105 / 421
第二部
めでたいことはすべてが終わった後で
しおりを挟む
「といっても、俺たち護衛の仕事の経験ないですよ?」
「Dランク冒険者になったばっかりですし」
俺たちで大丈夫なのかとフルールさんに告げるも、「問題ありません」と返ってきた。
「商都までの街道は整備されていて、魔物や盗賊などは滅多に出ませんので。それに――」
フルールさんはいたずらっぽい笑顔を浮かべると、一拍置いて話を続ける。
「護衛依頼の達成ができれば、お二人もCランクが近づくでしょう?」
「あはは! 確かにそうね!」
そういうことであればこちらとしても拒否する理由はない。むしろ大歓迎だ。
「あ、ちなみにオークションっていつでしょう?」
「えーっと……、次のオークションは十日後になりますね」
十日後なら大丈夫か。直近の予定は結婚式だけだし……、って明日か!
昨日いろいろありすぎて忘れてたけど、そういえば明日だったか。準備はできてるから問題ないといえば問題ないが……。
ちょっと延期を考えようか。憂いはすべて解決してからの方が、気分よく結婚式を挙げられるだろ。招待客もいないしな。
「十日後ですか」
「はい。オークションは十日後ですが、来週にでも商品の輸送をしようと思っていますのでよろしくお願いします」
「わかりました。こちらこそよろしくお願いします」
フルールさんにオークションの開催期間など詳細を確認した後、俺たちはラシアーユ商会を後にした。
「さて、莉緒さんや」
「……どうしたの?」
宿へと戻る道すがら、真面目な顔で話しかけると莉緒が首を傾げつつこちらを振り向く。
「いや、結婚式のことなんだけどな」
「あ、私もそのこと考えてたのよね」
「そうなんだ」
「うん。このまま明日結婚式挙げても、なんだかもやもやしたままだからどうしようかなって思って」
「あはは、同じこと考えてたな」
莉緒と意見が合うようで嬉しいね。俺の我儘かもしれないけど、微妙な状況でも式を決行しようと言われなくてよかった。
「じゃあ……」
「おう。延期できるか神殿に行ってみようか」
莉緒の言葉を引き継いで言葉を続けると、力強く頷きが返ってきた。
結論から言えば延期は簡単だった。
「なんじゃい、待たせるような男はモテんぞ?」
という言葉をもらってしまったが。
基本的には本人だけで済ませる結婚の儀だ。神殿側としても相手が変わるだけで準備自体は共通だし、前日までであれば日程変更はいつでも受け付けているとのこと。ただし払った喜捨は、たとえ結婚の儀をキャンセルしたとしても返って来ないみたいだが。
「よし、これで大丈夫かな」
十日後にオークションが三日間行われ、往路に二日かかるとして二週間ちょい。だけどこの世界何が起こるかわからないからな。数日の余裕は見ておかないと。
「うん。三週間あれば大丈夫だと思うわよ」
というわけで俺たちの結婚式は三週間後とした。
「あれ、今日はお二人とも神殿ではなかったですか?」
翌朝またラシアーユ商会に顔を出すと、フルールさんに怪訝な表情をされた。
「結婚の儀はちょっと延期しまして」
すべて綺麗に片付いてからにしようと話し合った結果をフルールさんに説明すると、納得がいったと満面の笑顔になる。
「そうですわね。トチリアーノ殿には表舞台から消えてもらわないと、心からお祝いなんてできないですものね」
黒い笑顔で物騒なことをのたまうフルールさんだけど、概ね同感である。
そんなこんなで今日は、オークションに出すほどでもない小物の売却にきたのだ。小物と言えども十メートルは超えるグレイトドラゴンは三億フロンを超えたりと、まったく少額ではなかったが。
「これらが我が商会の利益となるまでにはまだ少し時間がかかりますが、各工房などへの融資は早めに始めさせていただきますね」
「はい、お願いします」
加工して売りに出されるまでは利益として出てこないだろうが、早いうちから始めてもらえるのであればありがたい。
「あとひとつご相談があるのですが……」
倉庫の片隅にあるテーブルで向かい合った俺たちに、フルールさんがそう切り出した。
「なんでしょう?」
一息ついたところで出されたお茶を飲みながら話の続きを促す。
「実は教えていただいた魔法瓶の製造なのですが、どうやら職人たちには作るのが難しいようでして」
「あ、そうなんですね」
思ったより簡単に作れるけど、やっぱりマシマシスキルのおかげだったか。
「ええ。空気の層を作ることはできるようなのですが、真空となるとなかなか。空気の層を使った魔法瓶でも、ひとつ作るのに時間がかかる上に不格好になってしまって」
それでもミミナ商会で販売している保温カップよりは効果が高いそうだ。その分値段を安く売りだすつもりらしいが、真空容器の魔法瓶のほうがなんとかならないかという話だった。
「であれば最初の内は俺たちがいくつか作って納品しますよ。職人たちに直接レクチャーしてもいいですし」
作るのにそれほど労力はかからないし。
「そうしていただけると助かります」
「気にしないでください」
そうしてあれこれと小物を売却したのちに、今度は護衛依頼の話となる。俺たちが運ぶなら馬車は一台で済むそうだ。確かに、でかい地竜をほぼまるまる運ぶとなると、馬車もいっぱい必要だよな。
お昼過ぎには依頼を出しに冒険者ギルドへと向かうとのことで、俺たちも一緒に向かうことになった。
「Dランク冒険者になったばっかりですし」
俺たちで大丈夫なのかとフルールさんに告げるも、「問題ありません」と返ってきた。
「商都までの街道は整備されていて、魔物や盗賊などは滅多に出ませんので。それに――」
フルールさんはいたずらっぽい笑顔を浮かべると、一拍置いて話を続ける。
「護衛依頼の達成ができれば、お二人もCランクが近づくでしょう?」
「あはは! 確かにそうね!」
そういうことであればこちらとしても拒否する理由はない。むしろ大歓迎だ。
「あ、ちなみにオークションっていつでしょう?」
「えーっと……、次のオークションは十日後になりますね」
十日後なら大丈夫か。直近の予定は結婚式だけだし……、って明日か!
昨日いろいろありすぎて忘れてたけど、そういえば明日だったか。準備はできてるから問題ないといえば問題ないが……。
ちょっと延期を考えようか。憂いはすべて解決してからの方が、気分よく結婚式を挙げられるだろ。招待客もいないしな。
「十日後ですか」
「はい。オークションは十日後ですが、来週にでも商品の輸送をしようと思っていますのでよろしくお願いします」
「わかりました。こちらこそよろしくお願いします」
フルールさんにオークションの開催期間など詳細を確認した後、俺たちはラシアーユ商会を後にした。
「さて、莉緒さんや」
「……どうしたの?」
宿へと戻る道すがら、真面目な顔で話しかけると莉緒が首を傾げつつこちらを振り向く。
「いや、結婚式のことなんだけどな」
「あ、私もそのこと考えてたのよね」
「そうなんだ」
「うん。このまま明日結婚式挙げても、なんだかもやもやしたままだからどうしようかなって思って」
「あはは、同じこと考えてたな」
莉緒と意見が合うようで嬉しいね。俺の我儘かもしれないけど、微妙な状況でも式を決行しようと言われなくてよかった。
「じゃあ……」
「おう。延期できるか神殿に行ってみようか」
莉緒の言葉を引き継いで言葉を続けると、力強く頷きが返ってきた。
結論から言えば延期は簡単だった。
「なんじゃい、待たせるような男はモテんぞ?」
という言葉をもらってしまったが。
基本的には本人だけで済ませる結婚の儀だ。神殿側としても相手が変わるだけで準備自体は共通だし、前日までであれば日程変更はいつでも受け付けているとのこと。ただし払った喜捨は、たとえ結婚の儀をキャンセルしたとしても返って来ないみたいだが。
「よし、これで大丈夫かな」
十日後にオークションが三日間行われ、往路に二日かかるとして二週間ちょい。だけどこの世界何が起こるかわからないからな。数日の余裕は見ておかないと。
「うん。三週間あれば大丈夫だと思うわよ」
というわけで俺たちの結婚式は三週間後とした。
「あれ、今日はお二人とも神殿ではなかったですか?」
翌朝またラシアーユ商会に顔を出すと、フルールさんに怪訝な表情をされた。
「結婚の儀はちょっと延期しまして」
すべて綺麗に片付いてからにしようと話し合った結果をフルールさんに説明すると、納得がいったと満面の笑顔になる。
「そうですわね。トチリアーノ殿には表舞台から消えてもらわないと、心からお祝いなんてできないですものね」
黒い笑顔で物騒なことをのたまうフルールさんだけど、概ね同感である。
そんなこんなで今日は、オークションに出すほどでもない小物の売却にきたのだ。小物と言えども十メートルは超えるグレイトドラゴンは三億フロンを超えたりと、まったく少額ではなかったが。
「これらが我が商会の利益となるまでにはまだ少し時間がかかりますが、各工房などへの融資は早めに始めさせていただきますね」
「はい、お願いします」
加工して売りに出されるまでは利益として出てこないだろうが、早いうちから始めてもらえるのであればありがたい。
「あとひとつご相談があるのですが……」
倉庫の片隅にあるテーブルで向かい合った俺たちに、フルールさんがそう切り出した。
「なんでしょう?」
一息ついたところで出されたお茶を飲みながら話の続きを促す。
「実は教えていただいた魔法瓶の製造なのですが、どうやら職人たちには作るのが難しいようでして」
「あ、そうなんですね」
思ったより簡単に作れるけど、やっぱりマシマシスキルのおかげだったか。
「ええ。空気の層を作ることはできるようなのですが、真空となるとなかなか。空気の層を使った魔法瓶でも、ひとつ作るのに時間がかかる上に不格好になってしまって」
それでもミミナ商会で販売している保温カップよりは効果が高いそうだ。その分値段を安く売りだすつもりらしいが、真空容器の魔法瓶のほうがなんとかならないかという話だった。
「であれば最初の内は俺たちがいくつか作って納品しますよ。職人たちに直接レクチャーしてもいいですし」
作るのにそれほど労力はかからないし。
「そうしていただけると助かります」
「気にしないでください」
そうしてあれこれと小物を売却したのちに、今度は護衛依頼の話となる。俺たちが運ぶなら馬車は一台で済むそうだ。確かに、でかい地竜をほぼまるまる運ぶとなると、馬車もいっぱい必要だよな。
お昼過ぎには依頼を出しに冒険者ギルドへと向かうとのことで、俺たちも一緒に向かうことになった。
25
お気に入りに追加
513
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる