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第二部

オークションの終わり

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 最終的に吸血鬼族の犯罪奴隷は二十三億フロンで落札されていった。魅了されたせいかどうかはわからないが、落札した人物には同情を禁じ得ない。
 こういうことがルール違反なのかどうかわからないが、フルールさんも何も言わないし合法なんだろうか。

「では本日最終となりました、最後の商品となります!」

 司会の言葉と共に会場のボルテージも最高潮だ。とうとうあれの出番らしい。

「今回のオークション目玉商品となります、エンシェント赤竜レッドドラゴンの鱗の登場です!」

 大歓声に包まれて目的の鱗が台車に乗せられて舞台へと姿を現す。
 とたんに静まり返る観客から、ぽつりぽつりと感嘆の声が聞こえてくる。

 長辺が一メートル、短辺が八十センチの鱗だ。その大きさから想像できる、エンシェント赤竜レッドドラゴン本体の最低限のサイズでも体長数十メートルは超えそうである。

「それでは、三十億フロンからの開始となります!」

 ぐおぉぉ、マジですか。まさかの三十億からの開始。

「さ、三十億……」

 莉緒もポカンと口を開けている。俺たちが出品したものだからして見守るしかないが、すごい勢いで入札されていく。
 気が付けば五十億を超えた。いったいどうなっとるんだ。エンシェント赤竜レッドドラゴンってそんなにレアなのか。会ったことはないけどさ……。

「私もここまでとは思いませんでした……」

 フルールさんも驚きの結果のようである。

「出ました、六十八億フロン! さぁ他にはいらっしゃいませんか!?」

「おぅふ」

「いらっしゃらないようですので――」

 そこで司会者は言葉を切り、観客席一同をぐるりと見回すと。

「古赤竜の鱗は六十八億フロンでの落札となります!!」

「「「「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」」

 この日最高潮となる叫び声がオークション会場へと響き渡る。

「過去に類を見ない最高金額となりました! それではこれにてオークションを閉会とさせていただきます!」

 こうして三日間開かれたオークションが幕を下ろした。



「お疲れ様でした」

 ようやく終わったオークションにホッと一息をつく。ここはラシアーユ商会本部のとある一室だ。

「はい、お疲れ様でした」

「いやー、面白かったなぁ」

「楽しんでいただけたようでよかったです。それに、売り上げもすごかったですからね」

「そうですね。……急にお金持ちになったりすると落ち着かないですね」

「ふふふ、お二人なら大丈夫でしょう。それにこれからもまだまだ特許分の儲けが入ってきますよ」

 そういえばそうだった。
 単純にベルドラン工房をどうにかしたいと思って始めたお金稼ぎだったけど、まさかこんなに売り上げが出るとは思っていなかった。

「売り上げはオークション主催者側が一割、そして仲介した我が商会が手数料として一割頂きます。お二人の取り分としては、明日の午前中に商業ギルドの指定口座に振り込まれますのでご確認ください」

「わかりました」

 商業ギルドへ登録すると自動的に口座が作られる。直接現金のやり取りをしなくて済むのは便利だな。お金ってけっこう嵩張るし。
 何より世界中に展開しているどこの商業ギルドでもお金が下ろせるというのがいい。冒険者ギルドにも似たような銀行機能はあるけど、預けたお金を他の街のギルドで下ろそうと思ったら、その街のギルドに自分のお金を送る手続きをしないといけないらしいんだよね。もともと使ってなかったから知らなかったけど、わざわざそんな手続きが必要っていうのは面倒だ。

「この後の予定はどうされますか?」

「結婚の儀が十日後なので、それまでにはレイヴンには戻りたいですけど」

「そういえばそうでしたね! あの、私も参加させていただいてもよろしいでしょうか?」

「えっ? 結婚の儀ですか?」

「はい」

 思わず莉緒と顔を見合わせるが、特に断る理由もない。

「ええ、かまいませんよ。何かもてなしができるわけでもありませんが……」

 日本だと披露宴とかあるんだろうけど、この世界の結婚の儀はあっさりしたものだ。一度見学したけどすぐに終わったしな。

「ありがとうございます」

「それまでどうしようか?」

「ちょっと観光してみたいね」

「おう。あとは冒険者ギルドにも顔出して、どんな依頼があるか見に行こう」

「それでしたら、いくつか商都の観光地をご紹介させていただきますよ」

「そうなんですか、ありがたいです」

 あとはニルとも遊んでやらないとな。この三日間ずっと留守番だったから拗ねてるかもしれない。

「ここの商業ギルドもかなり大きいですからね。見て回ると面白いかもしれません」

「ほー」

「中央広場の露店もいろいろありますが、中央広場の外周にも各種店舗があって面白いですよ」

「へぇ、外周エリアにもいろいろあるんですね」

「そういえば街の外に誰も人が来ない広い場所ってありますかね」

「広い場所……ですか」

「はい。ちょっとニルを思いっきり遊ばせたいと思って」

「なるほど。それなら街の北東がちょうどいいかと思います。街道は北と東に伸びていますが、北東には何もありませんので」

「そうなんですね。ありがとうございます」

「あ、そういえば宿ですが、商都ご滞在中はどうぞそのままご利用ください」

「いやいや、さすがにそれは悪いですよ」

 あれだけオークションで稼がせてもらったのだ。オークションが終わった今、ずっとラシアーユ商会持ちで泊まるのも気が引ける。

「いえいえ、これも接待の一環ですので。まだまだ儲かるネタがあればお願いいたします」

 ニコリと笑顔を向けられると何とも抗いがたいものを感じてしまう。もちろん俺には断ることはできなかった。
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