成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa

文字の大きさ
上 下
176 / 421
第三部

侯爵家へ乗り込もう

しおりを挟む
 屋敷の中からイヴァンとフォニアの気配がする。
 もうここにいることは間違いないようだ。

「問題はこの屋敷が誰の屋敷かってことだよな」

「そうね。二人の気配は確かにここからするけど……」

 ちらりと屋敷の入り口を見れば、こっちを怪しげに凝視する二人の門番がいる。
 もしラグローイ侯爵家以外の屋敷であれば、俺たちに出された指名依頼書を理由に屋敷に入ることができない。介入するのであれば、ラグローイ侯爵家の奴隷がなぜここにいるのか、依頼書と共に侯爵家を経由して尋ねてもらうくらいか。回りくどいな。

「もう直接門番に聞いてみようか」

「それが手っ取り早いわね……」

 莉緒も納得である。情報収集してからということも考えたが、あまり悠長なことも言っていられない。逃亡奴隷が捕まってどうなるかなんて、酷い折檻を受ける未来しか見えない。イヴァンはともかく、フォニアにはそんな目に合ってほしくない。
 ニルの首周りをもふりながら、屋敷の門へと近づいていくと。

「何用だ」

「依頼で来ているんですが、ここはラグローイ侯爵家で合ってますか?」

「そうだが……、何者だ」

 やっぱりラグローイ侯爵家で合ってるんだ。心の中でため息をつきつつも、ラグローイ侯爵長男からの指名依頼書を提示する。

「指名依頼を受けた冒険者の柊です。依頼の逃亡奴隷二人を確保していたんですが、誰かにかっさらわれたようでして」

「ふむ……、確かにメロウ様が出された依頼のようだな」

 お互いに顔を見合わせる門番たち。

「その逃亡奴隷二人がここにいるという情報を得たんですが、俺たち以外にももしかして依頼を出されていないか確認をしたくて来ました」

 建前としては依頼主が他の人間に二重で依頼を出しており、指名依頼を受けた俺たちが依頼失敗にされては困るというていだ。ギルドに出ていたDランクの依頼だけでなく、貴族ともなれば私兵などギルドを通さずとも伝手はあるだろう。そっちで任務達成されても困る。

「少し待っていてくれ」

 一言告げると、門番の一人が屋敷へと走り去っていく。てっきり門前払いを受けると思っていたが、貴族本人たちと違って屋敷で働く人たちもひねくれているわけではないらしい。
 しばらくすると門番が人を連れて戻ってきた。第一印象からして執事と思わせる格好の人物だ。

「お待たせいたしました。中へどうぞ」

「従魔も一緒でいいですか?」

 促されて中に入る前に一応聞いておく。ちらりと視線をニルへ向けると眉を顰められるがそれも一瞬だ。

「かまいません。どうぞ」

 丁寧に整えられた庭を進み、屋敷の中へと踏み入れる。玄関にほど近い応接室へと通されるとソファへと腰を落ち着ける。

「依頼完遂票を準備してまいりますので、少々お待ちください」

「……えっ?」

 深く腰を折って退室しようとする執事に思わず声が漏れる。
 俺たちの目的はイヴァンたちの回収なので、このまま依頼完遂票だけもらうのはまずい。いやでも屋敷を尋ねた理由としては、依頼完了になるのであれば余計な問答をせずに済むので文句を言うわけにもいかないし……。

「なにか……?」

 律義に聞き返してくれる執事に対して咄嗟に出てくる言葉がない。

「……あれ?」

 なんとか言葉を探していると、イヴァンとフォニアの気配に変化があった。
 イヴァンの気配がだんだん小さくなってるような……。
 え、なにこれ、気配が小さくなるってどういうこと?

「柊……、これって……」

 莉緒も同じ気配を感じ取ったのか、不安そうに俺の腕を掴んでくる。

「なんとなくまずい気が――」

 する。と言う間もなく、今度はフォニアの気配が一気に膨れ上がり爆発音が響き渡る。

「……な、なにごとですかっ!?」

「イヴァンとフォニアがいるあたりで何か起こったみたいだな……」

 壁の向こう側を指し示すと、執事の顔色が変わる。

「メ、メロウ様!」

 名前を叫ぶと慌てた様子で部屋の扉を開け、そのまま出て行ってしまう。さっきも聞いたがメロウというのが確か、ラグローイ侯爵家の長男の名前だったはずだ。そしてイヴァンとフォニアの主人でもある。

「追いかけようか」

「そうしましょう……」

「よし、ニル行くぞ」

 むしろ好都合というものだ。開いたままになった扉をくぐり廊下に出ると、執事が走り去った後を追う。いくつかの角を曲がり、屋敷の奥へと進んでいくと庭へと駆けだす執事が視界に入る。

「外か」

 消えそうなイヴァンの気配とフォニアの気配も近づいているし間違いない。
 執事の後を追って庭へと出る。真っ先に視界に入ったのは――

「……狐?」

「フォニア……ちゃん?」

 体高二メートルほどの獣……、狐だ。全身赤茶色の体毛をした狐が、五本ある尻尾をピンと伸ばしたまま首周りをひっかきながらもだえ苦しんでいる。その首には黒いチョーカーが嵌められているのが見える。

「どうなってんだ」

 傍には仕立てのいい服を着たオッサンが、青い顔でしりもちをついて狐から後ずさりをしている。執事がオッサンを抱き起しているがそれはどうでもいい。
 にしてもイヴァンはどこに――

「イヴァン!?」

 探していると莉緒が声を上げて狐の後方へと駆けていく。そこにいたのは……、血だまりの中に倒れ伏すイヴァンの姿だった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...