上 下
106 / 414
第二部

護衛依頼を受けよう

しおりを挟む
「護衛の依頼ですね」

 フルールさんと共に冒険者ギルドへとやってくると、さっそく護衛依頼を出す。

「ええ。護衛依頼はこの二人に受けていただこうと思っているので、よろしくお願いしますね」

「畏まりました。商都までの護衛であれば治安は悪くありませんので、Dランクの依頼となります」

 以前と同じように指名依頼を出すが、どうやら今回は依頼のランク査定はその場で出たようだ。

「この場で依頼を受けていかれますか?」

「はい。お願いします」

 前回と同じようにすぐに依頼を受けるためにギルド証を職員へと預けたのだが。

「……もしかして護衛依頼は初めてでしょうか?」

 職員の疑問に頷きを返すと、少し困った表情になる。

「申し訳ございませんが護衛依頼を初めて受ける場合は、経験者が随行していただく必要がございまして。ランクが足りていてもお二人だけで受けることはできないんです」

「あら、そうなんですね……。どうしましょう」

 職員と同じく困った表情になるフルールさんだけど、俺たちはいい解決方法を持っていない。というか誰か他の人についてもらわないといけないとは思わなかった。
 でもまぁ護衛初心者だけに護衛されるというのも、依頼者側からすればたまったもんじゃないよな。

「ですので、護衛随行員の依頼を出させていただきます。元々が指名依頼とのことで、随行員の依頼もフルール様からしていただく必要がございますが……」

「わかりました。それでお願いします」

「畏まりました」

 俺たちを指名依頼で護衛につけたいのであれば、しょうがないことではあるな。

「出発日は六日後でよろしいでしょうか」

「はい、それでお願いします」

「では依頼票を作成してボードに張り付けておきます」

「わかりました」

 こうして冒険者ギルドへ護衛の依頼を出して、俺たちは解散することとなった。
 そして早くも翌日には、護衛依頼の随行員が決まったと連絡が入った。



 魔法瓶を作っては納品したり、コツを職人たちに教えたり、新しい商品を考えたり、魔法の練習をしたり、ニルと遊んだり、たまに鉱山へ行ったりしている間に六日が経った。ベルドラン工房へも一度様子を見に行ったが、無事店を畳まなくて済むようになったと喜んでいた。

 宿を引き払って北へ向かい、途中にあるラシアーユ商会でフルールさんと合流する。

「おはようございます。本日はよろしくお願いしますね」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 出品される部位ごとに解体された地竜を回収すると、馬車に乗せてもらい北門へと向かう。御者台に並んで座るスペースがある程度だ。フルールさんはそっちに座っているので、俺たちは後ろの荷台の隙間に足を掛けて乗っているだけだ。荷台にはそこそこ荷物が積まれており、乗るスペースのないニルは後ろからついてくる。

「随行員の依頼を受けた冒険者は北門前で合流いたします」

 以前地竜の血を回収していたランベルさんが、御者台から声を掛けてきた。

「わかりました」

 商会からはフルールさんとランベルさんの二人が商都に向かう。商都までは治安がいいとのことだが、初めての護衛依頼となるとちょっとだけ緊張するな。随行員の人もどんな冒険者が来るんだろうか。
 などと考えている間に北門に着いてしまった。

「あんたたちが依頼人のラシアーユ商会かい?」

「はい。ランベルと申します」

 馬車の前方から聞こえる声から想像するに、声を掛けてきた人物が随行員の冒険者だろうか。野太く自信のある声が、なんとなく経験豊富なベテランを想像させる。

「で、今回は随行員だけど、初めて護衛依頼を受ける冒険者はまだ来てないのか?」

「いえ、商会で合流して一緒に来ております」

 馬車を先に降りると莉緒とフルールさんも続いて降りてくる。
 ランベルさんと話をしていたのは、大剣を腰に提げた体格のいい女性冒険者だった。かなり見上げないと表情を伺うことができない。にしても野太い声がこの人から聞こえてくるので違和感がすごい……んだけど、なんだろう。

「初め……まして? Dランク冒険者の柊です」

 この違和感に心当たりがあって、思わず「初めまして」の言葉が疑問形になってしまった。

「あら?」

 俺へと視線を向けると、女性冒険者の眉間に皺が寄る。

「初めましてじゃないよ」

 と同時に莉緒から小さな声でツッコミがきた。

「アリッサさん……、ですよね。同じくDランクの莉緒です。今日はよろしくお願いしますね」

「あぁ、あのときの。Cランクのアリッサだ。よろしくな!」

「あはは! もしかしてあのときの可愛い坊やじゃないのさ! アタイはメルベリットってんだ。メルって呼んでくれ」

「ウフフ、本当ですね。わたしはフレリスと申します。今日はよろしくお願いしますね?」

 よく見れば後ろにも二人、大きい盾を背負った女性と、自分の身長と同じくらいの杖を持った女性がいた。
 ここまでくると俺も完全に思い出していた。確かフェンリルの村で天狼茸の常時依頼とか木材とか、いろいろアドバイスをもらった冒険者だ。パーティーを組んでいるらしいのは知っていたけど、彼女たちがそうなのか。

「あら、お互い面識があったのですね」

「フェンリル村まで仕事で行ったときに偶然ね」

 フルールさんの言葉に、アリッサさんが俺を見下ろせる位置にまで近づいてきた。こっちも見上げる角度が大きくなって大変だ。

「なんにしても」

 体格に見合った大きな手を掲げてポンと俺の頭の上に乗せると。

「あたしが護衛について手取り足取り教えてあげるよ」

 自信満々に告げるのだが。

「うおぉっ!?」

 ニルの姿を見て素早く後ろへ下がると、腰につるした大剣に手を掛けるのだった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。

円城寺正市
ファンタジー
勇者が行方不明になって数年。 魔物が勢力圏を拡大し、滅亡の危機に瀕する国、ソルブルグ王国。 洞窟の中で目覚めた主人公は、自分が亡霊になっていることに気が付いた。 身動きもとれず、記憶も無い。 ある日、身動きできない彼の前に、ゴブリンの群れに追いかけられてエルフの少女が転がり込んできた。 亡霊を見つけたエルフの少女ミーシャは、死体に乗り移る方法を教え、身体を得た彼は、圧倒的な剣技を披露して、ゴブリンの群れを撃退した。 そして、「旅の目的は言えない」というミーシャに同行することになった亡霊は、次々に倒した敵の身体に乗り換えながら、復讐すべき相手へと辿り着く。 ※この作品は「小説家になろう」からの転載です。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

処理中です...