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第二部
順番に片付けよう
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「登録についてはわかった。むしろ登録しないといけないな。まずはひとつひとつ片付けていこうか」
顎に手を当てて考え込むギルドマスターだったが、人差し指を一本立てる。
「まずはキルウェル」
「は、はい!」
名指しされたキルウェルさんが直立不動でビシッと姿勢を正す。
「フローズヴィトニルが現れたことは口外禁止とする。もちろん、このEランクのシュウの従魔になったこともだ。混乱は少ない方がいいからね」
「わ、わかりました。絶対に喋りません! ……どうせ誰にも信じてもらえそうにないので」
「うん。それでお願いね。あとで追加報酬も渡しておくから、もう退出してもらってかまわないよ」
ギルドマスターの言葉に緊張していた表情がいくぶんか柔らかくなる。
「あ、はい! では失礼します……」
それだけ言うと、フローズヴィトニルの従魔を見つめながら逃げるように部屋を出て行った。
「じゃあ次ね」
見送ったギルドマスターは、そう言って二本目の中指を立てる。
「そっちの従魔だけど、ギルドの裏資料にはフローズヴィトニルで登録させてもらうね。ただ表ではシルバーウルフの子どもとしておきたいんだけどいいかな?」
「それは別にかまいませんけど……」
特に目立ちたいわけでもないのでかまわない。逆になぜ申し訳なさそうにされてるのかまったくわからんのだけど。
「それならよかった。舐められないようにするのも冒険者としての処世術だけど、今回ばかりはね……」
ホッと胸をなでおろして苦笑するギルドマスターに、ワイアットさんが言葉を引き継ぐ。
「そうだな。今回の騒動を収めた立役者になるだろうが、ちょっと解釈を間違えば従魔を使って騒動を起こした犯罪者にもなりかねない」
「ええっ!?」
いやいや、そんなわけ……と否定しようとしたけど、過去を振り返って思い悩む。むしろそっちの可能性の方が高いんじゃなかろうか。異世界人なんて、他人を陥れても自分の利益を得ようとする人種だ。
そういう意味で言えば、こうして広まらないようにしてもらってるこの人たちもあれだな。ギルドマスターはともかく、『天狼の牙』のメンバーにはメリットはないようにも思う。
「実際にそういう詐欺の手口があるからね。テイム済みなのにギルドに登録しないまま従魔を暴れさせ、さも自分が捕獲しましたと後から名乗り出るっていうね」
「一般的には立証が難しい分、一度でも疑われるとその街には居づらくなる。だから最初から疑われない方法を取るほうがいいぞ」
「マジっすか」
「私たちそんなことしませんよ」
「今回は大丈夫だがな。次以降にも魔物をテイムすることがあったら、すぐにギルドで登録するようにな」
続けて理由を教えてくれる二人の話を聞いて愕然とする。んなことになったら人間不信が加速する自信があるな。
なんて恐ろしい世界だと身震いしていると、ギルドマスターが三本目の指を立てた。
「これが本題なんだけど、その従魔をシルバーウルフの子どもにするとして、じゃあ今回の騒動にどう決着を付けるかなんだよね」
「そうなんだよな。俺もどうギルドに報告したもんか……」
本気で悩むギルドマスターに、だがワイアットさんはニヤリとした笑みを浮かべて俺たちに問いかけてきた。
「お前ら、何かいい案はないか?」
えええ、疑われない案ですか。と言われてもどんな形でフローズヴィトニルが目撃されたのか状況を知らないからなぁ。というかワイアットさん考える気ないでしょ。
「えーっと……」
莉緒も素直に考えてくれているが、そんなにすぐに案が出るわけでもない。
「他にもデカいシルバーウルフでもいりゃいいんだがなぁ……」
一緒になって考えていた『天狼の牙』のメンバーからぽつりと呟きが漏れる。
「森の奥にいるやつがそんなに都合よく現れるわけねぇだろ」
「しかも大きいサイズでしょ。ナイナイ」
「うふふふ」
無理だと笑い合うメンバーたちだけど、それが通るならいい方法があるよな。
「シルバーウルフならありますよ?」
「ん?」
「ある? ……いるんじゃなくて?」
メンバー全員から訝し気な視線をもらうが、異空間ボックスにはシルバーウルフがまだ何体か入っているのだ。そこそこ大きいやつも確かいたはずだ。
「異空間ボックスに収納してるやつがあるので、一番大きいシルバーウルフをお譲りしますよ。森に出現した魔物はコイツってことにすれば万事解決ですよね」
「は?」
異空間ボックスの入り口をそっと開いて中身だけ確認してみる。
「んー、三メートルくらいかな……」
「異空間ボックス……」
そういえばどうやって受け渡せばいいのかな。
「あ、俺が代わりに運んだってことにしてもいいのか。そういえば莉緒の異空間ボックスにもシルバーウルフ入ってたよな?」
「入ってるよ。ちょっと待ってね」
「「「二人とも使えるの!?」」」
驚くみんなをスルーして、莉緒が中に入っているシルバーウルフのサイズを確認する。
「あ、四メートルサイズの大きさがあったわよ」
「四メートルか。これくらいの違いだったら誤差で済みますかね?」
「……お前らEランクだよな?」
「うーん。ボクもちょっと詳しく聞きたいかな。フローズヴィトニルといい、異空間ボックスといい、ちょっとEランクじゃ収まってない気がするよ」
完ぺきと思われる誤魔化し案を披露すると、全員から改めてツッコミが入るのだった。
顎に手を当てて考え込むギルドマスターだったが、人差し指を一本立てる。
「まずはキルウェル」
「は、はい!」
名指しされたキルウェルさんが直立不動でビシッと姿勢を正す。
「フローズヴィトニルが現れたことは口外禁止とする。もちろん、このEランクのシュウの従魔になったこともだ。混乱は少ない方がいいからね」
「わ、わかりました。絶対に喋りません! ……どうせ誰にも信じてもらえそうにないので」
「うん。それでお願いね。あとで追加報酬も渡しておくから、もう退出してもらってかまわないよ」
ギルドマスターの言葉に緊張していた表情がいくぶんか柔らかくなる。
「あ、はい! では失礼します……」
それだけ言うと、フローズヴィトニルの従魔を見つめながら逃げるように部屋を出て行った。
「じゃあ次ね」
見送ったギルドマスターは、そう言って二本目の中指を立てる。
「そっちの従魔だけど、ギルドの裏資料にはフローズヴィトニルで登録させてもらうね。ただ表ではシルバーウルフの子どもとしておきたいんだけどいいかな?」
「それは別にかまいませんけど……」
特に目立ちたいわけでもないのでかまわない。逆になぜ申し訳なさそうにされてるのかまったくわからんのだけど。
「それならよかった。舐められないようにするのも冒険者としての処世術だけど、今回ばかりはね……」
ホッと胸をなでおろして苦笑するギルドマスターに、ワイアットさんが言葉を引き継ぐ。
「そうだな。今回の騒動を収めた立役者になるだろうが、ちょっと解釈を間違えば従魔を使って騒動を起こした犯罪者にもなりかねない」
「ええっ!?」
いやいや、そんなわけ……と否定しようとしたけど、過去を振り返って思い悩む。むしろそっちの可能性の方が高いんじゃなかろうか。異世界人なんて、他人を陥れても自分の利益を得ようとする人種だ。
そういう意味で言えば、こうして広まらないようにしてもらってるこの人たちもあれだな。ギルドマスターはともかく、『天狼の牙』のメンバーにはメリットはないようにも思う。
「実際にそういう詐欺の手口があるからね。テイム済みなのにギルドに登録しないまま従魔を暴れさせ、さも自分が捕獲しましたと後から名乗り出るっていうね」
「一般的には立証が難しい分、一度でも疑われるとその街には居づらくなる。だから最初から疑われない方法を取るほうがいいぞ」
「マジっすか」
「私たちそんなことしませんよ」
「今回は大丈夫だがな。次以降にも魔物をテイムすることがあったら、すぐにギルドで登録するようにな」
続けて理由を教えてくれる二人の話を聞いて愕然とする。んなことになったら人間不信が加速する自信があるな。
なんて恐ろしい世界だと身震いしていると、ギルドマスターが三本目の指を立てた。
「これが本題なんだけど、その従魔をシルバーウルフの子どもにするとして、じゃあ今回の騒動にどう決着を付けるかなんだよね」
「そうなんだよな。俺もどうギルドに報告したもんか……」
本気で悩むギルドマスターに、だがワイアットさんはニヤリとした笑みを浮かべて俺たちに問いかけてきた。
「お前ら、何かいい案はないか?」
えええ、疑われない案ですか。と言われてもどんな形でフローズヴィトニルが目撃されたのか状況を知らないからなぁ。というかワイアットさん考える気ないでしょ。
「えーっと……」
莉緒も素直に考えてくれているが、そんなにすぐに案が出るわけでもない。
「他にもデカいシルバーウルフでもいりゃいいんだがなぁ……」
一緒になって考えていた『天狼の牙』のメンバーからぽつりと呟きが漏れる。
「森の奥にいるやつがそんなに都合よく現れるわけねぇだろ」
「しかも大きいサイズでしょ。ナイナイ」
「うふふふ」
無理だと笑い合うメンバーたちだけど、それが通るならいい方法があるよな。
「シルバーウルフならありますよ?」
「ん?」
「ある? ……いるんじゃなくて?」
メンバー全員から訝し気な視線をもらうが、異空間ボックスにはシルバーウルフがまだ何体か入っているのだ。そこそこ大きいやつも確かいたはずだ。
「異空間ボックスに収納してるやつがあるので、一番大きいシルバーウルフをお譲りしますよ。森に出現した魔物はコイツってことにすれば万事解決ですよね」
「は?」
異空間ボックスの入り口をそっと開いて中身だけ確認してみる。
「んー、三メートルくらいかな……」
「異空間ボックス……」
そういえばどうやって受け渡せばいいのかな。
「あ、俺が代わりに運んだってことにしてもいいのか。そういえば莉緒の異空間ボックスにもシルバーウルフ入ってたよな?」
「入ってるよ。ちょっと待ってね」
「「「二人とも使えるの!?」」」
驚くみんなをスルーして、莉緒が中に入っているシルバーウルフのサイズを確認する。
「あ、四メートルサイズの大きさがあったわよ」
「四メートルか。これくらいの違いだったら誤差で済みますかね?」
「……お前らEランクだよな?」
「うーん。ボクもちょっと詳しく聞きたいかな。フローズヴィトニルといい、異空間ボックスといい、ちょっとEランクじゃ収まってない気がするよ」
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