成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa

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第二部

不愉快なオッサンはスルーして出発しよう

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「きみたちか。昨日天然物の天狼茸を持ち込んだというのは」

 のしのしと若干ふんぞり返りながらもこちらへ歩み寄り、オッサンは値踏みするようにこちらを眺めてくる。

「え? 違いますけど」

「ふん。ワシの目は誤魔化せんぞ。お前たちで違いないだろう」

 一応しらばっくれてみるけど鼻で笑われた。
 一体何なんだこのオッサンは。若干頭頂部が薄くなっている、防具ではなく豪華な普段着を着た一般人という感じだ。少なくとも冒険者には見えない。

「どっちにしろ私たち、これから村を出るところなんですけど」

 あんまり時間が取れないことをそれとなく莉緒が伝えるが、オッサンはそんなこと関係ないとばかりに詰め寄ってくる。

「どこで見つけたか情報があるなら、ワシが所属するミミナ商会が高値で買い取ってやるぞ。あとまだ天然物を持っているならそれも買い取ってやろうではないか」

「はい?」

 やたらと高圧的に来るオッサンに変な声が漏れる。
 見つけた場所……森に詳しくないから奥地としか言えない。茸は確かにまだ持ってるけど、これは自分で食べる用なのだ。昨日は値段が知りたくて好奇心から売っただけに過ぎない。

「さらに追加で天然物の採集依頼を特別に指名依頼で出そうじゃないか。ミミナ商会からの指名依頼となれば報酬も弾むぞ」

 このオッサン話を聞いてないな。いや聞いてるかもしれないがかなり強引だ。こういう輩からはさっさと逃げるに限る。

「お断りします。他を当たってください」

「は?」

 断られるとは思っていなかったのか、オッサンが真顔になっている。
 莉緒の手を取ってオッサンの横を通り過ぎると、後ろから脅しのような言葉が飛んできた。

「このミミナ商会からの依頼を断るというのかね。商業国家で六大商会から目を付けられるとはどういうことか……、って話を――」

 なんか喚いているが最後まで聞いてやる義理はない。ギルドを出ると声は聞こえなくなったが、なんとも不愉快なオッサンだった。万が一売ることになったとしても、もっと誠実な商会を選ばせていただきます。

「六大商会がどうのこうのって言ってたわね」

「うん? そんなこと言ってたか」

 ちゃんと聞いてなかったけど、確か六大商会ってこの商業国家をまとめてる商会だったっけ? まぁでも、もうこの村には用はないし今後関わってくることはないだろ。

「面倒なことにならないといいけれど……」

「まぁ、しばらくは大丈夫じゃないかな?」

 うんざりした表情を見せる莉緒に、安心させるように声を掛ける。

「これから森を超えてショートカットするわけだし、しばらくは大丈夫だろ。そんなに長居するつもりもないし」

「だけど油断は禁物だよ」

「それはまぁ、わかってるよ」

 前の国では実際に油断してやられているのだ。もう二度と同じ轍は踏まない。
 とはいえだ。フェンリル村から国境の街まで戻るのに乗合馬車で一日半。そこから東の商都まで三日かかり、南下して職人の街レイヴンに行くにはさらに二日かかるのだ。早馬を使えばどうなるかわからないが、だいたい一週間の猶予はあると考えている。

 そもそも俺たちは今からどこへ向かうのか誰にも伝えていない。宿は引き払っており、ギルドでも報酬を受け取っただけで依頼は受けていないので、村を出ることはわかるんだろうけど。

「うん。どっちにしろ常日頃から警戒はしておかないとね」

「そうだね。じゃあそろそろ行こっか」

 こうして俺たちは村を東から出ると、そのまま森の奥へと向かう。
 昨日と同じように歩いて奥まで行くと、そこからは飛翔して速度を上げる。できれば今日中に森を抜けたいので、あまり寄り道をするつもりはない。
 さらにしばらく行くと今度は森の上空へと高度を上げる。さすがにここまでくれば上空を飛んでいても誰かに見られることもないだろう。生い茂る樹木が視界を遮ってくれるはずだ。

「やっぱり森の中を飛ぶより速度を上げられるな」

「ちょっと樹を避けながらは面倒だもんね」

 眼下に見えるのは生い茂った天狼の森の樹々たち。ところどころ魔物の気配が感じられるが、もちろん上空を飛ぶ俺たちに気付くはずもない。
 前方はまだ森しか見えないが、少しずつではあるが霧が出始めて濃くなってきた。

「これじゃあんまりスピード出せないわね……」

「今日中に森を抜けたいんだけどなぁ」

 空はいい天気なのになんだろうな。天然物を探しに森の奥に来た時もうっすらと霧が出てたけど、もともと霧が出やすい地域なんだろうか。

「って何あれ……」

 急に目の前に現れたのは、森の中から天高くそびえる塔だった。霧で煙っていて見えづらかったからか、急に現れたように感じる。
 直径二十メートルほどの塔が空高くまでそびえている。パッと見た感じ出入り口や窓の類は見当たらない。地上部分はどうなってるかわからないが……。

「なんだろな……。もしかしてカリン様でもいるんだろうか」

「えっ?」

 猫神様がいる塔とは太さも全然違うが、思ったことがうっかり言葉に出てしまった。

「いや、なんでもない。にしても村人にも森にこんな塔があるなんて話は聞かなかったよな?」

「うん。私も聞いたことない」

 ちょっと興味はあるけどそれよりも問題なのは、このあたりの魔物の気配が濃いことだ。じっくりと塔を観察したいところではあるが、そうすると森を今日中に抜けることはできなくなる。かといってこんなところで野営するのもなぁ……。魔物が多すぎて気が抜けないし。

「気にはなるけどとりあえずは当初の目的地に向かうか」

「そうね。よくわからない危険なものには手を出さないでおきましょう」

「おう。前に感じた強い魔物の気配も近づいてきてるし、この塔はスルーで」

「え? それって……」

 俺の言葉に莉緒が周囲をきょろきょろと見回している。

「前にシルバーウルフの死体を見つけたときに感じた気配?」

「うん。なんかゆっくりと……ってスピードアップしたぞ!?」

「えっ? あっ! ホントだ、こっちに来る!?」

 とうとう莉緒の探知範囲内にも入ったようだ。進行方向にゆっくり近づいていた魔物もこっちに気が付いたのだろう。
 急にスピードを上げてこちらへと近づいてきた。
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