀が地竜の半分以下って。
「討伐記録のない魔物なのだ。素材が何に使えるのかもわかっておらん。さらに解体費用もバカにならんのだ。最悪使える素材がない可能性もある。それを考えれば五十億でも破格というものだ」
「海から海岸へ亀を引っ張ってくるだけでも軍船を二隻使ってようやくだ。まだ解体作業に取り掛かれてすらおらん」
宰相のアルカインに続き、ドゲスハが苦々しく呟く。亀を殺して二日ほど経ったと思うけど、まだ海から陸に引き上げられていないのか。
「うーん……」
「ふん。SランクになったとはいえさっきまではCランクだったのだろう? Sランクともなれば報酬は跳ね上がるだろうが、五十億などという大金そうそう入ってくるものではないぞ」
渋る俺たちを説得してくるが、金はいらないんだよなぁ。亀も倒してイヴァンとフォニアも解放できたし、そろそろこの街に留まる理由もなくなっている。いやむしろとっとと出て行きたい。
というか――
「使えるかどうかわからない不安な素材というのであれば、俺たちが全部もらっていきますよ」
「そうですね。船で亀の体を陸まで引っ張ってきてくれたお礼と言ってはなんですが、首の一本は置いていきましょうか」
「なっ!?」
「そうしようか。倒したのは俺たちですし。あ、でも海皇亀のブレスからドゲスハ殿を一度守った分はどうしようか。……まぁそれはおまけしておいておきましょうか」
「くっ……」
顔色の悪くなってきている二人を差し置いて、心の奥から湧いてくる言葉をそのままぶつけていく。
「だいたいお礼と言って呼び出した挙句、こちらの希望を聞かずにいらないものを押し付けるって何なんですかね」
「表向きそちらから協力要請してきたくせに、手を出すなとか言われましたし」
そういえばそうだった。莉緒に言われて思い出したけど、だんだん腹立ってきたな。
「あ、それと。奴隷虐待の罪でメロウ・ラグローイはきちんと捕まえておいてくださいね」
「ぐぬっ……、息子からきちんと話は聞いておく……」
ついでだし、額に血管を浮かべる父親にきちんと状況を説明しておいてやるか。皇帝の前で証言したんだ、さすがにもみ消されることはないと信じたい。
「殴る蹴るの暴行を加えた挙句、レイピアで刺されたと本人は言ってましたのでね」
「なん、だと……。あのバカ息子が……!」
「そういうわけなので、こちらも忙しいので失礼します」
勢いよくまくし立てるとそのまま席を立つ。
「ま、待て!」
待てと言われて待つ奴がいますかっての。
後ろから投げかけられる言葉を無視して、俺たちは会議室を後にした。
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