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第一部
余裕の突破
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「物騒だなぁ」
鎧を着込んだ人間が三人も並べば、幅がいっぱいで部屋の入り口へと抜けることはできなくなる。さらに後ろに魔法使いが待機しているとなれば猶更だ。
抜き身の剣の切っ先は、俺たちの目の前一メートルほどのところに迫っている。後ろの魔法使いもこちらに杖を向けており、やる気は満々のようだ。
「だから、彼らは何もしていないって言っただろう!?」
トービルがこちらに出てこようとしているが、六人いる人間をすり抜けて出てくることはできないようだ。
「何もしていないはずはないだろう。ザインの街で、殺人未遂と窃盗の容疑がかけられているんだからな」
「……なんだって?」
一番前にいた騎士団の答えに、トービルが言葉を詰まらせる。そういえばそんなこともあったっけ。ザインから王都まで十日はかかるって言ってたけど、もう伝わってたのか。思ったより早いな。
「殺人未遂って……。向こうから手を出してきた冒険者を返り討ちにしただけなんだけどなぁ……」
大きくため息をついてこちらに非がないことを主張する。
「それに窃盗ってなんのことだ?」
「ふん。とぼけても無駄だ。王家の紋章のブローチを持っているんだろう?」
やっぱりこのブローチのことか。
「はぁ? 何言ってるのよ! これは直接リリィ・アークライト第三王女にいただいた物よ! それを盗品呼ばわりですって!?」
自身の国の王女様を貶める気なのかという意味も込めて莉緒が叫ぶ。
「何を言っている? リリィ様から盗んだのだろう?」
騎士の言葉に莉緒も思わず絶句する。まさか自分から渡しておいて盗まれたと主張しているんだろうか。だとしたら完全に俺たちを嵌めようとしてるみたいだな。
「大人しく渡せば王女殿下に返しておいてやる。さぁ、渡すんだ!」
一方的に言い募る騎士団に、だんだんとイライラしてきた。まったくこっちの話を聞かない人間にはうんざりする。
「残念だけど、お断りさせていただく。直接王女に叩きつけてやりたいんでな」
「無礼者め! お前のような下賤な輩に王女殿下が直接お会いするわけがなかろうが!」
構えていた抜き身の剣を突き出し、切っ先を俺の顔の前に持ってきて騎士が叫ぶ。
「お前には聞いてねぇよ。そっちにその気がなくても、直接叩き返してやるよ」
「ま、待て! お前たちはそのために城まで来たというのか!?」
トービルがなんとか収めようと声を荒らげるが、まだこいつだけは話をする気はあるみたいだな。だけど騎士たちは穏便に済ませる気はなさそうだ。ってかこいつらホント腹立つ。
向こうから手を出すまで待ってたけど、聞く耳持たない連中のことだ。こっちが先に手を出したとでも言うに違いない。だったら待つ意味なんてないね。
「今日は様子見だけどね。この調子だと正攻法では会ってくれそうにないな……」
「あ、当たり前だろう!」
「じゃあこうしよう。二日後にまたくるから、準備しとけって王女に伝えろ」
「はぁ?」
何言ってんだコイツ? って言いたげな騎士たちに、ぽかんと口を開ける魔法使いたち。騎士団と魔法師団は、部屋の出口を塞ぐ六人以外にも、外を包囲するようにさらに十二人の気配がある。
「莉緒。ちょっと磁力魔法を試してみようか。後ろの魔法使いは俺が何とかする」
鎧を着た騎士を見て、実験するならいい機会だと思い立った。こんなにイラつく相手なら、多少加減を間違えても罪悪感はない。
「ふふふ……、わかったわ」
囁く声で提案すると、肯定の言葉が返ってくる。何やらいい笑顔で答えていることろを見ると、莉緒も腹に据えかねているようだ。
「この状況で逃げられるとでも思ってるのか?」
思ってるに決まってるだろ。騎士たちの鎧が何でできているかは知らないが、鉄を一切使っていない金属鎧なんてそうそう存在しない。
「何をする気だ!」
莉緒から魔力の高まりを感じると同時に、後ろの魔法使いも察知したのか声を上げる。が、発動速度を甘く見てもらっては困る。気づいたときにはもう発動してるんだよな。
「ぐっ!」
ガシャンと構えていた剣が地面へと落ちる。同時に金属鎧も磁石と化した地面へと吸い寄せられ、騎士は体ごと地面へ崩れ落ちる。
「いつの間に詠唱を!?」
さすがに魔法使いたちは金属の装備は身に着けていないのか、頽れている者はいない。いや、一人だけ左腕をだらんと下げて耐えている男がいた。あれは腕輪かな?
「待て!」
言葉と共に詠唱を始める魔法使い。この距離で今から詠唱しても遅いだろうが、特に妨害するでもなくゆっくりと余裕を持って歩いて近づいていく。
焦りながらもしっかり詠唱を続ける魔法使いに感心していると、どうやらようやく詠唱が完了したようだ。予兆を感じて、発動に合わせて俺も魔力を練り上げる。
「「ダークバインド!」」
相手を拘束しつつ体力を奪う闇属性魔法のコマンドワードに合わせて、発動する始点へと魔力を送り込んでかき回す。
宿ではうまくいかなかったけど、一般人相手には成功したようだ。魔法の発動を封じる魔法はちゃんと作用した。
「何かした?」
「……えっ?」
練り上げた魔法が発動する様子もなく、何も起こらないことに呆然とする魔法使いの二人。
地面を這いつくばる騎士の三人と、魔法が発動せず呆然とする二人の横を悠然と歩いて部屋を出る。
「じゃあな」
「ちゃんと準備しておいてよね」
莉緒の念を押す言葉と共に部屋を去る俺たち。後ろからはもはや制止の言葉は聞こえず、うめき声だけがかすかに響くのみだった。
鎧を着込んだ人間が三人も並べば、幅がいっぱいで部屋の入り口へと抜けることはできなくなる。さらに後ろに魔法使いが待機しているとなれば猶更だ。
抜き身の剣の切っ先は、俺たちの目の前一メートルほどのところに迫っている。後ろの魔法使いもこちらに杖を向けており、やる気は満々のようだ。
「だから、彼らは何もしていないって言っただろう!?」
トービルがこちらに出てこようとしているが、六人いる人間をすり抜けて出てくることはできないようだ。
「何もしていないはずはないだろう。ザインの街で、殺人未遂と窃盗の容疑がかけられているんだからな」
「……なんだって?」
一番前にいた騎士団の答えに、トービルが言葉を詰まらせる。そういえばそんなこともあったっけ。ザインから王都まで十日はかかるって言ってたけど、もう伝わってたのか。思ったより早いな。
「殺人未遂って……。向こうから手を出してきた冒険者を返り討ちにしただけなんだけどなぁ……」
大きくため息をついてこちらに非がないことを主張する。
「それに窃盗ってなんのことだ?」
「ふん。とぼけても無駄だ。王家の紋章のブローチを持っているんだろう?」
やっぱりこのブローチのことか。
「はぁ? 何言ってるのよ! これは直接リリィ・アークライト第三王女にいただいた物よ! それを盗品呼ばわりですって!?」
自身の国の王女様を貶める気なのかという意味も込めて莉緒が叫ぶ。
「何を言っている? リリィ様から盗んだのだろう?」
騎士の言葉に莉緒も思わず絶句する。まさか自分から渡しておいて盗まれたと主張しているんだろうか。だとしたら完全に俺たちを嵌めようとしてるみたいだな。
「大人しく渡せば王女殿下に返しておいてやる。さぁ、渡すんだ!」
一方的に言い募る騎士団に、だんだんとイライラしてきた。まったくこっちの話を聞かない人間にはうんざりする。
「残念だけど、お断りさせていただく。直接王女に叩きつけてやりたいんでな」
「無礼者め! お前のような下賤な輩に王女殿下が直接お会いするわけがなかろうが!」
構えていた抜き身の剣を突き出し、切っ先を俺の顔の前に持ってきて騎士が叫ぶ。
「お前には聞いてねぇよ。そっちにその気がなくても、直接叩き返してやるよ」
「ま、待て! お前たちはそのために城まで来たというのか!?」
トービルがなんとか収めようと声を荒らげるが、まだこいつだけは話をする気はあるみたいだな。だけど騎士たちは穏便に済ませる気はなさそうだ。ってかこいつらホント腹立つ。
向こうから手を出すまで待ってたけど、聞く耳持たない連中のことだ。こっちが先に手を出したとでも言うに違いない。だったら待つ意味なんてないね。
「今日は様子見だけどね。この調子だと正攻法では会ってくれそうにないな……」
「あ、当たり前だろう!」
「じゃあこうしよう。二日後にまたくるから、準備しとけって王女に伝えろ」
「はぁ?」
何言ってんだコイツ? って言いたげな騎士たちに、ぽかんと口を開ける魔法使いたち。騎士団と魔法師団は、部屋の出口を塞ぐ六人以外にも、外を包囲するようにさらに十二人の気配がある。
「莉緒。ちょっと磁力魔法を試してみようか。後ろの魔法使いは俺が何とかする」
鎧を着た騎士を見て、実験するならいい機会だと思い立った。こんなにイラつく相手なら、多少加減を間違えても罪悪感はない。
「ふふふ……、わかったわ」
囁く声で提案すると、肯定の言葉が返ってくる。何やらいい笑顔で答えていることろを見ると、莉緒も腹に据えかねているようだ。
「この状況で逃げられるとでも思ってるのか?」
思ってるに決まってるだろ。騎士たちの鎧が何でできているかは知らないが、鉄を一切使っていない金属鎧なんてそうそう存在しない。
「何をする気だ!」
莉緒から魔力の高まりを感じると同時に、後ろの魔法使いも察知したのか声を上げる。が、発動速度を甘く見てもらっては困る。気づいたときにはもう発動してるんだよな。
「ぐっ!」
ガシャンと構えていた剣が地面へと落ちる。同時に金属鎧も磁石と化した地面へと吸い寄せられ、騎士は体ごと地面へ崩れ落ちる。
「いつの間に詠唱を!?」
さすがに魔法使いたちは金属の装備は身に着けていないのか、頽れている者はいない。いや、一人だけ左腕をだらんと下げて耐えている男がいた。あれは腕輪かな?
「待て!」
言葉と共に詠唱を始める魔法使い。この距離で今から詠唱しても遅いだろうが、特に妨害するでもなくゆっくりと余裕を持って歩いて近づいていく。
焦りながらもしっかり詠唱を続ける魔法使いに感心していると、どうやらようやく詠唱が完了したようだ。予兆を感じて、発動に合わせて俺も魔力を練り上げる。
「「ダークバインド!」」
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宿ではうまくいかなかったけど、一般人相手には成功したようだ。魔法の発動を封じる魔法はちゃんと作用した。
「何かした?」
「……えっ?」
練り上げた魔法が発動する様子もなく、何も起こらないことに呆然とする魔法使いの二人。
地面を這いつくばる騎士の三人と、魔法が発動せず呆然とする二人の横を悠然と歩いて部屋を出る。
「じゃあな」
「ちゃんと準備しておいてよね」
莉緒の念を押す言葉と共に部屋を去る俺たち。後ろからはもはや制止の言葉は聞こえず、うめき声だけがかすかに響くのみだった。
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