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第三部
港で祭り騒ぎ
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「はあぁぁぁ、生きた心地がしなかった……」
陸へと帰ってくると、地面に足を付けたモグノフからそんな呟きが聞こえてきた。
「あはは、大物ばっかり釣ってましたからね」
莉緒が苦笑いを返しているが、まったくもってその通り。ちょっと暴れるだけで船が沈みかねないサイズの魚ばかりを近くで釣りまくっていれば、平常心を保っているのも難しかったのかもしれない。
中には海面から飛び出ると同時に水魔法を撃ってきた魚もいたくらいだ。さすが海の魔物だと感心しただけで終わったけど。
「お詫びと言っては何ですが、一匹お譲りしますよ」
「え、いいんですか?」
港のセリ場のような広い屋根付きの空間に、そこそこ大きめの魚を一匹取り出す。サイズは十メートル弱だろうか。重さはよくわからないけど、普通に持ち運べるサイズではない。
「がははは! こんなサイズを!」
「このサイズだと捌くのも大変そうですね」
「そうですな。わし一人で捌くのも大変そうなので、人を呼んでくることにします」
なんとなく口調が変わった気がしないでもないけど、あえてツッコミはすまい。
モグノフの呼びかけで漁師が五人ほど集まってきたようだが、みんなそれぞれ驚きの声を上げている。お互いに自己紹介を済ませると、改めて釣り上げた魚へと目を向けた。
「こいつぁキングブルーテイルじゃねぇか」
どうやらこの魚の名前らしい。釣りの真っ最中のときも、釣りあげるたびにモグノフが魚の名前を教えてくれたが、まったく見たことのない異世界の魚もあってさっぱり頭に入ってきていなかった。
目元から尻尾まで、体の真ん中に青い模様が入っていて、尻尾は鮮やかな青色をした魚だ。
「このサイズだと……、一匹で五千万フロンは軽く超えそうだな」
おぉ、なかなかのお値段しますね。ってか今日はそんな巨大魚を何匹釣ったんだろうか。莉緒と二人で五十匹は釣り上げた気がするけど……、まぁ気にしないでおくか。
「どっちにしろ、早く解体しちまおうぜ」
「じゃあ俺たちも横で一緒に解体しますね」
大物の解体方法はタダで教えてもらえる約束だったので、ついでにここで教えてもらうことにしたのだ。
実践しながら教えてもらう予定なので、莉緒と二人で獲物を解体すべくもう一匹の魚を異空間ボックスから取り出す。わかりやすいように同じ種類のキングブルーテイルだ。
こうして巨大魚の解体が始まった。
しばらく経つと、どこから話を聞きつけてきたのかギャラリーが集まりだしてきた。どうやら巨大魚が釣れるといつも解体ショーのようになり、売り物にならない端の切り身や日持ちしない部位がその場で振る舞われるらしい。
「今回はスゲーな。二匹も釣れたのか……」
ギャラリーの言葉通り今回は二匹である。しかも――
「あっちの解体どうなってんだ……」
「身が勝手に浮いたりしてるぞ」
「あんな細い刃物でよく折れないな」
俺たちを物珍しそうに眺める見物客が多い。漁師たちは五人がかりで解体道具をふんだんに使って、巨大魚と格闘している。巨大魚の胴体を跨ぐようにしてコの字型に変形した脚立を配置し、その上に乗った人物が切り離した身を持ち上げて支えていたりするのだ。
一方俺たちは、刃渡り五十センチくらいの脇差風の刀一本で魚を解体している。以前自作した武器だが、魚を切り分ける用途でも大活躍だ。切れ目を入れた身を魔法で持ち上げて支え、巨大な魚を切り分けているところだ。
漁師たちにコツを聞きながら、順調に解体を進めていく。
気が付けば日も暮れて、薄暗くなっていた。周囲にはいつの間にか明かりが灯され、料理が振る舞われ始めていて、お祭り状態になっている。
「すげー美味い! なんだこれ!」
俺たちも食材を提供しているが、マヨネーズを使ったカルパッチョ風料理は高評価を得ている。自分たちで捌いた魚はすでに異空間ボックスの中ではあるが、モグノフへ進呈した巨大魚の切り身はすでに客との取引が始まっているようだ。
「冒険者ギルドで解体するのとはまた違った雰囲気だな」
「ギルドには見物客なんていないしね」
冒険者風の見た目の人物から街人や首にチョーカーを巻いた奴隷まで、さまざまな人たちが料理に舌鼓を打っている。
刺身や焼き魚に魚介スープなど、様々な料理が振る舞われている。内臓を使った料理ともなれば今日限定になるらしい。しっかり作り方を教わっておかなければ。
「がははは! まさかこんな大事になるとは思わなかったが、いい思いをさせてもらった。ありがとう!」
モグノフがやってくると、そう言葉を切り出した。
「いえいえ、モグノフさんに船に乗せてもらったからこそ思いついた釣りの方法ですから」
「まったくだ。釣れない桟橋で釣りをしてる冒険者を相手に、ちょっとした小遣い稼ぎ目的で声を掛けただけなんだがなぁ」
がははと豪快に笑うモグノフに、バシバシと背中を叩かれる。
「明日の朝市はちょっと盛大になりそうだな。水揚げされた他の海産物もいつも通り出るだろうし、あんたたちも来てみるといい」
鮮魚を扱う露店などは見回ったけど、港の朝市は来たことがなかった。これは食材の仕入れが捗るかもしれない。
「ぜひそうさせてもらいます」
こうして突発的に起こった港での祭りを楽しんだ。
陸へと帰ってくると、地面に足を付けたモグノフからそんな呟きが聞こえてきた。
「あはは、大物ばっかり釣ってましたからね」
莉緒が苦笑いを返しているが、まったくもってその通り。ちょっと暴れるだけで船が沈みかねないサイズの魚ばかりを近くで釣りまくっていれば、平常心を保っているのも難しかったのかもしれない。
中には海面から飛び出ると同時に水魔法を撃ってきた魚もいたくらいだ。さすが海の魔物だと感心しただけで終わったけど。
「お詫びと言っては何ですが、一匹お譲りしますよ」
「え、いいんですか?」
港のセリ場のような広い屋根付きの空間に、そこそこ大きめの魚を一匹取り出す。サイズは十メートル弱だろうか。重さはよくわからないけど、普通に持ち運べるサイズではない。
「がははは! こんなサイズを!」
「このサイズだと捌くのも大変そうですね」
「そうですな。わし一人で捌くのも大変そうなので、人を呼んでくることにします」
なんとなく口調が変わった気がしないでもないけど、あえてツッコミはすまい。
モグノフの呼びかけで漁師が五人ほど集まってきたようだが、みんなそれぞれ驚きの声を上げている。お互いに自己紹介を済ませると、改めて釣り上げた魚へと目を向けた。
「こいつぁキングブルーテイルじゃねぇか」
どうやらこの魚の名前らしい。釣りの真っ最中のときも、釣りあげるたびにモグノフが魚の名前を教えてくれたが、まったく見たことのない異世界の魚もあってさっぱり頭に入ってきていなかった。
目元から尻尾まで、体の真ん中に青い模様が入っていて、尻尾は鮮やかな青色をした魚だ。
「このサイズだと……、一匹で五千万フロンは軽く超えそうだな」
おぉ、なかなかのお値段しますね。ってか今日はそんな巨大魚を何匹釣ったんだろうか。莉緒と二人で五十匹は釣り上げた気がするけど……、まぁ気にしないでおくか。
「どっちにしろ、早く解体しちまおうぜ」
「じゃあ俺たちも横で一緒に解体しますね」
大物の解体方法はタダで教えてもらえる約束だったので、ついでにここで教えてもらうことにしたのだ。
実践しながら教えてもらう予定なので、莉緒と二人で獲物を解体すべくもう一匹の魚を異空間ボックスから取り出す。わかりやすいように同じ種類のキングブルーテイルだ。
こうして巨大魚の解体が始まった。
しばらく経つと、どこから話を聞きつけてきたのかギャラリーが集まりだしてきた。どうやら巨大魚が釣れるといつも解体ショーのようになり、売り物にならない端の切り身や日持ちしない部位がその場で振る舞われるらしい。
「今回はスゲーな。二匹も釣れたのか……」
ギャラリーの言葉通り今回は二匹である。しかも――
「あっちの解体どうなってんだ……」
「身が勝手に浮いたりしてるぞ」
「あんな細い刃物でよく折れないな」
俺たちを物珍しそうに眺める見物客が多い。漁師たちは五人がかりで解体道具をふんだんに使って、巨大魚と格闘している。巨大魚の胴体を跨ぐようにしてコの字型に変形した脚立を配置し、その上に乗った人物が切り離した身を持ち上げて支えていたりするのだ。
一方俺たちは、刃渡り五十センチくらいの脇差風の刀一本で魚を解体している。以前自作した武器だが、魚を切り分ける用途でも大活躍だ。切れ目を入れた身を魔法で持ち上げて支え、巨大な魚を切り分けているところだ。
漁師たちにコツを聞きながら、順調に解体を進めていく。
気が付けば日も暮れて、薄暗くなっていた。周囲にはいつの間にか明かりが灯され、料理が振る舞われ始めていて、お祭り状態になっている。
「すげー美味い! なんだこれ!」
俺たちも食材を提供しているが、マヨネーズを使ったカルパッチョ風料理は高評価を得ている。自分たちで捌いた魚はすでに異空間ボックスの中ではあるが、モグノフへ進呈した巨大魚の切り身はすでに客との取引が始まっているようだ。
「冒険者ギルドで解体するのとはまた違った雰囲気だな」
「ギルドには見物客なんていないしね」
冒険者風の見た目の人物から街人や首にチョーカーを巻いた奴隷まで、さまざまな人たちが料理に舌鼓を打っている。
刺身や焼き魚に魚介スープなど、様々な料理が振る舞われている。内臓を使った料理ともなれば今日限定になるらしい。しっかり作り方を教わっておかなければ。
「がははは! まさかこんな大事になるとは思わなかったが、いい思いをさせてもらった。ありがとう!」
モグノフがやってくると、そう言葉を切り出した。
「いえいえ、モグノフさんに船に乗せてもらったからこそ思いついた釣りの方法ですから」
「まったくだ。釣れない桟橋で釣りをしてる冒険者を相手に、ちょっとした小遣い稼ぎ目的で声を掛けただけなんだがなぁ」
がははと豪快に笑うモグノフに、バシバシと背中を叩かれる。
「明日の朝市はちょっと盛大になりそうだな。水揚げされた他の海産物もいつも通り出るだろうし、あんたたちも来てみるといい」
鮮魚を扱う露店などは見回ったけど、港の朝市は来たことがなかった。これは食材の仕入れが捗るかもしれない。
「ぜひそうさせてもらいます」
こうして突発的に起こった港での祭りを楽しんだ。
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