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第二部
地図スキルは万能でした
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結論から言おう。
地図スキル生えました。
何やら視界の隅に地図が浮かびだしたのよね。意識すると全画面表示になる感じ。並列思考スキルもあるから、そっちで地図を確認すればメインの思考に支障は出ない。ただし、まだスキルを習得したばかりだからか、表示される範囲は狭かった。
「柊、着いたわよ」
不意に不機嫌そうな莉緒の言葉が聞こえてきた。
気が付けばぽっかりと空いた鉱山の入り口が見えるところまで来ている。
「あ……、ごめんごめん」
「もう」
メイン思考は地図スキルに向いていたが、他は何も考えていなかったわけではない。鉱山を登っているのだから当然障害物は存在する。でも岩場などにつまずくことなく、しっかり地形を把握しながら歩いていた。
どうやら莉緒の声は聞こえなくなるようだが……。並列思考ちゃんと仕事しろよ。
「スキルのことになると周りが見えなくなるんだから。そこまで師匠に似なくてもよかったんじゃないかしら」
「…………」
否定したいところだけどもうダメだ。心の奥底から「師匠そっくりになったよな」と悪魔の声が聞こえてくる。
だがしかし、これだけは認めるわけにはいかないのだ。俺は師匠のような変人ではないのだから……!
「気のせいじゃないかな」
「ふふっ」
長い沈黙の後に発した言葉で笑われてしまった。
「あはははは!」
そこまで大爆笑することないんでない?
莉緒の機嫌は直ったみたいだが、何か納得がいかない。
「気を取り直して、行きましょうか」
「そうだな。坑道で地図スキルの便利さを証明してやるよ」
「うふふ、期待してるわ」
入り口は何か所かあるが、街から坑道最初の入り口までは一本道となっている。ここからいくつか道が分かれて、各坑道の入り口へとつながっているのだ。
入り口前には他に一組の冒険者パーティーが坑道に入る準備をしている。明かりを用意し、ヘルメットを着用している。
「俺たちも安全対策はしっかりやらないとな」
同じくヘルメットを被って坑道へと入っていく。
「お先ー」
「おぅ、気ぃつけろよー」
冒険者パーティーへ声を掛けると返事が返ってきた。うむ、普通の冒険者はこうだよな。いちいち難癖付けてくる冒険者とかのほうが珍しいはずなんだよな。
魔法で明かりを灯して坑道の中を進む。上層エリアは一般鉱夫が鉱石を掘り起こしているのでスルーだ。魔物も滅多に出ないし、Fランクの冒険者もここまでなら入って来れる。中層以降はEランク以降の冒険者たちの出番となる。
「ここの鉱山って中層が近くてよかった」
「そうねぇ。上層の奥まで行かなくて済むのは助かるわね」
そのあたりだけはよくあるゲームみたいな構成じゃなくてよかったと思う。
「にしても、尾行の人はさすがに坑道の中までは入ってこないみたいだな」
「途中でかち合っても困るからじゃないかしら」
「一応面は割れてないから大丈夫なはずだけどね」
「あはは、きっと慎重になってるのよ」
「まぁどっちでもいいけどね」
そうねと頷きながらも真っ暗な坑道を二人で進んでいく。
「やっぱり足元だけじゃなくて向こう側も照らそうか」
「奥は見えないものね」
夜目は効くけど、さすがに明暗差のある暗い方は見えない。かといって明かりを全部消してしまうと、他の冒険者に気付かれなくなる。
もう一つ魔法で明かりを生み出すと、坑道の奥へと飛ばした。
「にしてもしっかりと上層、中層、下層って分かれてるのも不思議ね」
「確かにそうだなぁ。もしかしてダンジョンになってたりするのかな」
「ダンジョン?」
ゲームに疎い莉緒に説明するとすぐに納得してくれた。でもギルドじゃダンジョンになってるなんて聞かなかったし、どうなんだろう? などと鉱山について考えながら、中層へと続く下り坂を進んでいった。
坑道から出るとすでに夕方となっていた。半日ぶりに地上に出ると何かホッとする。
「思ったより集まったわね」
「だなぁ。にしても地図スキルはマジ便利だった……」
地図もギルドで買ってきたんだが、まったくもって意味がなかった。買った地図が大雑把すぎというよりは、地図スキルが詳細すぎたのが原因だが。さすがに魔物が地図に載ったりはしなかったが、それでも一度歩いた地形が自動でマッピングされるのは便利だった。狭かった地図の表示範囲も坑道を進むごとに広がっていったことも大きい。
「私も地図を見てたけど、ほとんど役に立ってなかったし」
鉱石もたくさん集まった。赤茶けた部分はほとんど鉄鉱石で、なんと坑道の壁を鑑定するとある程度鉱物が含まれているかがわかったのだ。鑑定マジ便利。
鉄鉱石以外もちらほらあるようで、今日ほど鑑定を多用した日はなかった。少量とはいえまさかミスリルとかダマスカス鋼といった鉱石まで手に入るとは思っていなかった。
そういえば師匠からもらったアイテムの中にも鉱石とかインゴットとかなかったっけ。あとで探してみようか。
「よし、土魔法で金属だけ抽出とかできないか試してみるか」
「それがやりたかったの?」
「うん。土魔法製の武器は魔の森で散々作ったけどさ、あそこって金属はほとんど手に入らなかったからね」
「あぁ、うん」
莉緒も切れ味だけを追求して作った武器を思い出したんだろうか。魔法職メインとはいえ、莉緒も剣は使えないことはないしね。興味がないわけではないのだ。
「でも夜中まで研究するのはやめてよね?」
「あはは」
俺は即答できずに苦笑いを返すしかできなかったのは言うまでもない。
武器だけじゃなく、結婚指輪も作れたらいいなぁとは考えているけどね。
地図スキル生えました。
何やら視界の隅に地図が浮かびだしたのよね。意識すると全画面表示になる感じ。並列思考スキルもあるから、そっちで地図を確認すればメインの思考に支障は出ない。ただし、まだスキルを習得したばかりだからか、表示される範囲は狭かった。
「柊、着いたわよ」
不意に不機嫌そうな莉緒の言葉が聞こえてきた。
気が付けばぽっかりと空いた鉱山の入り口が見えるところまで来ている。
「あ……、ごめんごめん」
「もう」
メイン思考は地図スキルに向いていたが、他は何も考えていなかったわけではない。鉱山を登っているのだから当然障害物は存在する。でも岩場などにつまずくことなく、しっかり地形を把握しながら歩いていた。
どうやら莉緒の声は聞こえなくなるようだが……。並列思考ちゃんと仕事しろよ。
「スキルのことになると周りが見えなくなるんだから。そこまで師匠に似なくてもよかったんじゃないかしら」
「…………」
否定したいところだけどもうダメだ。心の奥底から「師匠そっくりになったよな」と悪魔の声が聞こえてくる。
だがしかし、これだけは認めるわけにはいかないのだ。俺は師匠のような変人ではないのだから……!
「気のせいじゃないかな」
「ふふっ」
長い沈黙の後に発した言葉で笑われてしまった。
「あはははは!」
そこまで大爆笑することないんでない?
莉緒の機嫌は直ったみたいだが、何か納得がいかない。
「気を取り直して、行きましょうか」
「そうだな。坑道で地図スキルの便利さを証明してやるよ」
「うふふ、期待してるわ」
入り口は何か所かあるが、街から坑道最初の入り口までは一本道となっている。ここからいくつか道が分かれて、各坑道の入り口へとつながっているのだ。
入り口前には他に一組の冒険者パーティーが坑道に入る準備をしている。明かりを用意し、ヘルメットを着用している。
「俺たちも安全対策はしっかりやらないとな」
同じくヘルメットを被って坑道へと入っていく。
「お先ー」
「おぅ、気ぃつけろよー」
冒険者パーティーへ声を掛けると返事が返ってきた。うむ、普通の冒険者はこうだよな。いちいち難癖付けてくる冒険者とかのほうが珍しいはずなんだよな。
魔法で明かりを灯して坑道の中を進む。上層エリアは一般鉱夫が鉱石を掘り起こしているのでスルーだ。魔物も滅多に出ないし、Fランクの冒険者もここまでなら入って来れる。中層以降はEランク以降の冒険者たちの出番となる。
「ここの鉱山って中層が近くてよかった」
「そうねぇ。上層の奥まで行かなくて済むのは助かるわね」
そのあたりだけはよくあるゲームみたいな構成じゃなくてよかったと思う。
「にしても、尾行の人はさすがに坑道の中までは入ってこないみたいだな」
「途中でかち合っても困るからじゃないかしら」
「一応面は割れてないから大丈夫なはずだけどね」
「あはは、きっと慎重になってるのよ」
「まぁどっちでもいいけどね」
そうねと頷きながらも真っ暗な坑道を二人で進んでいく。
「やっぱり足元だけじゃなくて向こう側も照らそうか」
「奥は見えないものね」
夜目は効くけど、さすがに明暗差のある暗い方は見えない。かといって明かりを全部消してしまうと、他の冒険者に気付かれなくなる。
もう一つ魔法で明かりを生み出すと、坑道の奥へと飛ばした。
「にしてもしっかりと上層、中層、下層って分かれてるのも不思議ね」
「確かにそうだなぁ。もしかしてダンジョンになってたりするのかな」
「ダンジョン?」
ゲームに疎い莉緒に説明するとすぐに納得してくれた。でもギルドじゃダンジョンになってるなんて聞かなかったし、どうなんだろう? などと鉱山について考えながら、中層へと続く下り坂を進んでいった。
坑道から出るとすでに夕方となっていた。半日ぶりに地上に出ると何かホッとする。
「思ったより集まったわね」
「だなぁ。にしても地図スキルはマジ便利だった……」
地図もギルドで買ってきたんだが、まったくもって意味がなかった。買った地図が大雑把すぎというよりは、地図スキルが詳細すぎたのが原因だが。さすがに魔物が地図に載ったりはしなかったが、それでも一度歩いた地形が自動でマッピングされるのは便利だった。狭かった地図の表示範囲も坑道を進むごとに広がっていったことも大きい。
「私も地図を見てたけど、ほとんど役に立ってなかったし」
鉱石もたくさん集まった。赤茶けた部分はほとんど鉄鉱石で、なんと坑道の壁を鑑定するとある程度鉱物が含まれているかがわかったのだ。鑑定マジ便利。
鉄鉱石以外もちらほらあるようで、今日ほど鑑定を多用した日はなかった。少量とはいえまさかミスリルとかダマスカス鋼といった鉱石まで手に入るとは思っていなかった。
そういえば師匠からもらったアイテムの中にも鉱石とかインゴットとかなかったっけ。あとで探してみようか。
「よし、土魔法で金属だけ抽出とかできないか試してみるか」
「それがやりたかったの?」
「うん。土魔法製の武器は魔の森で散々作ったけどさ、あそこって金属はほとんど手に入らなかったからね」
「あぁ、うん」
莉緒も切れ味だけを追求して作った武器を思い出したんだろうか。魔法職メインとはいえ、莉緒も剣は使えないことはないしね。興味がないわけではないのだ。
「でも夜中まで研究するのはやめてよね?」
「あはは」
俺は即答できずに苦笑いを返すしかできなかったのは言うまでもない。
武器だけじゃなく、結婚指輪も作れたらいいなぁとは考えているけどね。
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