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第一部
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トービルはブローチを手に取ると、逆さにしたりひっくり返したりしながらまじまじと観察する。
何か仕掛けでもあるのかなと思ったけど、何もないようでそのまま机へと置いて返してくれた。
「それで用件は確か……、城内の見学……だったか?」
「ええそうです。城の中がどうなってるのか興味がありまして。故郷だと観光客目当ての城の見学などいろいろあったもので」
日本にある城はもはや観光地としての役割しかなくなっているが、嘘は言っていない。皇居だって見学できるし、異世界の城も同じなんじゃないだろうか。
「そうなのか……。この城ではそのようなサービスはやっていないが……。少し待っていてくれ」
ブローチをテーブルに置き、何やら思案顔で部屋を出て行くトービル。やっぱり城の見学とかやってないんだろうか。できなかったらできなかったで特に問題はないんだけどな。城門はくぐり抜けられたし、とりあえずまっすぐ背の高い尖塔へ向かえばいいことはわかった。
「やっぱり城の見学とかないみたいね」
「だなぁ」
相槌を打ちながらも視界の中にはブローチの姿が入ってくる。
そういえばこれって発信機になっているんだっけか。……なんで持ったままここまで来たんだろうか。自分でもアホじゃないのかとツッコみたくなってきたが、このブローチを見ているとどうでもよくなってくるから不思議だ。
にしてもどこまで所在を把握されているんだろうな。正確にすぐ居場所がわかったとしても、そこから先は人伝いになるはずだ。間に何人経由するか知らないけど、伝わるのは時間がかかるはずだ。
とはいえ魔法があるんだよなぁ。現代の地球みたいにメールや電話の代わりになる魔法とか街では見かけなかったけど、そういった伝達手段はあるんだろうか。
「すまない、待たせたな」
すぐに戻ってきたトービルは再び席へと着く。
「上へと報告はしたが、正直私もどうなるかわからない」
やっぱりブローチの効果は偉大だったようだ。サービスはやってなくても掛け合ってくれるとは思わなかった。
「そうですか。……ところで」
「何かな?」
「トービルさんはどこまで俺たちのことをご存じで?」
純粋な興味から尋ねてみると、トービルは苦笑いを返してきた。
「はは、正直言うと何も知らされてないに等しいね。君たちの名前と、ブローチを持つ者が現れたらすぐに連絡するように、としか聞いていない」
「あー、それはなんというか……」
だけど俺たちに対しては何者なのか深くは聞いてこないのはなんでだろうな。立場をわきまえているのか、それとも知らない方がいいと思ってるのか。
「じゃあ逆に聞きますが、このブローチって何なのかご存じです?」
「いや、すまない。実はそれもよく知らない。ただ、そのブローチの紋章はアークライト王国の王家の紋章だ」
「へぇ、そうなんですか」
驚いた声を上げるとトービルさんもきょとんとした表情になっている。
「なんだ、気づいてなかったのか。街に入るときの門にも同じ紋章があっただろ?」
「「え?」」
「あはは、二人とも気付いてなかったのか」
揃って声を上げる俺たちにトービルさんの笑い声が響く。
「王家直轄地の街には、王家の紋章が門の入り口にあるんだよ」
「へぇ、これがねぇ……」
ぜんぜん気づいてなかった。変装して街に入ったからか、気づかれないようにすることに集中してて周りに目がいってなかったのかもしれない。
「……ん?」
トービルと話をしていると何やら人の気配が集まってくるのを感じる。
「柊……」
どうやら莉緒も気が付いたようで、俺の服の裾をきゅっと握ってくる。
「どうかしたか?」
トービルが俺たちの様子に気が付いたようで声を掛けてくるが、外の様子には気が付いていないようだ。本人は何も知らないと言ってたけど、本当のところはどうなんだろうな?
「人が集まってきたみたいだけど、何か知ってます?」
そういう時は正直に聞いてみるしかないな。
「うん? そうなのか? ここは外の音はあまり聞こえないはずだが……、ちょっと待っててくれ」
そのままトービルは席を立ち、外へと様子を見に出て行く。確かに、聴力を強化しても誰かがしゃべってることはわかるが、内容まではわからない。
「トービルさんもよくわかってなさそうだったわね?」
「そうみたいだな」
「ん~、どうも近衛騎士団と魔法師団の部隊が集まってきたみたいよ」
莉緒には外の会話が聞こえているようだ。ってか、莉緒からかすかに魔力を感じるし、風魔法で外の声を拾ってるのか。魔法でそこまで器用なことは俺にはちょっとできないな。しかし近衛騎士団と魔法師団か……。何やら物騒な響きだな。
「ほほぅ。俺たちを捕まえに来たのかな?」
騎士団のほうはよくわからないが、魔法師団とやらは名前の割にそこまで魔力は感じられない。
「どうもそうでもないみたい。トービルさんの無事を喜んでるっぽいから、私たちが暴れたときの鎮圧として来たんじゃないかしら」
「なんじゃそりゃ」
ふむ……。全員から攻撃されることを考えると、石造りのこの部屋に籠っていたほうが安全かな。自分から出ていく必要もないだろ。
「どっちにしろトービルさんが戻ってくるまで待つとしますか」
「言ってる間にもう来るみたいよ」
莉緒の言葉と共に気配が近づいてくるのがわかる。
勢いよく扉が開くと、抜き身の剣を携えた鎧姿の騎士団が部屋へと入ってくる。
「動くな!」
一言叫ぶと、扉の前を固めるように続けて騎士団が三人入ってきた。続いて魔法師団と思われるローブ姿の人間も三人入ってくる。
「ちょっと……、待ってくれ!」
そして遅れてトービルが制止の言葉と共に部屋へと駆けこんできた。
何か仕掛けでもあるのかなと思ったけど、何もないようでそのまま机へと置いて返してくれた。
「それで用件は確か……、城内の見学……だったか?」
「ええそうです。城の中がどうなってるのか興味がありまして。故郷だと観光客目当ての城の見学などいろいろあったもので」
日本にある城はもはや観光地としての役割しかなくなっているが、嘘は言っていない。皇居だって見学できるし、異世界の城も同じなんじゃないだろうか。
「そうなのか……。この城ではそのようなサービスはやっていないが……。少し待っていてくれ」
ブローチをテーブルに置き、何やら思案顔で部屋を出て行くトービル。やっぱり城の見学とかやってないんだろうか。できなかったらできなかったで特に問題はないんだけどな。城門はくぐり抜けられたし、とりあえずまっすぐ背の高い尖塔へ向かえばいいことはわかった。
「やっぱり城の見学とかないみたいね」
「だなぁ」
相槌を打ちながらも視界の中にはブローチの姿が入ってくる。
そういえばこれって発信機になっているんだっけか。……なんで持ったままここまで来たんだろうか。自分でもアホじゃないのかとツッコみたくなってきたが、このブローチを見ているとどうでもよくなってくるから不思議だ。
にしてもどこまで所在を把握されているんだろうな。正確にすぐ居場所がわかったとしても、そこから先は人伝いになるはずだ。間に何人経由するか知らないけど、伝わるのは時間がかかるはずだ。
とはいえ魔法があるんだよなぁ。現代の地球みたいにメールや電話の代わりになる魔法とか街では見かけなかったけど、そういった伝達手段はあるんだろうか。
「すまない、待たせたな」
すぐに戻ってきたトービルは再び席へと着く。
「上へと報告はしたが、正直私もどうなるかわからない」
やっぱりブローチの効果は偉大だったようだ。サービスはやってなくても掛け合ってくれるとは思わなかった。
「そうですか。……ところで」
「何かな?」
「トービルさんはどこまで俺たちのことをご存じで?」
純粋な興味から尋ねてみると、トービルは苦笑いを返してきた。
「はは、正直言うと何も知らされてないに等しいね。君たちの名前と、ブローチを持つ者が現れたらすぐに連絡するように、としか聞いていない」
「あー、それはなんというか……」
だけど俺たちに対しては何者なのか深くは聞いてこないのはなんでだろうな。立場をわきまえているのか、それとも知らない方がいいと思ってるのか。
「じゃあ逆に聞きますが、このブローチって何なのかご存じです?」
「いや、すまない。実はそれもよく知らない。ただ、そのブローチの紋章はアークライト王国の王家の紋章だ」
「へぇ、そうなんですか」
驚いた声を上げるとトービルさんもきょとんとした表情になっている。
「なんだ、気づいてなかったのか。街に入るときの門にも同じ紋章があっただろ?」
「「え?」」
「あはは、二人とも気付いてなかったのか」
揃って声を上げる俺たちにトービルさんの笑い声が響く。
「王家直轄地の街には、王家の紋章が門の入り口にあるんだよ」
「へぇ、これがねぇ……」
ぜんぜん気づいてなかった。変装して街に入ったからか、気づかれないようにすることに集中してて周りに目がいってなかったのかもしれない。
「……ん?」
トービルと話をしていると何やら人の気配が集まってくるのを感じる。
「柊……」
どうやら莉緒も気が付いたようで、俺の服の裾をきゅっと握ってくる。
「どうかしたか?」
トービルが俺たちの様子に気が付いたようで声を掛けてくるが、外の様子には気が付いていないようだ。本人は何も知らないと言ってたけど、本当のところはどうなんだろうな?
「人が集まってきたみたいだけど、何か知ってます?」
そういう時は正直に聞いてみるしかないな。
「うん? そうなのか? ここは外の音はあまり聞こえないはずだが……、ちょっと待っててくれ」
そのままトービルは席を立ち、外へと様子を見に出て行く。確かに、聴力を強化しても誰かがしゃべってることはわかるが、内容まではわからない。
「トービルさんもよくわかってなさそうだったわね?」
「そうみたいだな」
「ん~、どうも近衛騎士団と魔法師団の部隊が集まってきたみたいよ」
莉緒には外の会話が聞こえているようだ。ってか、莉緒からかすかに魔力を感じるし、風魔法で外の声を拾ってるのか。魔法でそこまで器用なことは俺にはちょっとできないな。しかし近衛騎士団と魔法師団か……。何やら物騒な響きだな。
「ほほぅ。俺たちを捕まえに来たのかな?」
騎士団のほうはよくわからないが、魔法師団とやらは名前の割にそこまで魔力は感じられない。
「どうもそうでもないみたい。トービルさんの無事を喜んでるっぽいから、私たちが暴れたときの鎮圧として来たんじゃないかしら」
「なんじゃそりゃ」
ふむ……。全員から攻撃されることを考えると、石造りのこの部屋に籠っていたほうが安全かな。自分から出ていく必要もないだろ。
「どっちにしろトービルさんが戻ってくるまで待つとしますか」
「言ってる間にもう来るみたいよ」
莉緒の言葉と共に気配が近づいてくるのがわかる。
勢いよく扉が開くと、抜き身の剣を携えた鎧姿の騎士団が部屋へと入ってくる。
「動くな!」
一言叫ぶと、扉の前を固めるように続けて騎士団が三人入ってきた。続いて魔法師団と思われるローブ姿の人間も三人入ってくる。
「ちょっと……、待ってくれ!」
そして遅れてトービルが制止の言葉と共に部屋へと駆けこんできた。
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