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第三部
海皇亀
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「沖に巨大な影があることは他の冒険者からも聞いている。まずはお主たちの報告を聞かせてくれ」
午前中と同じ部屋、同じ配置でソファに腰かけてギルドマスターと対峙する。すでに人数分のお茶は配られており、話をする準備は整っていた。
「でかい島の正体は海皇亀という魔物でした」
「は?」
「え?」
ギルドマスターは目を見開き、書記役のギルド職員がメモ用紙から顔を上げる。しばらく沈黙が続くが、ギルドマスターが我に返り恐る恐る口を開く。
「すまんが、もう一度聞かせてくれんかね。聞き間違いでなければいいんだが」
「海皇亀という魔物が、この港街レブロスに向かってきています」
「……それは、間違いないのかね?」
苦虫を盛大に噛み潰した表情で再確認されるが、それで答えが変わるわけでもない。
「鑑定した結果なので間違いないと思います」
今のところ鑑定偽装なんてスキルは聞いたことがない。スキルまで見破れる鑑定持ちがすでに激レアなので、偽装スキル持ってますと自ら告白でもしない限り見つけるのは不可能だろう。ましてや体力お化けの亀がそんなスキルを持ってるとも思えないが。
「なに! お主も鑑定持ちか……。であればなおさら、見間違いといったこともなさそうじゃの」
大きくため息をつくと、ソファの背もたれに全体重をかけて天を仰ぐ。
続きを聞きたくないといった感じがするが、そうも言っていられないのだろう。お茶を口にすると、意を決したように俺へと視線を戻し、続きを促してきた。
「全長は五百メートルくらいでしょうか。手足、頭や尻尾といった部位はすべて海中なのか、確認はできませんでした。ステータスは――」
ところどころで相槌を打ちながら話を聞くギルドマスター。その隣では遅まきながら我に返ったギルド職員が慌ててメモにペンを走らせている。
「まさかステータスまで見えるとは……。カントの奴と同レベルの鑑定持ちは貴重じゃが、これで情報の確度も上がるというもんじゃろ」
「で、でもこのステータスは絶望的では……」
「ところで皆さん、この海皇亀という魔物はご存じなんですか?」
盛大に狼狽えるギルド職員とギルドマスターだったが、魔物の名前を聞くだけで脅威と判断しているみたいだった。
「ああ……。百五十年ほど前にも、帝国の南海上沖に現れたという記録が残っておる。そのときは陸地から見える遠方を西から東へ移動中で、陸地には向かっておらんかったんじゃがの……」
白髭をさすりながら思い出すようにしてギルドマスターが話してくれたところによると、海上をただ移動している姿が目撃されたとのこと。ただし、住民からも多数目撃があり、いつ進路を陸上へと向けるかもわからない不安から、討伐が計画されたらしい。
「じゃがのぅ、その討伐も失敗に終わったんじゃよ」
「失敗……ですか」
当時の海皇亀のサイズは三百メートル級ではあったが、全力の攻撃が通用しなかったらしい。
「ある程度ダメージは与えられていたとは思うがの。奴にとっては虫に刺された程度のものだったんじゃろう。そのまま何事もなく海上を進んで行って、帝国の海域から外れて姿を消したんじゃ」
話し終えたギルドマスターがお茶の入ったカップを手に取り、すでに中身が空だったことに気が付いてまたテーブルの上へと戻している。
「うわぁ……」
莉緒が口元に両手を当ててドン引きしている。結局昔現れた海皇亀には手も足も出なかったってことだ。
「当時の戦力はどうだったんです?」
「あーっと、Sランク冒険者が三人はいたらしいのぅ。帝国の騎士団長も同等の強さを誇っていたと記録されておる」
「それでもまともなダメージを与えられなかったんですか」
「残念ながら」
それってほぼ絶望的じゃねぇの。カントが言ってたが、Sランク冒険者の最大ステータスでも五桁に届くのがやっとって話だっただろ。昔もそう変わらないと思うが……どうなんだろうな。
「とりあえずじゃ。これはもはや港街だけの問題ではなくなった。すぐに帝都にも知らせる必要がある」
そりゃそうだな。それこそ冒険者じゃなくて軍隊の出番だろう。むしろ勝てない相手には向かっていかないのが冒険者でもあることを考えると、あんまり冒険者は当てにできないかもしれない。
「わ、わかりました。すぐに準備します!」
「ワシは帝都のギルド本部と帝国宛てに手紙を書く。もちろんカントたちへの調査依頼は継続だ。あやつら自身が見た結果も聞きたい」
「は、はい!」
職員が力強く頷いて部屋を出て行く。
「お主たちはまだこのことを口外せぬようにな」
「もちろんです」
いたずらに街を大混乱に陥れる必要もない。すべては準備が整ってからというのは理解できる。幸いにも海皇亀の歩みは遅いのだ。敵を発見してから取れる準備期間としては多い方だろう。
ギルドマスターから依頼完遂票を受け取り部屋を出ると、俺たちは二階へと降りていく。他の冒険者たちから興味深そうな視線が届くが、話しかけてくる人物はいない。Cランク以上となると、わきまえている人たちが多いようで助かる。
カウンターで指名依頼達成の報告をしたあと、海皇亀に有効な攻撃方法を考えながら宿へと帰還した。
午前中と同じ部屋、同じ配置でソファに腰かけてギルドマスターと対峙する。すでに人数分のお茶は配られており、話をする準備は整っていた。
「でかい島の正体は海皇亀という魔物でした」
「は?」
「え?」
ギルドマスターは目を見開き、書記役のギルド職員がメモ用紙から顔を上げる。しばらく沈黙が続くが、ギルドマスターが我に返り恐る恐る口を開く。
「すまんが、もう一度聞かせてくれんかね。聞き間違いでなければいいんだが」
「海皇亀という魔物が、この港街レブロスに向かってきています」
「……それは、間違いないのかね?」
苦虫を盛大に噛み潰した表情で再確認されるが、それで答えが変わるわけでもない。
「鑑定した結果なので間違いないと思います」
今のところ鑑定偽装なんてスキルは聞いたことがない。スキルまで見破れる鑑定持ちがすでに激レアなので、偽装スキル持ってますと自ら告白でもしない限り見つけるのは不可能だろう。ましてや体力お化けの亀がそんなスキルを持ってるとも思えないが。
「なに! お主も鑑定持ちか……。であればなおさら、見間違いといったこともなさそうじゃの」
大きくため息をつくと、ソファの背もたれに全体重をかけて天を仰ぐ。
続きを聞きたくないといった感じがするが、そうも言っていられないのだろう。お茶を口にすると、意を決したように俺へと視線を戻し、続きを促してきた。
「全長は五百メートルくらいでしょうか。手足、頭や尻尾といった部位はすべて海中なのか、確認はできませんでした。ステータスは――」
ところどころで相槌を打ちながら話を聞くギルドマスター。その隣では遅まきながら我に返ったギルド職員が慌ててメモにペンを走らせている。
「まさかステータスまで見えるとは……。カントの奴と同レベルの鑑定持ちは貴重じゃが、これで情報の確度も上がるというもんじゃろ」
「で、でもこのステータスは絶望的では……」
「ところで皆さん、この海皇亀という魔物はご存じなんですか?」
盛大に狼狽えるギルド職員とギルドマスターだったが、魔物の名前を聞くだけで脅威と判断しているみたいだった。
「ああ……。百五十年ほど前にも、帝国の南海上沖に現れたという記録が残っておる。そのときは陸地から見える遠方を西から東へ移動中で、陸地には向かっておらんかったんじゃがの……」
白髭をさすりながら思い出すようにしてギルドマスターが話してくれたところによると、海上をただ移動している姿が目撃されたとのこと。ただし、住民からも多数目撃があり、いつ進路を陸上へと向けるかもわからない不安から、討伐が計画されたらしい。
「じゃがのぅ、その討伐も失敗に終わったんじゃよ」
「失敗……ですか」
当時の海皇亀のサイズは三百メートル級ではあったが、全力の攻撃が通用しなかったらしい。
「ある程度ダメージは与えられていたとは思うがの。奴にとっては虫に刺された程度のものだったんじゃろう。そのまま何事もなく海上を進んで行って、帝国の海域から外れて姿を消したんじゃ」
話し終えたギルドマスターがお茶の入ったカップを手に取り、すでに中身が空だったことに気が付いてまたテーブルの上へと戻している。
「うわぁ……」
莉緒が口元に両手を当ててドン引きしている。結局昔現れた海皇亀には手も足も出なかったってことだ。
「当時の戦力はどうだったんです?」
「あーっと、Sランク冒険者が三人はいたらしいのぅ。帝国の騎士団長も同等の強さを誇っていたと記録されておる」
「それでもまともなダメージを与えられなかったんですか」
「残念ながら」
それってほぼ絶望的じゃねぇの。カントが言ってたが、Sランク冒険者の最大ステータスでも五桁に届くのがやっとって話だっただろ。昔もそう変わらないと思うが……どうなんだろうな。
「とりあえずじゃ。これはもはや港街だけの問題ではなくなった。すぐに帝都にも知らせる必要がある」
そりゃそうだな。それこそ冒険者じゃなくて軍隊の出番だろう。むしろ勝てない相手には向かっていかないのが冒険者でもあることを考えると、あんまり冒険者は当てにできないかもしれない。
「わ、わかりました。すぐに準備します!」
「ワシは帝都のギルド本部と帝国宛てに手紙を書く。もちろんカントたちへの調査依頼は継続だ。あやつら自身が見た結果も聞きたい」
「は、はい!」
職員が力強く頷いて部屋を出て行く。
「お主たちはまだこのことを口外せぬようにな」
「もちろんです」
いたずらに街を大混乱に陥れる必要もない。すべては準備が整ってからというのは理解できる。幸いにも海皇亀の歩みは遅いのだ。敵を発見してから取れる準備期間としては多い方だろう。
ギルドマスターから依頼完遂票を受け取り部屋を出ると、俺たちは二階へと降りていく。他の冒険者たちから興味深そうな視線が届くが、話しかけてくる人物はいない。Cランク以上となると、わきまえている人たちが多いようで助かる。
カウンターで指名依頼達成の報告をしたあと、海皇亀に有効な攻撃方法を考えながら宿へと帰還した。
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