95 / 421
第二部
ドン引きする人ばかりではありません
しおりを挟む
「あはは、やっぱりびっくりしますよね」
「そ、そうですね……」
胸に手を当てて息を整えているフルールさん。そこまで驚かせるつもりはなかったが、なんかごめんなさい。
「まさか……、それが例の魔物なんでしょうか?」
「あー、いや、こいつは違います。森に出た魔物は四メートルを超えるシルバーウルフだったって話をギルドで聞きました」
思わず首を縦に振りそうになったけど、直前で何とか踏みとどまる。一応口外しないように言われている。Sランクの魔物がどんなものかいまいちしっくり来ていないが、なんにしろ街が混乱しないようにということなので黙っておく。
「そうなんですね。でもその従魔も……シルバーウルフのように見えますが」
「ええ、そうですよ」
「本当ですか?」
すごく疑いの目で見てくるけど、そういうことになっているのでこれ以上は何も言わないでおく。にしてもやっぱりこの人は鋭いなぁ。
「……失礼しました。わたしの悪い癖が出てしまいました。さて、気を取り直して……」
そう口にするフルールさんの表情が、もう一度疑問に彩られる。
「あ、もしかして木材は収納カバンの中でしょうか。でしたらここに取り出してくださってかまいませんので」
そうか、前に魔物をフルールさんに売った時は、ロープを縛り付けて魔物を引っ張ってきてたんだったか。
「じゃあここに出しますね」
特にもう隠していないので、莉緒と二人で異空間ボックスから木材を取り出す。
「異空間ボックス……!」
「これで十本かな」
「は、はい、確かに受け取りました」
指名依頼票をフルールさんに差し出すとサインをもらう。いろいろと驚かせてしまった気はするが、すぐに気を取り直したのか平常心に戻っている。
「これで完了ですね」
「ありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました。これでいろいろと工房の仕事も進みます」
「そういえばこの街は家具もいっぱい作られてましたね」
「ええ、そうなんです。お客様を待たせるわけにもいきませんから」
「……もしかしてベルドラン工房も木材を待ってるのかな?」
莉緒の言葉にハッとする。もしそうなら俺たちのベッドも作成が遅れているはずだ。ゲルスライムも使った快適ベッドは早急に作ってもらわねば。
「そうですね。……もしかしてベルドラン工房に何か依頼を?」
フルールさんの言葉に頷きを返すと、そのまま木材をベルドラン工房へ配達するかと提案を受けた。そのほうが注文した家具も早く仕上がるだろうし、俺も異存はないので引き受けることにする。
木材運搬の追加報酬を受け取ると、途中にあるギルドへ依頼完了報告を行ってから工房へと向かった。
「いらっしゃいませー」
工房へと入ると前回と同じく、クレイくんがカウンターに座っていた。若干舌足らずな言葉も相変わらずだ。客として入ってきた俺たちをしっかり視界に入れた後、うしろを振り返って母親を呼んでくれると思ったけど、じっとこっちから視線が外れない。
「クレイくん、こんにちは」
このまま話が進まないのもどうかと思ってとりあえず挨拶をするも、やはり反応がない。
「ふおおぉぉ! わんちゃんだぁ!」
と思ったら急に目を輝かせて叫びだした。カウンターの奥で座っていた椅子から降りると、こちら側へと回ってくる。
大人しく座っているニルの前に来ると、自分よりも頭上にあるニルの顔を見上げる。しかしこの身長差すげぇな。
「さわってもいい?」
クレイくんは直接ニルへと尋ねているけど、ニルは言葉をきちんと理解しているのだろうか。ちゃんと返事はくれるから理解してる気はするけど。
そんなことを考えながら見守っていると、ニルはおもむろに立ち上がりクレイくんへと近づいていく。クレイくんの横へとぴたりと体をくっつけると、そのまま腹を地面につけてうつ伏せになる。
「あはは、触ってもいいって」
「ホントに!」
嬉しそうにしゃがみこむと、ニルの首元へと手を伸ばす。
「ふわふわー、あったかーい」
にへらと笑顔を浮かべると、ニルの首を撫でる手の動きが恐る恐るとした感じからだんだんしっかりとした動きに変わってくる。
「クレイくんならニルに乗れそうね……」
「えっ?」
ポツリと呟いた莉緒の言葉に反応したのか、クレイくんが莉緒を見上げている。その間もニルを撫でる手は止まっていない。さすがだ。
でも確かに普通に乗れそうだな。
ニルが元の大きさに戻ったら俺も乗れるんじゃなかろうか。そしたら全身でもふもふし放題じゃねぇか。これは夢が広がる……!
「乗ってみる?」
聞いてみるとクレイくんはニルと俺を交互に眺め、ニルに向かって「いいの?」と聞いている。
「わふぅ」
ひと鳴きすると立ち上がる途中の態勢を取るニル。どうやら乗ってもいいらしい。
「いいみたいね」
「ありがとう!」
ニルの足を踏まないように気を付けながら、背中にまたがるクレイくん。しっかりと背中に乗ったことを確認すると、ニルはゆっくりと立ち上がる。
ただやはりうまくバランスが取れなかったのか、クレイくんは前方へと倒れてニルの背中にしがみつく形になった。
「おあっ! ……でもふかふかー」
驚いているみたいだったけど結果オーライだ。背中に顔をうずめて幸せそうにしている。
「クレイー! お客さん来たならちゃんと教えてくれないとダメでしょ!」
ちょうどそこに店の奥から、クレイくんの母親であるサリアナさんがやってきた。
「ひぎゃあぁぁぁっ!?」
が、クレイくんが乗っているニルを見た瞬間、悲鳴を上げて卒倒するのだった。
「そ、そうですね……」
胸に手を当てて息を整えているフルールさん。そこまで驚かせるつもりはなかったが、なんかごめんなさい。
「まさか……、それが例の魔物なんでしょうか?」
「あー、いや、こいつは違います。森に出た魔物は四メートルを超えるシルバーウルフだったって話をギルドで聞きました」
思わず首を縦に振りそうになったけど、直前で何とか踏みとどまる。一応口外しないように言われている。Sランクの魔物がどんなものかいまいちしっくり来ていないが、なんにしろ街が混乱しないようにということなので黙っておく。
「そうなんですね。でもその従魔も……シルバーウルフのように見えますが」
「ええ、そうですよ」
「本当ですか?」
すごく疑いの目で見てくるけど、そういうことになっているのでこれ以上は何も言わないでおく。にしてもやっぱりこの人は鋭いなぁ。
「……失礼しました。わたしの悪い癖が出てしまいました。さて、気を取り直して……」
そう口にするフルールさんの表情が、もう一度疑問に彩られる。
「あ、もしかして木材は収納カバンの中でしょうか。でしたらここに取り出してくださってかまいませんので」
そうか、前に魔物をフルールさんに売った時は、ロープを縛り付けて魔物を引っ張ってきてたんだったか。
「じゃあここに出しますね」
特にもう隠していないので、莉緒と二人で異空間ボックスから木材を取り出す。
「異空間ボックス……!」
「これで十本かな」
「は、はい、確かに受け取りました」
指名依頼票をフルールさんに差し出すとサインをもらう。いろいろと驚かせてしまった気はするが、すぐに気を取り直したのか平常心に戻っている。
「これで完了ですね」
「ありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました。これでいろいろと工房の仕事も進みます」
「そういえばこの街は家具もいっぱい作られてましたね」
「ええ、そうなんです。お客様を待たせるわけにもいきませんから」
「……もしかしてベルドラン工房も木材を待ってるのかな?」
莉緒の言葉にハッとする。もしそうなら俺たちのベッドも作成が遅れているはずだ。ゲルスライムも使った快適ベッドは早急に作ってもらわねば。
「そうですね。……もしかしてベルドラン工房に何か依頼を?」
フルールさんの言葉に頷きを返すと、そのまま木材をベルドラン工房へ配達するかと提案を受けた。そのほうが注文した家具も早く仕上がるだろうし、俺も異存はないので引き受けることにする。
木材運搬の追加報酬を受け取ると、途中にあるギルドへ依頼完了報告を行ってから工房へと向かった。
「いらっしゃいませー」
工房へと入ると前回と同じく、クレイくんがカウンターに座っていた。若干舌足らずな言葉も相変わらずだ。客として入ってきた俺たちをしっかり視界に入れた後、うしろを振り返って母親を呼んでくれると思ったけど、じっとこっちから視線が外れない。
「クレイくん、こんにちは」
このまま話が進まないのもどうかと思ってとりあえず挨拶をするも、やはり反応がない。
「ふおおぉぉ! わんちゃんだぁ!」
と思ったら急に目を輝かせて叫びだした。カウンターの奥で座っていた椅子から降りると、こちら側へと回ってくる。
大人しく座っているニルの前に来ると、自分よりも頭上にあるニルの顔を見上げる。しかしこの身長差すげぇな。
「さわってもいい?」
クレイくんは直接ニルへと尋ねているけど、ニルは言葉をきちんと理解しているのだろうか。ちゃんと返事はくれるから理解してる気はするけど。
そんなことを考えながら見守っていると、ニルはおもむろに立ち上がりクレイくんへと近づいていく。クレイくんの横へとぴたりと体をくっつけると、そのまま腹を地面につけてうつ伏せになる。
「あはは、触ってもいいって」
「ホントに!」
嬉しそうにしゃがみこむと、ニルの首元へと手を伸ばす。
「ふわふわー、あったかーい」
にへらと笑顔を浮かべると、ニルの首を撫でる手の動きが恐る恐るとした感じからだんだんしっかりとした動きに変わってくる。
「クレイくんならニルに乗れそうね……」
「えっ?」
ポツリと呟いた莉緒の言葉に反応したのか、クレイくんが莉緒を見上げている。その間もニルを撫でる手は止まっていない。さすがだ。
でも確かに普通に乗れそうだな。
ニルが元の大きさに戻ったら俺も乗れるんじゃなかろうか。そしたら全身でもふもふし放題じゃねぇか。これは夢が広がる……!
「乗ってみる?」
聞いてみるとクレイくんはニルと俺を交互に眺め、ニルに向かって「いいの?」と聞いている。
「わふぅ」
ひと鳴きすると立ち上がる途中の態勢を取るニル。どうやら乗ってもいいらしい。
「いいみたいね」
「ありがとう!」
ニルの足を踏まないように気を付けながら、背中にまたがるクレイくん。しっかりと背中に乗ったことを確認すると、ニルはゆっくりと立ち上がる。
ただやはりうまくバランスが取れなかったのか、クレイくんは前方へと倒れてニルの背中にしがみつく形になった。
「おあっ! ……でもふかふかー」
驚いているみたいだったけど結果オーライだ。背中に顔をうずめて幸せそうにしている。
「クレイー! お客さん来たならちゃんと教えてくれないとダメでしょ!」
ちょうどそこに店の奥から、クレイくんの母親であるサリアナさんがやってきた。
「ひぎゃあぁぁぁっ!?」
が、クレイくんが乗っているニルを見た瞬間、悲鳴を上げて卒倒するのだった。
22
お気に入りに追加
513
あなたにおすすめの小説

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの
つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。
隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します
湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。
そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。
しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。
そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。
この死亡は神様の手違いによるものだった!?
神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。
せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!!
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

異世界巻き込まれ転移譚~無能の烙印押されましたが、勇者の力持ってます~
影茸
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界に転移することになった僕、羽島翔。
けれども相手の不手際で異世界に転移することになったにも関わらず、僕は巻き込まれた無能と罵られ勇者に嘲笑され、城から追い出されることになる。
けれども僕の人生は、巻き込まれたはずなのに勇者の力を使えることに気づいたその瞬間大きく変わり始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる