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第三部
英雄の誕生
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「英雄様の誕生だー!」
「レブロスは救われた……!」
「ありがとう! ありがとう!」
泣いて喜ぶ住民や拝み倒してくる住民に辟易しつつも、振る舞われる料理に舌鼓を打つ。気が付けば首をお披露目後、巨大魚を釣りあげたとき以上のお祭り騒ぎになっていた。ニルもひたすら魚を貪っている。
あのまま海皇亀が上陸していたら、港街レブロスを蹂躙し、通った跡は容赦なく破壊されていたことだろう。速度が遅いため人的被害はほぼないにしても、街が被る被害は計り知れなかったに違いない。
「お主らはあの海皇亀を仕留めたんじゃ。誇っていいぞ」
ギルドマスターはそう言うが、慣れないものは慣れないのだ。
「ああそれと、近々皇帝陛下からの呼び出しがあるかもしれんの」
「ええっ?」
なんでいきなり国の最高権力者に呼びつけられるんだ。わけわからんが。
「そりゃ街一つ救った英雄じゃ。国としても褒美を与えんわけにはいくまい。海皇亀という獲物の買取も国が行うことになるじゃろうな」
「あー、そういえば、俺たちが仕留めた獲物ですもんね。いろいろ面倒なんで、全部ギルドで買い取ってもらえませんかね」
「何を言っとるんじゃ。無理に決まっとろうが」
国とはもう関わり合いになりたくないので言ってみただけだが、呆れた顔で即却下されてしまった。
「そもそも、ギルドを通してとはいえ、軍からの協力要請があって仕留めたもんじゃろ」
ああ、手を出すなとは言われたものの、表向きはそうでしたね。俺たちを呼びに来たウェンディに言われたことと、ドゲスハに言われたことのどっちが表向きかと言われれば疑いようもない。
それで皇帝陛下に呼ばれたとしても何を言われるんだろうな。ドゲスハの例もあるし、アークライト王国のクソ王族の例もある。嫌な予感しかしないので本当に関わり合いになりたくない。
「国からの褒美じゃぞ? そんなに嫌な顔せんでもよかろうに……」
呆れ顔で返されるけど勘弁してください。莉緒も顔に出さないようにがんばってるけど、その真顔を見ればギルドマスターにはわかっちゃうかもね。
「まあ今はのんびりしておけばええじゃろ」
「そうさせてもらいます」
「あぁ、それと、明日またギルドに顔を出すように」
「わかりました」
こうして海皇亀討伐の祭り騒ぎは続いていく。そろそろ日も暮れてきたころだが、祭りが収まる気配もない。ギルドマスターも仕事があるからとギルドへと戻っていった。
そういえば前は祭りの終わり際にフォニアを見つけたんだっけか。あの二人どうしてるかな。
「明日はフォニアの様子でも見に行くか」
「そうね。服とかいろいろ買っていきましょうか」
「ずっと海皇亀にかかりっきりだったしな……」
「海皇亀から攻撃もきたことだし、死んだことにする作戦はやりやすくなったかもしれないわね」
「そういやそうだな。会ったら改めて聞いてみるか。そしたら首輪を外せるな」
「あとは食糧も補充しておかないとね」
「やあ、お二人とも。まさかあの海皇亀を討伐するなんて、すごい快挙じゃないか」
莉緒と明日の予定の確認をしていると、見知った冒険者に声を掛けられた。
「あ、クリストフさん。お久しぶりです」
以前大型船の護衛依頼を一緒に受けた、弓を背負ったクリストフだ。隣には杖を腰に提げた後衛のアリナーもいる。
「やっぱり只者じゃないと思ってたけど、おれの勘も案外当たるもんだな」
バシバシとアリナーに背中を叩かれる。一人称が「おれ」だけに、なかなか豪快な性格をしている女性だ。
「はは、海皇亀用に開発した魔法がたまたまうまく効いたんですよ」
「この短時間で魔法を開発できるなんてすごいじゃないか。それで目的をきちんと果たしてるんだから、もっと前面に出していかないと」
と言われても日本人体質なもんで、あんまり自慢げに語るのも恥ずかしいんですってば。……とか言ってもきっと伝わらないんだろうけど。
「あはは……」
「すげーっす、シュウさん、リオさん!」
「あの海皇亀をぶっ飛ばすなんてさすがっす!」
苦笑いしていると、いつの間に現れたのかカントたちからも賞賛の言葉を受けてしまった。ってかなんなのその口調。キャラ変わってねえか?
いい年したオッサンが一回り以上も年下の俺たちにそんなんでいいのか。
「あの静撃のリンフォードさんの手ほどきを受けて魔法を開発したって本当っすか!?」
「せいげき?」
なにそれ。初めて聞くんですけど。
「二つ名っすよ。リンフォードさんの射程は長いっすからね。静かに気づかないところから突然撃たれることからその名が付いたらしいです」
赤毛のベーリルがまくしたてるように教えてくれるが、そんな理由で二つ名が付いちゃうのね。
「シュウさんとリオさんならどんな二つ名が付くっすかね?」
「何て名前が付くかな? いやでも、お二人が戦ってるところってあんま見たことねぇしよ」
「大型船護衛のときだけだけど、あっという間に終わったし」
「だなぁ……。あ、釣りはどうだ! あんな魚釣りのやり方は初めて見たし」
「はは……」
騒がしくしゃべるカントたちに苦笑いが漏れる。魚釣りの様子を二つ名にするとか勘弁してくれ。ただでさえ恥ずかしいのに、魚釣りってなんなの……。
こうして騒がしくしつつも、海皇亀を討伐した祭りは夜が更けても続くのであった。
「レブロスは救われた……!」
「ありがとう! ありがとう!」
泣いて喜ぶ住民や拝み倒してくる住民に辟易しつつも、振る舞われる料理に舌鼓を打つ。気が付けば首をお披露目後、巨大魚を釣りあげたとき以上のお祭り騒ぎになっていた。ニルもひたすら魚を貪っている。
あのまま海皇亀が上陸していたら、港街レブロスを蹂躙し、通った跡は容赦なく破壊されていたことだろう。速度が遅いため人的被害はほぼないにしても、街が被る被害は計り知れなかったに違いない。
「お主らはあの海皇亀を仕留めたんじゃ。誇っていいぞ」
ギルドマスターはそう言うが、慣れないものは慣れないのだ。
「ああそれと、近々皇帝陛下からの呼び出しがあるかもしれんの」
「ええっ?」
なんでいきなり国の最高権力者に呼びつけられるんだ。わけわからんが。
「そりゃ街一つ救った英雄じゃ。国としても褒美を与えんわけにはいくまい。海皇亀という獲物の買取も国が行うことになるじゃろうな」
「あー、そういえば、俺たちが仕留めた獲物ですもんね。いろいろ面倒なんで、全部ギルドで買い取ってもらえませんかね」
「何を言っとるんじゃ。無理に決まっとろうが」
国とはもう関わり合いになりたくないので言ってみただけだが、呆れた顔で即却下されてしまった。
「そもそも、ギルドを通してとはいえ、軍からの協力要請があって仕留めたもんじゃろ」
ああ、手を出すなとは言われたものの、表向きはそうでしたね。俺たちを呼びに来たウェンディに言われたことと、ドゲスハに言われたことのどっちが表向きかと言われれば疑いようもない。
それで皇帝陛下に呼ばれたとしても何を言われるんだろうな。ドゲスハの例もあるし、アークライト王国のクソ王族の例もある。嫌な予感しかしないので本当に関わり合いになりたくない。
「国からの褒美じゃぞ? そんなに嫌な顔せんでもよかろうに……」
呆れ顔で返されるけど勘弁してください。莉緒も顔に出さないようにがんばってるけど、その真顔を見ればギルドマスターにはわかっちゃうかもね。
「まあ今はのんびりしておけばええじゃろ」
「そうさせてもらいます」
「あぁ、それと、明日またギルドに顔を出すように」
「わかりました」
こうして海皇亀討伐の祭り騒ぎは続いていく。そろそろ日も暮れてきたころだが、祭りが収まる気配もない。ギルドマスターも仕事があるからとギルドへと戻っていった。
そういえば前は祭りの終わり際にフォニアを見つけたんだっけか。あの二人どうしてるかな。
「明日はフォニアの様子でも見に行くか」
「そうね。服とかいろいろ買っていきましょうか」
「ずっと海皇亀にかかりっきりだったしな……」
「海皇亀から攻撃もきたことだし、死んだことにする作戦はやりやすくなったかもしれないわね」
「そういやそうだな。会ったら改めて聞いてみるか。そしたら首輪を外せるな」
「あとは食糧も補充しておかないとね」
「やあ、お二人とも。まさかあの海皇亀を討伐するなんて、すごい快挙じゃないか」
莉緒と明日の予定の確認をしていると、見知った冒険者に声を掛けられた。
「あ、クリストフさん。お久しぶりです」
以前大型船の護衛依頼を一緒に受けた、弓を背負ったクリストフだ。隣には杖を腰に提げた後衛のアリナーもいる。
「やっぱり只者じゃないと思ってたけど、おれの勘も案外当たるもんだな」
バシバシとアリナーに背中を叩かれる。一人称が「おれ」だけに、なかなか豪快な性格をしている女性だ。
「はは、海皇亀用に開発した魔法がたまたまうまく効いたんですよ」
「この短時間で魔法を開発できるなんてすごいじゃないか。それで目的をきちんと果たしてるんだから、もっと前面に出していかないと」
と言われても日本人体質なもんで、あんまり自慢げに語るのも恥ずかしいんですってば。……とか言ってもきっと伝わらないんだろうけど。
「あはは……」
「すげーっす、シュウさん、リオさん!」
「あの海皇亀をぶっ飛ばすなんてさすがっす!」
苦笑いしていると、いつの間に現れたのかカントたちからも賞賛の言葉を受けてしまった。ってかなんなのその口調。キャラ変わってねえか?
いい年したオッサンが一回り以上も年下の俺たちにそんなんでいいのか。
「あの静撃のリンフォードさんの手ほどきを受けて魔法を開発したって本当っすか!?」
「せいげき?」
なにそれ。初めて聞くんですけど。
「二つ名っすよ。リンフォードさんの射程は長いっすからね。静かに気づかないところから突然撃たれることからその名が付いたらしいです」
赤毛のベーリルがまくしたてるように教えてくれるが、そんな理由で二つ名が付いちゃうのね。
「シュウさんとリオさんならどんな二つ名が付くっすかね?」
「何て名前が付くかな? いやでも、お二人が戦ってるところってあんま見たことねぇしよ」
「大型船護衛のときだけだけど、あっという間に終わったし」
「だなぁ……。あ、釣りはどうだ! あんな魚釣りのやり方は初めて見たし」
「はは……」
騒がしくしゃべるカントたちに苦笑いが漏れる。魚釣りの様子を二つ名にするとか勘弁してくれ。ただでさえ恥ずかしいのに、魚釣りってなんなの……。
こうして騒がしくしつつも、海皇亀を討伐した祭りは夜が更けても続くのであった。
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