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第三部
朝市で海産物を仕入れよう
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「ん?」
港での祭り騒ぎがひと段落し、帰ろうとしたときのことだ。
路地の物陰から祭り会場を覗き込む人影を見つけた。少し薄汚れてはいるが、首にチョーカーをつけた奴隷。奴隷自体は会場にもいたので珍しいものでもない。
もしかしてお祭りを聞きつけて来たけど間に合わなかった人かもしれない。莉緒と顔を見合わせて頷くと、路地へと近づいていき。
「解体ショーはもう終わっちゃったよ」
物陰の裏へと顔を出して教えてあげると、その人物はびくりと肩を震わせ怯えた表情でこっちを見上げてくる。
見た目は小学生低学年くらいの子どもに見える、頭に大きな狐耳をつけた獣人の奴隷だ。くたびれてはいるが、腰の左右から毛玉が見えることからニルのように二本以上尻尾があるのかもしれない。
「はいどうぞ」
莉緒が異空間ボックスから、ついさっき振る舞われていた焼いた魚の切り身を取り出す。
「……?」
差し出された料理をどうしていいかわからないのか、首を傾げている。しかし漂ってくる匂いに本能は勝てないようだ。鼻をひくひくさせ、口元からよだれが垂れてくる。
「じゃあこれも持ってけ」
俺も追加でカルパッチョを取り出すと、莉緒の焼き魚とともに皿に乗せて狐人族へと押し付けた。
「今度は間に合うように来るんだぞ」
それだけ告げると返事も聞かずに踵を返して、宿を目指した。
その翌日。モグノフさんに言われた通りに朝市を見物すべく、港へとやってきた。日が昇り始めた朝早い時間帯だが、漁師たちにとっては仕事終わりの者も多い。港へと帰還した船から、多種多様な海産物が運び込まれてくる。
船からは冒険者と見られる人影も降りてくる。もしかするとギルドでは漁に出る船の護衛依頼などがあるのかもしれない。
「……そういえばギルドでの仕事さっぱりしてないな」
「あはは、街に来てから食べ歩きしかしてないわね」
「明日はギルドに行ってみるか」
明日の予定を決めると海産物の集まる市場を見て回る。綺麗に並べられた木箱には魚や貝、エビやカニといった甲殻類が陳列されている。
「それも全部ください」
「ぜ、全部ですか……」
ドン引きする漁師さんにかまわず、次々と購入していく。巨大魚以外にも海産物を仕入れることができて満足だ。
しばらく買い物しながら市場を進んでいくと、いろんな魚が乱雑に詰め込まれた木箱が目に入った。
「これってなんですか?」
莉緒が気になったのか声をかけると、漁師さんがニヤリと笑って教えてくれた。
「一般の市場に出回らないヤツさ。売れないからってのが一番の理由だが、中には毒のある魚とかもいるんでね」
「毒ですか」
地球で言うフグのような食材だろうか。毒を含む部分を取り除けば食べられるとか?
「ああ、弱毒部位とか舌がピリピリして美味いっていう人間もいるからな」
「えええ」
マジかい。毒食ってるってことだよなそれ。……いやでも俺って毒耐性スキル持ってたよな。毒があるけど実は美味い食材とか食えるのでは。
「あとは海の悪魔とか言われる生物もいるが……、あれは一般人どころか、俺たち漁師の中でも食おうと思う奴はほんの一握りの変人だけだ」
海の悪魔ってなんだ。食う人がいるってことは食えるってことだよな。
「それはそれですごく気になりますね」
「うん。ちょっと見てみたいかも」
莉緒と顔を見合わせると、ぜひ手に入れるべきと意見が一致する。
「お、おう、そうか」
海の悪魔に食いつく俺たちにドン引きしているようだが、新たな食材が手に入るのであれば関係ない。
「だったらあっちにはゲテモノが集まる区画があるぞ。面白い物があるかもな」
「へぇ、ありがとうございます。あとで行ってみます」
今は目の前にある変わり種だ。全身紫色をした魚がいるけど、もしかしてこれが毒持ちの魚だろうか。
=====
名前 :なし
種族名:イリーガルベイル
説明 :世界中の海の浅い領域に棲息する魔物。
皮下に毒を持つが、噛みつかれたりヒレに引っ掛けられたりすると
その毒が体内へと侵入してくる。
弱毒なので死亡することは滅多にない。
状態 :死亡
=====
あ、うん。毒持ちだった。
しかし死ぬと筋力といったステータスは見れなくなるのね。一般の漁師に捕獲されるくらいだから、そんなに強くはないんだろうけど。
「これが毒持ちの魚みたい」
「それっぽい色してるわね」
「だなぁ。でも食えるらしいし、全部買っていこうか」
「……もしかして私も毒耐性とか覚えるかしら?」
「覚えられるんじゃない? たぶんだけど」
成長率マシマシスキルがあれば覚えるのが早いだけである。莉緒もそこそこの成長率だし、そのうち覚えるんじゃないだろうか。
こうして俺たちはゲテモノ食材を各種仕入れることとなった。といっても地球では見慣れた物が多い。ウニみたいにトゲトゲしたもの、ナマコのように表面がぬるぬるするものなどだ。中には亀の手先みたいなよくわからないものもあったが、さすがにこれは地球でも見たことがない。
「なんだかカメノテみたいね」
「だなぁ。さすがにここまで変な生き物は見たことないな。さすが異世界って感じだな」
「あら、カメノテなら日本でも獲れるわよ」
「え、マジで?」
「うふふ。柊は無人島を開拓する番組見たことあるかしら?」
「無人島……、あー、あの番組か。知ってる知ってる」
「あれによく出てきたのよね」
毎週見ていたわけじゃないが、どうやらカメノテは開拓番組にもよく出てきたらしい。
「私は食べたことないけど、美味しいらしいわよ」
「へぇ、それは楽しみだ」
こうしてホクホク顔で宿へと帰還するのだった。
ちなみに海の悪魔とやらはタコみたいな生き物だった。足が二十本くらいあって、ちょっと気持ち悪かったとだけ言っておこう。
港での祭り騒ぎがひと段落し、帰ろうとしたときのことだ。
路地の物陰から祭り会場を覗き込む人影を見つけた。少し薄汚れてはいるが、首にチョーカーをつけた奴隷。奴隷自体は会場にもいたので珍しいものでもない。
もしかしてお祭りを聞きつけて来たけど間に合わなかった人かもしれない。莉緒と顔を見合わせて頷くと、路地へと近づいていき。
「解体ショーはもう終わっちゃったよ」
物陰の裏へと顔を出して教えてあげると、その人物はびくりと肩を震わせ怯えた表情でこっちを見上げてくる。
見た目は小学生低学年くらいの子どもに見える、頭に大きな狐耳をつけた獣人の奴隷だ。くたびれてはいるが、腰の左右から毛玉が見えることからニルのように二本以上尻尾があるのかもしれない。
「はいどうぞ」
莉緒が異空間ボックスから、ついさっき振る舞われていた焼いた魚の切り身を取り出す。
「……?」
差し出された料理をどうしていいかわからないのか、首を傾げている。しかし漂ってくる匂いに本能は勝てないようだ。鼻をひくひくさせ、口元からよだれが垂れてくる。
「じゃあこれも持ってけ」
俺も追加でカルパッチョを取り出すと、莉緒の焼き魚とともに皿に乗せて狐人族へと押し付けた。
「今度は間に合うように来るんだぞ」
それだけ告げると返事も聞かずに踵を返して、宿を目指した。
その翌日。モグノフさんに言われた通りに朝市を見物すべく、港へとやってきた。日が昇り始めた朝早い時間帯だが、漁師たちにとっては仕事終わりの者も多い。港へと帰還した船から、多種多様な海産物が運び込まれてくる。
船からは冒険者と見られる人影も降りてくる。もしかするとギルドでは漁に出る船の護衛依頼などがあるのかもしれない。
「……そういえばギルドでの仕事さっぱりしてないな」
「あはは、街に来てから食べ歩きしかしてないわね」
「明日はギルドに行ってみるか」
明日の予定を決めると海産物の集まる市場を見て回る。綺麗に並べられた木箱には魚や貝、エビやカニといった甲殻類が陳列されている。
「それも全部ください」
「ぜ、全部ですか……」
ドン引きする漁師さんにかまわず、次々と購入していく。巨大魚以外にも海産物を仕入れることができて満足だ。
しばらく買い物しながら市場を進んでいくと、いろんな魚が乱雑に詰め込まれた木箱が目に入った。
「これってなんですか?」
莉緒が気になったのか声をかけると、漁師さんがニヤリと笑って教えてくれた。
「一般の市場に出回らないヤツさ。売れないからってのが一番の理由だが、中には毒のある魚とかもいるんでね」
「毒ですか」
地球で言うフグのような食材だろうか。毒を含む部分を取り除けば食べられるとか?
「ああ、弱毒部位とか舌がピリピリして美味いっていう人間もいるからな」
「えええ」
マジかい。毒食ってるってことだよなそれ。……いやでも俺って毒耐性スキル持ってたよな。毒があるけど実は美味い食材とか食えるのでは。
「あとは海の悪魔とか言われる生物もいるが……、あれは一般人どころか、俺たち漁師の中でも食おうと思う奴はほんの一握りの変人だけだ」
海の悪魔ってなんだ。食う人がいるってことは食えるってことだよな。
「それはそれですごく気になりますね」
「うん。ちょっと見てみたいかも」
莉緒と顔を見合わせると、ぜひ手に入れるべきと意見が一致する。
「お、おう、そうか」
海の悪魔に食いつく俺たちにドン引きしているようだが、新たな食材が手に入るのであれば関係ない。
「だったらあっちにはゲテモノが集まる区画があるぞ。面白い物があるかもな」
「へぇ、ありがとうございます。あとで行ってみます」
今は目の前にある変わり種だ。全身紫色をした魚がいるけど、もしかしてこれが毒持ちの魚だろうか。
=====
名前 :なし
種族名:イリーガルベイル
説明 :世界中の海の浅い領域に棲息する魔物。
皮下に毒を持つが、噛みつかれたりヒレに引っ掛けられたりすると
その毒が体内へと侵入してくる。
弱毒なので死亡することは滅多にない。
状態 :死亡
=====
あ、うん。毒持ちだった。
しかし死ぬと筋力といったステータスは見れなくなるのね。一般の漁師に捕獲されるくらいだから、そんなに強くはないんだろうけど。
「これが毒持ちの魚みたい」
「それっぽい色してるわね」
「だなぁ。でも食えるらしいし、全部買っていこうか」
「……もしかして私も毒耐性とか覚えるかしら?」
「覚えられるんじゃない? たぶんだけど」
成長率マシマシスキルがあれば覚えるのが早いだけである。莉緒もそこそこの成長率だし、そのうち覚えるんじゃないだろうか。
こうして俺たちはゲテモノ食材を各種仕入れることとなった。といっても地球では見慣れた物が多い。ウニみたいにトゲトゲしたもの、ナマコのように表面がぬるぬるするものなどだ。中には亀の手先みたいなよくわからないものもあったが、さすがにこれは地球でも見たことがない。
「なんだかカメノテみたいね」
「だなぁ。さすがにここまで変な生き物は見たことないな。さすが異世界って感じだな」
「あら、カメノテなら日本でも獲れるわよ」
「え、マジで?」
「うふふ。柊は無人島を開拓する番組見たことあるかしら?」
「無人島……、あー、あの番組か。知ってる知ってる」
「あれによく出てきたのよね」
毎週見ていたわけじゃないが、どうやらカメノテは開拓番組にもよく出てきたらしい。
「私は食べたことないけど、美味しいらしいわよ」
「へぇ、それは楽しみだ」
こうしてホクホク顔で宿へと帰還するのだった。
ちなみに海の悪魔とやらはタコみたいな生き物だった。足が二十本くらいあって、ちょっと気持ち悪かったとだけ言っておこう。
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