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第二部
天然物の天狼茸
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「おー、すごい」
案内された部屋はお高いだけあって、広々としていた。置いてある家具や調度品も高級感がある。宿のカウンターの天板も木目が綺麗だったし、異空間ボックスに仕舞った家の家具とかをここでそろえてもいいのかもしれない。
「それでは夕食は後程お部屋までお持ちいたしますので、ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう」
宿の従業員であるメイドさんが引き上げていくのを確認すると、ベッドへと勢いよく寝転がる。
「はー、なんか久しぶりに落ち着けるなぁ」
よくよく考えれば、王国を出て初めての宿だ。王国内の宿と違ってこんなに落ち着けるとは思わなかった。ゆったりとした部屋の雰囲気もあるのかもしれない。
「この村にも冒険者ギルドってあるのかな?」
「さぁどうだろ? 探してみようか」
「そうね。そろそろ仕事してランク上げてもいいかもね」
「じゃあ明日は村をぶらぶらしつつ、ギルドに顔出してみるか」
ベッドでゴロゴロしつつ莉緒とイチャイチャしていると、部屋の扉がノックされる。返事をするともう夕食の時間らしい。そういえば腹が減ったかもしれない。
「失礼いたします」
席に着くと、宿の従業員がテーブルへと料理を置いていく。サラダに焼き物とスープが並べられる。どうやら異世界のフルコースは一品ずつ出てくるわけではないらしい。
「すげーいい匂い」
「こちらの焼き物の天狼茸は天然物となっております」
「へぇ、そうなんだ」
「お飲み物はいかがいたしましょう」
手渡されたメニューにはソフトドリンクとお酒の一覧があった。でも俺たちが選ぶのはソフトドリンク一択だ。
「お、フレッシュジュースってのがあるぞ」
「ホントだ。今まで果実水しか見たことなかったけど」
「これにしようか」
「うん」
「かしこまりました」
メイドが部屋から出たところでまずはサラダに手を付ける。数種類の葉野菜と根菜に、いくつかに割いて火を通した天狼茸にドレッシングが添えられている。
「美味い」
焼き天狼茸は別格だ。シャキシャキとした食感は変わらないが、旨味と風味が段違いだ。食べただけで違いがすぐわかる。
「これが天然ものか……」
「たくさん仕入れておきたいわね」
「天狼の森の奥地ってとこにも行ってみるしかないな」
なんとなくこの村でやることも固まってきた。それからのことは終わってから考えよう。今はとりあえず天狼茸のフルコースを堪能することにした。
翌朝、朝食を食べ終えた俺たちは、追加で宿を取ることにした。冒険者ギルドに寄って仕事して、森の奥地へも行く予定なのでとりあえずの三泊だ。もちろん快適だったので同じ部屋だ。
「じゃあギルドを探しますか」
宿を出ると村の中を見て回る。昨日の夕方に村に着いたときは宿へ直行したので、今日から本格的に観光だ。
天狼茸で潤っているのか、村全体が活気に満ち溢れている。木造のしっかりした家屋が多く建っていて、街とは違った雰囲気がある。
「あ、あれじゃない?」
莉緒が指さした先にあるのは、魔法陣の上に剣と盾が描かれた看板だった。どうやら国が変わっても看板は同じらしい。
石造りのどっしりした二階の建物の上に、木造で増築した三階部分が目立つ建物だ。
中に入ると早朝ということもあり、そこそこの人で溢れかえっていた。依頼ボードの前まで行ってみると、天狼茸関連のものが多い。
「天狼苑に出没する魔物の討伐依頼が一番多そうね」
「天狼苑って、要するに茸の栽培場所だよね」
「だと思うわよ」
どうやら天狼苑はいくつかあるらしく、その数だけ依頼が貼られている。天狼苑周辺の魔物討伐依頼もあるが、そちらは1ランク上のDになっているので俺たちは受けられない。
「にしても……、報酬がお金と天狼茸と選べるようになってるのか」
「茸好きにはたまらないわね……」
「お、天然ものの採集も依頼になってるぞ」
「ホントだ。でもランクCになってるわね」
「しかも常時依頼か。すげーな天然もの」
特産品だけあって常時依頼になってるのか。でもCランクの冒険者って、大きい街ならともかく村にはそんなに数はいなさそうだよな。
「ははは、その常時依頼は受けないほうがいいぞ」
依頼ボードを眺めながら雑談していると、冒険者の一人から野太い声で忠告が飛んできた。
「そうなんですか?」
振り返るとがっしりとした体格の女性冒険者がただ一人。見回しても周囲には声の持ち主らしき人物の姿はない。
「どこ見てんだよ。あたししかいねぇだろうが」
野太い声は目の前の女性冒険者から聞こえる気がする。えーと、……女性?
よく見ればただ体格がいいだけで、普通の女性冒険者だ。特におかしなところは見えず、オネエという感じもしない。きっと間違いなく女性なのだろう。
「あ、すみません」
「ふん。まぁいつものことだからいいさ」
「それで、受けるなとは……?」
代わりに莉緒が前に出て尋ねる。
「あぁ、六大商会の一つが、天然ものの天狼茸採集依頼を個別に出したからね。どうせ同じもの採ってくるなら、安い常時依頼より商会からの依頼を受けた方がいいってこと」
そこにあるだろと指をさした依頼ボードを見ると、確かに天然物の天狼茸採集依頼が貼ってある。ランクは同じくCだが、常時依頼より高い報酬だ。
「ホントだ……。しかも何枚も張ってある」
「常時依頼のほうも、昔からの六大商会が出してる依頼なんだけどね……」
ため息とともに肩をすくめているが、それよりも気になることがある。これは聞いておかねばなるまい。
「……ところで、六大商会って何です?」
案内された部屋はお高いだけあって、広々としていた。置いてある家具や調度品も高級感がある。宿のカウンターの天板も木目が綺麗だったし、異空間ボックスに仕舞った家の家具とかをここでそろえてもいいのかもしれない。
「それでは夕食は後程お部屋までお持ちいたしますので、ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう」
宿の従業員であるメイドさんが引き上げていくのを確認すると、ベッドへと勢いよく寝転がる。
「はー、なんか久しぶりに落ち着けるなぁ」
よくよく考えれば、王国を出て初めての宿だ。王国内の宿と違ってこんなに落ち着けるとは思わなかった。ゆったりとした部屋の雰囲気もあるのかもしれない。
「この村にも冒険者ギルドってあるのかな?」
「さぁどうだろ? 探してみようか」
「そうね。そろそろ仕事してランク上げてもいいかもね」
「じゃあ明日は村をぶらぶらしつつ、ギルドに顔出してみるか」
ベッドでゴロゴロしつつ莉緒とイチャイチャしていると、部屋の扉がノックされる。返事をするともう夕食の時間らしい。そういえば腹が減ったかもしれない。
「失礼いたします」
席に着くと、宿の従業員がテーブルへと料理を置いていく。サラダに焼き物とスープが並べられる。どうやら異世界のフルコースは一品ずつ出てくるわけではないらしい。
「すげーいい匂い」
「こちらの焼き物の天狼茸は天然物となっております」
「へぇ、そうなんだ」
「お飲み物はいかがいたしましょう」
手渡されたメニューにはソフトドリンクとお酒の一覧があった。でも俺たちが選ぶのはソフトドリンク一択だ。
「お、フレッシュジュースってのがあるぞ」
「ホントだ。今まで果実水しか見たことなかったけど」
「これにしようか」
「うん」
「かしこまりました」
メイドが部屋から出たところでまずはサラダに手を付ける。数種類の葉野菜と根菜に、いくつかに割いて火を通した天狼茸にドレッシングが添えられている。
「美味い」
焼き天狼茸は別格だ。シャキシャキとした食感は変わらないが、旨味と風味が段違いだ。食べただけで違いがすぐわかる。
「これが天然ものか……」
「たくさん仕入れておきたいわね」
「天狼の森の奥地ってとこにも行ってみるしかないな」
なんとなくこの村でやることも固まってきた。それからのことは終わってから考えよう。今はとりあえず天狼茸のフルコースを堪能することにした。
翌朝、朝食を食べ終えた俺たちは、追加で宿を取ることにした。冒険者ギルドに寄って仕事して、森の奥地へも行く予定なのでとりあえずの三泊だ。もちろん快適だったので同じ部屋だ。
「じゃあギルドを探しますか」
宿を出ると村の中を見て回る。昨日の夕方に村に着いたときは宿へ直行したので、今日から本格的に観光だ。
天狼茸で潤っているのか、村全体が活気に満ち溢れている。木造のしっかりした家屋が多く建っていて、街とは違った雰囲気がある。
「あ、あれじゃない?」
莉緒が指さした先にあるのは、魔法陣の上に剣と盾が描かれた看板だった。どうやら国が変わっても看板は同じらしい。
石造りのどっしりした二階の建物の上に、木造で増築した三階部分が目立つ建物だ。
中に入ると早朝ということもあり、そこそこの人で溢れかえっていた。依頼ボードの前まで行ってみると、天狼茸関連のものが多い。
「天狼苑に出没する魔物の討伐依頼が一番多そうね」
「天狼苑って、要するに茸の栽培場所だよね」
「だと思うわよ」
どうやら天狼苑はいくつかあるらしく、その数だけ依頼が貼られている。天狼苑周辺の魔物討伐依頼もあるが、そちらは1ランク上のDになっているので俺たちは受けられない。
「にしても……、報酬がお金と天狼茸と選べるようになってるのか」
「茸好きにはたまらないわね……」
「お、天然ものの採集も依頼になってるぞ」
「ホントだ。でもランクCになってるわね」
「しかも常時依頼か。すげーな天然もの」
特産品だけあって常時依頼になってるのか。でもCランクの冒険者って、大きい街ならともかく村にはそんなに数はいなさそうだよな。
「ははは、その常時依頼は受けないほうがいいぞ」
依頼ボードを眺めながら雑談していると、冒険者の一人から野太い声で忠告が飛んできた。
「そうなんですか?」
振り返るとがっしりとした体格の女性冒険者がただ一人。見回しても周囲には声の持ち主らしき人物の姿はない。
「どこ見てんだよ。あたししかいねぇだろうが」
野太い声は目の前の女性冒険者から聞こえる気がする。えーと、……女性?
よく見ればただ体格がいいだけで、普通の女性冒険者だ。特におかしなところは見えず、オネエという感じもしない。きっと間違いなく女性なのだろう。
「あ、すみません」
「ふん。まぁいつものことだからいいさ」
「それで、受けるなとは……?」
代わりに莉緒が前に出て尋ねる。
「あぁ、六大商会の一つが、天然ものの天狼茸採集依頼を個別に出したからね。どうせ同じもの採ってくるなら、安い常時依頼より商会からの依頼を受けた方がいいってこと」
そこにあるだろと指をさした依頼ボードを見ると、確かに天然物の天狼茸採集依頼が貼ってある。ランクは同じくCだが、常時依頼より高い報酬だ。
「ホントだ……。しかも何枚も張ってある」
「常時依頼のほうも、昔からの六大商会が出してる依頼なんだけどね……」
ため息とともに肩をすくめているが、それよりも気になることがある。これは聞いておかねばなるまい。
「……ところで、六大商会って何です?」
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