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第二部
ミミナ商会
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「さて、二週間の間何しようか」
「とりあえず野営用の家の拡張じゃないかしら」
「あー、確かにそうだな」
「外に出るついでに何か依頼を受けるならギルドに行かないとダメだけど……」
ここはまだベルドラン工房の前である。ギルドに行くなら東へ、街の外に出るなら西門が一番近い。そして時間帯は夕方手前となっている。
「うん。時間的に今日はどっちもナシかな。でもギルドでどんな依頼があるか見ておくのはありかも? ベルドランさんの言ってた商会を冷やかすのもありかなー」
「じゃあギルドで商会の場所を聞きましょうか」
「そうしよう」
今日の予定を決めたところでギルドがある東へと向かう。六大商会ともなると、職人の街には漏れなく支店を出してる気がするな。
「適当に二つ三つ絞ってお店を回ればいいか」
ギルドへ到着すると、さっそく依頼ボードの前へと向かう。仕事が終わる前の時間帯だからか、ボード前は空いている。
「素材の採集依頼が多いな」
西の天狼の森での採集依頼や、東の鉱山での採集依頼が主だ。
「そうね……。あ、天狼茸の採集依頼が貼ってあるね」
「ホントだ。こっちにもあるのか」
考えてみれば当たり前か。この街も天狼の森に近いんだから。匂いがわかればすぐ見つけられるんだけどなぁ。匂いに敏感な獣人族じゃダメなのかな……。いまいち嗅覚をどれだけ強化できたかわからないので何とも言えないところだ。
よく見れば常時依頼と通常依頼の二つが貼りだしてある。事情は天狼の村ときっと同じなんだろうな。通常依頼の方が値段が高く、張り紙も新しいようで黄ばんではいない。
「確か常時依頼がラシアーユ商会で、通常依頼がミミナ商会だったっけ? 回るならこの二つの商会でいいかもしれないわね」
「ミミナ商会って、あの高圧的なオッサンがいたところだっけ? 敵情視察も兼ねてそこにするか」
まだこの街には伝わってないとは思うけど、万一に備えて情報収集は必要だな。
ギルド職員を捕まえて、六大商会についても聞いてみた。予想通り六つの支店がこの街にはあるとのことで、ラシアーユ商会とミミナ商会の場所も聞けた。
「近い方から行こうか」
「うん。ミミナ商会からだね」
ギルドを出ると中央広場に出て大通りを南へと下る。すぐ右側にミミナ商会が見えてきた。新しい店構えの立派なお店だ。聞いたところによると大通りの中央に新しく店を構えたばかりとのこと。
「いらっしゃいませにゃー!」
中に入ると元気のいい女性店員さんに出迎えられる。耳をぴこぴこ動かしながら近づいてくると、ニパッと笑顔を見せる。
「御用があればお伺いしますにゃ」
語尾に『にゃ』を付けて喋る人間がリアルにいるとは。もふもふした猫耳と、ホットパンツスタイルから覗くもふもふ尻尾は、ケモナーにはたまらない。
「ふらっと入っただけなのでお構いなく」
「かしこまりましたにゃ。ごゆっくりどうぞにゃ~」
莉緒に脇腹をつつかれて睨まれてしまった。
乗合馬車で偶然会った斥候のエミリーと似たようなタイプだろうか。猫人族には天真爛漫な人格が多いのかもしれない。
思わず注視してしまったが、別に見惚れたとかそんなんじゃないんだけどな。
「さすがに職人の街だけあって、いろいろ置いてあるわね」
「家具や食器類も多いな。二階にはアクセサリ類もあるみたいだな」
「お、何か見覚えがあるけど……、これって屋台でお茶もらった時のカップ?」
よく見ると保温性抜群とか説明が書かれている。
「……あれで抜群なの?」
莉緒が眉に皺を寄せて、疑いの目でカップの説明を読んでいる。他にも保温性抜群の鍋なんてのがあるけど、それは逆に熱を伝えにくいんじゃなかろうか。……なんとなく詐欺臭がするのは気のせいか。
「おお、お目が高いですね。それは最近我が商会で開発された保温カップでございます。数に限りがありますので、お買い上げになるのであれば今しかありませんよ?」
ふと現れたのはひょろ長い細目の、紳士然とした男性だ。店長とかそんな人だろうか。
「それとも……」
適度な間を空けると細い目をクワっと見開いて。
「お客様はもっと保温性の高いカップをご存じなのでしょうか?」
何か圧を含んだ口調で迫ってきた。
「あ、いや、これは失礼を。開発したばかりの商品より性能の良いものを知っているとなれば、わたくしども商会としては気になるものでして」
どうやら莉緒の呟きを拾われていたらしい。そりゃ商品に難癖をつけられたら文句も言いたくなるか。
「えーっと、すみません、どうやら見間違いみたいでした。……これと似たようなカップで熱いお茶をもらったんですけど、そんなに保温性がよくなかったもので」
「そうでしたか。それは失礼をいたしました。他にも商品はございますので、ごゆるりとご覧ください」
苦笑いで躱そうとする莉緒だったが、鋭い視線を残したまま男が去っていく。
「ふー、危なかった。変に批判的な言葉は口にしないほうがいいわね……」
「はは、災難だったな。……にしても、ミミナ商会ってのにはロクな人間がいない、……こともないか」
外から入ってきた客へ『いらっしゃいませにゃー!』と元気よく挨拶する猫人族をちらりと視界に入れながら莉緒へ声をかけるが。
「どこ見て言ってるのよ」
頬を膨らませる莉緒に脇腹を殴られた。
怒った顔も可愛いけど痛いです。
「とりあえず野営用の家の拡張じゃないかしら」
「あー、確かにそうだな」
「外に出るついでに何か依頼を受けるならギルドに行かないとダメだけど……」
ここはまだベルドラン工房の前である。ギルドに行くなら東へ、街の外に出るなら西門が一番近い。そして時間帯は夕方手前となっている。
「うん。時間的に今日はどっちもナシかな。でもギルドでどんな依頼があるか見ておくのはありかも? ベルドランさんの言ってた商会を冷やかすのもありかなー」
「じゃあギルドで商会の場所を聞きましょうか」
「そうしよう」
今日の予定を決めたところでギルドがある東へと向かう。六大商会ともなると、職人の街には漏れなく支店を出してる気がするな。
「適当に二つ三つ絞ってお店を回ればいいか」
ギルドへ到着すると、さっそく依頼ボードの前へと向かう。仕事が終わる前の時間帯だからか、ボード前は空いている。
「素材の採集依頼が多いな」
西の天狼の森での採集依頼や、東の鉱山での採集依頼が主だ。
「そうね……。あ、天狼茸の採集依頼が貼ってあるね」
「ホントだ。こっちにもあるのか」
考えてみれば当たり前か。この街も天狼の森に近いんだから。匂いがわかればすぐ見つけられるんだけどなぁ。匂いに敏感な獣人族じゃダメなのかな……。いまいち嗅覚をどれだけ強化できたかわからないので何とも言えないところだ。
よく見れば常時依頼と通常依頼の二つが貼りだしてある。事情は天狼の村ときっと同じなんだろうな。通常依頼の方が値段が高く、張り紙も新しいようで黄ばんではいない。
「確か常時依頼がラシアーユ商会で、通常依頼がミミナ商会だったっけ? 回るならこの二つの商会でいいかもしれないわね」
「ミミナ商会って、あの高圧的なオッサンがいたところだっけ? 敵情視察も兼ねてそこにするか」
まだこの街には伝わってないとは思うけど、万一に備えて情報収集は必要だな。
ギルド職員を捕まえて、六大商会についても聞いてみた。予想通り六つの支店がこの街にはあるとのことで、ラシアーユ商会とミミナ商会の場所も聞けた。
「近い方から行こうか」
「うん。ミミナ商会からだね」
ギルドを出ると中央広場に出て大通りを南へと下る。すぐ右側にミミナ商会が見えてきた。新しい店構えの立派なお店だ。聞いたところによると大通りの中央に新しく店を構えたばかりとのこと。
「いらっしゃいませにゃー!」
中に入ると元気のいい女性店員さんに出迎えられる。耳をぴこぴこ動かしながら近づいてくると、ニパッと笑顔を見せる。
「御用があればお伺いしますにゃ」
語尾に『にゃ』を付けて喋る人間がリアルにいるとは。もふもふした猫耳と、ホットパンツスタイルから覗くもふもふ尻尾は、ケモナーにはたまらない。
「ふらっと入っただけなのでお構いなく」
「かしこまりましたにゃ。ごゆっくりどうぞにゃ~」
莉緒に脇腹をつつかれて睨まれてしまった。
乗合馬車で偶然会った斥候のエミリーと似たようなタイプだろうか。猫人族には天真爛漫な人格が多いのかもしれない。
思わず注視してしまったが、別に見惚れたとかそんなんじゃないんだけどな。
「さすがに職人の街だけあって、いろいろ置いてあるわね」
「家具や食器類も多いな。二階にはアクセサリ類もあるみたいだな」
「お、何か見覚えがあるけど……、これって屋台でお茶もらった時のカップ?」
よく見ると保温性抜群とか説明が書かれている。
「……あれで抜群なの?」
莉緒が眉に皺を寄せて、疑いの目でカップの説明を読んでいる。他にも保温性抜群の鍋なんてのがあるけど、それは逆に熱を伝えにくいんじゃなかろうか。……なんとなく詐欺臭がするのは気のせいか。
「おお、お目が高いですね。それは最近我が商会で開発された保温カップでございます。数に限りがありますので、お買い上げになるのであれば今しかありませんよ?」
ふと現れたのはひょろ長い細目の、紳士然とした男性だ。店長とかそんな人だろうか。
「それとも……」
適度な間を空けると細い目をクワっと見開いて。
「お客様はもっと保温性の高いカップをご存じなのでしょうか?」
何か圧を含んだ口調で迫ってきた。
「あ、いや、これは失礼を。開発したばかりの商品より性能の良いものを知っているとなれば、わたくしども商会としては気になるものでして」
どうやら莉緒の呟きを拾われていたらしい。そりゃ商品に難癖をつけられたら文句も言いたくなるか。
「えーっと、すみません、どうやら見間違いみたいでした。……これと似たようなカップで熱いお茶をもらったんですけど、そんなに保温性がよくなかったもので」
「そうでしたか。それは失礼をいたしました。他にも商品はございますので、ごゆるりとご覧ください」
苦笑いで躱そうとする莉緒だったが、鋭い視線を残したまま男が去っていく。
「ふー、危なかった。変に批判的な言葉は口にしないほうがいいわね……」
「はは、災難だったな。……にしても、ミミナ商会ってのにはロクな人間がいない、……こともないか」
外から入ってきた客へ『いらっしゃいませにゃー!』と元気よく挨拶する猫人族をちらりと視界に入れながら莉緒へ声をかけるが。
「どこ見て言ってるのよ」
頬を膨らませる莉緒に脇腹を殴られた。
怒った顔も可愛いけど痛いです。
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