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第二部
ラシアーユ商会
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「あら? シュウ様とリオ様ではありませんか」
声を掛けてきたのは何処かで見たことのある女商人だった。
昨日はあれからなんとなく居心地が悪かったので、ミミナ商会からは早々に退散してきた。時刻も日が沈むころになってきたので、そのまま宿に戻ることにしたのだ。
そして翌日、俺たちはラシアーユ商会へと顔を出したんだが。
「えーっと、確かフルールさんでしたっけ……?」
莉緒が自信なさげに確認するが、どうやら当たっていたらしい。
「覚えていてくださったんですね。嬉しいです」
そういえば思い出した。交易都市ザインで魔物を買い取ってくれた女商人だったっけ。確か一番高値で買い取ってくれた覚えがある。
「なんでまた商業国家に」
こちらから尋ねると話が長くなりそうだと思ったのか、フルールさんに店内備え付けのソファ席へと案内される。
ラシアーユ商会は、古くからある老舗と言った趣のある建物だ。その中でも現代のデザインを取り込んだ商品展示棚などもあり、古き良き部分を残すだけでなく新しいものも取り入れていく姿勢が感じられる。
「実はあれからですね、商会本部から応援として呼び戻されまして」
「応援ですか」
「はい。他の商会から、わたくしどもの商売の領域を侵食されていると連絡があったのですよ」
「へぇ、そうなんですね」
何やら納得している莉緒だけど、それほどフルールさんはやり手の商人だということだろうか。さっぱりわからん。
「ですのでラシアーユ商会を贔屓にしてくださると助かります。あ、狩った魔物をお持ちであればまた買い取らせていただきますよ。……商品のアイデアなどもあればもちろん、悪いようにはいたしませんので」
うふふとほほ笑むフルールさんに思わず気圧される。なんだか相手の商会をよほど腹に据えかねているようだ。
うん。まぁがんばってください。
「あはは、じゃあ何かあったときはお願いするようにしますね」
「ええ、何かご入用があればいろいろ紹介させていただきます。今は何かございますか?」
「あ、それじゃあ……」
ちらりと莉緒を振り返ると眉間に皺を寄せて何かないか考えている。
この機会にこの街で莉緒と結婚式をやってしまおうかと思っている。ずっと有耶無耶になったままで俺ももやもやしたままだし、何より――
=====
名前:柚月 莉緒
=====
莉緒を鑑定して見える名前が、柚月莉緒なんだよな。聞いた話だと家名を持っている貴族のフルネームが変わるって言うし、もしかすると水本莉緒に変わるんじゃないかと思っている。
うん。いいね。水本莉緒。
「服飾店を紹介してもらえませんか」
「はい、かしこまりました。どういった服飾店をお探しでしょうか?」
「高級店でお願いします。……莉緒のドレスとかオーダーしたいので」
「へっ?」
「まぁ!」
呆けた莉緒の顔の横で、フルールさんが両手を口元に当てて驚いている。
「わ、私のドレス……?」
まだよくわかっていない様子の莉緒に、冷静を装いつつゆっくりと言葉を続ける。顔が火照ってるけどきっと気のせいだ。
「あーほら、あのクソ王国も抜けられたことだし。きちんとここで、莉緒と結婚式をしておきたいなと思って」
命の安いこの世界だ。恥ずかしいからと言って先延ばしにしてたら、手遅れになってしまうことだってある。嫌というほどあの国で学ばされたからな。
「柊……!」
感極まった莉緒が瞳を潤ませてこちらを見つめてくる。
「素敵ですわね! この街一番の服飾店をご紹介させていただきますわ」
「あはは、よろしくお願いしますね」
「ではこのあとすぐに服飾店に向かわれますか?」
「あ、そうですね。ここの商品をちょっと見させてもらったら、行こうかと思います」
「承知いたしました。では紹介状をしたためてまいりますので、店内をご覧になっていてください」
「ありがとうございます」
そのまま立ち上がり、フルールさんは店の奥へと去っていく。
「よし、フルールさんが紹介状書いてくれるまでちょっと店内を見て回ろうか」
「うん。……えへへ」
はにかみながらもじもじする莉緒が出来上がっていた。
しばらく店内をぶらつき、日用品などを買い足してから紹介状をもらうと、そのまま服飾店へと向かう。
アークライト王国で同じように結婚式用の服をオーダーしようと服飾店に向かったときは確か、衛兵からの邪魔が入ったんだったか。
今回は特に誰から邪魔されることもなく服飾店へと到着することができた。いやまったくもって素晴らしい。
さっそくもらった紹介状を見せると、莉緒のドレスを見立ててもらう。
「ほら、柊もサイズ測ってもらって、一緒にオーダーするわよ」
「俺も?」
「うふふ、当たり前じゃないの」
この日は時間をかけて、莉緒のドレスと俺の礼服をあれこれ選ぶのに費やした。この世界ではカラードレスが主流ではあるが、やはり莉緒はウェディングドレスに憧れがあったのか、純白のドレスを選んでいた。
「どう?」
既製品のドレスを着た莉緒に声を掛けられる。
どう、と聞かれても、俺はなんて答えればいいんですかね。いつもはかわいいと思う莉緒だけど。
「うん。すごく綺麗だよ」
と言葉にするので精一杯だった。
声を掛けてきたのは何処かで見たことのある女商人だった。
昨日はあれからなんとなく居心地が悪かったので、ミミナ商会からは早々に退散してきた。時刻も日が沈むころになってきたので、そのまま宿に戻ることにしたのだ。
そして翌日、俺たちはラシアーユ商会へと顔を出したんだが。
「えーっと、確かフルールさんでしたっけ……?」
莉緒が自信なさげに確認するが、どうやら当たっていたらしい。
「覚えていてくださったんですね。嬉しいです」
そういえば思い出した。交易都市ザインで魔物を買い取ってくれた女商人だったっけ。確か一番高値で買い取ってくれた覚えがある。
「なんでまた商業国家に」
こちらから尋ねると話が長くなりそうだと思ったのか、フルールさんに店内備え付けのソファ席へと案内される。
ラシアーユ商会は、古くからある老舗と言った趣のある建物だ。その中でも現代のデザインを取り込んだ商品展示棚などもあり、古き良き部分を残すだけでなく新しいものも取り入れていく姿勢が感じられる。
「実はあれからですね、商会本部から応援として呼び戻されまして」
「応援ですか」
「はい。他の商会から、わたくしどもの商売の領域を侵食されていると連絡があったのですよ」
「へぇ、そうなんですね」
何やら納得している莉緒だけど、それほどフルールさんはやり手の商人だということだろうか。さっぱりわからん。
「ですのでラシアーユ商会を贔屓にしてくださると助かります。あ、狩った魔物をお持ちであればまた買い取らせていただきますよ。……商品のアイデアなどもあればもちろん、悪いようにはいたしませんので」
うふふとほほ笑むフルールさんに思わず気圧される。なんだか相手の商会をよほど腹に据えかねているようだ。
うん。まぁがんばってください。
「あはは、じゃあ何かあったときはお願いするようにしますね」
「ええ、何かご入用があればいろいろ紹介させていただきます。今は何かございますか?」
「あ、それじゃあ……」
ちらりと莉緒を振り返ると眉間に皺を寄せて何かないか考えている。
この機会にこの街で莉緒と結婚式をやってしまおうかと思っている。ずっと有耶無耶になったままで俺ももやもやしたままだし、何より――
=====
名前:柚月 莉緒
=====
莉緒を鑑定して見える名前が、柚月莉緒なんだよな。聞いた話だと家名を持っている貴族のフルネームが変わるって言うし、もしかすると水本莉緒に変わるんじゃないかと思っている。
うん。いいね。水本莉緒。
「服飾店を紹介してもらえませんか」
「はい、かしこまりました。どういった服飾店をお探しでしょうか?」
「高級店でお願いします。……莉緒のドレスとかオーダーしたいので」
「へっ?」
「まぁ!」
呆けた莉緒の顔の横で、フルールさんが両手を口元に当てて驚いている。
「わ、私のドレス……?」
まだよくわかっていない様子の莉緒に、冷静を装いつつゆっくりと言葉を続ける。顔が火照ってるけどきっと気のせいだ。
「あーほら、あのクソ王国も抜けられたことだし。きちんとここで、莉緒と結婚式をしておきたいなと思って」
命の安いこの世界だ。恥ずかしいからと言って先延ばしにしてたら、手遅れになってしまうことだってある。嫌というほどあの国で学ばされたからな。
「柊……!」
感極まった莉緒が瞳を潤ませてこちらを見つめてくる。
「素敵ですわね! この街一番の服飾店をご紹介させていただきますわ」
「あはは、よろしくお願いしますね」
「ではこのあとすぐに服飾店に向かわれますか?」
「あ、そうですね。ここの商品をちょっと見させてもらったら、行こうかと思います」
「承知いたしました。では紹介状をしたためてまいりますので、店内をご覧になっていてください」
「ありがとうございます」
そのまま立ち上がり、フルールさんは店の奥へと去っていく。
「よし、フルールさんが紹介状書いてくれるまでちょっと店内を見て回ろうか」
「うん。……えへへ」
はにかみながらもじもじする莉緒が出来上がっていた。
しばらく店内をぶらつき、日用品などを買い足してから紹介状をもらうと、そのまま服飾店へと向かう。
アークライト王国で同じように結婚式用の服をオーダーしようと服飾店に向かったときは確か、衛兵からの邪魔が入ったんだったか。
今回は特に誰から邪魔されることもなく服飾店へと到着することができた。いやまったくもって素晴らしい。
さっそくもらった紹介状を見せると、莉緒のドレスを見立ててもらう。
「ほら、柊もサイズ測ってもらって、一緒にオーダーするわよ」
「俺も?」
「うふふ、当たり前じゃないの」
この日は時間をかけて、莉緒のドレスと俺の礼服をあれこれ選ぶのに費やした。この世界ではカラードレスが主流ではあるが、やはり莉緒はウェディングドレスに憧れがあったのか、純白のドレスを選んでいた。
「どう?」
既製品のドレスを着た莉緒に声を掛けられる。
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