121 / 421
第二部
商都を堪能してみよう
しおりを挟む
「ただいまー」
「おかえりなさいませ」
宿へと帰ってスイートルームの玄関を開けると、お付きのメイドが待ってましたとばかりに挨拶を返してきた。今まで一度もタイミングを外したことがない。
「わふーーーーー!」
同時にニルが飛びかかってくる。
「おわっ」
相当退屈していたらしく、俺を押し倒すと顔じゅうをべろべろと舐められる。
「うわっぷ、わかったからやめろ!」
「あはは!」
こりゃもうダメだ。明日思いっきり遊ばせに行こう。
「明日は遊びに行くぞ!」
「わふぅ!」
というわけで翌朝、フルールさんに聞いた広い場所へと早速やってきた。街の北東には、遠くに高い山が見える丘陵地帯が広がっていた。丘のくぼみに入ってしまえば、遠くからは完全に見えなくなる。これなら多少暴れても問題ないかもしれない。
「とはいえ念には念を入れておくか」
「わかった。結界を張っておくね」
「よろしく」
莉緒は俺たちから離れると、広範囲を囲う様にして防御結界を張る。魔力の高まりを感じると同時に、キンという音が響く。これは空間遮断系の魔法かな。それなりに強力な魔法使っても大丈夫かもしれない。上空は囲まれていないのでほどほどにしておかないとダメだが。
遊ぶといってもニルは従魔だ。ボールを投げて取ってこいとかで満足するとも思えない。それに今後のことを考えると、ニルと共闘できるようになっておく必要もあるだろう。実力を図るという意味でも手っ取り早いのは模擬戦だろう。
「じゃあ行くぞ!」
「わぅ!」
一足飛びでニルへと迫ると、顎めがけて牽制の突きを放つ。が、そこにはニルの姿はない。背後から脚の爪が振りかぶって放たれたため、そのまま前方へと転がる。
そこにニルが突っ込んでくると、起き上がったと同時に防御した腕に一撃を受けて吹き飛ばされた。そのまま結界の壁へと両足で着地すると、結界を蹴りつけてまたニルへと迫る。
しばらく攻防が続くが、どちらも譲らずお互いに一撃を与えることができていない。次第に魔法も駆使して攻防が続くが、ただ地面が抉られていくだけである。次第に空中へと駆けあがっていき、動きが三次元となっていく。
気が付けば俺も空中を蹴って飛び上がれるようになっていた。これは嬉しい誤算だ。
「はい、そろそろ終わりね!」
調子が上がってきたところで、莉緒から制止の声がかかった。気が付けば莉緒の結界の内側の地面は掘り返され、一部には大穴が空いている。
「いいところだったのに、まぁしょうがないかな」
「わふぅ……」
ニルはすごくしょんぼりしているが、その姿もまた愛嬌があるな。Sランクの魔物らしいけど、そんなに怖くないと思うんだよね。
気を取り直したのか、自身に降り積もった埃を吹き飛ばすように全身を震わせると、俺へと飛びかかってべろべろと顔を舐めまわしてきた。
「あああ、わかったから! また今度やろうな!」
ニルを手で制すると首周りをひたすらもふってやる。大人しくなったところで水魔法で顔を洗い、掘り返された地面を土魔法で平らにしておいた。
「準備運動にもならなかったけど、まぁこんなもんじゃないかな」
結界を張っていたとはいえ、これ以上やると丘陵地帯が大変なことになりそうだ。
結局このあとは、遠くに見える山のふもとまで競争したり、そこで現れた魔物を討伐したりして一日が過ぎていった。
さらに翌日はニルを連れて中央広場や周辺をぶらつき、屋台巡りを堪能した。もちろん屋台以外の店も冷やかしたけど、オークションに出品された品を見た後だと当たり前だが見劣りする。
「これはオークションの前に街を見て回るべきだったか」
「もう手遅れだけどね」
ちなみに商業ギルドに寄って預金残高も確認してみたけど、数字が十一桁並んでいたのを見たときはちょっと脳がフリーズしてしまった。ちなみに商業ギルドのギルド証は、あらかじめ商都に来る前にもらっていたので残高確認も問題なかった。
商都を堪能して四日目。今日こそボチボチ仕事でもしてみますかね。
ということで万能なメイドさんに見送られて、朝から冒険者ギルドへとやってきた。
前回来た時より視線を集めてる気がするけど、ニルがいるからかな。
「お手軽な依頼でもあればいいんだけど」
「そんな依頼があれば他の人に取られてるでしょ」
「報酬の安い依頼なら残ってるかもな」
「あはは」
依頼ボードの前は、これから仕事を受けようという人でごった返していた。いろいろ依頼があるけど、商都ならではの依頼が多そうだ。素材採集や商隊の護衛依頼、商会での雑用などなど。
「ちょっとすまん」
「はい?」
依頼を物色していると、後ろから声がかかる。
「もしかしてシュウとリオってのはあんたたちのことか?」
振り返るとギルド職員のようだった。ちらりとニルを横目に気にしているようだけど、いきなり襲い掛かったりはしないので大丈夫ですよ。
「そうですけど、何か用ですか?」
せっかく依頼を探しに来たのに間が悪いな。依頼を受けにカウンターで受付した後とかじゃダメだったんだろうか。必要に駆られたわけでもなく暇つぶしとも言えるけど、よさげな依頼がなくなってしまうじゃないか。
「ギルドマスターが用があるとのことで、今から来てくれだとさ」
今から?
「え、嫌ですけど」
こちらの予定を全く考えていない職員の言葉に、反射で答えてしまった。
「おかえりなさいませ」
宿へと帰ってスイートルームの玄関を開けると、お付きのメイドが待ってましたとばかりに挨拶を返してきた。今まで一度もタイミングを外したことがない。
「わふーーーーー!」
同時にニルが飛びかかってくる。
「おわっ」
相当退屈していたらしく、俺を押し倒すと顔じゅうをべろべろと舐められる。
「うわっぷ、わかったからやめろ!」
「あはは!」
こりゃもうダメだ。明日思いっきり遊ばせに行こう。
「明日は遊びに行くぞ!」
「わふぅ!」
というわけで翌朝、フルールさんに聞いた広い場所へと早速やってきた。街の北東には、遠くに高い山が見える丘陵地帯が広がっていた。丘のくぼみに入ってしまえば、遠くからは完全に見えなくなる。これなら多少暴れても問題ないかもしれない。
「とはいえ念には念を入れておくか」
「わかった。結界を張っておくね」
「よろしく」
莉緒は俺たちから離れると、広範囲を囲う様にして防御結界を張る。魔力の高まりを感じると同時に、キンという音が響く。これは空間遮断系の魔法かな。それなりに強力な魔法使っても大丈夫かもしれない。上空は囲まれていないのでほどほどにしておかないとダメだが。
遊ぶといってもニルは従魔だ。ボールを投げて取ってこいとかで満足するとも思えない。それに今後のことを考えると、ニルと共闘できるようになっておく必要もあるだろう。実力を図るという意味でも手っ取り早いのは模擬戦だろう。
「じゃあ行くぞ!」
「わぅ!」
一足飛びでニルへと迫ると、顎めがけて牽制の突きを放つ。が、そこにはニルの姿はない。背後から脚の爪が振りかぶって放たれたため、そのまま前方へと転がる。
そこにニルが突っ込んでくると、起き上がったと同時に防御した腕に一撃を受けて吹き飛ばされた。そのまま結界の壁へと両足で着地すると、結界を蹴りつけてまたニルへと迫る。
しばらく攻防が続くが、どちらも譲らずお互いに一撃を与えることができていない。次第に魔法も駆使して攻防が続くが、ただ地面が抉られていくだけである。次第に空中へと駆けあがっていき、動きが三次元となっていく。
気が付けば俺も空中を蹴って飛び上がれるようになっていた。これは嬉しい誤算だ。
「はい、そろそろ終わりね!」
調子が上がってきたところで、莉緒から制止の声がかかった。気が付けば莉緒の結界の内側の地面は掘り返され、一部には大穴が空いている。
「いいところだったのに、まぁしょうがないかな」
「わふぅ……」
ニルはすごくしょんぼりしているが、その姿もまた愛嬌があるな。Sランクの魔物らしいけど、そんなに怖くないと思うんだよね。
気を取り直したのか、自身に降り積もった埃を吹き飛ばすように全身を震わせると、俺へと飛びかかってべろべろと顔を舐めまわしてきた。
「あああ、わかったから! また今度やろうな!」
ニルを手で制すると首周りをひたすらもふってやる。大人しくなったところで水魔法で顔を洗い、掘り返された地面を土魔法で平らにしておいた。
「準備運動にもならなかったけど、まぁこんなもんじゃないかな」
結界を張っていたとはいえ、これ以上やると丘陵地帯が大変なことになりそうだ。
結局このあとは、遠くに見える山のふもとまで競争したり、そこで現れた魔物を討伐したりして一日が過ぎていった。
さらに翌日はニルを連れて中央広場や周辺をぶらつき、屋台巡りを堪能した。もちろん屋台以外の店も冷やかしたけど、オークションに出品された品を見た後だと当たり前だが見劣りする。
「これはオークションの前に街を見て回るべきだったか」
「もう手遅れだけどね」
ちなみに商業ギルドに寄って預金残高も確認してみたけど、数字が十一桁並んでいたのを見たときはちょっと脳がフリーズしてしまった。ちなみに商業ギルドのギルド証は、あらかじめ商都に来る前にもらっていたので残高確認も問題なかった。
商都を堪能して四日目。今日こそボチボチ仕事でもしてみますかね。
ということで万能なメイドさんに見送られて、朝から冒険者ギルドへとやってきた。
前回来た時より視線を集めてる気がするけど、ニルがいるからかな。
「お手軽な依頼でもあればいいんだけど」
「そんな依頼があれば他の人に取られてるでしょ」
「報酬の安い依頼なら残ってるかもな」
「あはは」
依頼ボードの前は、これから仕事を受けようという人でごった返していた。いろいろ依頼があるけど、商都ならではの依頼が多そうだ。素材採集や商隊の護衛依頼、商会での雑用などなど。
「ちょっとすまん」
「はい?」
依頼を物色していると、後ろから声がかかる。
「もしかしてシュウとリオってのはあんたたちのことか?」
振り返るとギルド職員のようだった。ちらりとニルを横目に気にしているようだけど、いきなり襲い掛かったりはしないので大丈夫ですよ。
「そうですけど、何か用ですか?」
せっかく依頼を探しに来たのに間が悪いな。依頼を受けにカウンターで受付した後とかじゃダメだったんだろうか。必要に駆られたわけでもなく暇つぶしとも言えるけど、よさげな依頼がなくなってしまうじゃないか。
「ギルドマスターが用があるとのことで、今から来てくれだとさ」
今から?
「え、嫌ですけど」
こちらの予定を全く考えていない職員の言葉に、反射で答えてしまった。
22
お気に入りに追加
513
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる