78 / 421
第二部
天然物のお値段
しおりを挟む
「いやー、思ったより大量に天然物が手に入ったな」
「薬草も採集できたし、一石二鳥だったわね」
群生地などもあったが、天狼苑みたいに同じ木にいくつも生えてるといったことはなかった。やっぱり密集させすぎはよくない気がする。
「だけど……」
「……何かあるの?」
莉緒が訝し気に首を傾げる。
遠くに大きな気配を一つ感じるのだ。今では数キロ先まで気配や魔力を感知できるようになっている。
「あれがシルバーウルフを殺った魔物かな?」
「何か見つけたのね……。私は遠すぎて感じないけど、柊がそう思うならそうなんじゃないかしら。それで、どう?」
「うーん。……魔の森奥地の魔物に比べても遜色はないかもしれない」
「へぇ。それはすごいわね」
森の最奥は師匠ですら苦戦する魔物がいるらしく、俺たちも戦ったことはない。だけど奥地の魔物は俺たち二人がかりでも狩るのにそこそこ時間のかかる、やっかいな奴らもいるのだ。
中でも一番手こずったのは地竜だろうか。今の俺たちなら以前よりは楽に倒せるようになってるとは思うけど、再戦したいとはあんまり思わない。丸二日かかった戦闘時間が半分になったところで、辛いものは辛いのだ。
「うん。面倒だから避ける方向で」
「それがいいわね」
「もし見つかったら異空間ボックスにある適当な獲物をエサにして逃げるか」
「あはは、そうね。食べ応えのある獲物はいっぱいあるし」
「よし、んじゃ今日はそろそろ帰るか」
「日も暮れそうだし、そうしましょうか」
大きい魔物の気配から遠ざかり、村への帰路に就く。途中で熊の魔物を見かけたが、こっちに気付いて逃げ出したのでスルーしておいた。ギルドで聞いた限りでは好戦的って言ってたけど、なんでだろうな?
あれから一日が経過した日の夕方となった。今日も薬草採集しつつ天然物の天狼茸を収穫しまくりホクホク顔だ。奥地にもなると人も来ないし、穴場だな。
「宿も今夜一泊したら終わりだし、今日はギルドでいろいろ売ってみるか」
「明日は天狼の森を抜けて職人の街レイヴンに行くんだよね」
「おう。早く野営用の家具を揃えたいし、いちいち国境の街に戻るのも面倒だし」
「あはは……、それは同感」
いつものようにギルドの入り口を潜り抜け、今日は買取カウンターへと向かう。今日はいろいろと売ってみるつもりだ。
シルバーウルフの毛皮も欲しいし。
……え? 自分で剥ぎ取れって? いやめんどくさいじゃん。
「買取お願いしまーす」
軽い口調で告げると、手の空いていた職員が近づいてきた。
「はいどうぞ」
まずは集めた薬草類をいくつか提出すると、そのあとは本命のシルバーウルフだ。
「えっ!?」
ギョッと後ずさる職員の様子に、ギルド内にいる人たちの視線が集まってくる。気にしていたら進まないので、六匹ほどカウンターへと載せた。
「毛皮はください」
「……あ、はい。……えーっと、お肉はどうしましょう?」
ざわつくギルド内に職員の戸惑う声がかすかに聞こえてくる。
肉って食えるのか。狼の肉って聞くだけでなんか硬そうで美味しそうに感じないんだけど。
「肉って食べられるんだ?」
莉緒も同じことを思ったようだ。
「え、ええ。高ランクの魔物は美味しいモノが多いですね。シルバーウルフも食用となります」
「あ、じゃあ三匹分だけ肉ください。あとは売却で」
「わかりました」
「あとはコレも売却で……」
そっと懐から取り出したのは、それなりのサイズの天然物の天狼茸である。思ったより採れたもんだから、いくらで売れるのかちょっとした好奇心が出てしまった。
「て、天然物!?」
シルバーウルフを出した時よりも驚きが大きい。遭遇率となるとやっぱりシルバーウルフのほうが高いよな。あっちは近づいたら襲い掛かってくるし。
「し、失礼しました。解体と査定もありますので、また明日来ていただけますか」
引換券代わりの割符を受け取りギルドを後にする。好奇心や疑いの視線が向けられるがすべてスルーした。
そして翌日。ギルドで戦利品と報酬を受け取ると、さっそくシルバーウルフの毛並みを確認する。
「おおー、思ったよりもふもふ」
「気持ちいいわね」
サイズも大きいので一枚でも地面に敷けば、寝転がってもはみ出ることはないだろう。
「あと天然物だな」
「思ったより高かったわね」
持ち込んだ天然物は二本だが、それぞれ5万3千フロンと12万フロンにもなった。この間宿で食ったコース料理に出てきた天然物は偽物だったのかと思える値段だ。奥地で採れるものほど高価とは聞いていたが、想像以上だったってことだな。
「よし、んじゃ行くか」
「うん。長閑でいい村だったね」
「そうだな。……いるだけで腹が減る村ではあったな」
「あはは!」
今もかすかに漂ってくる茸の匂いがたまらない。ここの村人たちはよく耐えてると思う。いやそれも慣れなのか。
感慨深げにギルドを出ようとしたところで、その声は聞こえてきた。
「昨日天然物の天狼茸を持ち込んだという冒険者に会いたいんだが、どこにいるか知らないかね」
高圧的な感じのするぽっちゃりと太ったオッサンだ。冒険者というよりは、依頼をする側だろうか。実力者という風には見えない。
なんとなく嫌な予感がするが、外に出るにはオッサンの近くを通らないとダメだ。さらに言えば、オッサンに詰め寄られていた職員がこちらにちらりと視線を飛ばしている。
つられてこっちを向いたオッサンと目が合ったところで、なんかダメな予感がひしひしとするのだった。
「薬草も採集できたし、一石二鳥だったわね」
群生地などもあったが、天狼苑みたいに同じ木にいくつも生えてるといったことはなかった。やっぱり密集させすぎはよくない気がする。
「だけど……」
「……何かあるの?」
莉緒が訝し気に首を傾げる。
遠くに大きな気配を一つ感じるのだ。今では数キロ先まで気配や魔力を感知できるようになっている。
「あれがシルバーウルフを殺った魔物かな?」
「何か見つけたのね……。私は遠すぎて感じないけど、柊がそう思うならそうなんじゃないかしら。それで、どう?」
「うーん。……魔の森奥地の魔物に比べても遜色はないかもしれない」
「へぇ。それはすごいわね」
森の最奥は師匠ですら苦戦する魔物がいるらしく、俺たちも戦ったことはない。だけど奥地の魔物は俺たち二人がかりでも狩るのにそこそこ時間のかかる、やっかいな奴らもいるのだ。
中でも一番手こずったのは地竜だろうか。今の俺たちなら以前よりは楽に倒せるようになってるとは思うけど、再戦したいとはあんまり思わない。丸二日かかった戦闘時間が半分になったところで、辛いものは辛いのだ。
「うん。面倒だから避ける方向で」
「それがいいわね」
「もし見つかったら異空間ボックスにある適当な獲物をエサにして逃げるか」
「あはは、そうね。食べ応えのある獲物はいっぱいあるし」
「よし、んじゃ今日はそろそろ帰るか」
「日も暮れそうだし、そうしましょうか」
大きい魔物の気配から遠ざかり、村への帰路に就く。途中で熊の魔物を見かけたが、こっちに気付いて逃げ出したのでスルーしておいた。ギルドで聞いた限りでは好戦的って言ってたけど、なんでだろうな?
あれから一日が経過した日の夕方となった。今日も薬草採集しつつ天然物の天狼茸を収穫しまくりホクホク顔だ。奥地にもなると人も来ないし、穴場だな。
「宿も今夜一泊したら終わりだし、今日はギルドでいろいろ売ってみるか」
「明日は天狼の森を抜けて職人の街レイヴンに行くんだよね」
「おう。早く野営用の家具を揃えたいし、いちいち国境の街に戻るのも面倒だし」
「あはは……、それは同感」
いつものようにギルドの入り口を潜り抜け、今日は買取カウンターへと向かう。今日はいろいろと売ってみるつもりだ。
シルバーウルフの毛皮も欲しいし。
……え? 自分で剥ぎ取れって? いやめんどくさいじゃん。
「買取お願いしまーす」
軽い口調で告げると、手の空いていた職員が近づいてきた。
「はいどうぞ」
まずは集めた薬草類をいくつか提出すると、そのあとは本命のシルバーウルフだ。
「えっ!?」
ギョッと後ずさる職員の様子に、ギルド内にいる人たちの視線が集まってくる。気にしていたら進まないので、六匹ほどカウンターへと載せた。
「毛皮はください」
「……あ、はい。……えーっと、お肉はどうしましょう?」
ざわつくギルド内に職員の戸惑う声がかすかに聞こえてくる。
肉って食えるのか。狼の肉って聞くだけでなんか硬そうで美味しそうに感じないんだけど。
「肉って食べられるんだ?」
莉緒も同じことを思ったようだ。
「え、ええ。高ランクの魔物は美味しいモノが多いですね。シルバーウルフも食用となります」
「あ、じゃあ三匹分だけ肉ください。あとは売却で」
「わかりました」
「あとはコレも売却で……」
そっと懐から取り出したのは、それなりのサイズの天然物の天狼茸である。思ったより採れたもんだから、いくらで売れるのかちょっとした好奇心が出てしまった。
「て、天然物!?」
シルバーウルフを出した時よりも驚きが大きい。遭遇率となるとやっぱりシルバーウルフのほうが高いよな。あっちは近づいたら襲い掛かってくるし。
「し、失礼しました。解体と査定もありますので、また明日来ていただけますか」
引換券代わりの割符を受け取りギルドを後にする。好奇心や疑いの視線が向けられるがすべてスルーした。
そして翌日。ギルドで戦利品と報酬を受け取ると、さっそくシルバーウルフの毛並みを確認する。
「おおー、思ったよりもふもふ」
「気持ちいいわね」
サイズも大きいので一枚でも地面に敷けば、寝転がってもはみ出ることはないだろう。
「あと天然物だな」
「思ったより高かったわね」
持ち込んだ天然物は二本だが、それぞれ5万3千フロンと12万フロンにもなった。この間宿で食ったコース料理に出てきた天然物は偽物だったのかと思える値段だ。奥地で採れるものほど高価とは聞いていたが、想像以上だったってことだな。
「よし、んじゃ行くか」
「うん。長閑でいい村だったね」
「そうだな。……いるだけで腹が減る村ではあったな」
「あはは!」
今もかすかに漂ってくる茸の匂いがたまらない。ここの村人たちはよく耐えてると思う。いやそれも慣れなのか。
感慨深げにギルドを出ようとしたところで、その声は聞こえてきた。
「昨日天然物の天狼茸を持ち込んだという冒険者に会いたいんだが、どこにいるか知らないかね」
高圧的な感じのするぽっちゃりと太ったオッサンだ。冒険者というよりは、依頼をする側だろうか。実力者という風には見えない。
なんとなく嫌な予感がするが、外に出るにはオッサンの近くを通らないとダメだ。さらに言えば、オッサンに詰め寄られていた職員がこちらにちらりと視線を飛ばしている。
つられてこっちを向いたオッサンと目が合ったところで、なんかダメな予感がひしひしとするのだった。
21
お気に入りに追加
513
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる