上 下
118 / 414
第二部

白金の部

しおりを挟む
 オークションの二日目も何事もなく過ぎて行った。魔剣とか出てきて興味は惹かれたけど、どうせなら三日目にもっとすげぇもんが出てくるんじゃないかと期待してたりはするけど。魔物の素材も出てきたけど、地竜よりも先に出てきたものだからかこれといって興味を惹かれるものでもなかった。

「ではさっそく、白金の部後半最初の品物はこちらです」

 白金の部は最低落札価格が一千万フロンからだが、前半の最後は五千万からになっていた。なんというかもう、昨日あたりから金銭感覚がさっぱりわからなくなってきている。

「最低落札価格は一億フロンから。稀に出品されますが、今回もどうやら出品されたようです。人気のエリクサーが登場です!」

「なぬっ」

「えっ?」

 台車に乗せられた容器を凝視する。中身の液体を意識して鑑定をかけると、確かにエリクサーと出てきた。説明文にも確かに、四肢欠損まで回復すると記載されている。

「本物だ……」

 商業国家に初めて入国した日のことが思い出される。偽物のエリクサーを一千万で掴まされたが、まさかここにきて本物を見られるとは思っていなかった。
 さすがに人気商品なのか、すでに三億まで入札が入っている。

「本物はこんなに高かったのね……」

 莉緒も呆れ顔だが、やっぱり四肢欠損まで治すとなるとこれくらいの値段はするんだろう。にしてもミスリルの部にならないってことは、そこそこ出回る商品でもあるのか。

「念のため手に入れておくのもありだな」

「そうね。幸いにお金もあるし」

「よし……。四億だ!」

 三億五千万の入札が入ったところで被せるように叫ぶ。
 だが相手もさることながら次々と値段を吊り上げてくる。五億を超えたところで俺たちともう一人の一騎打ちの様相を呈してきた。

「今回はなかなか吊り上がりますね……」

「そうなんですか?」

 フルールさんの言葉に普段の値段を聞いてみると、安い時であれば二億フロン程度で落札されるらしい。よほど重傷者がいて緊急でもなければそんなものなのだとか。

「ということは、相手には今すぐにでもエリクサーを使いたい人がいるってことですか?」

「その可能性は高いと思います」

「あー、そうなんだ……。なんか悪いことしたような気になるな」

「気にする必要はないと思いますけれど」

「念のために備えたいだけだし……。どうしようか?」

 莉緒も話を聞いて乗り気じゃなくなってきたようだ。自分たちのための備えとはいえ、今必要な人を蹴落としてでもというものでもない。

「うーん。今回は譲っておこうか?」

「うん。そうしよう」

 自分たちのせいで助からなかった人がいるのかも、ともやもやした思いをし続けるくらいならすっぱり諦めよう。

「六億五千万フロンです! 他にいらっしゃいませんか!」

 言葉と共に司会者が会場をぐるっと見渡す。その間誰も入札がないことを確認し、六億五千万で落札された旨が高らかに宣言された。



「では続きまして、本日の目玉商品の先鋒とも言える一品でございます」

 いくつかの商品が落札され、ようやくその時がやってきた。
 舞台の裏から台車が運ばれてくる。その上に鎮座しているのは巨大な爪だ。

「地竜の爪、なんと両手両足分の二十本がすべてそろっております!」

 司会者の言葉に会場にどよめきが広がっていく。

「うふふ、ようやく出てきましたわね」

 フルールさんが嬉しそうに振り返ると、俺たちへと順に視線を向ける。確かにこれはちょっとドキドキしてきたぞ。

「いくらの値段がつくのか、ちょっと楽しみね」

「では五億フロンからの開始となります!」

「六億!」

「七億!」

 開始と共に次々と入札が行われていく。増加単位が一億だ。どうなってんだこれ……。もう十億超えたぞ。

「いやいやいや、地竜人気すぎでしょ」

「すごいわね……」

「滅多に出るものではないですからね。ワイバーンやレッサー種ではない、正しくドラゴンと称されるものがオークションに出品されるのは十数年ぶりではないでしょうか」

「へぇ、そりゃまたすごい」

「エリクサーはどれくらいの頻度で出るのかしら?」

 莉緒がオークションそっちのけで首を傾げている。

「エリクサーはそこまで珍しくありません。ダンジョンからもたまに産出されますし、一年に一度あるかないかくらいの頻度でオークションには出てきますよ」

 ほほぅ。その場で使っちゃう人もいるだろうし、実際にはもっと手に入りやすいのかもしれないな。

「では、十六億フロンでの落札となります!」

 気が付いたら地竜の爪が落札されていた。ミスリルの部の最低落札価格を超える値段になっている。

「すげーな、地竜」

 その後に出品された地竜の牙は八億フロンからの開始となった。もちろんこれも順調に入札が進み、最終的には二十一億フロンでの落札となった。

「ははは……」

 もう乾いた笑いしか出ない。このあとミスリルの部での出品も控えてるんだろ? 所持金がもう一桁くらい増えそうだよな。
 その後に数品ほど白金の部として出品されたが、どれも地竜の品の落札価格を超えるところまではいくことはなかった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。

円城寺正市
ファンタジー
勇者が行方不明になって数年。 魔物が勢力圏を拡大し、滅亡の危機に瀕する国、ソルブルグ王国。 洞窟の中で目覚めた主人公は、自分が亡霊になっていることに気が付いた。 身動きもとれず、記憶も無い。 ある日、身動きできない彼の前に、ゴブリンの群れに追いかけられてエルフの少女が転がり込んできた。 亡霊を見つけたエルフの少女ミーシャは、死体に乗り移る方法を教え、身体を得た彼は、圧倒的な剣技を披露して、ゴブリンの群れを撃退した。 そして、「旅の目的は言えない」というミーシャに同行することになった亡霊は、次々に倒した敵の身体に乗り換えながら、復讐すべき相手へと辿り着く。 ※この作品は「小説家になろう」からの転載です。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

処理中です...