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第二部
天狼苑の魔物退治
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「そんなことも知らないで商業国家に来たのか?」
アリッサと名乗った野太い声の女冒険者は、呆れた顔になっている。
なんでも商業国家を代表する六つの商会だという話だ。商業国家の名前の通り、各商会の代表者が、国家の運営にまで携わっているらしい。
「昔からこの村で常時依頼として天然物の天狼茸の採集依頼を出しているのが、ラシアーユ商会だ。で、今回天狼茸に目を付けて参入してきたのが、ミミナ商会だな」
「へぇ、そうなんですね」
「あぁ。他の商会の領域に踏み込むなんて何かあるのかと勘繰る連中もいるが、今のところ何も起こっちゃいない。まぁどちらにしろミミナ商会の依頼の方が、依頼料が高いからな」
「どっちにしろ、ランクが足りないので俺たちは受けられないですね」
「そうなのか。まぁ森の奥地はシルバーウルフが出るからな。ランクが足りないのならば、間違っても奥に行くんじゃないぞ」
「わかりました」
わざわざ依頼料の高いほうがあると教えてくれたのも、依頼ボードにたくさん貼られているからだろう。普通は割のいい依頼は取り合いになりそうなもんだ。
忠告は忠告としてありがたく受け取っておこう。ついでだからもうひとつ聞いてみようかな。
「そういえば、この村って木工製品も特産品なんです? 結構木造建築とかしっかりしたものが多いし、家具もすごくよさそうだなと思ったんですけど」
話を聞けば、天狼の森の木材は確かに特産品だそうだが、この村で加工はほとんどされていないらしい。天狼の森の向こう側にある、職人の街レイヴンが一大生産地だとか。
「だからといって森を抜けて行こうと思うなよ。特に街道が続いてるわけでもないし、シルバーウルフの棲息地帯を抜けるなんて自殺行為だからな」
早速釘を刺されてしまったが、それなら森の上空を飛んでいけばいいだけだ。だけど念のため他に道がないかは聞いておこうか……。無謀な冒険者とか思われたくないし。
「そうなんですね……、他に道はないですよね?」
「ないな。森を迂回するしかないが、ここからだと国境の街に戻る方が近いな」
南へ進むならともかく、戻る方が近いとか勘弁して欲しいところだ。
「わざわざありがとうございます」
「あぁ、気にするな。森の奥へ行って帰って来ない冒険者がそこそこいるからな。命は大事にしろよ」
じゃあなと言って、アリッサはギルドの奥へと引っ込んでいく。パーティーメンバーらしき仲間に、可愛い坊やと話がしたかったのか云々とからかわれているが、それって俺のことですかね。
「森の奥にお宝があるとわかってれば、採集に行きたくなる冒険者はたくさんいそうよね」
「だなぁ」
気持ちはわからなくもない。冒険者という職業そのものが博打みたいなものだ。でも一発当てるにしても、天然物の天狼茸ってそんなに高いのかな。
「とりあえず見学を兼ねて天狼苑の依頼を受けてみましょうか」
「おう。茸狩りだな」
「茸は狩っちゃダメでしょ。狩るのは魔物だからね」
というわけで天狼苑の魔物討伐依頼を受けてみることにした。
天狼苑は森の浅いところに点在している。村の東門から外へ出ると、まばらに樹が生えている場所へと出る。まっすぐ一本道が続いているが、細い道の分岐もいくつか見える。それぞれ天狼苑へとつながっている道だが、看板がついているので迷うこともない。
十分ほど歩くと樹々の密度が上がり、森といった雰囲気になってくる。いくつかの分岐を進むと、柵が見えてきた。
「ここかな?」
「看板にもネーブル天狼苑って書いてあるし、間違いなさそうね」
さっそくやってきたのはEランクの討伐依頼である天狼苑だ。気配察知を使うと、管理人と思しき人物と、天狼苑をうろついているであろう魔物というか動物がちらほらといるみたいだ。
茸の管理人らしきエルフへと声をかけると、退治する魔物の詳細について話を聞く。匂いに釣られて食べにくる魔物が後を絶たないようだ。そこまで強くはないが数が多いとのことで、手分けして退治すればいいとのこと。
「合計三十匹退治すれば依頼達成ということですね」
「はい。退治した獲物は数えますので見せに来てください」
「わかりました」
「ではよろしくお願いします」
苑の名前にもなっているネーブルさんの元を辞すると、さっそく狩りの開始だ。狩った獲物を確認してもらい、依頼達成のサインをもらえば完了だ。
「にしても天狼茸ってこんなふうに生えてんだな」
普通に葉を茂らせている樹木の根元や幹から、松茸の形状をした茸が生えているのが見える。なんとなく生えすぎな気もするが、素人が口を出すことでもない。
匂いを嗅いでみるが、そこまで香りが強いというわけでもない。やっぱり火を通さないとダメなのかな。
「よし、じゃあちゃっちゃと狩りますか」
「おー」
右手を突き上げる莉緒と二手に分かれて、気配察知が教えてくれるままに魔物を狩る。二人でざっと天狼苑を一周するころには、十分な数の獲物が狩れたと思う。
「え? もう終わったんですか?」
ネーブルさんに驚かれながらも獲物を異空間ボックスから出していく。目標の三十匹を超えたあたりから、一緒に数え上げていた声が聞こえなくなっていた。
「八十三……っと。これで終わりかな」
狩りをしながらだと途中から数えるのが面倒になってたけど、改めて数えてみてちゃんと達成できててよかった。
「……こんなにいたんだ」
呆然と呟きながらも依頼票にサインをしてもらうと、俺たちは天狼苑を後にした。
アリッサと名乗った野太い声の女冒険者は、呆れた顔になっている。
なんでも商業国家を代表する六つの商会だという話だ。商業国家の名前の通り、各商会の代表者が、国家の運営にまで携わっているらしい。
「昔からこの村で常時依頼として天然物の天狼茸の採集依頼を出しているのが、ラシアーユ商会だ。で、今回天狼茸に目を付けて参入してきたのが、ミミナ商会だな」
「へぇ、そうなんですね」
「あぁ。他の商会の領域に踏み込むなんて何かあるのかと勘繰る連中もいるが、今のところ何も起こっちゃいない。まぁどちらにしろミミナ商会の依頼の方が、依頼料が高いからな」
「どっちにしろ、ランクが足りないので俺たちは受けられないですね」
「そうなのか。まぁ森の奥地はシルバーウルフが出るからな。ランクが足りないのならば、間違っても奥に行くんじゃないぞ」
「わかりました」
わざわざ依頼料の高いほうがあると教えてくれたのも、依頼ボードにたくさん貼られているからだろう。普通は割のいい依頼は取り合いになりそうなもんだ。
忠告は忠告としてありがたく受け取っておこう。ついでだからもうひとつ聞いてみようかな。
「そういえば、この村って木工製品も特産品なんです? 結構木造建築とかしっかりしたものが多いし、家具もすごくよさそうだなと思ったんですけど」
話を聞けば、天狼の森の木材は確かに特産品だそうだが、この村で加工はほとんどされていないらしい。天狼の森の向こう側にある、職人の街レイヴンが一大生産地だとか。
「だからといって森を抜けて行こうと思うなよ。特に街道が続いてるわけでもないし、シルバーウルフの棲息地帯を抜けるなんて自殺行為だからな」
早速釘を刺されてしまったが、それなら森の上空を飛んでいけばいいだけだ。だけど念のため他に道がないかは聞いておこうか……。無謀な冒険者とか思われたくないし。
「そうなんですね……、他に道はないですよね?」
「ないな。森を迂回するしかないが、ここからだと国境の街に戻る方が近いな」
南へ進むならともかく、戻る方が近いとか勘弁して欲しいところだ。
「わざわざありがとうございます」
「あぁ、気にするな。森の奥へ行って帰って来ない冒険者がそこそこいるからな。命は大事にしろよ」
じゃあなと言って、アリッサはギルドの奥へと引っ込んでいく。パーティーメンバーらしき仲間に、可愛い坊やと話がしたかったのか云々とからかわれているが、それって俺のことですかね。
「森の奥にお宝があるとわかってれば、採集に行きたくなる冒険者はたくさんいそうよね」
「だなぁ」
気持ちはわからなくもない。冒険者という職業そのものが博打みたいなものだ。でも一発当てるにしても、天然物の天狼茸ってそんなに高いのかな。
「とりあえず見学を兼ねて天狼苑の依頼を受けてみましょうか」
「おう。茸狩りだな」
「茸は狩っちゃダメでしょ。狩るのは魔物だからね」
というわけで天狼苑の魔物討伐依頼を受けてみることにした。
天狼苑は森の浅いところに点在している。村の東門から外へ出ると、まばらに樹が生えている場所へと出る。まっすぐ一本道が続いているが、細い道の分岐もいくつか見える。それぞれ天狼苑へとつながっている道だが、看板がついているので迷うこともない。
十分ほど歩くと樹々の密度が上がり、森といった雰囲気になってくる。いくつかの分岐を進むと、柵が見えてきた。
「ここかな?」
「看板にもネーブル天狼苑って書いてあるし、間違いなさそうね」
さっそくやってきたのはEランクの討伐依頼である天狼苑だ。気配察知を使うと、管理人と思しき人物と、天狼苑をうろついているであろう魔物というか動物がちらほらといるみたいだ。
茸の管理人らしきエルフへと声をかけると、退治する魔物の詳細について話を聞く。匂いに釣られて食べにくる魔物が後を絶たないようだ。そこまで強くはないが数が多いとのことで、手分けして退治すればいいとのこと。
「合計三十匹退治すれば依頼達成ということですね」
「はい。退治した獲物は数えますので見せに来てください」
「わかりました」
「ではよろしくお願いします」
苑の名前にもなっているネーブルさんの元を辞すると、さっそく狩りの開始だ。狩った獲物を確認してもらい、依頼達成のサインをもらえば完了だ。
「にしても天狼茸ってこんなふうに生えてんだな」
普通に葉を茂らせている樹木の根元や幹から、松茸の形状をした茸が生えているのが見える。なんとなく生えすぎな気もするが、素人が口を出すことでもない。
匂いを嗅いでみるが、そこまで香りが強いというわけでもない。やっぱり火を通さないとダメなのかな。
「よし、じゃあちゃっちゃと狩りますか」
「おー」
右手を突き上げる莉緒と二手に分かれて、気配察知が教えてくれるままに魔物を狩る。二人でざっと天狼苑を一周するころには、十分な数の獲物が狩れたと思う。
「え? もう終わったんですか?」
ネーブルさんに驚かれながらも獲物を異空間ボックスから出していく。目標の三十匹を超えたあたりから、一緒に数え上げていた声が聞こえなくなっていた。
「八十三……っと。これで終わりかな」
狩りをしながらだと途中から数えるのが面倒になってたけど、改めて数えてみてちゃんと達成できててよかった。
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呆然と呟きながらも依頼票にサインをしてもらうと、俺たちは天狼苑を後にした。
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