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第三部
褒美
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場がざわついていき、目の前の皇帝も両腕を組み不機嫌そうになっていく。
「不敬……、ですか」
「当然だ。皇帝陛下からの褒美に文句を付けようとは何事であるか!」
後ろに控える騎士から殺気が膨れ上がってくる。皇帝の前だからか剣の柄に手を掛けるところまではいかないが、すぐにでも斬りかかってきそうな雰囲気だ。
こんな奴らに跪いている気にもなれず、騎士とローブ姿の人物を睨み返しながらゆっくりと立ち上がる。
「なっ、この場で歯向かう気か!?」
「皇帝陛下からお礼が言いたいと聞いたので来ただけですよ。まさかその場で俺たちが望んでるかどうかもわからない褒美を渡されそうになるとは思いませんでしたが」
こういうシチュエーションなら「何か望みはあるか」とかいう言葉がくると思ったんだけどなぁ。
「Cランク冒険者にとっては望外の褒美であろうが。これ以上何を望むというのだね」
ローブ姿の人物が嘲りを含む口調で吐き捨てる。
「Cランク?」
そういえば戦利品の配達依頼もCランクの時に出されたやつだったっけ。帝国はまだ俺たちがSランクになったって知らないのかな。
ベテランと呼ばれるCランクの冒険者だが、国から見れば替えの効くどこにでもいる人材ではある。だからこそのこの扱いなんだろう。
「まだ知らないようなので、改めて自己紹介しようか」
首元から冒険者証を取り出すと、二つある金属板のうち目立つようにミスリル板を上に出す。
「Sランク冒険者の柊だ」
「私もSランクよ」
莉緒も同じように冒険者証を取り出すと、両手を腰に当てて胸を張る。
「なん……だと?」
しかしSランクともなれば話は別だ。その戦力を考えれば国に留まっておいて欲しいものなんだろうけど。……あ、Sランクになると見越したから、今のうちに褒美として叙爵って話になってるのかな。にしても無理やりすぎる気がするんだけどなぁ。
「確かに……、ミスリル製の冒険者証だが……」
「ふむ……。爵位は不要と見える。……であれば、他に何か望みはあるかね」
ローブの男に引き続き、手のひらを返したように皇帝が口を開く。
なんかもう今更って感じだな。
Sランク冒険者ともなればギルドでもそこそこ発言権があるらしく、貴族からの指名依頼も普通に断る冒険者もいるとか。というかSランクともなれば、そこら辺の男爵や子爵よりも資産を持っていることが多く、貴族だからと言っておいそれと指図できるものでもないらしい。
「望みねぇ……」
俺たちもそれなりにお金を稼いでいるので、特に欲しいものは……。あー、醤油とか味噌は欲しいけど、ここで要求するのはなんか違うよな。
ぐるりと周りの貴族を見回してみると、俺たちを見る目つきが変わっている。どこにでもいるCランク冒険者だったのが、どうにかして利用したいSランクに変わったのだ。値踏みするような視線が明らかに増えた。
貴族ってのはまったくもって自分のことしか考えていない奴らが多い。他人の迷惑は顧みないし、権力にものを言わせて犯罪ももみ消す。中には品行方正な貴族もいるだろうが、数は少ないんじゃないかと個人的には思う。
――あ、そうだ。
「そうですね……。奴隷を虐待する貴族にはしっかりと罰を与えておいて欲しいですね」
「奴隷……? もちろん国の法で決まっているのだ。犯罪者には罰が下るようになっているとも」
何を当たり前のことをと言わんばかりのローブ姿だが、その当たり前が機能してないからお願いしてるんだけどな。
「確かに聞きましたよ。奴隷を虐待していたメロウ・ラグローイはしっかり捕らえるようにお願いしますね」
「……な、なんだと!?」
名前を告げたと同時に、横に並んでいた貴族の内の一人から声が上がる。どこかで見たことあると思ったら、ドゲスハ・ラグローイ侯爵だった。息子がそんなことをやっていると聞かされれば文句も言いたくなるだろう。
「メロウが……、息子がそんなことをするわけがなかろう!」
港街で軍の仕事をしてるんじゃないかと思ったけど、海皇亀討伐の報告にでも戻っていたのかもしれない。
「昨日ラグローイ侯爵家に冒険者としてお伺いしたところ、ちょうど現場を目撃しましたので。ご本人から奴隷の始末を依頼されたのも俺たちですので」
俺たちってこれ以上ない証人じゃなかろうか。
「はああぁぁ!?」
「鎮まれぃ! 皇帝陛下の御前であるぞ!」
尚も激しく反論しようとしたドゲスハに対して、皇帝の後ろで控えていた騎士が一喝する。ざわついていた謁見の間がピタリと静かになると、皇帝が口を開いた。
「お主の望みは理解した」
「それはよかったです。犯罪など握りつぶされることなく、適切に処置が行われることを望みます」
そして俺の言葉を聞いて目を逸らす人物がちらほら。とりあえず鑑定して名前だけは記憶しておく。
「もちろんだ」
皇帝は大きく頷いたが、そりゃもちろん首を左右に振る理由なんてないよな。自ら法律を守りませんなんて言うはずもない。
「ではこの場はお開きとしよう。午後からは海皇亀買取の交渉の場を設けたいと思うが、そのときに他に何か望みがあれば申してみよ。……下がってよいぞ」
「わかりました。では失礼いたします」
こうして俺たちは何とも言えないもやもやした気持ちを抱えたまま、謁見の間を後にした。
もらうものはもらってこいとギルドマスターに言われたけど、またもや今すぐ帰りたくなっていた。
「不敬……、ですか」
「当然だ。皇帝陛下からの褒美に文句を付けようとは何事であるか!」
後ろに控える騎士から殺気が膨れ上がってくる。皇帝の前だからか剣の柄に手を掛けるところまではいかないが、すぐにでも斬りかかってきそうな雰囲気だ。
こんな奴らに跪いている気にもなれず、騎士とローブ姿の人物を睨み返しながらゆっくりと立ち上がる。
「なっ、この場で歯向かう気か!?」
「皇帝陛下からお礼が言いたいと聞いたので来ただけですよ。まさかその場で俺たちが望んでるかどうかもわからない褒美を渡されそうになるとは思いませんでしたが」
こういうシチュエーションなら「何か望みはあるか」とかいう言葉がくると思ったんだけどなぁ。
「Cランク冒険者にとっては望外の褒美であろうが。これ以上何を望むというのだね」
ローブ姿の人物が嘲りを含む口調で吐き捨てる。
「Cランク?」
そういえば戦利品の配達依頼もCランクの時に出されたやつだったっけ。帝国はまだ俺たちがSランクになったって知らないのかな。
ベテランと呼ばれるCランクの冒険者だが、国から見れば替えの効くどこにでもいる人材ではある。だからこそのこの扱いなんだろう。
「まだ知らないようなので、改めて自己紹介しようか」
首元から冒険者証を取り出すと、二つある金属板のうち目立つようにミスリル板を上に出す。
「Sランク冒険者の柊だ」
「私もSランクよ」
莉緒も同じように冒険者証を取り出すと、両手を腰に当てて胸を張る。
「なん……だと?」
しかしSランクともなれば話は別だ。その戦力を考えれば国に留まっておいて欲しいものなんだろうけど。……あ、Sランクになると見越したから、今のうちに褒美として叙爵って話になってるのかな。にしても無理やりすぎる気がするんだけどなぁ。
「確かに……、ミスリル製の冒険者証だが……」
「ふむ……。爵位は不要と見える。……であれば、他に何か望みはあるかね」
ローブの男に引き続き、手のひらを返したように皇帝が口を開く。
なんかもう今更って感じだな。
Sランク冒険者ともなればギルドでもそこそこ発言権があるらしく、貴族からの指名依頼も普通に断る冒険者もいるとか。というかSランクともなれば、そこら辺の男爵や子爵よりも資産を持っていることが多く、貴族だからと言っておいそれと指図できるものでもないらしい。
「望みねぇ……」
俺たちもそれなりにお金を稼いでいるので、特に欲しいものは……。あー、醤油とか味噌は欲しいけど、ここで要求するのはなんか違うよな。
ぐるりと周りの貴族を見回してみると、俺たちを見る目つきが変わっている。どこにでもいるCランク冒険者だったのが、どうにかして利用したいSランクに変わったのだ。値踏みするような視線が明らかに増えた。
貴族ってのはまったくもって自分のことしか考えていない奴らが多い。他人の迷惑は顧みないし、権力にものを言わせて犯罪ももみ消す。中には品行方正な貴族もいるだろうが、数は少ないんじゃないかと個人的には思う。
――あ、そうだ。
「そうですね……。奴隷を虐待する貴族にはしっかりと罰を与えておいて欲しいですね」
「奴隷……? もちろん国の法で決まっているのだ。犯罪者には罰が下るようになっているとも」
何を当たり前のことをと言わんばかりのローブ姿だが、その当たり前が機能してないからお願いしてるんだけどな。
「確かに聞きましたよ。奴隷を虐待していたメロウ・ラグローイはしっかり捕らえるようにお願いしますね」
「……な、なんだと!?」
名前を告げたと同時に、横に並んでいた貴族の内の一人から声が上がる。どこかで見たことあると思ったら、ドゲスハ・ラグローイ侯爵だった。息子がそんなことをやっていると聞かされれば文句も言いたくなるだろう。
「メロウが……、息子がそんなことをするわけがなかろう!」
港街で軍の仕事をしてるんじゃないかと思ったけど、海皇亀討伐の報告にでも戻っていたのかもしれない。
「昨日ラグローイ侯爵家に冒険者としてお伺いしたところ、ちょうど現場を目撃しましたので。ご本人から奴隷の始末を依頼されたのも俺たちですので」
俺たちってこれ以上ない証人じゃなかろうか。
「はああぁぁ!?」
「鎮まれぃ! 皇帝陛下の御前であるぞ!」
尚も激しく反論しようとしたドゲスハに対して、皇帝の後ろで控えていた騎士が一喝する。ざわついていた謁見の間がピタリと静かになると、皇帝が口を開いた。
「お主の望みは理解した」
「それはよかったです。犯罪など握りつぶされることなく、適切に処置が行われることを望みます」
そして俺の言葉を聞いて目を逸らす人物がちらほら。とりあえず鑑定して名前だけは記憶しておく。
「もちろんだ」
皇帝は大きく頷いたが、そりゃもちろん首を左右に振る理由なんてないよな。自ら法律を守りませんなんて言うはずもない。
「ではこの場はお開きとしよう。午後からは海皇亀買取の交渉の場を設けたいと思うが、そのときに他に何か望みがあれば申してみよ。……下がってよいぞ」
「わかりました。では失礼いたします」
こうして俺たちは何とも言えないもやもやした気持ちを抱えたまま、謁見の間を後にした。
もらうものはもらってこいとギルドマスターに言われたけど、またもや今すぐ帰りたくなっていた。
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