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第二部
神殿で予約をしよう
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翌日。服飾店でサイズ合わせを行うと、その足で神殿へと向かう。仮縫いとはいえ、莉緒のドレス姿は見れなかったが、出来上がったあとを楽しみにしておこう。
神殿は街の北西にあり、以前に寄った神殿と同じく近づくほどに神官姿の人をよく見かけるようになる。
神殿は以前見た物とあまり違いはなかった。さすがに国が異なるとはいえ、神殿のつくりまでそうそう変わるものではないようだ。
「ここの神殿も大きいなぁ」
「だねぇ……」
しみじみと呟きながら、石柱の間を通り抜けて神殿の内部へと向かう。ここも派手さはないが、さすが職人の街というだけあってか細部にまでこだわった作りになっているような気がする。
「ようおいでなすったね。今日はヘルメウス神殿に何用で来られたんじゃね」
礼拝堂となっている場所で女神像を眺めていると、神官服を着た老齢の女性が声を掛けてきた。
どうやらここはヘルメウス神殿というらしい。前に来た神殿とは名前が違う気がするけど、地域によって異なるのか。
にしてもこんなところにニルを連れてきてよかったのかな。まぁダメなら何か言われるか。気にしないでおこう。
「あー、えーっと……」
しかし目的を告げようとすると、なんとなく恥ずかしくて言い淀んでしまう。
「なんじゃい、はっきりせん男じゃな。優柔不断はモテんぞ!」
バッサリと切られてしまった。モテなくても特に問題ない。というかモテても困るんだけどな……。
「あはは!」
莉緒にも大爆笑されてしまった。莉緒も関係あることなんだけどなぁ……。なんかちょっとだけ腹立ってきたぞ。こうなったら……。
勢いよく莉緒を腰から抱き寄せて、頬へと口づけする。
「莉緒と結婚の儀を行おうと思いまして」
「なんとまぁ。こりゃモテないとか言って悪かったねぇ」
「ちょ、ちょっと……!」
慌てたように顔を赤くする莉緒だけど、莉緒だって当事者なんだから同じ思いをするといい。すごく視線が集まった気がするけどこうなったら開き直るまでだ。
「うむ。好き合っているのならば何も問題はないじゃろう。少し待っておれ」
そう言うと後ろにあった棚から書類を取り出して、テーブルの上に広げ始める。指をペロリと舐めると一ページずつめくっていく。
「いつにするかの? 最短ならば二日後に結婚の儀を執り行うことができるぞい」
二日後ってまた早いな。いまいち感覚がわからないけど、そんなに頻繁に結婚の儀って行われるものなのかな。街の人口とかよくわからんが、そこまで多くないと思うんだよね。
「あ、衣装がまだできてないのでその日はダメですね。一週間後以降だといつになりますか?」
「なるほどのう……」
またもパラパラとページをめくる老婆だが、あるページでその手が止まる。
「であれば、九日後じゃな。この日ならば問題あるまい」
仕事もまったく入れてないし、問題ないかな。スキル関連か、武器作りに没頭して忘れないようにしないとダメだけど。
「はい、その日でお願いします」
「お願いします」
「よし、では書類を一枚書いてもらおうかの」
後ろの棚に書類の束を戻すと今度は別の紙を取り出してテーブルの上へと置く。ペンを取り出してふと顔を上げると。
「代筆は必要かの?」
「いえ、大丈夫です」
「うむ。では記載をよろしくじゃの」
ペンを手渡されたので、テーブルの上を覗き込む。婚姻届けみたいなやつだった。
「婿か嫁か……。あー、苗字変わるもんなぁ」
「へぇ……、なんだかドキドキするわね」
莉緒と一緒になって書類を確認するが、確かになんだか緊張する。
「とりあえず名前だな」
名前が先に来るようにフルネームで記載する。ペンを莉緒にも渡して書いてもらう。日本で提出する婚姻届けがどんなものかよく知らないが、住所なんてないし、証人を書くところもない。もちろんハンコだって押す必要もない簡易的なものだ。
「書けたよ」
「よし、これでいいかな」
二人でしっかりと書類を確認すると、なんとなく「若いもんはええのぅ」と言いたげな表情をした老婆へと手渡す。
「うむ。これで問題ないじゃろ。九日後に結婚の儀を執り行うこととする」
「はい。よろしくお願いします」
「では最後に、喜捨をお願いするぞ」
「きしゃ?」
蒸気機関車じゃないことは確かだろうが、きしゃってなんだっけ。
「神殿への寄付じゃよ。特に金額は定められてないがのぅ。好きなだけ寄付してくれてよいんじゃよ?」
快活に笑う老婆に思わず考え込んでしまう。
「うーん……」
「なんじゃい、優柔不断な男はモテんと言ったばかりじゃろうに。バシッと出すもの出さんでどうするんじゃ」
やかましい婆さんだな……。
決まってるなら楽なんだけど、こういうのはなんとも難しい問題だ。果たしていくらが適正な値段なのかさっぱりわからん。
しかしまぁ、どこからも邪魔されずに話が進んでいくのは気分がいいね。
「じゃあこれで」
懐から金貨を二枚取り出すと、目の前の婆さんへと差し出す。
「なんと、太っ腹じゃの! モテんと言ったのは撤回しておこうかの!」
差し出された二十万フロンと書類を回収する婆さん。お金でモテてもあんまり嬉しくないなぁ。
「それでは、あとは九日後に二人そろってここにまた来るがよい。二人の未来に幸があらんことを祈っておるぞ」
「ありがとうございます」
こうして婆さんに優しい笑顔で見送られた俺たちは神殿を後にした。
神殿は街の北西にあり、以前に寄った神殿と同じく近づくほどに神官姿の人をよく見かけるようになる。
神殿は以前見た物とあまり違いはなかった。さすがに国が異なるとはいえ、神殿のつくりまでそうそう変わるものではないようだ。
「ここの神殿も大きいなぁ」
「だねぇ……」
しみじみと呟きながら、石柱の間を通り抜けて神殿の内部へと向かう。ここも派手さはないが、さすが職人の街というだけあってか細部にまでこだわった作りになっているような気がする。
「ようおいでなすったね。今日はヘルメウス神殿に何用で来られたんじゃね」
礼拝堂となっている場所で女神像を眺めていると、神官服を着た老齢の女性が声を掛けてきた。
どうやらここはヘルメウス神殿というらしい。前に来た神殿とは名前が違う気がするけど、地域によって異なるのか。
にしてもこんなところにニルを連れてきてよかったのかな。まぁダメなら何か言われるか。気にしないでおこう。
「あー、えーっと……」
しかし目的を告げようとすると、なんとなく恥ずかしくて言い淀んでしまう。
「なんじゃい、はっきりせん男じゃな。優柔不断はモテんぞ!」
バッサリと切られてしまった。モテなくても特に問題ない。というかモテても困るんだけどな……。
「あはは!」
莉緒にも大爆笑されてしまった。莉緒も関係あることなんだけどなぁ……。なんかちょっとだけ腹立ってきたぞ。こうなったら……。
勢いよく莉緒を腰から抱き寄せて、頬へと口づけする。
「莉緒と結婚の儀を行おうと思いまして」
「なんとまぁ。こりゃモテないとか言って悪かったねぇ」
「ちょ、ちょっと……!」
慌てたように顔を赤くする莉緒だけど、莉緒だって当事者なんだから同じ思いをするといい。すごく視線が集まった気がするけどこうなったら開き直るまでだ。
「うむ。好き合っているのならば何も問題はないじゃろう。少し待っておれ」
そう言うと後ろにあった棚から書類を取り出して、テーブルの上に広げ始める。指をペロリと舐めると一ページずつめくっていく。
「いつにするかの? 最短ならば二日後に結婚の儀を執り行うことができるぞい」
二日後ってまた早いな。いまいち感覚がわからないけど、そんなに頻繁に結婚の儀って行われるものなのかな。街の人口とかよくわからんが、そこまで多くないと思うんだよね。
「あ、衣装がまだできてないのでその日はダメですね。一週間後以降だといつになりますか?」
「なるほどのう……」
またもパラパラとページをめくる老婆だが、あるページでその手が止まる。
「であれば、九日後じゃな。この日ならば問題あるまい」
仕事もまったく入れてないし、問題ないかな。スキル関連か、武器作りに没頭して忘れないようにしないとダメだけど。
「はい、その日でお願いします」
「お願いします」
「よし、では書類を一枚書いてもらおうかの」
後ろの棚に書類の束を戻すと今度は別の紙を取り出してテーブルの上へと置く。ペンを取り出してふと顔を上げると。
「代筆は必要かの?」
「いえ、大丈夫です」
「うむ。では記載をよろしくじゃの」
ペンを手渡されたので、テーブルの上を覗き込む。婚姻届けみたいなやつだった。
「婿か嫁か……。あー、苗字変わるもんなぁ」
「へぇ……、なんだかドキドキするわね」
莉緒と一緒になって書類を確認するが、確かになんだか緊張する。
「とりあえず名前だな」
名前が先に来るようにフルネームで記載する。ペンを莉緒にも渡して書いてもらう。日本で提出する婚姻届けがどんなものかよく知らないが、住所なんてないし、証人を書くところもない。もちろんハンコだって押す必要もない簡易的なものだ。
「書けたよ」
「よし、これでいいかな」
二人でしっかりと書類を確認すると、なんとなく「若いもんはええのぅ」と言いたげな表情をした老婆へと手渡す。
「うむ。これで問題ないじゃろ。九日後に結婚の儀を執り行うこととする」
「はい。よろしくお願いします」
「では最後に、喜捨をお願いするぞ」
「きしゃ?」
蒸気機関車じゃないことは確かだろうが、きしゃってなんだっけ。
「神殿への寄付じゃよ。特に金額は定められてないがのぅ。好きなだけ寄付してくれてよいんじゃよ?」
快活に笑う老婆に思わず考え込んでしまう。
「うーん……」
「なんじゃい、優柔不断な男はモテんと言ったばかりじゃろうに。バシッと出すもの出さんでどうするんじゃ」
やかましい婆さんだな……。
決まってるなら楽なんだけど、こういうのはなんとも難しい問題だ。果たしていくらが適正な値段なのかさっぱりわからん。
しかしまぁ、どこからも邪魔されずに話が進んでいくのは気分がいいね。
「じゃあこれで」
懐から金貨を二枚取り出すと、目の前の婆さんへと差し出す。
「なんと、太っ腹じゃの! モテんと言ったのは撤回しておこうかの!」
差し出された二十万フロンと書類を回収する婆さん。お金でモテてもあんまり嬉しくないなぁ。
「それでは、あとは九日後に二人そろってここにまた来るがよい。二人の未来に幸があらんことを祈っておるぞ」
「ありがとうございます」
こうして婆さんに優しい笑顔で見送られた俺たちは神殿を後にした。
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