162 / 414
第三部
Sランク冒険者の実力
しおりを挟む
海皇亀から百メートルほどの距離を取り、二隻の船が三十メートルほどの距離を空けて並ぶ。パーティを組んだこともない人間同士が即興で連携なんて取れるはずもないため、各々で得意な魔法を叩き込むことになっている。
ただし、狙いだけは一点集中をさせる方針だ。
「ふん。お前らはそこで見てればいいさ」
ここまできてレックスはまだ納得できていないようだ。
見てればいいと言われて本当に見てるだけで終わるわけもないけどね。仕事はきっちりとこなさないとダメだし。
でも最初は他の人たちを観察するのもいいかもしれない。
レックスは腰から杖を引き抜くと、遠方に位置する海皇亀を見据える。静かに詠唱を始めると魔力を高めていく。
そういえば魔法には詠唱とコマンドワードの発言が必要だったな。省略することも可能だけど、威力が落ちると。
「なかなかやるわね」
サスキアが一人感心しているようだ。Aランク冒険者にそう言わしめるレックスはそれなりにやるらしい。
「『ファイアボール』!」
杖の先端に凝縮された魔力が魔法となって発現すると、二メートルくらいの炎の球が現れる。そのまま勢いよく海皇亀へと向かっていくと、激しい爆発音を響かせた。
「ふんっ」
どうだとばかりに振り返るが、あれだと亀の甲羅には傷一つついてないと思う。
「『ストーンキャノン』!」
同じくBランク冒険者たちから、岩の塊やさっきと同じ炎の塊が亀へと向かっていき、爆発をまき散らす。
そこにサスキアが左手を振り上げると、爆発で視界の悪くなった亀の甲羅付近で風が巻き起こり、見通しがよくなった。
あれは風魔法の遠隔発動かな。俺たちも使えるようになるまでそれなりに苦労したけど、サスキアも使えるらしい。
「あんまり効果は出てなさそうね」
サスキアの呟きにレックスたちの表情が硬くなる。
向こうの船からも氷の塊と岩の塊が飛んで行っていたが、結果はあんまり変わらなさそうだ。
「じゃあ次はアタシの番ね」
両手を突き出して目を閉じて集中し始めると、手のひらの先に魔力が集まってくるのがわかる。サスキアはどうやら無詠唱のようだが、魔力の集積率がさっきのレックスと比較にならない。さすがAランク冒険者と言ったところか。
「『エアリアルキャノン』!」
空間を歪ませる見えない何かが発射され、海皇亀へと飛翔していく。その速度はさっきまでの魔法の比ではない。あっという間に着弾すると亀の甲羅に僅かだがヒビを入れ、その衝撃波が空間を伝ってこちらにまで返ってきた。
「おおー、すごい」
素直に感心する莉緒だけど、俺も同感だ。風系統の魔法だと思うけど、切り裂く以外にも空気の塊をぶつける使い方もあるんだな。向こうの船からは五メートルくらいの岩の塊が発射されていた。見た目に反してアデリーの使う魔法は豪快なようだ。
「さすがサスキアさんです」
レックスたちから賞賛の声が上がるが、称えられた本人はまるで気にした様子がない。
「そんなことはいいから、どんどん魔法を撃ちこんでいくわよ」
「は、はい!」
たとえ効果がなくとも、ひたすら魔法を撃ちこむしかない。それで進路が変わるならこっちの勝ちだ。
向こうの船ではリンフォードも動き出したようで、魔力が高まっていく。左手で右手首を掴み、右掌を目標に向けている。その手のひらから前方に伸びるように魔力が構築されているのがわかる。二メートルほどの細長い筒状のものが具現化されていく。
ある程度できあがると、右手を掴んでいた左手をフリーにすると、手のひらの上に土魔法で生成した塊ができあがっていく。拳大から徐々に大きくなっていき、最終的にはバスケットボール大くらいの大きさになった。
「銃身と弾みたいね」
ポツリと呟いた莉緒の言葉に納得だ。どこかで見たことあるようなないような、もやもやした気持ちが消えた。
「なるほどねー。アースニードルとか、魔法で生成した物体を飛ばす魔法って、魔法そのものに『物体を飛ばす』効果も含まれてるはずだけど、わざわざそれを別の魔法で構築してるってことだよな」
「そうね。その分速度が出るんじゃないかしら」
銃身を魔法で構築か……。爆発力を弾に集中させることができれば、弾速は確かに上がるな。それだけじゃなさそうだけど。
どうやら準備が整ったようで、手元に集中していたリンフォードが正面の亀を見据える。弾を筒にセットすると、激しい衝撃音とともに弾が発射された。かと思った瞬間にはすでに着弾していた。
「おお、すげぇ」
「銃身は加速装置みたいな役割かしら……。どうやってるのかしら……」
確かにあれが使えれば俺たちの魔法の威力も格段にアップしそうではある。魔力を込めるだけのゴリ押しだけじゃ、あの亀には効果があるか不明なところがあるからなぁ。
リンフォードの成果を見ると、亀の甲羅にヒビが入っているのが見て取れる。ただし撃ち込んだ弾は弾かれたのか見当たらない。
「ちょっと、あなたたちもボケっと見てないで仕事しなさい」
完全に観戦者と化していた俺たちに、サスキアからツッコミが入ってしまった。あんまり周りに興味なさそうにしていたので意外だったが、確かに俺たちもちゃんと仕事しないといけない。『そこで見てろ』と言われたからといって従っていたら評価が下がるのは目に見えている。
「あ、はい、すみません」
「せっかく推薦されたんだし、私たちも全力でやりましょう」
「だな」
気を引き締めると俺たちも亀へと向き直るのだった。
ただし、狙いだけは一点集中をさせる方針だ。
「ふん。お前らはそこで見てればいいさ」
ここまできてレックスはまだ納得できていないようだ。
見てればいいと言われて本当に見てるだけで終わるわけもないけどね。仕事はきっちりとこなさないとダメだし。
でも最初は他の人たちを観察するのもいいかもしれない。
レックスは腰から杖を引き抜くと、遠方に位置する海皇亀を見据える。静かに詠唱を始めると魔力を高めていく。
そういえば魔法には詠唱とコマンドワードの発言が必要だったな。省略することも可能だけど、威力が落ちると。
「なかなかやるわね」
サスキアが一人感心しているようだ。Aランク冒険者にそう言わしめるレックスはそれなりにやるらしい。
「『ファイアボール』!」
杖の先端に凝縮された魔力が魔法となって発現すると、二メートルくらいの炎の球が現れる。そのまま勢いよく海皇亀へと向かっていくと、激しい爆発音を響かせた。
「ふんっ」
どうだとばかりに振り返るが、あれだと亀の甲羅には傷一つついてないと思う。
「『ストーンキャノン』!」
同じくBランク冒険者たちから、岩の塊やさっきと同じ炎の塊が亀へと向かっていき、爆発をまき散らす。
そこにサスキアが左手を振り上げると、爆発で視界の悪くなった亀の甲羅付近で風が巻き起こり、見通しがよくなった。
あれは風魔法の遠隔発動かな。俺たちも使えるようになるまでそれなりに苦労したけど、サスキアも使えるらしい。
「あんまり効果は出てなさそうね」
サスキアの呟きにレックスたちの表情が硬くなる。
向こうの船からも氷の塊と岩の塊が飛んで行っていたが、結果はあんまり変わらなさそうだ。
「じゃあ次はアタシの番ね」
両手を突き出して目を閉じて集中し始めると、手のひらの先に魔力が集まってくるのがわかる。サスキアはどうやら無詠唱のようだが、魔力の集積率がさっきのレックスと比較にならない。さすがAランク冒険者と言ったところか。
「『エアリアルキャノン』!」
空間を歪ませる見えない何かが発射され、海皇亀へと飛翔していく。その速度はさっきまでの魔法の比ではない。あっという間に着弾すると亀の甲羅に僅かだがヒビを入れ、その衝撃波が空間を伝ってこちらにまで返ってきた。
「おおー、すごい」
素直に感心する莉緒だけど、俺も同感だ。風系統の魔法だと思うけど、切り裂く以外にも空気の塊をぶつける使い方もあるんだな。向こうの船からは五メートルくらいの岩の塊が発射されていた。見た目に反してアデリーの使う魔法は豪快なようだ。
「さすがサスキアさんです」
レックスたちから賞賛の声が上がるが、称えられた本人はまるで気にした様子がない。
「そんなことはいいから、どんどん魔法を撃ちこんでいくわよ」
「は、はい!」
たとえ効果がなくとも、ひたすら魔法を撃ちこむしかない。それで進路が変わるならこっちの勝ちだ。
向こうの船ではリンフォードも動き出したようで、魔力が高まっていく。左手で右手首を掴み、右掌を目標に向けている。その手のひらから前方に伸びるように魔力が構築されているのがわかる。二メートルほどの細長い筒状のものが具現化されていく。
ある程度できあがると、右手を掴んでいた左手をフリーにすると、手のひらの上に土魔法で生成した塊ができあがっていく。拳大から徐々に大きくなっていき、最終的にはバスケットボール大くらいの大きさになった。
「銃身と弾みたいね」
ポツリと呟いた莉緒の言葉に納得だ。どこかで見たことあるようなないような、もやもやした気持ちが消えた。
「なるほどねー。アースニードルとか、魔法で生成した物体を飛ばす魔法って、魔法そのものに『物体を飛ばす』効果も含まれてるはずだけど、わざわざそれを別の魔法で構築してるってことだよな」
「そうね。その分速度が出るんじゃないかしら」
銃身を魔法で構築か……。爆発力を弾に集中させることができれば、弾速は確かに上がるな。それだけじゃなさそうだけど。
どうやら準備が整ったようで、手元に集中していたリンフォードが正面の亀を見据える。弾を筒にセットすると、激しい衝撃音とともに弾が発射された。かと思った瞬間にはすでに着弾していた。
「おお、すげぇ」
「銃身は加速装置みたいな役割かしら……。どうやってるのかしら……」
確かにあれが使えれば俺たちの魔法の威力も格段にアップしそうではある。魔力を込めるだけのゴリ押しだけじゃ、あの亀には効果があるか不明なところがあるからなぁ。
リンフォードの成果を見ると、亀の甲羅にヒビが入っているのが見て取れる。ただし撃ち込んだ弾は弾かれたのか見当たらない。
「ちょっと、あなたたちもボケっと見てないで仕事しなさい」
完全に観戦者と化していた俺たちに、サスキアからツッコミが入ってしまった。あんまり周りに興味なさそうにしていたので意外だったが、確かに俺たちもちゃんと仕事しないといけない。『そこで見てろ』と言われたからといって従っていたら評価が下がるのは目に見えている。
「あ、はい、すみません」
「せっかく推薦されたんだし、私たちも全力でやりましょう」
「だな」
気を引き締めると俺たちも亀へと向き直るのだった。
10
お気に入りに追加
423
あなたにおすすめの小説
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。
円城寺正市
ファンタジー
勇者が行方不明になって数年。
魔物が勢力圏を拡大し、滅亡の危機に瀕する国、ソルブルグ王国。
洞窟の中で目覚めた主人公は、自分が亡霊になっていることに気が付いた。
身動きもとれず、記憶も無い。
ある日、身動きできない彼の前に、ゴブリンの群れに追いかけられてエルフの少女が転がり込んできた。
亡霊を見つけたエルフの少女ミーシャは、死体に乗り移る方法を教え、身体を得た彼は、圧倒的な剣技を披露して、ゴブリンの群れを撃退した。
そして、「旅の目的は言えない」というミーシャに同行することになった亡霊は、次々に倒した敵の身体に乗り換えながら、復讐すべき相手へと辿り着く。
※この作品は「小説家になろう」からの転載です。
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる